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ローム、ハイエンド向けDACチップ開発へ。ハイレゾ対応オーディオSoCも披露
2017年2月14日 22:42
ロームは14日、オーディオ機器向けのチップとして、CDやUSBメモリ、SDカード、USB DAC、Bluetoothなど、様々な音源の入力に対応できるデコーダや、サウンドプロセッサ、それらを制御するマイコン、メモリなどを1チップに集積、ハイレゾにも対応したSoC「BM94803AEKU」を発表。その説明会において、ハイエンドオーディオ機器向けにDACチップの開発も進めていく事を明らかにした。
ハイレゾ対応オーディオSoC「BM94803AEKU」
昨今のオーディオ機器には、ソースとしてCDやUSBメモリ内の音楽ファイル再生に加え、BluetoothやPCとのUSB接続など、様々な機器への対応が求められる。それに対応するため、CD再生用のCD-DSP(CD用メディアデコーダ)、CD-ROMデコーダ、USBメモリやSDカード用デコーダ、デジタル信号処理するサウンドプロセッサ、それらを制御するマイコン、メモリのSDRAMなどを1つにしたのが、新SoCの「BM94803AEKU」。
PCとのUSB接続、Bluetooth接続、ラジオやTVチューナとの連携も、このSoCで実現できる。さらに、192kHz/24bitまでのハイレゾデータに対応しているのも特徴。
SoCを含め、周囲のオーディオデバイスの性能も最大限に引き出すという専用ソフトウェアもロームが開発。SoC単体ではなく、ソフトウェアや周辺デバイスも含めたソリューションとして、オーディオ機器メーカーに提案。このソリューションを採用するメーカーは、USB DACやBluetoothといった、複雑かつ多様な機器との接続と、それに適したソフトウェアを自社開発する工程を省く事ができ、オーディオメーカーが得意とする音質の追求に、より時間を割く事ができるようになるという。
USB DAC機能では、ICの中のソフトだけでなく、PC側へのインストールが必要となるドライバもロームが開発。ハイレゾ対応の再生用アプリ含め、ワンパッケージでの供給が可能。
対応する音楽ファイルはMP3/WMA/AAC/WAV/AIFF/FLAC/Apple Lossless/DSD、BluetoothはA2DP/AVRCP/SPP/DIDをサポートする。
様々なソースからの入力に対応するだけでなく、例えば傷の多いCDをドライブに入れた際に、しっかりとした誤り訂正を行ない、傷で読み取りにくいディスクへの対策として、20年以上培ってきた技術も盛り込む事で、「音飛びを抑え、滑らかに再生できる」とする。
USBメモリからの音楽再生でも、専用IC開発のノウハウを盛り込み、USBの規格から外れているようなUSBメモリの読み込みにも対応。「これまで、再生できなかったUSBメモリとして市場から送られてきた300個程度の、認識しにくいUSBメモリを、全て再生できるようにした上で新製品を開発するというサイクルを繰り返すうちに、可能になった」とのこと。
従来は別のデバイスとして実装する必要があったCD-DSPやSDRAMも1パッケージ化する事で、実装面積を61%削減。プロセッサチップの上に、SDRAMを重ねる構造にする事で、省スペースを実現した。さらに、輻射ノイズをICの中に閉じ込める事で、オーディオ機器の設計がより楽になるという。
このSoCをラインナップしたことで、業界初となるハイレゾ対応のオーディオリファレンスデザインの提供も可能になった。SoCを中心に、ロームのアンプ、CDドライバなどで構成されており、オーディオデバイスと周辺アプリケーションのパフォーマンスを最大限に引き出せるという。
SoC「BM94803AEKU」は、1月より当面月産3万個の体制で量産。サンプル価格は4,000円。リファレンスデザインも、70,000円で同時にリリースしている。
既に様々な機器での採用がスタートしており、最近ではJVCブランドから発売された、超小型デスクトップオーディオ「EX-NW1」にも使われているという。
今後の展開として、LSI 商品開発本部 オーディオソリューション LSI 商品開発部の岡本成弘氏は、「現在のモデルは192kHz/24bitまでの対応だが、さらに高品位・高精細なモデルとして、次の世代では384kHz/32bitまで対応させたい。また、CDやローレゾの音源で、カットされた20kHz以上の高域成分を自然な音質で復元するアップスケーリング機能も開発している」と語った。
ハイエンドオーディオ向けDACも開発予定
LSI商品開発本部 オーディオソリューション LSI 商品開発部 加藤武徳氏は、オーディオ分野におけるロームの取り組みについて説明。垂直統合でLSIを手掛けているのが特徴で、全ての製造工程の情報が手元に残り、トレーサビリティに優れ、なおかつ安定供給できるといった利点に加え、商品企画、回路設計、レイアウト、試作評価、テスト開発の全工程において、担当のエンジニアが企画から顧客に届けるまで一貫して関わり、「エンジニアの顔がみえる展開」が特徴だという。
また、「LSIなどの製品では電気的な特性が大事とされるが、オーディオではそれだけでなく数値に現れない音質を評価する事が大事」(加藤氏)とし、オーディオアナライザで歪やノイズを数値的に評価するほか、担当のエンジニアや顧客も参加し、数値に現れない音質を人の聴感でチェック。透明感、迫力、歪感、広がりといった項目が用意された「聴感評価」シートを使い、横浜テクノロジーセンター内にあるリスニングルームで音をチェック。参加者全員で聴き込みながら、そのシートに従来品から進化した部分などを書き込み、評価しているという。
それに加え、新しいICを年間10社以上のオーディオメーカーなどに持参。「(ロームの新製品の音をメーカーに聴いてもらう)道場破りのような気持ちで、真剣勝負で聴いてもらい、製品を評価していただいている」(加藤氏)という。
その成果として、ヤマハのAVプリアンプ「CX-A5100」や、デノンのAVアンプ「AVR-X2300W」、TechnicsのPremiumクラスの「SC-C500」(OTTAVA)や、Grandクラスの「G30シリーズ」、アルパインのカーナビ「ビッグXシリーズ」の「BIG X11」、「BIG X Premium」、「BIG X」など、様々な機器に採用されてきた。
今後の展開として加藤氏は、新しいオーディオデバイスとして、フラグシップオーディオ機器への搭載を想定した、ハイレゾ対応DACを開発する予定と発表。数値性能に加え、力強い低音と伸びやかなボーカルの再現を目標としており、同時に車載向けの信頼性も確保するという。
オーディオで重要な電源についても「高精細なハイレゾオーディオに最適な、超低ノイズの電源ICも必要。面積が小さく、ノイズを抑えたものであれば、ハイレゾにふさわしい電源構成ができる」と、開発を示唆。
ハイレゾに対応した50W出力以上のスピーカーアンプも開発予定で、DSPも内蔵し、SiCなど、スピーカー駆動用デバイスを外付けできる、外付けパワーステージタイプになる見込みだ。
複数のパラメータを調整し、狙い通りの音質を達成する
LSI商品開発本部 オーディオソリューション LSI 商品開発部 佐藤陽亮氏は、ホームオーディオ向けに展開しているアナログ・サウンドプロセッサの「BD34704KS2/BD34705KS2」を例に、「音質設計技術」を説明。
アナログのサウンドプロセッサは、DACとスピーカー・アンプの間に配置するもので、電子ボリュームとして音量や音質の調整を担当する。ロームのサウンドプロセッサでは、ボリュームの切替時に、瞬間的に信号の大きな変動があっても、耳障りなポップノイズを発生させず、信号の補完でこれを軽減。さらに、電気的特性の歪やノイズにおいて、業界最高クラスの性能も達成しているという。
これに加え、新たな設計思想(技術)として導入されているのが「音質設計」。前述の「聴感評価」と同種のものだが、音質パラメータを用いて、狙い通りの音質を達成する事を目的としており、生産工程の回路設計段階では12のパラメータ、ICレイアウトやフォトマスク製造の工程で6パラメータ、ウェハプロセスで6パラメータ、内製リードフレームで1パラメータ、パッケージの段階で3パラメータ、合計28のパラメータを用意。
垂直統合生産の特徴を活用し、これらのパラメータを調整する事で、狙い通りの音質を実現可能。パラメータには例えば、「ボリューム回路の抵抗ラダーに使う抵抗素子のノイズ」や、「チップとリードフレームを結ぶボンディングワイヤーの材質」、「差動段の素子配置を見直して外部干渉に強くする」などの項目があり、幅広い。調整後の評価は、先程の「聴感評価」と同種のシートを用いて行なう。
発表会では実際に、音質設計を施したものと、そうでないものの聴き比べも実施。音質設計で作られたものの方が、中高域がより滑らかで生々しい音になり、低域のアタックや、低音の沈み込みも深くなっている事が実感できた。
LSI商品開発本部の金井延浩統括部長は、垂直統合で生産するLSIに加え、抵抗、タンタルコンデンサ、トランジスタ、ダイオード、レーザーダイオード、LED、パワー半導体、各種センサーなど、幅広い商品ラインナップを用意している事もロームの特徴と紹介。
従来は日系のデジタル家電メーカーやその他日系の民生向けの製品が売り上げの多くを占めていたが、高品質、安定供給といった特徴を活かし、産業機械や自動車向けの比率が2017年計画では42%まで増加。早期に50%まで引き上げようとしているという。
オーディオ向けの製品では、「回路だけで音を作り込むのではなく、材料なども工夫して音質を追求している」とこだわりを語り、特にDACでは競合他社のチップが話題になる事が多いが、「我々もそこに本気で取り組んでいく」と、ハイエンドも含め、オーディオ向けICの拡充にも、さらに注力する姿勢をアピールした。
発表会では、オーディオ&ビジュアル評論家の山之内正氏も登壇。オーディオ業界における、ハイレゾの対応機器、配信サービス、対応機器の指標として作られたハイレゾマークなどの詳細を説明。録音の現場でも、より高精細な録音が広まる一方で、アナログレコードやかつてのアナログ録音マスターも再評価されている現状も紹介。「沢山の情報を聴き手に提供しよう。かつてのアナログ録音マスターにも、実はこんな音が入っていたんだ、それをもう一度聴き直してみようという動きも広がっている。アナログレコードの人気と、ハイレゾ音源の広がりは、完全に同じ方向を向いているのかなと思う」と分析。
また、ハイレゾと、CDなどの非ハイレゾの違いは、オーディオマニアが高価な機材を用意した環境でなくても聞き分けられる違いがあり、実際に体験する事が重要とし、「車載のオーディオでも、音の立ち上がり、鮮度などでCDと比べ、随分違うのがわかる。これからのネットワーク時代には、データを軽くしてサービスの利便性をアップさせるという流れと、音にこだわる流れ、両方が出てくるが、何もしないと音を圧縮していく流れに繋がる可能性がある。私はアンチ圧縮音源という立場を強く打ち出したい。(だからこそ現在は)音にこだわるんだ、音を見直すんだという姿勢を示せる良い機会でもある」と語った。