小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第702回:「史上最強」は本当か、9ch/6TBの東芝全録機「DBR-M590」を試す
第702回:「史上最強」は本当か、9ch/6TBの東芝全録機「DBR-M590」を試す
(2015/3/11 10:23)
東芝は全録に全力?
東芝ほど全録にこだわっているメーカーはない。デジタル放送を全録するというハードルに果敢に挑んだのが、2009年の「CELL REGZA」であった。そこからメディアサーバ機能を切り出したようなレグザサーバー「DBR-M190/180」をリリース、レコーダタイプのデジタル放送対応全録機として一番乗りを果たしたのが、2011年末の事だ。
東芝のレコーダはMシリーズ以外のモデルでも、特定の放送局だけ連続録画でき、小規模な全録機としても動作するので切り分けが微妙だが、メディアサーバという位置づけのMシリーズの主なモデルの歴史を振り返ってみると、以下のようになる。
モデル | 発売開始時期 | 録画可能 チャンネル | HDD | 発売時 の実売 | 特徴 |
DBR-M190 | 2011/12 | 6ch | 4+1TB | 約17万円 | Mシリーズ初号機 |
DBR-M490 | 2013/6 | 8ch | 4+1TB | 約17万円 | BS/CS110対応 |
D-M470 | 2013/10 | 8ch | 2TB | 約10万円 | BD無しの 低価格路線 |
D-M430 | 2014/2 | 6ch | 1TB | 約5.5万円 | BS/CS110度非対応 で低価格 |
機能的なピークは2013年のM490で、それ以降は低価格路線に舵を切り、普及を狙った。また外付けHDDの利用も積極的で、SeeQVault対応も早かった。
報道などでご存じの方も多いと思うが、東芝は、北米でのテレビ事業を終息し、台湾コンパルに東芝ブランドを供与。北米以外の海外テレビ事業も、自社開発と販売を終了。今後は日本向けモデルに集中するとしている。
新テレビOSなどの話は聞こえてこないが、日本に集中となれば、レコーダにも自ずと力が入る事になる。今回の新モデル「DBR-M590」(以下M590)は、頭にDBRが付いていることから、全録機としては久々の“全力”モデルで、BDドライブも搭載している。また録画可能チャンネル数も9chと最大、HDDも6TBと最大、価格も20万円前後とこれも最大という、ハイエンドモデルだ。
「史上最強タイムシフトマシン」と言われるM590とはいかなるモデルなのだろうか。その実力をテストしてみよう。
従来のイメージを継承しつつ……
まず外観だが、構造的にはBDドライブ搭載だったM490とかなり近い。正面右に電源ボタン、下半分がフタになって開くというスタイルだ。ただしフロントパネルは黒を基調にしたデザインとなり、高級路線に振ったことを意識させる。
フロントパネルを空けると、左側にはロゴ類がまとめて記載してある。このため、外観がゴチャゴチャせずにすっきりしているのもポイントだろう。中央部にはUSB端子とSDカードスロットがある。このSDカードスロットは、SeeQVault対応SDカードが使える。右側には3つのB-CASカードスロット。カードは全てminiB-CASタイプになったため、綺麗に3枚並ぶこととなった。
BDレコーダとしての機能は、基本的には以前取り上げた「DBR-T560」と変わりないが、今回は1080/24pで記録された市販のBDソフトを、4K/30pにアップコンバートして再生する機能が付いている。
チューナは地デジ、BS/CS110度ともに9個で、全録用としては標準で6ch使用する。残りの3chは通常録画用だが、これを全録に割り当てることもできるので、全録は6chから9chまでユーザーが自由に設定できる。
内蔵HDDは6TBで、タイムマシン領域としては4TB~5.75TBまで変更可能。従って通常録画領域は、2TB~0.25TBとなる。実質的には2TBのHDDが3つ入っており、そのうち2台はタイムマシン専用、HDD 3のみタイムマシン領域と通常録画領域を変更できるという作りだ。
外付けHDDは最大6TBまで対応。同時接続は4台までだ。こちらももちろんSeeQVault対応である。なおSeeQVaultの機能については、以前のDBR-T560のレビューが参考になるだろう。
背面に回ってみよう。昨今では珍しくなったデュアルファン仕様である。やはりエンコーダ/デコーダ数が多いので、それだけ熱が出るのだろう。アナログAVは出力はなく、入力のみ。HDMI出力は1系統、デジタル音声出力も光1系統のみだ。
一方、外付けHDD用のUSB端子は2つある。1つはタイムシフト専用、もう一つはタイムシフトと通常録画兼用だ。内蔵HDDと組み合わせて、どう運用していくかがユーザーの腕の見せ所である。左端の黒い突起はWi-Fiアンテナだ。
リモコンはM470やDBR-T560に付属していたものと同じだ。操作系ではあまり変わったところはないという事だろう。
レスポンスも上々
ではさっそく全録設定を見てみよう。購入してすぐの場合、「はじめての設定」からウィザード形式で初期設定を進めていく中に、タイムシフトマシンの設定がある。ここはあとからでも設定変更可能で、UIも同じだ。
はじめての設定ウィザードでは、最初に全録する時間帯を設定する。1時間はシステムメンテナンス時間が必要なので、最高でも23時間の連続録画という事になる。次に外付けUSB HDDを使ってタイムシフトするかを設定する。今回は内蔵だけで設定してみる。
チャンネル設定としては、1~9に放送局を割り当てていくことになる。一覧ではB-CASカードの番号と録画先HDDがわかるようになっている。B-CASカードの割り当てまでわかるのは、有料放送の契約があるからだ。大抵は1契約しかしていないと思うので、有料放送が受信できるB-CASカードは1つしかない。したがってそこのカードに有料チャンネルを集めないと、録画できないわけだ。
1日平均15時間の記録時間とすると、ここまでの6chで保存期間は約14.5日となる。2週間貯められれば、まあほぼ見逃すということはないだろう。
続いてHDD3の3chに対しては、通常録画かタイムシフトかが選択できる。何か狙って録画するかもという保険として1chを通常録画用に確保すれば、残り2chが全録指定できる。画面の右の「HDD3容量設定変更」で、タイムシフト用と通常録画用の領域設定が可能だ。設定が完了すると、あとは自動で録画が開始される。
レコーダの操作は、「スタートメニュー」から行なう。中心にタイムシフト過去番組表があり、周囲に普通のレコーダとしての設定があるというスタイルだ。M590のウリは、レスポンスの快適さである。大量の録画番組を抱えていると、どうやって番組を見つけるかがポイントになってくる。過去番組表の表示や、あるいはこれから放送される番組表の表示はかなり高速で、画面移動は瞬時、番組表の表示は1秒以内といったスピード感である。
一方で通常の番組予約から「同一番組名検索」を使うと、番組表から番組名を検索しているのだが、結果が出るまで意外に時間がかかる。そもそも検索番組名が入力されているだけでは検索が始まらず、一番下の「検索開始」ボタンを押さないと検索してくれないのも、今どきの検索エンジンとしてはまどろっこしい。このあたりは、検索するという行為そのものを我々がもうWebで慣れてしまっているので、余計に遅く感じるのかもしれない。
視聴の際に便利な機能としては、「おまかせ再生」がある。これは番組再生中にこのモードにすれば、自動的にCMをスキップしてくれる機能だ。手放しで再生しているだけで、番組本編だけを再生してくれる。
ただこの機能は、「おまかせチャプター」によってチャプターが打たれていないと実行できないので、タイムシフトで録画された番組では動かないのが残念だ。タイムシフトから切り出して保存する際にマジックチャプターを指定すれば、おまかせ再生可能だが、ただそれだけのために時間をかけてダビング保存するのもイケてない。このあたりは今後の課題といったところだろう。
再生に強力な味方、TimeOn
昨年のレコーダ業界は、リモート視聴がトレンド化した年であった。各社ともいかに快適にスマートフォンで外からテレビが見られるかという道筋を作る事に苦心した1年だった。
その一方で、そもそも家でテレビを見るときも片手にスマホ持ってるよね、それが上手く使えないのかなという議論は以前からある。いわゆる「セカンドスクリーン議論」だ。次世代のテレビ機能として、NHK主導でハイブリッドキャストの導入が進められているが、なにぶん段階的にしか発展しないので、今のところテレビのデータ放送を拡張したような状態でしかない。
東芝ではこれまでテレビ向けクラウドサービスとして、テレビ画面内から「みどころシーン再生」といったメタデータを使った検索サービス「TimeOn」を実装してきた。昨年10月には、「TimeOn番組シーン検索」というiOS向けアプリがリリースされ、テレビではなくiPhoneやiPadなどの端末で番組メタデータにアクセスできるようになった。これまであまり詳しく紹介されたことがないようなので、今回はこれを使ってみたい。
なお、TimeOn自体は比較的地味にスタートしたサービスだが、この機能がTポイントカードと連携するという機能を発表したところ、都道府県、性別などのユーザー情報を含む利用状況がTポイントカードの運営会社であるCCCにも共有されるのではないかという懸念や、ビッグデータとして何がどこまで利用されるのか、それは適切な範囲なのかを巡り、サービスのあり方を懸念する声が上がった。
さらに今年の年明けには、東芝のテレビでTポイントの登録を促すメッセージが数日おきに出るという報告がTwitterで拡散され、炎上したのも記憶に新しいところだ。その後東芝からも何がどうなったのかアナウンスがないようだが、敢えて試そうというライターも少ないと思うので、現在どのようなサービスになっているのか実際に使ってみた。
まずこのサービスを利用するにあたっては、
- 1:レコーダ側のクラウドサービス利用を設定
- 2:PCなどのWebブラウザでTimeOnのサイトへアクセスし、クラウドサービスのアカウントを作成
- 3:その過程でクラウドサービスのアカウントとレコーダを紐付け
という3行程になっている。まず最初はレコーダの「ネットワーク設定」の中にある「クラウドサービス設定」で、利用設定を行なう。レコーダの利用規定には、「本機の操作情報(チャンネル切り換え、録画予約、検索履歴など)や都道府県、性別といった情報がサーバに記録されますが、これらの情報から利用者個人を特定することはありません。」とある。また「本サービスでは、住所・氏名・連絡先等の個人情報の入力は不要」とあるが、サーバーが収集した情報は「統計情報としてマーケティングなどの目的で利用することがあり、この目的の範囲内で第三者に提供する場合があります。」と書かれており、個人が特定できるほどの情報はないが、操作情報は第三者に提供される旨記されている。
利用許諾に合意すると、8桁の数字が表示される。これが、クラウドサービスとレコーダとの紐付けに使われる。
続いてTimeOnのサイトへ行き、アカウントを作成。こちらにはまた別の利用規約が表示されるが、ここには第三者利用の文言はない。クラウドサービス、というかSNSの一般的な利用規程と同じように見える。こちらのアカウント作成については、性別、年齢が必須で、メールアドレス、職業、既婚未婚などの情報は任意と書いてある。
これに同意すると、アカウント登録に必要な情報を入力する画面になる。ログインIDやユーザー名、暗証番号、パスワードを決めるあたりは普通だが、メールアドレスのところにも必須マークが付いている。ただこれは、メールアドレスではなく秘密の質問に切り換えることもできるので、メールアドレス登録は必須ではない事になる。
このあと続けて機器登録へ移ると、先ほどレコーダに表示された番号を入力する段取りになり、アカウントとレコーダが紐付けされる。
こうして実際の登録作業を見た限り、レコーダにもクラウドサービスにも個人が特定できる情報を入力するところはない。また第三者提供はレコーダ側の利用規約にしか書かれていないので、第三者に提供されるのはレコーダの操作情報だけだろうと想像できる。なお、利用履歴の利用についての詳細は、TimeOnのFAQページに記載されている。
さあここまでで利用する環境ができた。もはや何をやるはずだったのかすっかり忘れたかもしれないが、最終的には「TimeOn番組シーン検索」アプリで番組メタデータにアクセスし、全録の番組を探すというのをやりたいわけである。
iPhoneに「TimeOn番組シーン検索」をインストールし、起動。iPhoneがホームネットワークに接続されていれば、機器登録画面にM590が見えるはずだ。これを登録すると、ようやく利用が可能になる。
「Myセレクション」画面では番組がジャンルごとにアイコンで表示される。見たいジャンルをタップすると、番組一覧が表示される。見たい番組をタップすると、番組の切れ目で分割されたシーン情報が現われる。
見たいシーンをタップすると、M590がそのポイントから番組を再生する。そもそもタイムシフト番組にはマジックチャプターが打たれていないのになぜシーンに飛べるかというと、おそらく番組メタデータは全部クラウド側から提供し、レコーダへは再生ポイントのアドレスを叩くだけ、みたいな実装になっているからだろう。
シーンをタッチしてから番組が再生されるまで、早ければ3秒、長くても6秒程度と、レスポンスはかなり良い。探した番組やシーンを後から見るために、チェックを付けておく機能もあり、あとからチェックリストを見れば、「ああそうそうこれを見るはずだった」と思い出してすぐ見る事ができる。
録画リストからは、全録ではなく通常録画した番組がリストアップされる。こちらもシーンごとに再生が可能だ。さらにテキスト検索を使えば、番組名やシーン情報から該当するキーワードを探し、その番組やシーンを見る事ができる。
リモコンを使った本体操作ではそれほど強力な再生機能はないが、iPhoneで操作するTimeOnはなかなかレスポンスが早く、強力な機能だ。テレビ番組に違った側面からアプローチする方法として、有効な方法のように感じられる。
総論
9チューナ、6TBのHDD搭載で全録と、久々の大物登場である。もちろん価格も通販サイトの実売でも16万円台とかなりの大物だ。
一本釣りみたいな番組録画が主体のレコーダと違い、全録は最初に録画設定をしたら、あとはほっとくだけなので、本体のリピート操作のようなものが必要ない。従ってだんだんサーバー化していくために、本体機能云々で語るべきことが少なくなっている。これまで搭載されてきたリモート視聴や番組持ち出しといった機能ももちろん引き続き搭載しており、今回のM590は“すでに完成されたシステム”をさらに建て増ししたようなモデルである。
TimeOnはスマホアプリの登場で、にわかに使える機能となった。Android版アプリも予定されているが、まだ登場していないようだ。iOS機器なら今からでも利用できる。
個人情報を懸念する人もいると思うが、ライセンスや仕組みを調べてみた限りでは、そもそも個人情報を入力する部分がなく、いわゆるビッグデータとしてテレビ視聴動向を取得し、データ販売したいというだけのように見える。Tポイントカードとの提携は継続しており、TimeOnのサイトにはTポイントのバナーやポイントプレゼントキャンペーンなども告知されているが、出だしの印象が悪かったので抵抗を感じるという人もいるかもしれない。
すでにレコーダは、本体をリモコンで操作するだけでは限界に来ており、UIをどうしていくのかが大きな課題となっている。もちろんテレビも同様だ。よってモダンOSにという方向性を打ち出した他社に対し、操作やUIはスマホなどのスマートOS側に乗せ、機器側は結果だけ表示する箱でいいというのが、東芝流の回答なのかもしれない。
東芝 レグザサーバー DBR-M590 |
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