気になるアクティブスピーカーを聴く【オンキヨー:DP-M1】

-24/96対応DAC内蔵。iPodトランスポートと名コンビ


ND-S1と組み合わせたところ。コンパクトかつ高音質なシステムとなる

7月31日発売

標準価格:オープンプライス

 注目のアクティブスピーカーを紹介していくこの企画。今回はオンキヨーが7月31日に発売する「DP-M1」を、発売に先駆けて紹介したい。

 ペアでの販売で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は23,000円前後。前回の記事で比較用として登場した、ボーズの高級モデル「M3(Micro MusicMonitor)」(49,980円)ほどではないが、アクティブスピーカーとしては高価な部類に入る。

DP-M1
 しかし、「DP-M1」には大きな特徴がある。アンプだけでなく、DACも内蔵している事だ。例えばPCの光デジタル出力と接続し、内部のDACで高音質なD/A変換を行なって再生したり、オンキヨーの低価格なiPod用トランスポート「ND-S1」(実売1万5,000円前後)と組み合わせれば、iPodから取り出したデジタル信号をスピーカー内のDACでアナログ変換し、増幅・出力まで全部スピーカー側で高品位に行なえることになる。スペックから考えると安価と言っていいだろう。

 さらに、「ND-S1」にはUSBオーディオインターフェイス機能も備わっているため、「iPod + ND-S1 + DP-M1」だけでなく、「PC + ND-S1 + DP-M1」という使い方も可能。“PCともiPodとも親和性が高いシンプル&コンパクトシステム”が構築できるというわけだ。ちなみにDP-M1単体でも購入できるが、ND-S1とのセットも“デジタルメディアオーディオシステム”(ND-S1DP)として用意される。店頭予想価格は38,000円前後だ。

 PCがオーディオと切っても切れない関係になりつつある現代にピッタリで、新時代のミニコンポとも言える。オンキヨーでは“ミニマムオーディオ”という言葉で訴求していくそうだ。



■ PCスピーカーとは一線を画す質感

ノートPCと組み合わせたところ

 まずは外観と基本的な仕様から。サイズは102×161×194mm(幅×奥行き×高さ)と、一般的なPC用アクティブスピーカーの感覚からすると大きい。ハイコンポのセットスピーカーほどではないが、丁度両者の中間程度のサイズだ。奥行きが161mmあるため、液晶ディスプレイの真横に設置すると丁度良い。キーボードの両脇の隙間に“ちょこんと設置”というわけにはいかないサイズなので、PC用デスクのスペースに余裕が無い場合は、事前のサイズチェックは入念に行ないたい。

 エンクロージャは木製で、光沢のあるピアノフィニッシュ。プラスチックエンクロージャで、触ると安っぽいPC用アクティブスピーカーとは良い意味で次元の違う製品だ。指で軽く叩いてみるとコツコツと響きが少ない音が戻って来る。エンクロージャが強固に作られ、鳴きの少ない証拠で、鳴らす前から期待できる。プラスチックの安っぽいエンクロージャの音が再生音に乗る心配とは無縁だろう。


光沢のあるピアノフィニッシュ仕上げ。PCスピーカーとは一線を画す質感の高さだ底面にはコルク製のインシュレータ。ネジ穴も設けられている

 手にするとズシリと重く、R側が1.3kg、L側が1.2kgとほぼ同じ。ここで「あれ?」と思った人は鋭い。プロ向けのアクティブモニターを除き、PC用のアクティブスピーカーでは、ほとんどのモデルが片方のスピーカーに2ch分のアンプを内蔵しており、例えば右スピーカーの内蔵アンプが、右スピーカーと左のスピーカーを両方ドライブする。そのため、アンプが入ってる右スピーカーだけが重く、スカスカの左が軽くなる。当然左右で内部構造に違いがあり、重量も異なるため、音も違ってくる。ピュアオーディオ用スピーカーではまずない事だ。

 「DP-M1」の場合、モノラルのパワーアンプが左右のスピーカーに個別に搭載されている。DACや入力端子、ボリュームノブなどは右スピーカーに内蔵されているので完全に左右が同じというわけではないが、内部構造の差異をできるだけ少なくする工夫で、オンキヨーでは「ツインモノラル駆動方式」と呼んでいる。アクティブスピーカーながら、こだわりが感じられる構造だ。

 そのため、接続方法も変わっており、左右のスピーカーを音楽信号用のピンケーブル(RCA)に加え、パワーアンプ用の電源ケーブルの2本で接続する(ケーブルとしては2本が1本にまとめられている)。「ノイズの乗りにくいRCAのピンケーブルで接続できるため、(通常のアクティブスピーカーと比べ)ノイズの低減にも繋がる」(オンキヨー)という。右スピーカーには背面に同軸デジタル。左デジタル、アナログ音声(RCA)の入力端子を各1系統装備。切り替えは背面のスイッチで行なう。

左チャンネル背面。音声入力と電源入力もあるのがミソ接続ケーブルは音声信号と電源がまとめられたタイプ
右チャンネルの背面。光、同軸デジタル入力、アナログ音声入力のほか、右上に入力切替スイッチ、右下に左チャンネル用の出力を備えている

 前面は非常にシンプルで、右スピーカーのボリュームノブしか操作部が無い。ノブは電源も兼ねており、時計回りに回すと電源がONになり、ボリュームアップ。電源ONで、ノブを縁取るようにイルミネーションが光る。

 スピーカーユニットは8cm径のOMF振動板を採用。背面に穴が無く、前面のサランネットも外れないので一見密閉型に見えるが、エンクロージャはバスレフ式で、前面にポートを備えているそうだ。

 面白いのは付属のスタンド。本体と同様の光沢仕上げで、傾斜が設けられている。このスタンドにスピーカーを乗せる事で、スピーカーユニットがユーザーの耳の方を向くという仕組みだ。ユーザーとの距離が近いアクティブスピーカーならではの工夫である。また、細かい点だがACアダプタがコンパクト&細身。電源タップなどにスペースが無いPCまわりでは嬉しい配慮である。

細身のACアダプタを採用している右チャンネルのフロントにボリュームノブ。前面の操作部はこれのみの極めてシンプルなデザイン付属スタンドには傾斜が付いている


■ PC用アクティブスピーカーとはスケールの違う音

 まず、簡単な利用法としてアナログ音声入力を使い、iPhone 3GSやノートPCのイヤフォン出力と接続してみた。クラシックの「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)から「バーバ・ヤーガの小屋」を再生すると、スケールの大きなサウンドが展開。ユーザーの顔の前にモヤモヤと音場が広がるコンパクトなアクティブスピーカーとは次元が違い、左右に大きく音場が広がる。低域の細かい音もそれなりに描写されており、アンプの素性の良さも伺わせる。

ND-S1と接続したイメージ
 次に、相棒とも言えるND-S1と接続。iPodを設置し、スピーカーと同軸デジタルで接続。スピーカーのDACを利用してみる。

 重厚なサウンドが話題の「機動戦士ガンダムUC」サントラから「MOBILE SUIT」を再生すると、アナログ接続と比べ、音場の奥行きがガラリと変化。横方向にのみ広がっていたステージが、奥まで一気に広がり、三次元的なサウンドが展開。押し寄せてくるような中低域のまわりで、パーカッションもしっかり主張する。音場、音像の輪郭、解像感など、あらゆる面でクオリティが劇的にアップ。デジタル接続の優位性を改めて感じた。


サランネットを透かしてユニットを見たところ

 小型スピーカーだが、無理をして低音を追求せず、ストレートな音を出すタイプのようで、バランスは高域寄り。低音の量感が少なく、半分程度のサイズしかないボーズの「M3」や、前回紹介したや東和電子の「W-S7」の方が豊かで芯の通った低音が出ている。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」のアコースティックベースを聴くと、ベースの筐体で共鳴するボワンとした中域が膨らむものの、机をビリビリと震わせるような低音は出ない。ブルン、ゴリンという弦の硬い音も、膨らんだ中域に溶け込みがちだ。DSPなどで無理矢理低音を増幅しないシンプル&ストレートな姿勢は評価できるが、「もう少し迫力が欲しいな」というのが正直な感想だ。

 また、それと関連して高域の抜けも少し気になる。「Best OF My Love」やLiaの「My Soul,Your Beats!」のような女性ヴォーカルを聴いていると、声の高域にベールがかかったような感じで、音像がぼやける。悪く言うと鼻をつまんだような音で、低域のヌケの悪さが、高域にも影響しているように聴こえる。

 試しに、接続するプレーヤー側のイコライザで音をいじってみると、156Hzあたりの音が膨らんでいるようで、ここをわずかに下げてみると、中低域がスッキリし、高域の抜けも改善。音楽全体の解像感もアップし、定位もピチッと合うようになる。音像と音像の間がスッキリしたことで、音場全体の見通しが良くなり、音楽が立体的に楽しめるようになった。音のバランスの好みは人それぞれで、イコライザをいじると低音がさらに減ってしまう事になるが、こちらのバランスの方が個人的には好みである。



■ 24/96の高音質ソースにも対応

 次に、ND-S1を介してPCとデジタル接続してみる。ND-S1にはUSBオーディオ機能が備わっており、PCの音声を光デジタルで出力できる。これをDP-M1の光デジタル入力に接続。アナログ接続の音と比べると、音の解像感がアップし、空間表現も向上する事が確認できた。使い勝手も良く、普段はPCの音声出力デバイスとして使い、iPodを乗せればPCと同期が可能、PCを起動していない時でもiPodを乗せるだけで良い音で音楽が楽しめると、便利に活用できるシステムとなる。

左から東和電子の「W-S7」、ボーズの「M3」、「DP-M1」ND-S1と接続したところ

 ただ、仕様面で気になる点もある。それは、ND-S1のUSBオーディオ機能が、16bit/44.1kHz、48kHzにしか対応していない事だ。オンキヨーの「e-onkyo music」やクリプトンの「HQMオーディオ」など、CDを超える高音質楽曲配信サービスが着実に増えているが、これらで購入した24bit/96kHzなどのハイビット・ハイサンプリングな楽曲を、ND-S1ではそのままDP-M1に渡す事ができない。DP-M1の内蔵DAC(バーブラウン:PCM1754)は、24bit/192kHzまでに対応しているのでこれは残念なポイントだ。

 もっとも、iPodトランスポートの価格破壊モデルとして登場したND-S1に、USBオーディオとしても超高機能を望むのは無理がある。もしND-S1の次期モデルがあるとすれば、USBオーディオ機能の強化と、ついでにコンパクト化も望みたい。DP-M1とノートPC、ND-S1に各種ケーブルが繋がると、机の上がかなり占有されてしまうのだ。ただし、ND-S1はUSBオーディオ動作時では、USB給電のみで操作する。

 せっかくなので、24bit/96kHzの音も聴いてみたいと考え、ラトックのUSBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」(56,700円)を用意した。光/同軸デジタルとアナログ(RCA)出力を備えたUSB DACで、高音質なヘッドフォンアンプも内蔵。さらに、内部に独立したオーディオ専用クロックの発振回路を持ち、USBのパケットのデータ数からクロックを作成するのではなく、自前のクロックを基準にサンプリングクロックおよびオーディオデータストリームを作成する“アシンクロナスモード”を採用する事で、ジッタを低減させた注目モデルだ。USB給電のみで動作するため、PCまわりもスッキリできる。

ラトックのUSBデジタルオーディオトランスポート「RAL-2496UT1」RAL-2496UT1の背面ND-S1とのサイズ比較

 Windows 7(64bit)のPCにRAL-2496UT1を接続。DP-M1とは同軸デジタルで接続。コントロールパネルからRAL-2496UT1のプロパティを開き、24bit/96kHzを選択すると使用できるようになる。エンゲゴール四重奏団の演奏で、ハイドンの「弦楽四重奏曲ニ長調 Hob.III/79」より 「第4楽章終曲(プレスト)」を再生すると、ストリングスが重なりあう部分でも、細かい質感が残ったまま音が重なっている様が、目に見えるようにリアルに描写される。個々の音が非常に猛々しく、PCオーディオや高音質配信の可能性を十分感じさせてくれるサウンドが楽しめた。

 16bit/44.1kHzの楽曲(藤田恵美/camomile Best AudioからBest OF My Love)でND-S1と音を比べてみると、RAL-2496UT1の方が音場が広く、奥行きが明瞭。聴き取れる音の数が増え、低域の解像感もアップする。

 再生ソフトにはフリーソフトの「foobar2000 v1.0.3」を使用。ここまでは、OSのカーネルミキサーを通すDS(DirectSound)モードもで再生してきたが、出力プラグインを追加する事で、ミキサーをバイパスし、より高音質な出力ができるのが特徴だ。このソフトに、WASAPI出力プラグインを追加してみる。WASAPIはVistaから追加された、OSのカーネルミキサーをバイパスできる出力方式。WASAPI出力で再生すると、さらに情報量が増加。アコースティックベースの弦の、より細かい動きがわかるようになり、ヴォーカルの口の開閉もさらに生々しくなった。

 そのままの出力設定で24bit/96kHzの音楽を再生してみたのだが、ブツブツ、ガサゴソとなぜがノイズが入る。WASAPI以外にカーネルストリーミングプラグインを試したり、バッファサイズを調整、同軸接続を光デジタルに変更、Windows 7(32bit)のPCに変えたりしてみたが、同じようにノイズが出る。試しにRAL-2496UT1のデジタル出力を、他のDAC(Dr.DAC2やAVアンプのSC-LX81)に繋いでみると、ちゃんと96kHzと表示され、クリアな音が出ている。どうやらRAL-2496UT1とDP-M1、WASAPIの組み合わせの相性の問題のようだ。

動作は軽いが多機能な再生ソフトfoobar2000再生デバイスの選択画面

デバイスの選択リスト。WASAPIはVistaから追加された出力方式で、カーネルミキサーをバイパスできる

 スピーカー自体の音の傾向として、中低域の解像感の甘さを前述したが、ソースの解像感がアップすると、そのあたりも補われる。パイプオルガンの貼り出した中域を朗々と響き渡らせつつ、その中の細かい和音の動きが見える。ポテンシャルは十分備えたスピーカーと言えるだろう。


■ まとめ

 ND-S1と組み合わせることで、低価格かつ、ハイクオリティ、そして省スペースなオーディオシステムを構築できるのは魅力的だ。ベッドサイドなど、限られたスペースで良い音を求める人にはオススメできる。また、PCとの親和性の高さも見逃せない。24bit/96kHzの楽曲はまだまだ少ないので、「PC内に保存した今までの楽曲を良い音で楽しみつつ、iPodとの同期も手軽に行ないたい」という向きにはピッタリハマる組み合わせになるだろう。デザイン面でも高級感があり、ピュアオーディオのような“所有する喜び”も味わえるだろう。

 操作面で1点気になったのは、光/同軸/アナログ音声の入力切替が背面のスイッチでしか切り替えられない事。スピーカーの裏に手を入れて、手探りでスイッチの突起を探し、「一番右が……なんだっけ?」と考えながら切り替えるのは面倒だ。前面に出すか、リモコンなどを用意して欲しかった。音質面では価格やエンクロージャサイズを考えると、もう少し低音が欲しいところだが、このあたりはユーザーの好みもあるだろう。売り場などで確認して欲しい。



(2010年 7月 6日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]