ニュース

“マランツ史上最高の一体型AVアンプ”セパレートの要素を詰め込んだ「CINEMA 30」

CINEMA 30

マランツは、「マランツ史上最高の一体型AVアンプ」という11.4chアンプ「CINEMA 30」を3月中旬に発売する。価格は77万円。セパレートAVアンプ「AV 10」(110万円)、「AMP 10」(110万円)の設計思想を継承しながら、一体型筐体を実現している。プロセッシングは最大13.4chまで対応する。

「AV 10とAMP 10に相当するような性能を、一体型でも楽しんでいただけるものとして開発した。セパレートの要素を一体型に詰め込んでいる」という。なお、型番としてセパレートの「10」と「CINEMA 30」のあいだに「20」が入りそうに思えるが、「CINEMA 20の予定は無く、CINEMA 30が一体型の最高峰になる」という。

CINEMA 30
CINEMA 30

筐体は、インテリアとの調和も意識した新世代のマランツデザインを採用。筐体部分の大きな特徴として、Hi-Fiコンポのプレミアムモデルと同じように、銅メッキシャーシを採用した。これはAV 10やAMP 10、2chのHi-Fi上位機でよく使われているが、 シャーシを低インピーダンス化することにより、グラウンド電位を安定させ低ノイズ化する手法で「聴感上のSNの良さに繋がっている」(マランツサウンドマスター尾形好宣氏)という。

一体型にした場合、放熱効果を高める必要があるが、筐体の剛性も重要となる。相反する要素を両立するため、筐体には多くの場所にスリットを設けつつ、リブ形状を取り入れ、2層のベースプレートを追加した複合構造を採用。マランツAVアンプにおいて最大重量を持つトロイダルトランスを、強化した3層構造のシャーシで保持している。

また、基板やシャーシを固定するビスやワッシャーの種類を、使用する箇所に応じて変更してグラウンドインピーダンスを最適化。具体的には、キャビネットの固定に、新規設計の銅メッキビスを使うなど、積み重ねてきた様々なノウハウを用いて音質を高めている。

キャビネットの固定に、新規設計の銅メッキビスを使っている

プリ部分の特徴

プリ部分の特徴は、DACチップにAV 10と同じく電流出力型のDACを採用している事。「最高峰の性能を出そうとすると、チップの中では電圧の制限があるため、その中でアナログ信号を作ると無理があります。そこで電流で出力した後で電圧変換します。綺麗なアナログ電源でI/V変換して、差動合成すると非常に有利な回路設計になる。回路規模としては大きくなってしまいますが、CINEMA 30ではプリアンプのオーディオ基板の上にDAC基板を重ねる事でスペースを抑えました」(グロ-バル プロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング シニアエンジニアの飯原弘樹氏)という。

妥協の無いI/V変換回路によって電流出力型DACのパフォーマンスを最大限に引き出し、Hi-Fiグレードの音質を実現したという。D/A変換回路は、HDMIなどのデジタル回路からもアナログオーディオ回路からも独立した専用基板にレイアウトする事で、回路間の干渉の最小化。理想的なパーツの配置、信号経路の最適化を実現している。

手前部分がデジタルボード

DAC回路に供給される電源の品質にもこだわり、電源トランスの巻き線から完全に独立したDAC回路専用の電源回路とすることで、デジタル回路やパワーアンプなど、消費電力の大きな回路からの干渉を排除している。

さらに、クロック信号に含まれるジッターを取り除くクロック・ ジッター・リデューサーを、DACの直近に配置している。

クロック・ ジッター・リデューサーをDACの直近に配置

13.4chすべてのプリアンプ回路に、独自の高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を採用した。プリ部の電子ボリュームとHDAMを組み合わせる事で、強力なバッファーを構成している。一体型筐体に複数のDACとプリメインアンプを搭載しているAVアンプでは、筐体内のアナログ伝送経路を低いインピーダンスに保つことが音質改善に貢献するため、HDAMにより無色透明に信号経路のインピーダンスを下げ、接続される負荷を理想的に駆動するという。

高速アンプモジュール「HDAM-SA2」を採用

セパレートのAV 10と異なり、CINEMA 30では主に接続される負荷が自社開発のパワーアンプとなるため、それを活かし、固定されたプリアンプの負荷インピーダンスを最もシンプルな回路構成で最適に増幅できるHDAM-SA2が最適解になるという。

このHDAMには、AMP 10で新たに採用した小型コンプリメンタリー低ノイズトランジスタも採用。サウンドマスターがリスニングテストを繰り返して厳選した高音質カスタム電解コンデンサーも搭載。このHDAMブロックを千鳥格子上にレイアウトすることで、各チャンネルの信号ラインを最短化した。

入力セレクター、ボリューム、出力セレクターそれぞれの機能に特化した高性能カスタムデバイスを使用。プリアンプ回路全体の信号経路も最短化している。不要な信号経路の引き回しを排除するショートシグナルパスにより、透明感が高く情報量の豊かなサウンドを実現している。

使用しないパワーアンプを信号ラインから切り離し、高品位なプリアンプとしての使用を可能にする「プリアンプモード」を搭載する。11chすべてのパワーアンプの動作を停止できるだけでなく、チャンネル毎に個別にオン/オフ設定もできる。

独立した4系統のサブウーファープリアウトを装備し、音量レベルとリスニングポジションまでの距離を個別に設定できる。マニュアル設定に加え、Audyssey Sub EQ HTによる自動設定も可能。

パワーアンプ部の特徴

セパレートのAMP 10では、ICEpowerのものをベースとしながら、マランツ側で“ほぼ別物”というレベルにカスタマイズしたClass Dアンプモジュールを使っているが、CINEMA 30は一体型で、より多くの部品基板を筐体内に詰め込む必要があるため、同じClass Dアンプモジュールを搭載する事が困難だったとのこと。

そこで従来の一体型AVアンプに使っているアナログアンプをブラッシュアップしたものを搭載した。さらに、そのアナログアンプをより進化させる事で、「AMP 10のサウンドに近づいた」(グロ-バル プロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング シニアエンジニア 渡邉敬太氏)という。

「Hi-Fiコンポーネントに匹敵するレベルのチャンネルセパレーション、空間表現力を実現する」とし、11chのパワーアンプすべてを1chごとに独立した基板にマウント。個々のアンプをハイスピードなフルディスクリート回路で構成することで、チャンネル間の音のつながり、立体的な音響空間への没入感を最大化した。

パーツの選定や回路設計の自由度が高いフルディスクリート回路であるため、Hi-Fiコンポーネントと同様に、原音への色付けを排除した忠実なサウンドを追求。パワートランジスタには、サプライヤーと4年をかけて共同開発した新しいもので、AMP 10に匹敵する大出力を目指し、許容できる電力が大きいハイカレントパワートランジスタを採用。試聴を繰り返し、リードフレーム、はんだ、メッキなど多くのマテリアルをカスタマイズ。サイズの大きいリードフレームとパッケージを使うことで、放熱性も高め、大電流時の動作安定性も向上させている。

新開発のパワートランジスタ

ヒートシンクとパワートランジスタの間に、新たに銅板を追加。パワートランジスタの絶縁シートは、他のモデルで一般的に使っていたマイカから、Hi-Fi機器で使っているセラミック含有のシリコーン樹脂で構成される低熱抵抗の熱伝導シートを新たに採用。パワートランジスタの配列を千鳥配列にする事で、他のチャンネルとの干渉を低減し、熱を分散させている。

ヒートシンクとパワートランジスタの間に、新たに銅板を追加

電源回路では、電源トランスとして、筐体の中央に大型のトロイダルトランスを配置。AMP 10の小信号回路用の電源で使ったものよりもさらに大型で、重さ5.7kgもある。コストもかかるため、一体型AVアンプでトロイダルトランスは通常使われないが、最上位モデルとして豪華な仕様となっている。

筐体の中央に大型のトロイダルトランスを配置

電源部とパワーアンプ部を分離したAMP 10と同様に、パワーアンプをトランスから離すことで、トランスからのハムノイズを低減。LチャンネルとRチャンネルを分離する事で、信号のクロストークや不要な振動、熱の集中も避けている。

Hi-Fiアンプ同様の繊細な表現力と余裕をもった電源供給を実現。電源部の強化と同時にパワーアンプなどの周辺回路の細部に至るまで徹底した音質チューニングを行なった。

さらに、リスニングテストで厳選した高音質パーツを使用。パワーアンプ回路に電源を供給するブロックコンデンサーには、CINEMA 30専用に開発された22,000µF×2の大容量カスタムコンデンサーを採用している。

ブロックコンデンサーには大容量カスタムコンデンサーを使っている

AV 10の開発で得たノウハウを投入し、徹底的なノイズ対策を実施。高い周波数で動作するデバイスは、通信ラインが最短になるように配置し、DSPやHDMIビデオ信号を扱うICなどの消費する電流の変動が大きなデバイスには専用のレギュレーターを追加。DSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給には専用のトランスを使用し、アナログ回路との相互干渉を排除している。

シールドにより回路間のノイズの飛び込みを抑え、電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを用いて除去。コンデンサーの品種や定数は、サウンドマスターによる試聴を繰り返し CINEMA 30に合わせて最適なものを選定した。

その他の特徴

オーディオフォーマットのDolby Atmos、DTS:Xに対応し、11chのパワーアンプを搭載。1台で5.1.6ch、7.1.4chシステムを構築できる。2chパワーアンプを追加する事で、7.1.6chまでシステムの拡張も可能。IMAX Enhancedや、Auro-3Dにも対応した。

Auro-3Dでは、5.1chシステムにフロントハイト(FHL + FHR)、センターハイト(CH)、サラウンドハイト(SHL + SHR)、およびトップサラウンドスピーカー(TS)を組み合わせた11.1chで再生できる。パワーアンプの追加で、サラウンドバックを加えた13.1chでの再生も可能。360 Reality Audioにも対応する。

専用マイクを用いたオートセットアップ機能「Audyssey MultEQXT32」を搭載。「Audyssey MultEQ Editor」アプリにより、AVアンプ単体では設定できない詳細な調整も行なえる。

特許技術により周波数特性だけでなく、部屋内の反射やスピーカーの位置のずれに起因する音の遅延についても測定・補正する音場補正機能 「Dirac Live」にも対応。Dirac Live Room Correction / Dirac Live Bass Controlのライセンスと、対応する測定用マイクを別途購入すると、Dirac Liveによるサウンドの最適化が使えるようになる。

HDMI入力は7系統、出力は3系統で、うち2系統が8K/60Hz、4K/120Hzのパススルーに対応。7入力/3出力すべてのHDMI端子がHDCP2.3に対応する。HDR信号のパススルーにも対応。HDR10、Dolby Vision、HLG、HDR10+、Dynamic HDRにも対応する。

ARC(Audio Return Channel)に加え、eARC(Enhanced ARC)にも対応。ゲームやVR体験の質を向上させるALLM、VRR、QFTもサポートする。

HEOS Built-inでネットワークオーディオ機能も搭載。音楽ストリーミングサービスや、NASなどに保存した音楽ファイルも再生可能。PCMで192kHz/24bit、DSD 5.6MHzまでのハイレゾファイルの再生にも対応する。

AirPlay 2やBluetoothにも対応。Bluetooth送信機能も搭載し、AVアンプで再生中の音を、Bluetoothヘッドフォンで聴く事もできる。2.4GHz/5GHzデュアルバンド Wi-Fi対応。MMカートリッジ対応のPhono入力も備える。

スピーカーターミナルはすべての端子がスクリュー式。バナナプラグにも対応する。定格出力は140W+140W(8Ω)、最大出力は250W(6Ω)。HDMI以外の映像入力はコンポーネント×1、コンポジット×2。Phono入力以外のアナログ音声入力はRCA×7、光デジタル×2、同軸デジタル×2。音声出力は13.4chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン×1。Ethernet×1、USB(フロント)×1、USB-A×1(リア、5V/1.5A給電專用)なども備える。

消費電力は780W。最大外形寸法(アンテナを寝かせた場合)は442×457×189mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は19.4kg。