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映画「オッペンハイマー」、「日本のいちばん長い日」の原田監督らがトークショー

左から森達也監督、原田眞人監督、武田真一アナウンサー

公開中の映画「オッペンハイマー」。4月6日に、丸ノ内ピカデリーのDolby Cinemaにて、公開記念トークショーが行なわれ、そのイベントレポートが到着。トークショーには、「日本のいちばん長い日」の原田眞人監督と、「福田村事件」の森達也監督が登壇した。

トークショーは、「素晴らしい映画を語る機会をありがとうございます。皆さんと貴重な時間をシェアしたい」という原田監督の挨拶で幕を開けた。

原爆を開発したオッペンハイマーという男の生涯を描いた題材について、原田監督は、「『市民ケーン』(1941)、『アラビアのロレンス』(1962)、『レッズ』(1981)、『ラストエンペラー』(1987)、『アビエイター』(2004)と、歴史に名を刻んだ人物の栄光と没落をスペクタクルに描いた作品の系譜にある『オッペンハイマー』は、その中でも最高峰の一本だと思います。ずっと興奮しながら観ていました」とコメント。

原田眞人監督

「福田村事件」を作った森監督には、「歴史を描くことの恐れ」が問われ、「50年、60年の近過去を描くのは大変な作業だったと思います。広島・長崎が描かれていないという意見も聞いていたが、ずっと腑に落ちなかった。映画を観て改めて思ったが、しっかりと描かれていると思います。間接話法、直接話法とう表現方法があり、必ずしも直接描けばよいというものではありません。そういった意味では物凄く強烈な反戦・反核映画になっています。ノーラン監督にそういった政治的意図があったかどうかはわかりませんが、オッペンハイマーを描くことで必然的にそういう映画になった。今の世界にとっても大事な映画だと思います」と答えた。

森達也監督

広島・長崎が直接描かれていないことについて、原田監督は「『日本のいちばん長い日』のときに原爆のシーンを1カットしか入れられませんでした。その後広島の方から『原田さん原爆の広島を描いてくれないんですか』と言われて、一生懸命資料を調べました。コロナ禍で時間が取れた時、広島の原爆投下を中心とした1カ月を描いた脚本も書きました。だから『オッペンハイマー』では中途半端に広島について踏み込んでなければいいなと思っていましたが、広島に対するオッペンハイマーの罪の意識はしっかりと描かれていました。被害を間接的に描く場面ではノーラン自身の娘を使うほどのめり込んで描いていて、なおかつアメリカだけの話にしている。その映画の論理の見事さに感動しました」と話した。

そして、森監督は「キーワードは『弱い男』です。妻のキティに比べたらオッペンハイマーは弱くてしょうがない男ですが、そんな男があのようなことをやってしまい苦悩する。それが映画的に魅力ある素材になっています」と、本作のポイントを話した。

また原監督は「主演が『あの繊細なキリアンで大丈夫なのか?』と凄く不安になりました。そこで彼の最近のヒット作といわれる『ピーキー・ブラインダーズ』シリーズ(Netflix)を慌てて観始めたんです。そしたら素晴らしいんです。繊細ながら力強さもある。オッペンハイマーも、最初から音と映像でオッペンハイマー自身の心の奥深くに入っていくのに加えて、彼の表情で全部見せてくれる。さらにその中から弱さがでてきたりして、1人の人間としてのフルスケールを表現した演技が本当に素晴らしいと思いました」と答えた。

「オッペンハイマー」公式サイトに寄せた「映画そのもの」というコメントについて、森監督は、「映画とは、映像と音、いろんなものが混然一体となっています。この作品はその質量に圧倒されました。テレビはテロップやナレーション、効果音など情報の足し算ですが、映画は劇場に座っている観客に向けられており、過剰に説明する必要がなく、間接話法で良く、むしろその方が絶対に深いところへ届きます。ノーラン監督は、オッペンハイマーの苦悩、広島長崎の惨状などを間接話法でしっかりと描いています。そういう意味で『映画そのもの』と表現したのです」と話した。

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一般の人から寄せられたコメントで気になるものを問われると、原田監督は「『キャスト陣の鬼気迫る演技』です。スター俳優がこれだけ出ているから当然だと思われるかもしれませんが、演技派の俳優、ジェイソン・クラークが実にいやらしい役を演じていて、エミリー・ブラントとのやり取りは拍手したくなるくらいでした。鬼気迫る演技合戦がありました。何処を切り取っても役者たちがみんな入れ込んでやっています。少ししか出てこないケイシー・アフレックも凄くいいし、ラミ・マレックなんて最初に出てきたとき一言も喋らなくて『ひょっとして一言も喋らずに終わっちゃうの?』って思っていたら……。映画の醍醐味を抑えているノーラン監督の演出は、凄く上手いなぁと思いました」と答えた。

今まさに世界で核の脅威が高まり、また核兵器が使われるかもしれない時代を生きる存在として、本作を観た人、これから観られる人へのメッセージを求められると、森監督は「プーチンが核兵器の使用をほのめかした時、核抑止論は崩壊したと思っています。この映画で広島・長崎を描いていないということより、むしろそちらの方に声を挙げるべきなのではないかと『オッペンハイマー』を観て、改めてそう思いました」とコメント。

原田監督は、「僕は日本の映画人としてこの作品に続く映画で広島を描きたい、核の惨状を描きたいと思いました。最新のVFX技術で再現できるからです。『オッペンハイマー』が拓いてくれた道を、世界の映画人がここから影響を受けた映画を作っていくべきだと思います」と応じた。

イベントの結びでは、進行を務めた武田真一アナウンサーが「メディアの一員として、戦争の実相をいかに語り継いでいくかが大きな課題であり、これから取り組んでいくべきことだと思っています。そういう意味で、『オッペンハイマー』が日本で公開されて起きた色々な議論が、ひとつのきっかけになればと思いました」と締めくくった。

武田真一アナウンサー