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'19年、IMAXがフルサイズで家庭に来る!?「IMAX Enhanced」詳細を聞いた
2018年12月19日 07:30
DTSとIMAXが今年9月に発表した「IMAX Enhanced」が、2019年より本格運用される。パートナー企業らは、IMAX Enhancedの認証機器を発売すると共に、配信・パッケージ(4K Ultra HD Blu-ray)の両方を順次リリース、'19年内に20~30タイトルをラインナップする予定だ。配信は、北米地域で'19年第1四半期、欧州・アジア地域では'19年第2四半期の開始を目指す。具体的な配信サービス企業などは、年明けに米国ラスベガスで開催されるCES 2019で発表を予定する。
DTSの親会社・XPERI('17年2月にTESSERAホールディングスから社名変更)で、Chief Products & Services Officerを務めるGeir Skaaden氏が来日。同氏とDTS Japanのジェネラル・マネージャー山本千里氏、そしてシニア・セールス・ディレクターの塚田信義氏に「IMAX Enhanced」について話を聞いた。
IMAX Enhancedの基本コンセプトは「IMAXマスターを家庭へ」
既報の通り、「IMAX Enhanced(エンハンスド)」は、独自の映画規格を持ち、通常の劇場とは異なる体験を提供してきた「IMAX」と、様々な音声技術を持つ「DTS」が手を結び、家庭に“IMAX映画”を届けるべく用意された家庭用の新規格だ。
DTSとIMAXは、数年前からパートナーシップを結んでおり「クオリティを損なうこと無く、IMAX映画を如何に家庭でも体感できるようにするか?」を試行錯誤してきたという。
現在IMAX Enhancedのパートナー企業には、IMAXとDTSに加えて、機器メーカー4社(ソニー・デノン・マランツ・ARCAM)、ハリウッドスタジオ2社(ソニーピクチャーズ・パラマウント)、そして機器の認証を行なう企業2社(ALLION・BluFocus)が参加している。
なお北米では、ソニーがIMAX Enhanced認証の4Kテレビ・4Kプロジェクター・AVアンプなどを発売済み。12月中旬には、IMAX EnhancedのUHD BDも発売された。日本国内では、デノンとマランツのAVアンプがアップデートによるIMAX Enhanced対応を発表している。
IMAX Enhancedの仕組みはシンプルだ。IMAX Enhancedコンテンツと、IMAX Enhanced認証機器を組み合わせた後、認証機器に搭載されている「IMAXモード」を選択する(自動で切り替えも可能)ことで、「“IMAXクオリティ”が家庭でも楽しめ、より没入感のある体験が可能になる」。
IMAX Enhancedコンテンツには、IMAX上映用に用意された「IMAXマスター」が使われる。Geir氏は「IMAXマスターを使うからこそ、ワイドな“IMAX画角”のまま、明るくクリアで、豊潤な色と迫力のサウンドを家庭に届けることができる」とその魅力を話す。
IMAXマスターは、巨大なスクリーンへの投射を前提に、彩度やコントラスト、明るさ、と言った映像面に加えて、低音など音声面でも独自のチューニングが行われており(チューニングの詳細は非公開)、通常IMAX上映以外では外に出ることがない“門外不出”のものとされてきた。IMAX Enhancedコンテンツには、このマスターが使われるという。
収録・配信されるIMAX Enhancedコンテンツは、4K/HDR映像とDTS音声の組み合わせとなる。信号そのものは、機器がIMAX Enhancedコンテンツと認識するためのフラグがあるだけで、従来と異なる特別な信号形式で収録されているわけではない。
HDR方式は、スタティックメタデータのHDR10。ディスプレイ性能やシーンで変動するダイナミックメタデータ方式のHDRは使わない。初のIMAX Enhanced市販タイトル・UHD BD「A Beautiful Planet」「Journey to the South Pacific」には、HDR10+方式も収録されているが、HDR10+再生時はIMAX Enhancedにはならない。「ソフトにHDRフォーマットを平行して収録するかはスタジオの判断によるもの。IMAX Enhancedタイトル=HDR10+と言うわけではない」と説明する。
DTS音声は、UHD BD/BDにも使われているオブジェクトオーディオ技術「DTS:X」を採用する。DTS:Xそのものの技術に変更は無いが、IMAX劇場の音に近づけるために、機器で「IMAXモード」を選ぶと低音がより強調されるチューニングになっているという。
Geir氏は「これまでIMAXマスターが劇場外に出ることは無かった。IMAXクオリティが家庭で体験できることこそ、IMAX Enhancedならではの大きな魅力。IMAX上映作品はこれまで300~350タイトルに上るが、その中には多くのヒット作品が含まれている。こうしたタイトルが1つでも多く提供できるよう、パートナー企業を含めアプローチしている」と話す。
IMAX Enhanced認証のディスプレイサイズは65型以上
“IMAXクオリティ”を家庭に届けるべく、IMAX Enhancedには機器認証プログラムが用意されている。映像は「テレビ」と「プロジェクター」、音声は「AVアンプ」と「サウンドバー」で、合計4ジャンルに及ぶ。信号を出力するプレーヤーには、認証プログラムは無い。
機器認定の条件は「定められた水準以上の性能を持ち、IMAXモードを設けること」。
テレビは4K/HDR対応の65インチ以上のサイズ、そしてプロジェクターは4K/HDR対応のレーザー光源に加えて、それぞれピーク輝度や色域、階調、フレームなどの細かい仕様をクリアする必要がある。AVアンプとサウンドバーは、DTS:Xのデコード性能を備えた上で、一定水準以上の音質を再現できなければならない。「製品にもよるが、AVアンプに関してはアップデートで対応可能」という。
4ジャンルに設けた認定条件は、DTSとIMAXが協議し決めたものだという。認定作業そのものは、DTSと前述した機器認証企業が共同で行なう。IMAXモード時の画質・音質もチェックした上で認証の可否を判断する。
IMAX Enhancedのフラグを認識すると、自動でIMAXモードに切り変わるが、手動によるON/OFFも可能。
より詳細な仕様条件は「非公開」とのことだったが、UHDアライアンスの認証プログラム「Ultra HD Premium」のテレビ基準を引き合いに出すと「数字は同じでは無いが、似ている」と話す。
ただ「4Kテレビの場合、IMAX Enhanced認証が得られるものは、全4Kテレビの中でも15~20%程度だろう。IMAXマスターをそのまま家庭に届けることがIMAX Enhancedの目指したコンセプト。IMAXクオリティを家庭でも再現してもらうためには、基準を高く設定する必要があった。画と音のそれぞれで、高い認証プログラムをAV機器に用意することで、特殊な信号経路を使うこと無く、家庭でIMAX体験ができる」とIMAX Enhancedのメリットを話す。
IMAXのフルサイズが「IMAX Enhanced」で楽しめる!?
最後に「IMAXマスターをそのまま届けると言うのなら、1.9:1のIMAXデジタルシアター画角はもちろんだが、一部のIMAXフィルムで撮影された1.43:1の画角シーンも、IMAX Enhancedコンテンツとして提供されるのか?」と訪ねると、Geir氏は「YES」と答えた。
もしこれが本当に実現されるなら、そしてIMAX Enhancedのパートナーが今後拡大したら、IMAXフィルムカメラで撮影され、一部のIMAX劇場でのみ1.43:1の画角で観ることが出来た「ダークナイト・ライジング」や「ダンケルク」、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」などのIMAXタイトルを、上下の映像が切り落とされること無く、フル画角で楽しめることになる。AVファンはもちろん、わずか数十分しかない1.43:1のシーンを観るべく、豪シドニーのIMAXや、大阪のIMAXに足を運んだディープなIMAXファンにとっても、IMAX Enhancedは待望のものとなりそうだ。
Geir氏は「'19年に、配信とパッケージの両方で、20~30のIMAX Enhancedタイトルを用意する予定だ。CES2019では、より詳しいアナウンスがリリースできるだろう。認証機器の登場と合わせ、IMAX Enhancedを楽しみにしていてほしい」と語った。