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デノン、国内初Auro-3D対応のAVアンプ「AVR-X6400H/X4400H」。32bit精度の「AL32」も

 ディーアンドエムホールディングスは、デノンブランドのAVアンプの新製品として、一体型AVアンプとしては国内初となる、Auro(オーロ)-3Dに対応した、11.2ch「AVR-X6400H」と、9.2ch「AVR-X4400H」2機種を9月中旬に発売する。価格はAVR-X6400Hが30万円、AVR-X4400Hが17万円。カラーはどちらもブラック。

11.2ch「AVR-X6400H」

Auro-3Dとは何か

 2016年に発売した「AVR-X6300H」と「AVR-X4300H」の後継モデル。最大の特徴は、どちらも新しい3D音響方式Auro-3Dのデコードに対応した事。Auro-3Dは、Dolby AtmosやDTS:Xなどのオブジェクトベースオーディオとは異なり、従来のチャンネルベースのサラウンドフォーマットでありながら、高さ方向の情報にも対応し、包み込まれるようなサラウンド再生ができるというもの。

 空間の音響を3つの階層に分けて処理・再生しており、耳の高さで、普段聴く音が最多に含まれているレイヤー1、その上に重なり、音に没入するために必要な反射音が含まれ、“イマーシブオーディオ”の実現に重要だというレイヤー2、さらにその上に重なり、頭上を通過する音などの特殊効果が存在するレイヤー3、と区分している。

Auro-3Dにおける音響空間の区分

 Auro-3Dの効果を楽しむために適したスピーカーのセッティングは、5.1ch環境に、フロントハイト(FHL+FHR)、サラウンドハイト(SHL+SHR)の4chを加えた9.1ch。リスナーから約30度の位置に配置したハイトスピーカーから、高さを表現するための反射音などを再生する事で自然な音響空間を再生するという。この場合は前述の“レイヤー1”と“レイヤー2”を再現した状態となる。ただし、フロントハイト(FHL+FHR)だけを追加した環境であっても、その効果はある程度実感できるという。

 なお、約30度という数値は、「人は、左右の耳の間に生じる音の時間差には極めて敏感だが、頭上には耳が無く、垂直方向の時間差を聞き分けることができない。三次元方向からの反射音がレイヤー1と2の間に定位する事が最も重要で、レイヤー1と2の仰角が40度を越えてしまうと、数位直方向の自然な繋がりが消失してしまうため」(Auro Technologies N.V. CEOのWilfried Van Baelen氏)だという。

三次元方向からの反射音がレイヤー1と2の間に定位する事が最も重要
Auro-3Dを最も効率的に楽しめるという9.1ch配置

 レイヤー3を追加し、Auro-3Dをフルに楽しむためには、天井から1ch再生が必要となるが、AVR-X6400H/X4400Hでは、これをリアハイトスピーカーに割り当てて再生する事も可能。

 なお、Dolby AtmosやDTS:X向けに天井のトップスピーカーを設置している場合は、これをフロントハイトや、サラウンドハイトスピーカーであるとAVアンプ側に設定する事でAuro-3Dを最適に楽しめるという。

 サラウンドハイトスピーカーの代わりとして、リアハイトスピーカーを使ってAuro-3Dを楽しむ事も可能。その場合はAuro-3DとDolby Atmosを両方楽しむ事もできる。

 なお、9.2chの「AVR-X4400H」でAuro-3Dの10.1chシステムを構築するためには、別途パワーアンプの追加が必要。

 Auro-3Dの音声でない、例えばモノラルやステレオ、その他のサラウンドフォーマットを、Auro-Maticアルゴリズムを用いてAuro-3Dの3Dサラウンドにアップミックスして再生する事もできる。

様々な音をAuro-3Dにアップミックス再生できる。Auro-3D対応ソフトでなくても楽しめる

 このAuro-3Dはチャンネルベースの技術だが、ハイレゾのクオリティに対応しているのも特徴。技術的には最大13.1chで、各チャンネル384kHz/24bitまで対応可能。ただし、Blu-rayでは容量の制限的に、1chあたり96kHz/24bitまでに限定しているという。

技術的には最大13.1ch環境まで対応できる

 互換性の高さも特徴。例えば、映画のBlu-rayにおいて、DTS-HD MasterAudioの5.1ch音声で収録する場合、PCM 5.1chのデータを素材として用意し、それをDTS-HD MasterAudioの5.1chにエンコードして収録する。Auro-3D対応のトラックを作る際は、PCM 5.1chの素材をAuro-3Dのエンコーダで処理し、Auro-3Dの信号も含んだPCM 5.1ch素材を作成できる。これをDTS-HD MasterAudio 5.1chフォーマットでBDに記録し、販売する。

 Auro-3Dに対応したAVアンプに、このDTS-HD MasterAudio 5.1chを入力すると、Auro-3Dとして再生。AVアンプのディスプレイにもAuro-3Dと表示される。逆に、Auro-3D非対応のAVアンプでデコードした場合は、通常のDTS-HD MasterAudio 5.1ch音声として再生され、音にも違和感はなく再生できるという。

Auro-3Dとして再生している時のディスプレイ

 そのため、例えばAuro-3Dに対応したソフトとして販売されている(新作の方の)「ゴーストバスターズ」UHD BDには、DTS-HD MasterAudio 5.1ch(Auro-3D対応)と表記されている。なお、Auro-3D対応ソフトは現時点、日本で15タイトルほどが入手できるという。

「ゴーストバスターズ」UHD BDには、DTS-HD MasterAudio 5.1ch(Auro-3D対応)と表記されている
発表会の会場には、Auro-3D対応ソフトも展示された

 発表会には、Auro Technologies N.V. CEOのWilfried Van Baelen氏が来日。Auro-3Dについて説明した。

Auro Technologies N.V. CEOのWilfried Van Baelen氏

 Baelen氏はAuro-3Dの開発者であると同時に、2010年のAES国際コンファレンスにおいて、2Dのサラウンドフォーマットとの違いを明確にするため、“イマーシブサウンド”という新たな用語を定義した人物でもある。

 Baelen氏は、「Auro TechnologiesとAuro-3Dフォーマットの本拠地」として、Baelen氏が設計も担当したGalaxy Studiosも紹介。ルーカスフィルムの作品のイマーシブサウンドを手がけたり、日本人アーティストも含めたミュージシャン達の録音スタジオとしても活用しているという。

 また、ハリウッドのメジャースタジオを含む世界で40を超えるポストプロダクション設備にAuro-3Dスタジオシステムが導入され、「200を超える国際的な映画がAuro-3Dでリリースされた」という。

Galaxy Studios
ポストプロダクション設備などで使われているオーサリングソフトとアップミキシングプラグイン

 この技術はホームシアターだけでなく、映画館やスマートフォンなどのポータブル機器、カーオーディオにも対応可能。世界で650を超える映画館で「Auro 11.1 by Barco」が採用されており、映画館向けのフォーマットでは、オブジェクトオーディオとAuro-3Dを組み合わせる事も可能な“ハイブリッド技術”でもあるという。

映画館向けの「Auro」も存在する

 ヘッドフォンで楽しむ事も可能で、スマートフォンやタブレットでも対応可能。ゲームソフトでは、バンダイナムコエンターテインメントから「GET EVEN」という対応ソフトも登場している。

 Baelen氏は、「Auroのビジョンとミッションは、新たな感動体験を、何処へでも、誰にでも、そしてクリエイターの意図通りに提供する事」と語り、今後のAuro-3D拡大へ意欲を見せた。

発表会はベルギー大使館で行なわれた

E-ARC対応で、ストリーミングのオブジェクトオーディオも手軽に再生

 Auro-3Dだけでなく、どちらのモデルもオブジェクトベースのサラウンド「Dolby Atmos」と「DTS:X」にも対応する。定格出力は、X6400Hが140W×11ch(8Ω)、X4400Hが125W×9ch(8Ω)。

9.2ch「AVR-X4400H」

 HDMI端子は、どちらのモデルも入力×8、出力×3系統を装備。HDCP 2.2や、広色域のBT.2020に対応するほか、4K/60p/4:4:4/24bitや、4K/60p/4:2:0/30bit、4K/60p/4:2:2/36bitなどに対応(前面のHDMIは4K/60p/4:2:0/24bitまで)。HDRのDolby Visionやハイブリッドログガンマ(HLG)もサポートする。なお、2016年モデルのX6300HとX4300Hでも、Dolby VisionとHLGは2017年秋頃のファームアップでサポート予定。

 HDMIケーブル1本で、テレビの音声をAVアンプから再生する「ARC」(オーディオリターンチャンネル)は、「E-ARC」(Enhanced ARC)に進化する。ARCはPCM、ドルビーデジタル、ドルビーデジタルプラス、DTS、AACまでの対応だが、E-ARCではドルビーTrue HD、Dolby Atmos、DTS-HD MasterAudio、DTS:Xまでサポート。ネットを使った動画配信サービスで、テレビが受信したDolby Atmos音声を、HDMIケーブルを介してAVアンプに送信して再生できる。なお、E-ARCへの対応はHDMIフォーラムで規格策定後、今後のファームアップで対応する予定。

 なお、11.2chの「AVR-X6400H」は、5.1ch環境でのさらなる高音質化を実現するため、5chのスピーカーを、全てフルバイアンプでドライブする事も可能。

 DACチップは、旭化成の「AK4458VN」を2基搭載。DAC専用基板とすることで、デジタル回路の影響を低減。ポストフィルタも強化し、信号ライン、電源ラインを最適化した。 さらにアナログデバイセズのDSPを4基備え、余裕のあるデジタル処理を実現している。

 この処理能力を活かし、マルチチャンネル信号を24bit精度に拡張し、元のアナログ波形に近付けるという「AL 24 Processing Plus」機能を進化。「AL32 Processing Multi Channel」となり、名前の通り、演算精度が24bitから32bitに強化された。

 音場補正技術の「Audyssey MultiEQ XT32」も搭載。アプリ「Audyssey MultiEQ Editor Apps」を利用すると、タブレットなどから詳細な音の調整も可能。

 対応するBDプレーヤー「DBT-3313UD」と接続する事で、ジッタ・フリー伝送を可能にする「Denon Link HD」もサポートする。

 ネットワークプレーヤー機能も搭載。無線LANも備え、IEEE 802.11b/g/nに加え、11aもサポート。デュアルバンドで2.4GHzに加え、5GHzもサポート。2×2のMIMOにも対応しており、通信性能を高めている。

 LAN内のNASなどに蓄積した音楽を再生可能。再生対応ファイルは、DSDが5.6MHzまで、WAV/FLACは192kHz/24bitまで、Apple Losslessは96kHz/24bitまでサポートする。MP3/AACの再生も可能。USBメモリに保存したファイルの再生にも対応する。AirPlay、インターネットラジオ受信も可能。

 Bluetooth受信機能も用意。スマートフォンと手軽に連携してワイヤレス再生できる。ラジオチューナも備え、ワイドFMにも対応する。

 iOS/Android/Kindle Fire対応のリモコンアプリ「Denon 2016 AVR Remote」も配信。スマホやタブレットからAVアンプを操作でき、PCやNASなどに保存した音楽ファイルの検索、再生キューの作成・保存、ネットラジオの選局なども可能。

アンプ部分の強化点

 X4400Hは、X4300Hと同様に、9ch同一クオリティでのディスクリートアンプを採用。4chのパワーアンプブロックと、5chのブロックを組み合わせた構成で、相互干渉を防いでいる。アンプブロックには、アルミ押し出し型のラジエータを採用。放熱しつつ、不要な振動を抑え、透明感の高いサウンドを実現するという。

X4400Hのパワーアンプ部。4chのパワーアンプブロックと、5chのブロックを組み合わせた構成になっている

 X6400Hは、1chごとにアンプの基板を分けているこだわりの「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ」構造を採用しながら、サイズはミドルクラスの筐体に抑えている。

 これを実現しているのは、X6300Hでも採用していた「11chチェッカー・マウント・トランジスタ・レイアウト」。ヒートシンクに出力パワートランジスタを一列に並べると筐体に入らなくなるため、格子状に並べるもので、スペースファクターの問題を解決すると共に、熱効率を改善させる効果もある。

X6400Hのパワーアンプ部は「11chチェッカー・マウント・トランジスタ・レイアウト」

 X6400Hの出力素子はDHCT(Denon High Current Transistor)を採用。普通の素子は3本足だが、DHCTは4本足となっており、温度補償回路を内蔵。急激な温度変化に追従でき、アイドリングの安定度が向上するという。薄膜技術によりトランジスタの熱効抵抗を下げ、放熱性も高めている。

アンプ部のこだわりを説明する、グローバル プロダクト ディベロップメント AVR 1 グループの高橋佑規氏

 パワーアンプの入力素子には、ハイエンドと同じデュアルトランジスタを採用。差動回路を構成するトランジスタの温度ドリフトが最小になり、カレントゲインの差も小さく、DCオフセットを最小化。これにより、微小信号や低域の表現力が向上したという。

 X6400Hの電源部は、チャンネル毎に分離された電源供給経路を採用。セパレーションの改善と、クロストークの低減を図っている。どちらのモデルも、カスタムメイドのパワートランスを採用するほか、カスタムメイドのブロックコンデンサも採用。X4400Hは35mmタイプ、X6400Hは50mmタイプとなる。

X6400Hのパワートランス
X4400Hのパワートランス

 パワーアンプの出力トランジスタの脚には、温度検出回路を搭載。異常温度上昇時に保護動作をする。従来のヒートシンクでの検出と比べ、即座に検出できるため、電源リミッタの省略を実現した。

 ボリューム部分にもこだわっており、信号経路、レイアウトなどの設計の自由度を向上させるために、1チップに集積されたボリュームICは使わず、7in-3outのセレクタ、8ch電子ボリューム、4in-4outのセレクタという3つの機能それぞれのICをディスクリートで使用している。

3つの機能それぞれのICをディスクリートで使用。レイアウトなどの設計の自由度を向上させた

 X6400Hのスピーカーターミナルは、接続しやすい横一列配置で、上位機種と同等の信頼性の高い新型を使っている。

 脚部は両モデル共通で、台形リブを採用した高密度フットを採用。筐体は、X4400Hはシャーシ厚をプレートの追加により2mmへとアップさせ、剛性を向上。大型EI電源トランスを高密度フットの上に実装し、不要な振動の影響を低減している。

台形リブを採用した高密度フット

 X6400Hのシャーシ厚は1.2mmにアップ。パワーアンプブロック、電源トランスには1.2mmのプレートを追加している。

 HDMI以外の端子は、X6400Hが入力としてコンポジット×5、コンポーネント×2、アナログ音声×8、光デジタル×2、同軸デジタル×2。出力端子は、コンポジット×2、コンポーネント×1、11.2chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1を装備。Ethernet、Denon Link HD、USB、RS-232C、DCトリガー端子なども備えている。

 X4400は入力としてコンポジット×4、コンポーネント×2、アナログ音声×7、光デジタル×2、同軸デジタル×2。出力端子は、コンポジット×2、コンポーネント×1、11.2chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1を装備。Ethernet、Denon Link HD、USB、RS-232C、DCトリガー端子も備えている。

 消費電力はX6400Hが750W、X4400Hが710W。外形寸法と重量は、X6400Hが434×393×167mm(幅×奥行き×高さ)で14.5kg、X4400Hが434×389×167mm(同)が13.7kg。

X6400Hの背面
X4400の背面

音を聴いてみる

 Auro-3Dの効果を、X6400Hと、5ch環境に、フロントハイト(FHL+FHR)、サラウンドハイト(SHL+SHR)の4chを加えた9chシステムで試聴した。

 オブジェクトベースではなく、チャンネルベースのサラウンド技術だが、第一印象としては“各チャンネルの音の繋がりが極めて自然”な事が挙げられる。オブジェクトベースのように、細かな音像が飛び回るようなコンテンツよりも、教会や響きの良いホールで録音したクラシックなど、音の響きに包み込まれるような感覚が心地よいソースと相性が良いようだ。

 ハイトスピーカーの追加によって楽しめるため、トップスピーカーを天井に取り付けるのはハードルが高いと感じているAVファンにとっては、注目の技術と言えるだろう。

 ディーアンドエムホールディングスの中川圭史取締役は、「北米とヨーロッパ向けに、2014年12月にAVR-X7200Wから有償アップグレードとしてAuro-3Dに対応した。市場でも対象製品は高い評価を受け、対象モデルは現在16機種まで拡大している。7割はヨーロッパで、特にドイツで高い評価を受けている。音楽コンテンツが充実しているのが特徴として挙げられ、Auro-3Dで聴くクラシックのコンサートは秀逸。我々の試聴室で体験したが、従来のフォーマットで経験できなかった感動を受けた。シアターファンだけでなく、音楽ファンにもぜ聴いていただき、3Dオーディオの進化を体験して欲しい。そして、スタートからサポートしてきたブランドとして、日本市場への展開は感慨深い。今年度は出荷時点で対応し、今後も全数対応していく。日本を始め、世界中のユーザーにAuro-3Dとデノン、マランツのAVアンプを使っていただき、新しい感動を体験して欲しい」と語った。

ディーアンドエムホールディングスの中川圭史取締役