ニュース

デノン、小さくても“モンスターを凌駕する”11.4chAVアンプ「AVC-X6800H」

11.4ch AVアンプ「AVC-X6800H」

デノンは、“モンスターAVアンプ”と呼ばれた「AVC-X8500H」のパフォーマンスを凌駕するサウンドを実現しながら、筐体サイズはミドルクラスに収めた11.4ch AVアンプ「AVC-X6800H」を3月中旬に発売する。価格は528,000円。

最大出力250Wを誇る、11chモノリス・コンストラクション・パワーアンプを採用。フラッグシップモデル、およびそれに準ずる高級機のみに搭載されてきたモノリス・コンストラクションによって構成されており、全11ch同一クオリティのディスクリート・パワーアンプをそれぞれ独立した基板にマウント。電源供給もチャンネル毎に独立させることで、チャンネル間の干渉、クロストークを排除。チャンネルセパレーションを高め、純度の高いリアルな音場再生を実現している。

「AVC-X6800H」

チャンネルあたり250Wの大出力を誇り、「音質面においてもかつてのフラッグシップモデル・AVC-X8500H(13.2ch)のパフォーマンスさえも凌駕する11chパワーアンプを搭載しながら、筐体サイズはミドルクラスのAVR-X3800Hと同サイズに抑えるという困難な課題に挑んだデノンのエンジニアたちが具現化した、新世代の高性能プレミアムAVアンプ」だという。

左が「AVC-X8500H」、右が「AVC-X6800H」。AVC-X6800Hのコンパクトさがわかる

X3800Hと同じサイズに、11chのパワーアンプを高い機構安定性、放熱安定性を維持しながら収めるため、発熱の少ないスイッチングアンプを採用したくなるところだが、デノンはA1Hと同様に、シンプルで素直な特性が得られる差動1段のAB級リニアパワーアンプ回路にこだわり、これを採用。段数の少ない差動アンプ回路は性能を確保するための設計が難しくなるという面があるが、そこを技術力でカバーしたという。

ヒートシンクには放熱性能に優れ、共振が少ないアルミ押し出し材を使用。AVC-A1Hと同様にパワートランジスタとヒートシンクの間に1mm厚の銅板を追加することで、放熱効率をさらに高め、大きな発熱を伴う大音量再生時であっても、安定性の高いスピーカー駆動を実現している。

パワートランジスタとヒートシンクの間に1mm厚の銅板を追加

パワートランジスタには、サプライヤーとの4年間に及ぶ共同開発を経て完成した、新しいカスタムパワートランジスタを採用。最上位「AVC-A1H」が採用するカスタムパワートランジスタ「DHCT」と同様に、Hi-Fiアンプの設計思想を踏襲した大電流タイプのパワートランジスタとなっている。

「デノンが次の製品で採用するパーツ選びのコンペをした際に、何度かチャレンジしていただいたサプライヤーと共に作り上げた。これからのデノンのパワートランジスタを担っていくものになるだろう」(営業企画室デノンブランド担当・田中清崇氏)とのこと。

新しいカスタムパワートランジスタ

11chの同時出力時にもクリーンかつ安定した電源供給を行なうために、AVC-X6800H専用のEIコアトランスを開発。トランス単体で5.3kgと重いため、このトランスを支えるためにシャーシは2層構造とし、1.2mmのメインシャーシに1.2mmのサブシャーシを追加。堅牢なシャーシにトランスをしっかりと固定し、周辺回路への振動の伝搬を防止している。

筐体内部
AVC-X6800H専用のEIコアトランス

電源部のブロックコンデンサーには、AVC-X6800H専用にチューニングされた大容量15,000uFのカスタムコンデンサーを2個使用。「フルオーケストラの強奏やアクション映画のクライマックスシーンのような大音量を再生する場面でも、余裕のある電源供給を行なえる」という。

電源部のブロックコンデンサー

プリ部の特徴

パワーアンプは11chだが、13.4chプロセッシングまで対応。13.4chに及ぶ3Dオーディオフォーマットのデコーディングやレンダリング、アップミックス、音場補正などの高負荷な処理であっても余裕をもって同時に行なえるハイパフォーマンス・オーディオDSPを搭載。

13.4chプリアウトを装備しているため、パワーアンプの追加によるチャンネル数の拡張や音質のグレードアップが可能で、フロントL/Rスピーカーを外部パワーアンプで駆動することも可能。内蔵パワーアンプの動作を停止させ、高品位なAVプリアンプとしての使用を可能にする「プリアンプモード」も搭載。11chすべてのパワーアンプの動作を停止できるだけでなく、チャンネル毎に個別にオン/オフの設定も可能。

13ch分のスピーカー出力端子を装備し、サラウンドバックおよびフロントワイドスピーカーを含む最大9chのフロアスピーカーと、4chのハイトスピーカー、または7chのフロアスピーカーと6chのハイトスピーカーを同時に接続できる。

内蔵のアンプのみで11chの同時出力ができ、パワーアンプを追加すれば13chの同時出力が可能。また、フロントL/Rスピーカーの駆動に合計4つのアンプを使って高音質化する「バイアンプ」に加え、センターとサラウンドも含む5chのスピーカーをバイアンプ駆動する「5chフルバイアンプ機能」を搭載。

2組の異なるフロントスピーカーを切り替えて使用できる「A+B」などシステム構成に応じた柔軟なアンプアサインが可能。メインゾーンで使用していないパワーアンプをゾーン2、ゾーン3 のスピーカーに割り当てることできる。

DACチップは、サウンドマスターによるリスニングテストを繰り返して厳選された最新世代の32bit対応DACを搭載。AVC-A1Hと同じく電流出力型のDACチップで、電流を電圧に変換するI/V変換回路が必要となるが、回路設計技術とノウハウを投入することで独自の音作りが可能になる部分でもある。

さらに、超低位相雑音クロック発振器によるDACの正確な同期、高品位な音質対策パーツの投入により、DACの性能を最大限に引き出したという。D/A変換回路を映像回路やネットワーク回路から独立した、専用基板にマウントすることにより周辺回路との相互干渉を排除し、繊細な音声信号のクオリティを損なうことのない理想的な信号ラインおよび電源ラインのレイアウトを実現した。

デジタルオーディオ回路が動作する基準となるクロック信号に含まれるジッターを取り除くクロック・ジッター・リデューサーをDAC基板上のクロック発振器の近傍に配置。ジッターの極めて少ないクロック信号を基準として、DACを始めとするデジタルオーディオ回路を正確なタイミングで動作させることで、低歪みで原音に忠実な再生を可能にした。

プリアンプ回路には、信号経路を最短化し、音質を最優先した回路のレイアウトを実現するために、半導体メーカーと共同開発した入力セレクター、ボリューム、出力セレクター、それぞれの機能に特化した高性能カスタムデバイスを採用。専用のデバイスを用いることで、プリアンプ回路のレイアウトの自由度が飛躍的に高まり、無駄な引き回しのない最短かつストレートな信号経路を実現。

さらに、電子制御式の可変ゲイン型ボリューム回路を採用。一般的に使用される音量の範囲内ではプリアンプでの増幅を行なわないため、入力抵抗で発生する熱雑音を大幅に減少。これにより、常用音量域でのノイズレベルの劇的な改善を実現し、限りなく繊細で透明感の高い空間表現力を獲得したとする。

他にも、AVC-X6700Hと比べて、アナログ回路で150以上のパーツを交換。コンデンサーには定数や耐圧、容量を最適化したカスタム品を新規開発して投入。ネットワークを含んだデジタル回路の電源回路も、試聴を繰り返し、高級なSYコンデンサー要所に投入。全体のパフォーマンスを上げるために、ワイヤーのツイストの仕方までチューニングしている。生産はプレミアムモデルを手掛ける白河工場で行なっている。

AVC-X6700Hと比べて、アナログ回路で150以上のパーツを交換
生産はプレミアムモデルを手掛ける白河工場で行なっている

その他の特徴

プリとパワー間の接続は、信号レベルが低いため敏感な部分だが、そこに信号線とGNDをシールドして使用。ノイズを低減するとともに、パワーアンプの不要な振動も遮断している。AVR-X4800Hでは基板接続していた。「基板接続の方が作る時の時間が短く、生産性が向上し、コストは下げられる。製品のばらつきも生じないなどの利点があるが、AVC-X6800Hでは音質的なメリットを重視してシールド線接続を採用した」(田中氏)という。

音質に悪影響を及ぼす内部、外部の不要振動を排除し、音質を向上させる「ダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクション」を採用。堅牢なスチールシャーシをベースに、ヒートシンクや電源トランスなどの重量物を支える箇所にはサブシャーシを追加することで、必要十分な剛性を確保。

脚部には共振を防止するリブを設けた高密度タイプを採用している。

設置する部屋によって異なる音響的な問題を補正する音場補正技術「Audyssey MultEQ XT32」を搭載。Sub EQ HTも搭載し、最大4台のサブウーファーを個別に測定し、それぞれに最適な音量、距離の設定および、Audyssey MultEQ XT32 の信号処理が行なえる。

「Audyssey MultEQ Editor」アプリを使い、AVアンプ単体では設定できない詳細な調整も可能。Dirac Liveに対応し、Dirac Live Room Correction / Dirac Live Bass Controlのライセンスおよび対応する測定用マイクを購入すると、Dirac Liveによるサウンドの最適化が利用可能。

オブジェクトオーディオのDolby Atmos、DTS:Xに対応。IMAX Enhanced認定製品であり、Auro-3Dデコーダーも搭載。MPEG-4 AACにも対応し、新4K/8K衛星放送で使用されている音声フォーマット、MPEG-4 AAC(ステレオ、5.1ch)をデコードできる。360 Reality Audioにも対応する。

8K/60Hzと4K/120Hzの映像信号に対応するHDMI入力を7系統、出力を2系統装備。ゾーン出力も含む7入力/3出力すべてのHDMI端子がHDCP 2.3に対応。2系統の出力にテレビとプロジェクターを接続し、利用シーンに合わせて使い分けることができる。

なお、HDMI出力端子からの電源供給能力が従来の200mAから300mAに向上されており、電源供給を必要とする長尺のHDMIケーブル使用時にも高品位かつ安定した伝送を可能にしている。

HDR10、Dolby Vision、HLGに加えて、HDR10+およびDynamic HDRにも対応。ゲームやVRコンテンツ体験の質を向上させるALLM、VRR、QFTもサポートする。ARCおよびeARCに対応。

ネットワークオーディオのプラットフォーム「HEOS」を搭載。音楽ストリーミングサービスやインターネットラジオ、LAN内のNASなどに保存した音楽ファイルの再生もできる。

DSDは5.6MHzまで、PCMは192kHz/24bitまでのハイレゾ再生も可能。AirPlay 2、Bluetoothも対応し、Bluetoothは送信機能も搭載。AVアンプの再生音を、Bluetoothヘッドフォンで聴くこともできる。2.4/5GHzデュアルバンドWi-Fi対応。

定格出力は140W+140W(8Ω)、実用最大出力は250W(6Ω)。HDMIは、入力×7、出力×2。ゾーン2出力×1。アナログ映像入出力はRCAコンポジット×2、コンポーネント×1。音声入出力は、RCAアナログ音声入力×6、PHONO入力(MM)× 1、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2、13.4chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1(フロント)を備える。

アンテナを寝かせた場合の外形寸法は434×389×167mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は15.6kg。消費電力は750W。

音を聴いてみる

「ミドルクラスのサイズながら、モンスターと言われたAVC-X8500Hのパフォーマンスを凌駕する」というのがAVC-X6800Hの謳い文句だが、実際にAVC-X8500HとAVC-X6800Hを聴き比べてみた。

X8500Hは非常に評価の高いAVアンプであり、比較相手としては強力な存在だが、X8500HからX6800Hに切り替えると、最初の音が出た瞬間に違いがわかるほどX6800Hのサウンドクオリティは高い。

トランジェントが良くなり、全ての音がハイスピードで歯切れが良い。音が広がっていく様子もより良く見えるため、音場の空間も広大になり、奥行きや高さにも顕著な違いが出る。プリ部分の進化により、情報量が増加した事も大きく寄与していそうだ。

映画「地獄の黙示録」の、ジャングルでトラに襲われるシーンを鑑賞したが、ジャングルをかき分けて進む時の、足元から聴こえるベチョベチョとした湿ったドロの音と、奥まで広がる木の葉がざわめく音の重奏、そしたはるか遠い場所の上の方で鳴っている対空砲(?)の音と、様々な音の距離の違いが明瞭にわかる。それが、まるで自分がジャングルに放り出されたような、臨場感に繋がっている。

さらに驚愕したのは、木の葉にしがみついているであろう虫の声のリアルさ。「チチチ……」というよなかすかな音なのだが、そこらじゅうの空間に定位しているのでジャングルの鬱蒼とした感じが、音で伝わってくる。そして、ジャングルの奥へと進むと、その歩きに合わせて、かすかな虫の声の位置も変わっていく。この移動感の明瞭さ、音の繊細さには脱帽だ。

最上位モデルとしては孤高の「AVC-A1H」も存在するが、AVC-X6800Hはその世界に肉薄するようなサウンドクオリティを持ちながら、ミドルクラスレベルのコンパクトさを実現しているのが魅力だ。グレードアップを考えているが、あまり大きなAVアンプは設置できないという人には、要注目モデルになるだろう。