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フェンダー、BA×6基搭載で約15万円のハイエンドイヤフォン「FXA9」。MMCXi採用

 フェンダーミュージックは、バランスド・アーマチュア(BA)を6基搭載した、ハイエンドクラスのイヤフォン「FXA9」を5月下旬に発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は148,000円前後。カラーバリエーションは、「CHAMELEON」、「BRONZE」、「WHITE」の3色。

「FXA9」のWHITEモデル

 プロの現場での使用にも堪えられるよう設計したというインイヤモニター。カラーバリエーションは、「CHAMELEON」、「BRONZE」、「WHITE」の3色。

「FXA9」。カラーバリエーションは、CHAMELEON、BRONZE、WHITEの3色

 独自で新規開発したというBAドライバを採用。構成は高域×1、中域×1、低域×2、サブの低域×2の6基構成。最低域を受け持つ2基のBAには、ハイブリッドタイプの開発設計で培った「Groove tuned bass port」テクノロジーを用いて、ポートの形状と位置を調整し、「通常のBAドライバ製品では再現できない、フェンダーらしい伸び伸びとした、心地よい低域再生を実現した」という。

 6基のドライバは、位相や歪みの問題が最小限になるよう、緻密なレイアウトでシェル内に設置。最高の状態でドライブするよう作られている。

 シンプルながら、高域と中域が滑らかにつながるように設計したネットワークを採用。中域と低域も、低域のドライバ設計により、中域と同様に、滑らかなつながりを実現したとする。

BRONZEモデル

 ハウジングは3Dプリンタを使って作られており、金型では実現が難しかったポートの形状や、位置出しの繊細な調整を可能にした。生産は熟練工が行ない、「FXA7の約2.5倍の時間をかけて生産されている」という。音質に影響のあるノズルには、強度に優れたベリリウム銅材を採用。24kゴールドプレートで仕上げている。

多くの部分が手作業で作られている

 ケーブルは着脱可能で、端子には、MMCXをベースとしているが、コネクタ部のトラブルを大きく改善したという「MMCXi」を採用。他社のMMCXケーブルを接続できる場合もあるが、保証はしないという。ケーブルの導体は無酸素銅で、シルバーのコーティングを3層施しており、タッチノイズと汚れによる劣化を軽減。

コネクタ部のトラブルを改善したというMMCXi端子

 また、内部で分岐させることなく、アースも独自にとっており、ステレオのクロストークも抑えている。ケーブルの長さは約1.3m。

 ハウジングには「F」のロゴを配置。描かれたリッドは、3Dプリンタで作成した後、熟練工の手によるサンドペーパーがけの後、手塗りで仕上げられている。背面にあたるクリアーシェルは6層でコーティング。

 再生周波数帯域は12Hz~22kHz。インピーダンスは21Ω。感度は121dB。ノイズ低減量は22dB。

ハウジングには「F」のロゴを配置

音を聴いてみる

 AK380とFXA9を接続し、試聴してみた。6基のBAを搭載したイヤフォンだが、ハウジングは小ぶりで、非常に装着しやすい。なおかつ遮音性も高い。ミュージシャンの利用も想定した製品だというのがよくわかる。

 サウンドには個性がある。特に中低域に勢いがあり、張り出しも強め。「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」などを聴くと、冒頭からベースがグイグイと張り出し、主張する。いわゆるモニターライクなバランス追求タイプとは異なり、ベースラインを気持ちよく、ロックをエネルギッシュに、“熱く聴かせる”タイプのイヤフォンだ。

 高域にもやや付帯音が感じられるが、抜けは悪くなく、モコモコした閉塞感のある音ではない。また、低音も適度な締まりとトランジェントの良さがあり、オールBAらしい解像感も感じられる。単にベースの迫力だけでなく、ラインの精密な描写や、弦の細かな震える具合も聴き取れるイヤフォンと言っていいだろう。

 面白いのは、同日に発表された14,800円の「CXA1」だ。価格は「FXA9」の方が大幅に高価だが、FXA9と聴いた後で、CXA1を聴くと、音の傾向がとても良く似ていて面白い。もちろん、ワイドレンジさなど、音の総合的なクオリティはFXA9の方が遥かに良いのだが、中低域の気持ち良い張り出しや、パワフルさといった、“Fenderらしいサウンド”は、14,800円のCXA1でもしっかり楽しめる。個性が光る2機種だ。

「ミュージシャンからの要望で、オールBAのイヤフォンに挑戦」

 Fenderはエレキギターやベース、アンプなどで知られるが、2015年に買収したIEMメーカー Aurisonicsの技術やノウハウを活かし、イヤフォンも手がけている。開発担当は、Aurisonicsでハイブリッドイヤフォンを手がけ、特許も取得しているDale Lott氏。現在はFenderのイヤフォンを手がけ、今回の製品もDale氏が開発した。

Dale Lott氏

 Dale氏は、イヤフォンのエンジニアとしてだけでなく、ナッシュビルでミュージシャン、レコーディングエンジニアとしても活躍。軍隊での経験も活かし、通信機も設計。3,000個もの耳型を所有し、そこから得たノウハウで、装着感に優れたイヤフォンを作り出している。

 BA×6基で構成する「FXA9」についてDale氏は、「私のイヤフォンにはハイブリッドというイメージを持たれるかもしれないが、米国で、プロミュージシャンからの要望として“オールBAのイヤモニターが欲しい”という声があり、今までやった事がなかったのでプレッシャーではあったが、これまでの技術を活用し、オールBAのイヤフォンを開発した」と説明。

 さらに、高域×1、中域×1、低域×2に、サブの低域×6を組み合わせる方式を「HEXADテクノロジー」と命名。「英語で6個という意味だが、6基のBAを活かし、今まで培った技術と設計、チューニングにより、BAで未だかつて聴いた事のないサウンドを実現した」という。ネットワークは高域と中域の間、中域と低域の間には搭載されているが、低域とサブの低域の間には無く、音の繋がりを重視した結果だという。

 また、音が通るノズルにベリリウム銅材を使い、24kゴールドプレートで仕上げる事で、音のエネルギーをそのまま耳に届けられる効果があるという。

 Dale氏はサウンドの傾向として、「FXA9は、(これまでとは異なる)オールBAで作り上げた製品が、Fenderのスタイルで作っているところは同じ。リアリティや音の広がり、パンチのある音なども重要だが、それと同時に、深いベースと、ダイナミックなサウンドが楽しめる製品」と紹介した。

 Jim Ninesling上級副社長は、FXA9がナッシュビルの工場で1台1台組み上げられている事を、動画を交えて紹介。「コロナの工場では最高レベルのギターをハンドメイドで作っているが、イヤフォンもそれと同じ。多くの人の手が加わり、生産にかかる時間もFXA7と比べ、約2.5倍必要」だという。

Jim Ninesling上級副社長

 なお、Dale氏によれば、FXA9の組み立てを許されたエンジニアは現在1人しかおらず、生産能力を高めるため、現在人材を育成中だという。

 また、Jim氏は今後の商品展開として、Bluetoothスピーカーの開発も予告。イヤフォンのラインナップ拡充にも意欲を見せた。

 フェンダーミュージックのEdward Cole社長は、「Fenderはエレキギター、ベース、アンプにおいて、グローバルで世界一のマーケットシェアを持っている。これは、創立者レオ・フェンダーの“全てのプレーヤーの理想のサウンドを作り続けていく”というコア・アイデンティティを守っているから。1人1人のミュージシャンが想い描くサウンドを実現するための製品を開発し、ギターやベースといった音の入り口から、アンプという出口までを手がけてきた。そうしたこだわり、責任が、ジミ・ヘンドリックスやリッチー・ブラックモア、ジェフ・ベック、日本においてもChar、Ken、INORAN、ハマ・オカモト、TOKIEさんといった素晴らしいミュージシャン達に支持していただいている」と、ブランドを紹介。

フェンダーミュージックのEdward Cole社長

 「現在では、音楽がライフスタイルと密接に関わっていて、切っても切り離せない存在。そして、私達がサポートするプレーヤーには、ギターなどの楽器を楽しむ人だけでなく、音楽を愛する人達も広くポテンシャルプレーヤーとしてとらえている。ミュージックライフスタイルを楽しむ人から、スタジアムでプレイするアーティストまで、フェンダーのイヤモニターで、自分を表現するようになって欲しい」と、製品への想いを語った。

発表会は、ギターやアンプが多数並んだFenderの「バックステージ」で行なわれた