ニュース
ヤマハ、AIが音場を最適にしてくれる「SURROUND:AI」搭載の次世代AVアンプ
2018年6月13日 13:00
ヤマハは、AIがリアルタイムに映画のシーンに適切な音場を提供してくれる新機能「SURROUND:AI」を搭載したAVアンプ3機種を8月下旬に発売する。価格は、7.1chの「RX-A1080」が14万円、9.2chの「RX-A2080」が20万円、11.2chプリアウト対応の9.2ch「RX-A3080」が28万円。カラーはA2080がチタンのみ。その他の2機種はチタンとブラックを用意する。
AIが適切な音場を提供する「SURROUND:AI」
ヤマハは1986年に、世界初の音場創生技術を搭載した「DSP-1」を発売、1990年にはSURROUNDデコーダと複数音場処理による「CINE-DSP」を開発、これが後のCINEMA-DSPとなり、現在までヤマハAVアンプを代表する機能になっている。
歴史的なホールや、コンテンツにマッチしたものなど、様々な音場プログラムを用意。それをユーザーが選んで楽しめるのが特徴だが、映画によってどのプログラムが最適なのかわからなかったり、1つの映画でもシーンによって適切なプログラムが違うといった難点があった。
「SURROUND:AI」は、人工知能を使ってリアルタイムに映画のサウンドを解析。そのシーンに適切な音場を、シームレスに変化させながら提供するというもの。つまり、プログラムをユーザーが選ぶのではなく、「SURROUND:AI」をONにしておくだけで、ヤマハが考える最適な音場が常時適用された状態で映画が楽しめるものとなっている。
処理としては、ダイアログ、BGM、効果音、低域などのバランスをAIがチェック。これまでヤマハが蓄積してきた、「そのシーンで、どのような音場が最適か」というデータベースと照合しながら、最適なプログラムを適用していくもの。0.2秒ごとに判断し、適用するプログラムを変えていく。
その際に適用するプログラムは、常時作り出すものではなく、あらかじめ幾つか用意されたものから選ばれている。このプログラムは、従来のシネマDSPプログラムと同じではなく、新たに開発されたものとなる。従来のプログラムも、「SURROUND:AI」をOFFにすれば選べる。なお、この「SURROUND:AI」は映画の視聴を想定して作られている。SURROUND:AIとDolby Atmos、DTS:Xとの掛け合わせ再生も可能。
SURROUND:AIはONにしたままで、存在を意識せずに使えるものだが、メニューからSURROUND:AIの動作アイコンを表示することも可能。円形のアイコンで、適用された音場を光で表示。セリフの明瞭度とセンター定位を軸に、立体的な音場を適用している時は、円の前方(上部)が青く光り、広い空間とダイナミックレンジ、壮大なスケール感を出す際は、円の全周が光る。また、フロントパネルの左には「SURROUND:AI」の光るマークも搭載している。
なお、音場をめまぐるしく変化させると、聴いているユーザーに違和感を与えてしまうため、音場を切り替える時は前の音場プログラムを低減しつつ、新しいプログラムを強くしていき、クロスフェードするように切り替えている。
また、SURROUND:AI自体のパラメーターは開放しておらず、その効果量をユーザーがカスタマイズする事はできない。
「SURROUND:AI」を体験してみる
解析マークを表示させながら、RX-A3080を使い、「ブレードランナー2049」のUHD BDを視聴。冒頭、重厚な低音があふれるように出てくるBGMから映画はスタートするが、SURROUND:AIすぐにそれを検知。円形マークの全周が光り、広い空間とダイナミックレンジ、壮大なスケール感を出すプログラムを適用したのがわかる。
冒頭、Kはロサンゼルス郊外の合成農場を訪れるシーン。スピナーが着陸し、風の音が充満する屋外から、室内へとサラウンドは大きく切り替わる。するとSURROUND:AIもすぐに追従。静かな室内の中央にあるキッチンからのみ、音がしているシーンでは、円形マークの前方部分が光り、センターの定位を軸に立体的な音場を構築しているのがわかる。
人が喋るとその都度適用される音場プログラムが変わっていくのがわかる。ただ、前述のように、音場プログラムの変化の境目は目立たないように処理されているため、聴いていて「あ、今プログラムが変わったな」というのはまったくわからない。極めて自然な感覚で視聴できた。
DACやネットワークモジュールを刷新
搭載DACも新しいものになった。いずれもESS製のSABRE Premier 384kHz/32bit対応8ch DAC「ES9007S」で、A1080はこのDACを1基、A2080は2基、A3080は「ES9026PRO」+「ES9007S」で構成する。
ネットワーク音楽再生用のモジュールも刷新。無線LANが、2.4GHzと5GHzのデュアルバンド対応になり、より大容量のデータを安定して伝送できるようになった。PCMは384kHz/32bit、DSDは11.2MHzまでの再生に対応する。A3080は、PCM 384kHz/32bitまでネイティブ再生可能だが、それ以外のモデルはダウンコンバート再生となる。また、32bit floatは非対応。
HDMI端子はいずれのモデルも、4K/60p、HDR、BT.2020、HDCP 2.2に対応。HDRはDolby Visionとハイブリッドログガンマ(HLG)にも対応。今後のファームウェアアップデートにて、eARCにも対応予定。端子数は、7入力、3出力を搭載。
オブジェクトオーディオフォーマットのDolby Atmos、DTS:Xに対応。個々の音を、頭上を含めた室内のどの位置にも定位、移動させられ、3次元的な音響空間を自在に創り上げられる。「RX-A3080」は5.2.2ch、5.2.4ch、7.2.2chに加え、11.2chプリアウトも備えているため、外部パワーアンプ2chと組み合わせる事で7.2.4ch構成にも対応可能。
プレゼンススピーカーの設置位置は、フロントスピーカー上方壁に設置する「フロントハイト」、天井に設置する「オーバーヘッド」、「ドルビーイネーブルドスピーカー」の3パターンから選択できる。
付属マイクを使い、部屋固有の初期反射音を測定。最適化する「YPAO-R.S.C.」と、その計測結果に基づいて再生時の周波数特性が音量に応じて聴感上フラットになるようにコントロールする「YPAO Volume」にも対応。A2080とA3080は、設置した各スピーカーの距離と方角、プレゼンススピーカーの高さを自動計測することで音場空間を立体的に補正する「YPAO 3D測定」にも対応。水平角度測定をサポートしている。
さらに全モデルで、64bit処理を実施。A3080は「64bit ハイプレシジョン EQ」、A2080/A1080には「64bit プレシジョン EQ」を採用。いずれも、AVプリアンプのフラッグシップ「CX-A5100」で採用した技術と同じ系統で、高精度な演算を行なう事で、演算誤差を低減する。
A3080はさらに、ロームと共同開発した高精度電子ボリューム、ルビコンとコラボして専用に音質調整されたオリジナル PML(薄膜高分子積層)コンデンサなども投入。さらなる高音質化を図っている。
全モデル、音場プログラム「シネマDSP HD3」を、Dolby Atmos/DTS:Xと掛けあわせて利用できる。「シネマDSP HD3」の音場プログラムは、「Enhanced」などを含む計24種類。
仮想のプレゼンススピーカーを空間上に生成することで、プレゼンススピーカーを設置しなくてもシネマDSP HD3再生ができるバーチャル・プレゼンススピーカー機能と、バーチャル・リアプレゼンススピーカー機能も装備。2つのバーチャル使用で仮想11.2ch再生ができる。ただし、Atmos、DTS:X信号はバーチャル再生されない。
radiko.jpにも対応しており、radikoプレミアムのエリアフリー聴取もサポート。SpotifyのSpotify Connect、Deezer HiFiにも対応している。BluetoothやAirPlayにも対応する。
MusicCast機能を使い、NASなどに保存されている音楽ファイルを、ネットワーク経由で再生する事も可能。MusicCast対応機器と連携し、AVアンプから、別の部屋のMusicCast対応機器へと音楽を伝送したり、アプリから各部屋で再生する音楽を制御する事もできる。
MusicCastを便利にする機能として、AVアンプの電源をONにすると、リンクしたMusicCast対応機器の電源も自動的にONになるトリガー再生機能を搭載する。
本体前面に搭載した「SCENE」ボタンに、コンテンツ登録が可能。入力が「NET」、「USB」、「Bluetooth」、「チューナ」の時に、選択しているラジオ局やコンテンツが登録可能。音場プログラム、ミュージックエンハンサー機能のON/OFF、出力先のHDMI端子などもセットで割り当てられる。
ユーザーインターフェイスも変更
リモコンが新型になり、「?」ボタンを用意。わからない機能があった際に、ボタンを押すと、説明が表示される。GUIも変更。設定項目の画面で、各項目ごとに説明が表示され、使いやすさ・わかりやすさがアップしている。
YPAOの測定結果の確認でも、GUIは進化。各スピーカーが、どの周波数ポイントで、どのくらいゲイン調整されたかなどの情報を、グラフィカルに確認できる。
音楽ファイルを保存したサーバーにアクセスすると、最後に再生したコンテンツを自動的に再生する機能を備えているが、同機能のON/OFFが可能になり、「電源をスタンバイにした時に再生中だった場合のみ、そのコンテンツを自動再生する」という「自動」も選択できる。
シネマDSPのプログラムも、順番にプログラムを選択していく操作時に、特定のプログラムをスキップする設定を追加。頻繁に使うプログラム以外をスキップして、プログラムを選択しやすくできる。
A3080のみの特徴として、DACに搭載されているウルトラロージッターPLLと、DACフィルタの設定をユーザーが選択可能。より好みのサウンドを選ぶ事ができる。
また、付属のリモコンは3機種とも、自照式のリモコンを採用する。
筐体には制振・高剛性なシャーシを採用。左右対称コンストラクション構造になっているほか、リジッドボトムフレーム、H型クロスフレームも採用。A3080には、底板を二重にしたダブルボトム構造と鋳鉄製レッグも追加。A1080とA2080の脚部には、アンチレゾナンスレッグを採用。直線と曲線状の補強を組み合わせ、強度と制振性を高めている。
パワーアンプの最大出力は、A1080が170W×7ch(6Ω)、A2080が220W×9ch(6Ω)、A3080が230W×9ch(6Ω)。高速熱帰還トランジスタと大容量制振ヒートシンクを採用した左右独立構成のディスクリート構成。「D.O.P.G.コンセプト」などの基本構成は3機種共通。パワーサプライ部は、オーディオ回路用、デジタル回路用、アナログ映像回路用、FLディスプレイ回路用を独立させ、ステージ間の相互干渉を防ぐ4回路分離型。
アナログ音声入力はRCA×9系統(Phono入力含む)。光デジタル×3、同軸デジタル×3も搭載。さらにA3080は、XLRバランス入力(2ch)も装備する。
映像入力はHDMI×7、コンポジット×4、コンポーネント×2。ヘッドフォン出力、サブウーファ出力×2も搭載。A3080は11.2chのプリアウト、A2080/1080は7.2chプリアウトも備える。
AM/FMラジオも搭載。FMワイド放送にも対応する。消費電力はA3080/2080が490W(待機時最小0.1W)、A1080は400W(待機時最小0.1W)。外形寸法と重量は、A3080/2080が435×474×192mm(幅×奥行き×高さ)で、A3080が19.6kg、A2080が17kg。A1080は435×439×182mm(同)で14.9kg。
音を聴き比べてみる
A1080と、前モデルA1070を2chで比較すると、SN比が大きく向上。透明感のあるサウンドで、音場の広がりがよくわかる。低域の分解能も高く、全体として繊細な描写で、細かな音の表情がよくわかるAVアンプに進化している。
A2080に変更すると、A1080と比べ、低域の厚みがアップ。音場もより広くなる。繊細さ、クリアさにも磨きをかけながら、パワフルさも両立。全体のバランスが非常に良く、完成度の高いサウンドだ。パワフルさが増した低域も、分解能の高さは維持されており、「エド・シーラン/シェイプ・オブ・ユー」のコーラスが重なり、ダイナミックに押し寄せてきても、1つ1つの声の描写はシャープで、透明度の高い湖を連想させる。
A3080に切り替えると、A2080のバランスがとれた再生音を踏まえつつ、より低域がドッシリと沈み込み、上位モデルらしい余裕が感じられる。音場はもう一回り広くなるが、そこに漂う空気感、密度感は維持されており、スカスカした描写にはならない。