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ソニー最新映像制作機器公開。歪まない4Kカメラ、緑布不要でクロマキー
2019年6月13日 16:03
ソニーは、4K/8Kカメラなどの映像制作機器や、新規ソリューションなどを展示する内見会を、放送局や映像制作などの関係者に向けて開催。自社開発のグローバルシャッター機能付き3板式センサーを搭載した4Kカメラ「HDC-5500」や、AI技術を活用し、グリーンバックを使わずにリアルタイムに人間などを切り抜いて別の背景と組み合わせられるシステムなどを展示した。
4K画質で歪みのない高速撮影が可能
5月から発売している4Kカメラ「HDC-5500」の特徴は、グローバルシャッター機能付き2/3型3板式4Kイメージセンサーを搭載した事。駅のホームを通過する電車などを撮影しても、車体が斜めにならず、歪みのない高速撮影を実現。カメラコントロールユニット(CCU)「HDCU-5500」と組み合わせ、2系統の4K信号を双方向で同時に送受信できるUHB伝送も可能。
ベースバンドプロセッサーユニット(BPU)を介さずに、従来のHDカメラシステム同様、カメラヘッドからCCUまで光ファイバーケーブル1本で接続でき、省スペース運用も可能。さらに「HDCU-5500」にSMPTE ST 2110インターフェイスキット「HKCU-SFP50」を搭載することで、IP Liveプロダクションシステムにも対応できる。
会場では、別のカメラで撮影した映像をHDC-5500から1本の光ファイバーケーブルで伝送するデモも行なっている。
映画制作用CineAltaカメラ「VENICE」も展示。6月実施のアップデートにより、印象的なスローモーション映像を実現するハイフレームレート撮影(6K 3:2 60fps、4K 2.39:1 120fps、4K 17:9 110fps、4K 4:3 75fpsなど)に対応。リモートコントロールユニット「RM-B750 」(生産完了)や「RM-B170」、リモートコントロールパネル「RCP-1501」による遠隔操作にも対応する。
高音質のワイヤレス伝送を実現するデジタルオーディオインターフェイス対応のデジタルワイヤレスマイクロホンの新シリーズ「UWP-D21」、「UWP-D22」、「UWP-D26」なども展示。
SxSメモリーカードの新シリーズは「SxS PRO X」と名付けられており、「SBP-240F」(240GB)、「SBP-120F」(120GB)では、最大読出し速度10Gbps(1,250MB/s)を実現。Thunderbolt3インターフェイスに対応したSxSメモリーカードリーダーライター「SBAC-T40」を使うと、ソニー製カムコーダーで記録した240GBの映像データを、約3分半でパソコンに転送可能。従来機種と比較して、コピー時間を約1/3に短縮できる。2019年秋に発売予定。
AI活用も活発化。クロマキー不要で人物を切り出し、黒板を先生の前に重ねる
HDMI入出力を備えた小さな黒い箱は「Edge Analytics Appliance」と名付けられた「REA-C1000」という製品。カメラで撮影した映像を入力すると、AIを活用し、その映像をリアルタイムに解析。特定の被写体を抜き出したり、他の映像と組み合わせたりできる。
例えば、通常のクロマキー合成では緑の布などを背景にして撮影する必要があるが、REA-C1000に、クロマキーレスCGオーバーレイアプリ「REA-L0400」を組み合わせると、人間の体や、人間が手にして動かしている布も含めて被写体として認識。グリーンバック映像でなくても、その部分を抜き出し、南の島の映像など、別の背景と組み合わせられる。
独自の動体・非動体検知技術を用いて、ホワイトボードや黒板に書かれた文字や図形をリアルタイムに判別・抽出し、登壇者の前面に浮き上がらせることができるアプリケーションも用意。通常は、先生が黒板に書き込んでいると先生の体と重なった部分は見えないが、このシステムとアプリで処理すると、先生の背中に文字を重ねる映像がリアルタイムで作れる。
グリーンバックなどの大掛かりな装置を使わずにこうした映像が実現できるため、塾で授業内容の配信映像や、ネット配信ニュース番組でアナウンサーが話すバーチャルスタジオといった利用にも使えるという。
リモートカメラ自動追尾アプリ「REA-L0200」も販売。ユニットに接続されたソニー製リモートカメラが、登壇者を自動的に追尾・撮影できるもので、被写体の動きに合わせ、リモートカメラを自動で旋回させるため、カメラを操作するオペレーターがいなくても、最適な構図で撮影し続けられるという。
AIを活用した新たなサービスとして参考出品されたのは、自動検出サービス。スポーツのスコアボードなどを撮影し、監視領域を指定する事で、ボードの文字の変化を自動で検出。スコアをメモする人の代わりに、システムが得点が入った事などを認識できるようにする。事前に特別な学習をしなくても、検出対象を自動的に分類できるという。
スコアだけでなく、例えば球場の壁に掲載した広告が、テレビ放送でどれだけの時間写し出されたか、といった検出にも活用できるという。
スイッチャー要らずの「Virtual Production」
欧米で展開している、クラウドを活用したソフトウェアベースのメディア業界向け映像制作・管理ソリューションも多数展示。具体的には報道制作向けクラウドサービス「XDCAM air」、簡易中継ソリューション「Virtual Production」、ネットワーク制作システム「Media Backbone Hive」コンテンツマネージメントシステム「Media Backbone NavigatorX」など。
この中の「Virtual Production」は、スイッチャーなどの機能を全てクラウド上で実現するもの。現地で映像を撮影するカメラに、Wi-Fiモジュールを取り付けたり、スマホのカメラで撮影した映像などを、クラウド上にインターネットを介して伝送。
Virtual Productionの担当者は、PCのWebブラウザで専用ページにアクセスすると、それらの映像が一覧で確認でき、そのままブラウザをスイッチャーとして使い、ネット配信番組に流す映像を切り替えたり、ロゴの挿入などを行なう。
物理的なスイッチャーなどの機器が不要なため、省スペースで番組の配信ができるほか、Virtual Productionを操作する人は、カメラのある現地に行かなくても操作ができるため、人員削減や働き方改革への対応などにも活用できるとする。
欧州では既に月額のサブスクリプションサービスとして展開しているが、日本での展開も検討。どのようなプランを用意するかなど、イベントへの出展を通じて意見を聞いているという。
AIアナウンサーやCrystal LEDも
高知さんさんテレビにおいて、ニュースやゴールデンタイムの番組中で放送される「イベントガイド」で採用され、5月26日から放送がスタートしているAIアナウンサー「荒木ゆい」も紹介。
Specteeが開発した音声読み上げサービスで、文章を音声で読み上げる「Text to Speech」技術にディープラーニングを取り入れることで、より人間に近い滑らかな発音での音声読み上げを実現。読み上げたい内容をパソコンでテキスト入力するだけで音声データが生成されるため、特別な機材やスキルなしで、音声読み上げサービスを活用できるのも特徴。
今年の初夏から提供開始予定なのは、「スマート情報カメラ」サービス。沿岸部や河川、火山、高速道路などが見える場所に設置し、災害や渋滞の情報を確認する、いわゆる「情報カメラ」の設置を、保守・運用までを含めたトータルソリューションとして提案するもの。
大きな特徴は、携帯電話の基地局にカメラを設置するという点。基地局であるため、撮影したデータを伝送するためのネットワークや、電源などが利用できるのが特徴。具体的には、ソフトバンクが保有する基地局の中から、ユーザーの要望に沿ったロケーションにカメラを設置し、その映像をユーザーへ届ける。
カメラからの映像や、Webブラウザで確認が可能。旋回型で遠隔操作が可能な1080/30pカメラの場合、初期費用は66万円、月額利用料は14.5万円(1台)。複数ユーザーによる共有カメラの場合は、720/30pで初期費用10万円、月額5.5万円(1台)。
会場にはCrystal LEDディスプレイシステムも設置。独自開発の極めて微細なLEDを使い、100万:1以上の高コントラスト比を実現。ユニット構成型で、サイズの拡張も可能。HDR表示にも対応している。
独自の画素駆動回路により高速動画応答性能に優れ、最大120fpsでの映像表示も可能。現在、資生堂の新研究所(神奈川県横浜市)やNTTドコモ本社のショールーム(千代田区)などで採用が広がっている。