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「これ以上のものはない」、B&Wの最上位スピーカー「800 D3」

 ディーアンドエムホールディングスは、英Bowers & Wilkins(B&W)のスピーカー「800 Series Diamond」の最上位モデル「800 D3」の発売を開始した。1本の価格は、ローズナット仕上げが2,125,000円、ピアノ・ブラックが2,250,000円。基本的にはペアでの販売となる。

「800 D3」

 昨年から発売されている「D3」シリーズの最上位モデル。同モデルの下には、フロア型「802 D3」(1台の価格:ローズナット170万円/ピアノブラック180万円)、「803 D3」(同135万円/145万円)、「804 D3」(同73万円/76万円)、ブックシェルフ「805 D3」(同44万円/46万円)などがラインナップされている。

 既存D3シリーズの特徴を備えているが、800 D3のみに投入された技術もあり、「800シリーズDiamondの集大成。フラッグシップであるだけでなく、B&Wのスピーカーの中でも最高のパフォーマンスを誇る、革新的なスピーカー」と位置付けられている。

ピアノ・ブラック
ローズナット

最上位の800 D3が下位モデルと異なるところ

 ユニットは25mm径のダイヤモンドツイータ×1、150mm径のコンティニュアムコーンミッドレンジ×1、250mm径エアロフォイル・コーンウーファ×2の3ウェイ4スピーカー構成。再生周波数帯域は13Hz~35kHz。感度は90dB。インピーダンスは8Ω(最低3Ω)。

 ミッドレンジにケブラーコーンに代わる「コンティニュアムコーン」を採用。ケブラーと同じ織物だが、ガーゼのような柔らかい素材で、形状を維持しつつ、繊維の動きを妨げないように作られている。これにより、ケブラーと比べると音の立ち上がりはほぼ同じだが、立ち下がりがよりハイスピードになっているのが特徴。信号が無くなった後、音が残らず、ケブラー特有のキャラクターがコンティニュアムコーンには無い。ユニットを保持するフレームや、磁気回路なども強力なものになっている。

ミッドレンジに採用した「コンティニュアムコーン」。アルミニウムブロックから作り出したタービン・ヘッドに搭載している

 ウーファは、断面形状を変化させる技術を投入した「エアロフォイル(翼型)コーン」。潜水艦の内壁などにも使われるという、微小な樹脂ボールをプレスして作る「シンタクティック・フォーム」というコア材を使っている。最も剛性を必要とする部分の厚みを最大に、それ以外の部分は薄くするという連続的な厚さの変化を実現できるのが特徴。

ウーファのエアロフォイルコーン

 ここまでは下位モデルと同じだが、800 D3のウーファは250mm径と大きく、ユニット中央のセンターキャップも大きくなる。大きくなると相対的に強度が低下するため、対策として、下位モデルの薄いカーボンファイバースキンではなく、振動板と同じ素材を使ったサンドイッチ構造でセンターキャップも作っている。これにより、センターキャップを指で押しても簡単には変形しないほどの強度を実現した。

カーボンファイバースキンのセンターキャップは指で押すと凹むが
シンタクティック・フォームのセンターキャップは凹まない

 この結果、802 D3に搭載している8インチのウーファと比較した場合、第二高調波歪が10dB、第三高調波歪が20dB低くなった。ディーアンドエムホールディングスのD+Mシニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏は、「既存のD3シリーズも、ウーファ帯域の20~100Hz程度の歪率が非常に低く、オリジナルノーチラスよりも低いほどで、『こんなスピーカー見たことがない』と思っていたが、800 D3はさらに100dB、20dB低い」という。

ディーアンドエムホールディングスのD+Mシニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏

 その効果を澤田氏は、「素晴らしい低域が得られるというよりも、倍音に影響がある。本来再生すべき音の倍音が歪みとなって出てくるけれど、それが倍音なので中音域にかかってくる。そのため、ウーファの歪みが少なくなった事で、中音域に与える影響が少なくなった」と解説した。

 キャップだけでなく、磁気回路にも改良を加えた。800シリーズではこれまでも、ユニットが前に出る時と、後ろに引っ込む時の動きの対称性を高めるために、磁気回路の対称性も追求。内部にあるボイスコイルボビンが通るための空間まで考慮し、従来よりもさらに対称性の高めた形状を採用。ボイスコイルやサスペンション、シャーシもアップグレード。ユニットの動きのリニアリティを高めている。

800 D3ウーファの磁気回路部分

従来のD3シリーズと同じ部分

 ツイータはダイヤモンドツイータ。筐体は無垢のアルミニウムブロックから切削加工したもので、ユニットが動作している際の筐体の変形を低減する。

 ミッドレンジを搭載する筐体は、アルミニウムブロックから作り出したタービン・ヘッド。内部はラジアル・フィンで固定。剛性が高く、変形がほとんど起こらない。

 下部の筐体は、進化したマトリックス補強構造を採用。シミュレーションを繰り返し、、補強パネルを厚くし、数を減らす事で剛性を高めている。

横から見たところ
背面

802 D3よりも1.5kgしか重くないのは何故か

 800 D3の外形寸法は413×611×1,217mm(幅×奥行き×高さ)。重量は96kg。802 D3は、390×583×1,212mm(同)で94.5kg。比較すると、800 D3は高さが約5mm、横幅が23mm、奥行きが28mm大きくなっているが、さほど大きな違いはない。重量差も1.5kg増に抑えられている。

左が800 D3、右が802 D3

 重さの違いの大きな部分は、エンクロージャ下部の台座。802/803 D3の台座には亜鉛アルミニウム合金が使われており、非常に重いが、800 D3の台座は無垢のアルミニウムで、台座自体はむしろ軽い。これにより、タービンヘッドやミッドレンジのシャーシに使われるTMD(チューンド・マス・ダンパー)の機能と同様に、高い周波数の内部共振を最適に抑制できるという。

 さらに、台座の鳴きを抑えるため、ダンパーの素材は振動吸収率の高いポリマーを使用。鋼板によって台座に挟まれており、鋼板、ポリマー、アルミニウムのサンドイッチ構造になっている。

 実際に台座を持ち比べると、亜鉛アルミニウム合金の台座は18kg以上あり容易には持ち上がらないが、無垢アルミの台座は片手でも持てる。一方で、指で表面を叩くと、亜鉛アルミ合金は「カンカン」と響くが、ダンプされた無垢アルミは「コツコツ」とまったく響きが無い。

左が亜鉛アルミニウム合金の台座、右が無垢アルミの台座
無垢アルミの台座は徹底的にダンプされており、叩いても響かない

 再生周波数レンジは13Hz~35kHz。周波数レスポンスは15Hz~28kHz(±3dB)。感度(軸上2.83Vrms)は90dB。インピーダンスは8Ω(最低3.0Ω)。

 ネットワーク回路は従来モデルとほぼ同じだが、低域用フィルタ向けに使っている22μのコンデンサ×2基を、より大型かつ高音質なムンドルフ製のものに変更している。

右が803 D3のネットワーク。右写真の黒い大きなコンデンサが新たに採用されたもの

「800 D3以上のものは現時点ではない」

 発表会では、B&Wのシニア・プロダクト・マネージャーのアンティ・カー氏や、シニア・リサーチ・エンジニアのマティア・コビアンキ氏、研究開発責任者のマルシャル・ルソー氏、トランスデューサー・エンジニアのジョージ・ウィーバー氏らのビデオメッセージも上映。

シニア・プロダクト・マネージャーのアンティ・カー氏
トランスデューサー・エンジニアのジョージ・ウィーバー氏

 各部のこだわりを紹介すると共に、「802 D3と比べても飛躍的に音質が向上した」、「リニアリティのある、大革新と言っていい進化」、「800 D3以上のものは現時点ではないと思う」など、完成度への自信の高さを伺わせるコメントが相次いだ。

 さらに、「テクノロジー的にも、マニュファクチャリングにも革命を起こした」とし、ハイエンド製品では珍しく、徹底したオートーメーション生産を行なっている点も強調。「10万ポンド(約1,350万円)もするスピーカーではなく、最高のスピーカー。我々は可能なかぎり多くの人に、真のサウンドを体験して欲しいと考えているので、年に15~20台しか作れない特注品を作る事に興味はありません。大量生産できない技術ではダメなのです」(アンティ・カー氏)といったコメントもあった。

異次元のサウンド

 マランツの試聴室で、800 D3のサウンドを聴いた。

 「805 D3」や「803 D3」を聴いた際は、固有キャラクターの少なさ、トランジェントの良さ、分解能の高さ、低域・高域両方の伸びやかさなどに驚かされたが、800 D3は803 D3と比べても、さらにその方向性が進化していると感じる。

 ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」をSACDで再生すると、音が出る前の静けさが、さらに静かになり、その何も無い空間からスッと音が立ち上がるスピードが鮮烈だ。

 音像の周囲の静けさ、奥行きの深さ・広さも唖然とするほどで、もはや音場がどこまで広がっているのかよくわからない。目の前にミュージシャンが立っているような実在感が強烈で、オーディオを聴いているという感覚が薄れていく。ヘルゲ・リエン・トリオの「テイク・ファイヴ」も、ドラムの鋭い高音や、低域の音圧などが瞬時にブワッと吹き出し、スッと高速に消え、余分な響きがまったく無い。その生々しさに絶句する。

 スピーカーの存在を意識させないような再生は、B&Wのスピーカーが得意とするところだが、その特徴がさらに大きく前進したと感じる。色付けも一切無く、雑味も無いため、ドライブするアンプやソースのプレーヤーの個性がそのまま出ているようだ。澤田氏は、「“白いキャンバスに描くよう”ではなく、もはや“透明なキャンバス”」と表現していた。