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ヤマハ、「他を寄せつけない」最上位セパレートAVアンプ。AIが最適な音場再生

 ヤマハは、フラッグシップのセパレートAVアンプを刷新。AVENTAGEシリーズの11.2ch AVプリアンプ「CX-A5200」を10月下旬、11chパワーアンプ「MX-A5200」を12月中旬に発売する。価格は「CX-A5200」が30万円、「MX-A5200」が32万円。カラーはチタンとブラックを用意する。

11.2ch AVプリアンプ「CX-A5200」。チタンモデル

 2015年に発売したAVプリ「CX-A5100」は、Dolby AtmosやDTS:XのオブジェクトオーディオとシネマDSPの掛け合わせに初めて対応、さらに、独自のYPAOの処理を64bit演算で行なう「YPAO High Precision EQ」を搭載するなど、革新的な機能と音質が話題となった。その音質をさらに高めつつ、AIが音場を最適にしてくれる「SURROUND:AI」も搭載したのが新モデル「CX-A5200」となる。

 11chパワーアンプの前モデル「MX-A5000」は2013年発売。2015年のタイミングで新モデルは発売されなかったが、今回、CX-A5100との組み合わせを想定したパワーアンプとして音質を大幅に向上させた「MX-A5200」として登場した。

11chパワーアンプ「MX-A5200」。チタンモデル

 セパレートAVアンプとして、「深化:本質に向き合い、究極を追求」、「新化:革新的技術への挑戦」、「進化:他を寄せつけない、卓越したステージへ」をテーマとして開発された。

左下が11chパワーアンプ「MX-A5200」、右上が11.2ch AVプリアンプ「CX-A5200」

「SURROUND:AI」搭載のAVプリアンプ「CX-A5200」

 前モデルA5100からの進化点として、DACを変更。前モデルはESS製「SABRE32 Ultra DAC ES9016S」を2基搭載していたが、A5200ではES9026PRO×2基構成となった。入力部とDACの電位差を解消する独自の「D.O.P.G.」(DAC on Pure Ground)コンセプトで潜在能力を引き出している。2次3次高調波のレジスタ設定により、ノイズレベルは8dB改善した。

ES9026PRO×2基構成

 オーディオ回路、デジタル回路、アナログ映像回路、FLディスプレイ回路のそれぞれに専用電源を割り当て、全動作モードでのSN比を大幅に向上させた4回路分離パワーサプライを採用。オーディオ用のメイントランスは、A5100から2倍に大容量化。さらにトランスの下に、3mm厚の真鍮板を配置して固定している。

「CX-A5200」の内部
メイントランスをA5100から2倍に大容量化
トランスの下に、3mm厚の真鍮板を配置して固定している

 H型クロスフレームとダブルボトム構造で剛性を高めているほか、4つのインシュレータに加えて底部の中央付近に“5番目の脚”も備えている。新モデルではさらに、本体底面のボトムカバーを0.8mm厚くし、1.6mmとした。剛性が高まると共に、これにより重量も1kg増加。ローエンドの音の再現性が向上したという。なお、これにより本体の高さも1mmアップしている。両サイドには、デザイン性を高め、筐体全体の制振にも貢献する肉厚のアルミサイドパネルを装着した。

 部屋固有の初期反射音を積極的に制御し、最適化する「YPAO-R.S.C.」と、その計測結果に基づいて再生時の周波数特性が音量に応じて聴感上フラットになるようにコントロールする「YPAO Volume」も搭載。設置した各スピーカーの距離と方角、プレゼンススピーカーの高さを自動計測することで音場空間を立体的に補正する「YPAO 3D測定」も装備し、Dolby AtmosやDTS:X、シネマDSP HD3再生における3次元立体音場の再現性を高めている。

 このYPAOの処理を64bit演算で行なう「YPAO High Precision EQ」を引き続き搭載。高精度な演算により、演算誤差を低減でき、DACの直前で32bitに戻して処理を行なっている。ノイズの低減やSN比向上に効果がある。

 ネットワーク音楽再生用のモジュールも最新のものを採用。無線LANは2.4GHzと5GHzのデュアルバンド対応で、大容量のデータを安定して伝送できる。PCMは384kHz/32bit、DSDは11.2MHzまでの再生に対応する。なお、32bit floatは非対応。ネットワーク機能「MusicCast Surround」に対応したワイヤレススピーカーを、ワイヤレスリア、ワイヤレスサブウーファとして使うこともできる。

 音場再現機能のトピックは、「SURROUND:AI」を搭載した事。人工知能を使ってリアルタイムに映画のサウンドを解析。そのシーンに適切な音場を、シームレスに変化させながら提供する機能。

「SURROUND:AI」を搭載

 ダイアログ、BGM、効果音、低域などのバランスをAIがチェック。これまでヤマハが蓄積してきた、「そのシーンで、どのような音場が最適か」というデータベースと照合しながら、最適なプログラムを適用していく。0.2秒ごとに判断し、適用するプログラムを変えていく。適用するプログラムはあらかじめ幾つか用意されたものから選ばれている。

 なお、従来のプログラムも「SURROUND:AI」をOFFにすれば選べる。Dolby Atmos、DTS:X再生時も、SURROUND:AIが利用可能。

 SURROUND:AIはONにしたままで、存在を意識せずに使えるものだが、メニューからSURROUND:AIの動作アイコンを表示することも可能。円形のアイコンで、適用された音場を光で表示。セリフの明瞭度とセンター定位を軸に、立体的な音場を適用している時は、円の前方(上部)が青く光り、広い空間とダイナミックレンジ、壮大なスケール感を出す際は、円の全周が光る。

SURROUND:AIの動作アイコン

 Dolby Atmos、DTS:Xに対応。個々の音を、頭上を含めた室内のどの位置にも定位、移動させられ、3次元的な音響空間を自在に創り上げられる。

 プレゼンススピーカーはフロントスピーカー上方壁に設置する「フロントハイト」、天井に設置する「オーバーヘッド」、「ドルビーイネーブルドスピーカー」の3パターンから選択可能。11chパワーアンプと組み合わせる事で、5.1.2ch、5.1.4ch、7.1.2ch、7.1.4chのスピーカー構成に対応できる。

 また、仮想のプレゼンススピーカーを空間上に生成することで、プレゼンススピーカーを設置しなくてもシネマDSP HD3再生が楽しめるバーチャル・プレゼンススピーカー機能と、バーチャル・リアプレゼンススピーカー機能も備えている。

 HDMI端子は7入力、3出力。いずれもHDCP 2.2に対応。4K/60p/4:4:4映像をパススルーできる。HDRはDolby VisionとHDR10、ハイブリッドログガンマ(HLG)にも対応。今後のファームウェアアップデートにて、eARCにも対応予定。

 HDMI以外の端子は、アナログ音声入力は11系統(Phono入力含む)で、RCAアンバランスが9系統、XLRバランスが1系統。8chのマルチチャンネル入力も備えている。光デジタル×3、同軸デジタル×3も搭載。

 11.2chのプリアウトには、RCAアンバランス出力に加え、XLRバランス音声出力端子も装備する。

 映像入力はコンポジット×4、コンポーネント×2。ヘッドフォン出力、サブウーファ出力×2も搭載。ゾーンアウトも備えている。

 消費電力は65W。外形寸法と重量は、435×474×193mm(幅×奥行き×高さ)、15.2kg。

背面

11chパワーアンプ「MX-A5200」

 11chのXLRバランス入力を備えた11chパワーアンプ。定格出力230W×11ch(6Ω)、最大出力280W×11ch(6Ω)の、全チャンネル同一パワーを実現しているのが特徴。音質を優先した電流帰還型回路を全チャンネルに採用。電圧帰還型と比べてノイズが少ない。三段ダーリントン回路も採用し、電流供給を大きく確保している。

左から「CX-A5200」、「MX-A5200」のブラックモデル

 A5000からの進化点として、グランドのセンシングを徹底。音声信号のコールド側と筐体グラウンドとを入力基板の段階で完全分離しており、CX-A5200とのアンバランス接続におけるノイズレベルをさらに改善した。基板上のラインの引き回しをやりなおす必要があったが、セパレーションやSN比が向上するなど、音に良い影響があったという。

信号用グランドの伝送を、共通グランドから分離

 さらにフロント2chにおいて、ブリッジ接続に対応。よりリッチにドライブできる。ブリッジ2ch+SE 3ch、ブリッジ2ch+ SE 5ch、ブリッジ2ch +SE 7chといった構成が可能。11の入力系統を隣接する5グループに分け、各端子脇のセレクタースイッチを使ってグループ内の他の入力系統に信号を分配できる。使用しないチャンネルのパワーアンプをサブルーム用に割り当てて寝室やキッチンに置いたスピーカーを駆動することも可能。

 電源グランドの内部の配線もより太いものに変更。30~50%の低インピーダンス化を実現、大電流を瞬時かつスムーズに流せるようになり、ドライブ力やレスポンスの改善に大きな効果があるという。

内部の配線もより太いものに

 筐体には厚さ1.6mmの鋼板を使ったサブシャーシと、H型メインフレーム、外周部を巡るアウターフレームの3要素を強固に結合、機械的強度が得られるH型リジッドフレーム構造を採用した。

内部

 底面のボトムカバーは、新たに2mm厚鋼板を採用。A5000と比べ、厚みは倍増、重量も1kg重いものになっている。筐体には4つのインシュレータに加え、5番目の脚も搭載する。なお、インシュレーターは底面だけに取り付けられているのではなく、底面を貫通。内部のフレームも含めて、より強固に固定されている。

底面にはファンがあるが、負荷が大きく上昇し、内部をより冷却する必要が生じるまでは回転しない。また、ファン用の電源を個別に用意しているため、回った場合でも音質の低下は無いという

 電源部には、専用設計の大型トロイダルトランスと、27,000μF×2の大容量ブロックケミコンを搭載した。

 入力端子は、RCAアンバランス×11、XLRバランス×11。トリガー端子の入出力や、スルーアウトも備えている。消費電力は650W、待機時消費電力は0.1W。外形寸法は435×463.5×211mm(幅×奥行き×高さ)。重量は26.4kg。

「MX-A5200」の背面

体験視聴会も実施

 CX-A5200、MX-A5200の発売に先駆け、9月29日に東京で、10月6日に名古屋で、10月13日に大阪で、両新製品の先行視聴会が開催される。会場などの詳細や、応募の方法は専用ページを参照のこと。

音を聴いてみる

 従来モデルの組み合わせであるAVプリ「CX-A5100」+11chパワー「MX-A5000」と、新モデル「CX-A5200」+「MX-A5200」の組み合わせで聴き比べた。

従来モデルの組み合わせであるAVプリ「CX-A5100」+11chパワー「MX-A5000」

 シーネ・エイの楽曲がスピーカーから流れ出た瞬間、音が大きく進化したのがわかる。最もインパクトがあるのが低域だ。沈み込みの深さがより深く、重くなっており、張り出すパワーも増している。単に低い音というだけでなく、低音の中に芯があり、ゴリゴリッとした骨太なサウンドだ。

 次に驚くのがSN比の良さ。サウンドステージの広さや、その静寂さも大幅にアップ。無音の空間から、瞬時に立ち上がる中高域が鮮烈で、重厚な低音の存在感に負けていない。コントラストが深くなったため、音像の立体感も増している。

 「9 ナイン 9番目の奇妙な人形」で、猫型ビーストに襲われるシーンも、サウンドが大幅にグレードアップ。閑散とした都市の廃墟の冷たさと、硬質な響きが連続するシーンだが、従来モデルでも、トランジェントが良く、音圧豊かな低域が、肺を圧迫するようなパワーで吹き付けてきて心地が良い。

 しかし、新モデルに切り替えると、この低域が格段に重くなり、吹き付けるどころか本当に腹をパンチで殴られているよな「ズズン」、「ズドン」という次元の違う迫力になる。同時に、切り裂くほどの鋭さも兼ね備えているため、「音がスゴイ」を通り越して「音が怖い」とすら感じる。

 「グレイテスト・ショーマン」冒頭の歌と踊りも、ステップを踏む低音が、地鳴りのように響いてくる。「ハンス・ジマー:Zimmer: Live in Prague」のライブBDも、ドラムやピアノの低域の鮮烈さ、空間の広さ、高さがまったく違う。コンサートホールがより広くなったように感じるのに、伝わるサウンドの熱気は増えている。

 セパレートAVアンプには、強力な低音再生能力やSN比の良さが求められるが、「CX-A5200」+「MX-A5200」は、その期待に非常に高いクオリティで応える組み合わせと言えるだろう。

「CX-A5200」+「MX-A5200」