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押井守監督、「イノセンス」続編に意欲。公開20周年記念トークイベント
2025年3月4日 11:58
押井守監督作品「イノセンス」の公開20周年を記念したトークイベントが、3月2日に東京・新宿のTOHOシネマズ新宿で行なわれ、押井監督とバトー役の声優・大塚明夫が登壇した。トークイベントでは制作当時の思い出話に加え、押井監督からはシリーズ続編制作への意欲も語られた。
2004年に公開された今作は、1995年公開「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の続編。前作から3年後の2032年を舞台とし、公安9課のバトーを中心に描かれている。日本のアニメーションとして史上初めて、第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出され、現時点も唯一の作品となっている。
そんな「イノセンス」の公開20周年を記念し、「イノセンス 4Kリマスター版」と「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」が2月28日からTOHOシネマズ日比谷ほかで2週間限定で上映されている。
押井監督、続編制作に“条件付き”で意欲
3月2日に行なわれたトークショーで、大塚は「こんなにたくさんの方が、20年も前の作品を観に集まってくださるということに、胸がいっぱいになります」と感激の面持ち。押井監督も「大きなスクリーンでぜひ堪能していただければ」と笑顔を見せた。
「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の続編として制作された「イノセンス」。前作の最後で主人公の草薙素子(田中敦子)が姿を消し、残されたバトーが本作の主人公になっているが、大塚は「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」からの流れを踏まえつつ、20年前のアフレコ当時を振り返り「僕もどう演じればいいんだろう? と押井さんに質問したんですが『簡単ですよ。バトーの恋の物語ですよ』と言われて『そうだったのか!』とあっという間に映画のつくりが見えてきました」と明かす。
押井監督はその言葉の真意について「素子が去った後のバトーの物語であり、生ける屍みたいになっているバトーが素子と再会する話です。魂の恋愛みたいな話で、遠く離れているんだけど、互いに想い合っているんですね」と改めて説明した。
イベントでは、作品にちなんだ5つの質問に、押井監督と大塚が回答する〇×クイズも実施。「20年前に戻れるとしたら戻りたい?」「義体化したいか?」という質問に、大塚は「条件付きで。中身、経験値はこのままで肉体だけ若くなりたい」と語り、押井監督も「同じです。頭の中身はいまのままで義体化したいです。あの歳(20年前)の自分に戻りたいとは全く思わないです」とうなずく。
「自分を動物に例えるなら、やはり犬だと思う?」という問いには、押井監督は「やはり犬ですよね、最近、猫が大好きで、猫の良さがわかってきたけど、最後は犬を選んじゃう。最後に目をつぶる時は犬がそばにいてほしい」と語る。
一方の大塚は「×」の札を掲げ、「犬は好きなんですけど、自分を鑑みるに犬じゃないなと思います」と笑う。「作品の中で自分に似ていると思うキャラクターがいる?」という問いに対し、意外にも押井監督の答えは「×」。「『攻殻機動隊』シリーズに関して言うといないですね。監督って、だいたい(作品の中に自分を投影したキャラクターが)いるもんなんですけど、この2作に関しては、しいて言うなら荒巻かな…? どこかで眺めてる人間で、行動する人間じゃないんですね。『パトレイバー』なら後藤さんとか。素子とバトーは、どちらも僕と違うタイプの人間です」と語る。
一方の大塚は「『バトーじゃない』と言うのはないんじゃない(笑)?」とニヤリと笑みを浮かべて、あの渋い声で「バトーです」と語りファンを喜ばせた。
そして、最後の質問「『イノセンス』の続編を作ってほしい? 作りたい?」に対して、押井監督は「条件付き」と断りつつ、共に「〇」の札を掲げ、客席からは期待と喜びの込められた熱い拍手が挙がった。
押井監督は「3本目をやりかけたこともあるし 諸事情があって形にならないけど、まだやり残したことがひとつだけあるので、それがやれるなら」と意欲を口にする。
ちなみに“諸事情・条件”の詳細に関しては「それを言っちゃうと、なるものならなくなるので……」と言葉を濁したが、大塚は押井監督の思いを受け、観客に向けて「みなさん、地元で『続編を観たいよな……』とぜひ伝道師、宣教師として、使命感を持って、これからの日々を生きていってください!」と呼びかけた。
イノセンスの脚本は「2週間くらいで書いた」
そもそも、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」に続く「イノセンス」はどのような経緯で作られることになったのか? 押井監督は「きっかけ自分の中にあったわけじゃなく、プロダクションI.G.の石川(光久)社長に呼び出されたんです。当時、僕はアニメをやってなくて、アニメはつらいからやめちゃおうかって時期だったんですけど『いま戻ってこないと、誰もあなたとやってくれる人がいなくなるよ。いいかげん、あきらめてスタジオに戻れ』と言われて『そうだな』と思ったんです」と述懐。
その時、石川社長から3本の作品の候補が提示されたが「やるなら『攻殻機動隊』の続編をやってみたいって素直に思いました。終わってないんですよ、どこかで。あの後の素子をもうちょっと見たいというのと、部屋に残ったバトーの思いを引きずってみたいなと。わりとすんなり話ができて、脚本も2週間くらいで書いたので、自分の中で抵抗なくすらすら出てきた作品でした」と明かした。
大塚は、続編の制作を聞いた当時の心境について「嬉しくて心臓が止まるかと思いました。『なに? うそ? やれるの?』という感じでした」と喜びを明かした。
制作期間の苦労について、押井監督は「(アニメーションが上がってくるのを)待つつらさがあった」と振り返る。
「明夫さん、敦子さんと同じ顔ぶれだったので、イメージはできるけど、最初の『攻殻機動隊』から何年か経っていて、同じじゃない部分があるんです。よく映画などである『そして3年後……』 みたいなもので、人間が変わっているはずで、どこがどう変わっているのか確かめたいし、確かめるまで安心できないんです」
「第一声が入った時、つながった感じがしました。サイボーグであることに変わりはないはずで、サイボーグが歳を取るってどういうことなのか? というのを考えました。素子が義体を持たなくなって、オリジナルの身体がなくなって、いわば魂だけになってしまったんですけど、どういう感情をバトーに持つのか? そこでの再会のセリフが『変わってないわね』なんですけど、『変わってないわね』というセリフは、2人が変わったから言えるんです。その機微を監督は考えるんです。どうやって表現してもらうか? そういうことが、この作品をやったことの意味の全てと言っていいと思います」
大塚は、押井監督のそんな言葉に「泣けてくる …!」としみじみ。素子とバトーの再会のやりとりに触れ「あの短いやり取りの中に、どれだけのものが入っていたか――? 大画面で全身を駆使して感じ取ってもらえたら嬉しいです」と感慨深げに語った。
草薙素子役・田中敦子への思い。押井監督「僕にとっては素子そのもの」
トークでは、草薙素子役の声優で昨年、逝去した田中敦子さんの思い出も語られた。大塚は「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の頃は、僕も声優を始めていくらも経ってない時で、音響監督の若林(和弘)さんに『素子役、いないんだよねぇ。誰かいない?』と聞かれ、『うちにひとり』と田中敦子氏を推したら、見事に通りまして。そんなことを思い出すと、本当に、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』という作品を通して一緒に歳を取ってきたんだなと思います」と語り、これから『イノセンス』を鑑賞する観客に「在りし日の田中敦子のことを思い出していただければ」と呼びかける。
押井監督は「敦子さんとあまり個人的に話したことはなくて、いつも(アフレコブースの)ガラスの向こう側にいる感じでした。あそこに入ると素子になるんです。廊下で立ち話しても、それは田中敦子という女性であって、マイクの前に立った瞬間から素子なんです。僕にとっては素子そのもの。さっき、3本目(続編)について『条件付き』と言ったのは、そのこと(田中さんの不在)もある。素子をどうするのか? 魂だけの存在ってわけにもいかない。声なしでやるのか……? それもありかもしれない」と改めて素子を演じた田中敦子さんの存在の大きさに言及した。
今回、20年を経て4Kリマスター版をスクリーンで堪能することができる貴重な機会となっているが、4Kリマスター版ならではの楽しみ方として、押井監督は「公開された時も一瞬、話題になったんですがオープニングで人形がアップになるんですが、目に何かが映っているんですよ。コンマ一秒もないと思いますが、目を皿のようにして、偶然、目と脳が直結して見えたら、何かが映っています」といたずらっぽい笑みを浮かべた。
トークの最後に大塚は「20年経ってまたこの作品が劇場にかかる――それは何と言ってもこれが名作だという証だと思います。後世に残る作品として、いま一度胸に刻んでいただければと思います」と観客に向けて語り掛ける。
押井監督は「これが完成した当初は自分でも『これ以上の仕事はできない』と思ったんですが、ある人に『まだまだ若い』と言われまして。20年が経って振り返ると、確かに20年前の自分は、もうひとつわかってなかったなってところがなくはないんですね。でも、20年を経ても、自分の中にある特殊な観念、情緒は変わんないなと思いました」とコメントした。
「それが何かというと、ある種の切ない部分なんです。それが人形だったり犬だったりするんですが、人間じゃないものと関わる時に必ず最後に出てくる感情で、ある種の切なさみたいなものなんですね。そこは変わっていないし、その後の仕事でも、そういう部分は引きずってると思います」
「20年が経って、またスクリーンにかかる映画ってそうそうないので、監督冥利に尽きるというひと言です。映画っていずれ死ぬもの、いずれ寿命が終わるものですけど、この作品はまだ寿命が残ってる気がします。映画を長生きさせるためには光を通すしかないわけで、そういう意味でこうしてたくさんの方に来ていただいて、大変ありがたく思っています」