ニュース

HoloLens装着の新入生、ホログラムの校長が登壇。角川ドワンゴ運営のN高がニコファーレで入学式

 ITやプログラミング、グローバル社会で通用するスキル、クリエイティブ系能力などを身につけた人材育成を目指し、ネットを駆使して時間や場所の制約を排除した学園生活を特徴とする、角川ドワンゴ学園運営のN高等学校。その2期生を迎える平成29年度入学式が六本木のニコファーレで行なわれ、新入生60人がMicrosoftのHoloLensを装着して入場した。3Dホログラムの教師が授業を行なうなど、HoloLensは今後の授業で活用される。

HoloLensを装着した新入生代表が、ホログラムの校長に向かって宣誓

 N高等学校(N高)は、ネットと通信制高校の制度を活用した新しいタイプの高校として、昨年の4月に開校。高校の卒業資格を取得できるが、そのための授業をスマートフォンやパソコンで受けられ、レポートもネット上で行なうなど、一般的な全日制高校と比べて拘束時間が短いのが特徴。

HoloLensを装着して入学式に参加する新入生

 学校に通うのは年5日程度のスクーリングのみで、沖縄の伊計島にある本校と、全国11カ所のスクーリング会場から選択可能。また、ネットコースに加え、通学コースも用意。東京の代々木と大阪の心斎橋にキャンパスを設け、そこに通いながら学ぶこともできる。

沖縄の伊計島にある本校
東京の代々木と大阪の心斎橋に通学用のキャンパス

 高校卒業資格のための授業に加え、Advanced Programと呼ばれる、任意で受講する選択式の授業を多数用意。ネットを通じた生放送と教材がセットになった専用アプリを使い、大学受験、プログラミング、文芸小説、外国語、イラストレーター、コミックといった多様なジャンルの授業が受けられる。角川ドワンゴ学園が運営する強みを活かし、ドワンゴのエンジニアや、KADOKAWAの作家や編集者らが授業を行なうといった特徴もある。

 今年入学する2期生は2,002人。1期生と合わせ、3,782人が全国で学ぶ事になる。

 こうした先進的な教育システムの一環として、ドワンゴは、マイクロソフトのMR(Mixed Reality:複合現実)ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を使った、教育・セミナー・ライブイベントなどに特化した同期コンテンツ配信システム「DAHLES」(ダレス:Dwango Advanced HoloLive Education System)を開発。

 活用の第1弾として、5日に行なわれた入学式に新入生が実際に装着して出席。HoloLensには標準でシェアリング機能が搭載されているが、DAHLESは“1対多人数”型、大空間での多人数利用に特化した独自の制御を実現。多人数での空間共有を安定的に行なえるのが特徴。

 例えば学校の教室で、大人数の生徒が一斉にMR体験を共有でき、MRで立体模型を表示し、それを見ながら授業を受けるといった事も可能になる。入学式でも、立体的な地球の映像や、人間の心臓といったオブジェをニコファーレの空間に登場させ、生徒たちがそれを様々な角度から見上げる一幕もあった。

新入生の頭上に、CGの心臓が浮かんでいる

 没入型のVRヘッドマウントディスプレイと異なり、HoloLensは現実の視界も遮らず、周囲や自分の手元が見えるので、3D映像の授業を体感しながらノートをとることも可能。

 遠隔地にいる教師が3Dのホログラムで視界に登場し、生徒の近くで勉強を教えるといった事も可能。生徒が書いているノートをカメラで撮影し、その内容を遠隔地にいる教師の前のタブレットに表示。教師はそれを見て、間違いを指摘するといった事もできる。

遠隔地にいる教師がホログラムで授業
教師は生徒のノートをタブレットでチェック

 入学式でも、このDAHLESを活用。前述のように本校は沖縄の伊計島にあるが、そこでも同じ時間に入学式を実施。ニコファーレの壁に360度、リアルタイムに映像を表示し、沖縄本校の校庭と、ニコファーレをネットを使って繋いだ形に。沖縄にいる奥平博一校長が式辞を述べる際には、校長がホログラム映像としてニコファーレの演台に表示され、新入生はHoloLensを通して校長を見上げるといったシステムになっていた。

ニコファーレが入学式の会場に
沖縄にある本校の校庭と、ニコファーレが繋がった

 奥平校長は新入生に対し、「1人1人の挑戦が重要。日常の小さな事でも構わないので挑戦して欲しい。そして“自分の居場所”は誰にでもある。今まで、嫌な思いをした事がある人もいるかもしれないが、(自分が)大切にしてもらう事を期待するよりも、あなたが誰かを大切にしてあげる事が大切。そして“自分の居場所”が必ずあると信じて欲しい」と呼びかけた。

沖縄からホログラムで参加した奥平校長

 角川歴彦理事は、「角川とドワンゴでは、新しいアニメや映画、音楽などを作っているが、そういった作り手を目指して欲しい。この中に『けものフレンズ』、『幼女戦記』を知っている人はいますか? そういった作品を、一緒に作っていこう。(N高はそういった)クリエイティブなことができる場所」と語る。

角川歴彦理事

 川上量生理事はN高を作った理由として、「“ネットで学園生活を実現したい”、“人生を変えるような体験をして欲しい”この2つにまつわる時間と空間の制限を、ネット技術を使って乗り越え、実現しようというのがコンセプト。ネットに特化した最先端コースがあり、職業訓練もできる。人生を変えるようなイベントなども用意している。ほとんどの講義は、高校卒業に関係のない講義だ。様々なことに挑戦してもらいたい。終生の友を得たり、生きる目標を決める場所でもある。しかし、皆さんが一歩踏み出さないと何も始まらない。友達を作る時も、勇気を出して踏み出す事が大切。1つ1つ、つかみとっていって欲しい」と呼びかけた。

川上量生理事

 さらに、特別来賓として、ウルグアイの前大統領であり、質素な生活から“世界で最も貧しい大統領”としても知られるホセ・ムヒカ氏がホログラムで登壇。ムヒカ氏は、教育を通じて成熟し、何らかの種を残す事の大切さや、命の大切さを新入生達に語り、同時に「この世はビジネスや経済ばかりではありません。愛情を育むためにゆとりを持つべきです。愛する人や友人のために。急いで生きる必要はありません。焦る必要はないのです。日々、人生の喜びを少しずつ味わってください」と諭した。

ウルグアイの前大統領、ホセ・ムヒカ氏

 ムヒカ氏は、人々が市場に圧迫され、次々と物を買うように駆り立て、時間を奪っている事も指摘。「分別と節度を持ち、無駄遣いをしないでください。そうすれば人生の自由な時間を失わずに済みます」と語り、「憎しみや戦争のない世界のためには、世界から過酷な貧困を取り除く事、そして浪費をやめることが大切です。世界では1分あたり200万ドルもの大金が軍事費につぎ込まれています。それなのにアフリカの飢餓は放置している。人類発祥の地であるアフリカを見捨てるなど、恥ずべき振る舞いです。皆さん、勉学に励み、その知識を人類のために役立ててください。自分だけでなく、みんなのために」と呼びかけた。

入学式の最後には、1期生がN高の校歌(作詞:志倉千代丸、作曲:田中公平)を披露した