東芝、新興国向けTV・PCを強化し販売台数構成比50%へ

-インドネシアに7型Tablet。ローカルサービスと連携


インドネシアに投入される7インチ「REGZA Tablet AT1S0」

 東芝は、新興国の各地域に合わせた商品開発や販売などの“ローカルフィット”戦略を加速させ、テレビやPC、タブレットなどの早期販売増加を目指す。目標として、新興国でのこれらデジタルプロダクツ販売台数構成比を、2011年度の32%から、2013年度50%を掲げている。

 この取り組みの1つとして8日、インドネシアで「REGZA Tablet」の7インチモデルである「AT1S0」を12月15日に投入することを発表。インドネシアの大手メディア企業であるコンパス・グラメディアと提携し、タブレット向けに雑誌などの電子配信サービスが楽しめるアプリをプリインストールし、他社のタブレットと差別化を図っている。




■新興国でのTV販売数は221%に伸長

 東芝は2010年11月に、新興国市場向けに「Power TV」と名付けられた薄型テレビ製品群を投入。放送の信号が弱い地域でも利用できるようブースターを内蔵したモデルなどが支持され、累計販売台数は200万台を突破している。

新興国市場向け「Power TV」ラインナップ

 この勢いを加速させるため、2011年には「Power TV」の第2世代と位置付けられる液晶テレビ3シリーズを投入。ラインナップは、CRTからの置換えを意識した19~32型、低価格なHV10シリーズや、32~46型のPB2/PB20シリーズ(CCFLバックライト)、同じく32~46型のPS20シリーズ(LEDバックライト/薄型狭額縁)を揃えている。

 いずれもアナログチューナ搭載のテレビだが、PB20やPS20シリーズには、受信環境が悪く、映像にノイズが多い場合にノイズを低減する「Auto Clean」機能を搭載。超解像技術(第一世代)を応用したもので、ノイズと絵柄を認識し、ノイズ部分だけにノイズ低減のフィルタをかける。新興国での問題に対応した“ローカルフィット”機能の1つとなる。


新興国向けの狭額縁ベゼル、LEDバックライト採用の46TL20(右)、40TL20(左)32PB20の「Auto Clean」機能デモ。右がOFF、左がON。背景のノイズなどが低減される
CRTとの置換えを狙う19インチ「19HV10」傷が目立たないキャビネットを採用したという「24PB2」
東芝デジタルプロダクツ&サービス社 大角正明社長

 アジアでの拠点整備も推進。1月に、エジプトで、現地エルアラビと液晶テレビの製造合弁会社を設立。「革命の嵐などがあったが、ようやく6月から本格生産がスタートし、非常に順調に立ち上がっている」(東芝デジタルプロダクツ&サービス社 大角正明社長)という。

 さらに、チリ、ペルー、コロンビアで3月、フィリピンで4月、アルゼンチンで7月に販売会社を設立。インドでは6月からテレビの現地生産をEMS(受託生産)の形でスタートさせた。特に重要な地域としているインドネシア、ベトナム、インドでは、現地のローカルニーズに応えた製品を開発するため、研究開発を行なうR&Dセンターも開設した。

 新興国地域からの人材採用も実施しており、2011年度は全社で44人、その内15人をデジタルプロダクツ&サービス社で採用しており、「これは2010年度の3倍。2012年度はさらに拡大していく」(大角社長)という。


アジアにおけるテレビ販売状況

 こうした取り組みにより、新興国でのテレビ販売状況は、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどで好調。ベトナムでは6月にトップシェアの25%、インドネシアではPower TV投入で一時20%を超えるシェアを獲得。マレーシアでも9月、10月と2カ月連続でシェア1位(10月は18.8%)。タイでもシェア率は10%台を記録。インドではこれまで販売台数は「ゼロに近かったが、広告投資を8月から実施した事で、10%まで近づいてきている」(大角社長)という。

 成功の理由を大角社長は「中心サイズを小さくする戦略をとった。従来は新興国と同じ32インチだったが、CRTの21や14インチからの置換えを狙い、24インチを中心サイズとした。これがうまくいったと考えている。新興国でも薄型テレビの価格下落はあるが、生産量の拡大、効率化、仕様の割り切りなどのコスト削減により、利益を作れた」と分析する。


 この結果、グローバル市場における東芝の液晶テレビの販売台数は大きく伸長。'11年度第2四半期(7月~9月)の液晶テレビ販売台数の伸長率(ディスプレイサーチ調べ)は主要テレビメーカーの中で最大となるグローバルで前年同期比136%、新興国では同221%と、新興国での規模拡大が大きく貢献している。

アジアにおけるノートPC販売状況

 一方、ノートPCは新興国専用モデルとして「Satelite C600」を投入。399ドルという低価格帯向け商品だが、新興国で需要の大きい動画や音楽の再生に注力。特に音量や音質を大幅に改善したのが特徴で、シェアも拡大しているという。

 しかし、「テレビと比べるとPCは厳しい。インドネシアでは2010年末よりトップ2を維持し、マレーシアでは2010年末より5%以上シェアを伸ばし、11年はトップ3を維持しているが、ベトナム、インドでは大きな伸びになっていない。今後、より強い商品を出していく中で拡大を図っていきたい」(大角社長)。


新興国専用ノートPC「Satelite C600」は、市場のニーズに合わせ、音量や音質を大幅に改善した


■新興国向けの新たな取り組み

 この流れを加速するため、ローカルフィット商品の開発を加速させるだけでなく、新たな取組として市場に根ざした各種ローカルサービスの商品への搭載や、有力パートナーとの連携も積極的に実施。さらなる差異化を目指す。その1つが、8日に発表された7型「REGZA Tablet AT1S0」のインドネシア投入だ。

 AT1S0は3G通信機能を備えたAndroid OS 3.2の端末だが、これを販売するだけでなく、インドネシアのメディア最大手であり、50万部以上の新聞発行部数を誇るコンパス・グラメディア社と電子配信サービスで提携。8つのアプリをプリインストールした状態で販売する。

 7つのアプリはそれぞれ、料理レシピや生活関連情報、IT製品情報、サッカー情報、女性向け総合情報などを無料で届けるもの。さらに、「Gramedia Majalah Lite」という電子雑誌ストアアプリも用意。この中で、有料の雑誌データを販売。このタブレットをキーデバイスとして、テレビ・PCとの連携による、ローカル需要に合った使い勝手を提案していく。価格は日本円で5万円程度。2012年4月以降に、インドやベトナムでも販売予定で、その際は各国それぞれのローカルサービスとの連携も模索されている。

7型「REGZA Tablet AT1S0」をインドネシアに投入。写真は料理レシピアプリを表示したところ「Gramedia Majalah Lite」という電子雑誌ストアアプリを通じて、雑誌の有料販売も行なう

 インドネシア液晶テレビ工場の出荷規模は2010年で125万台だが、Power TVの投入などにより2011年度は300万台と倍増する見込み。大角社長は「2015年度には700万台レベルに拡大したい」と目標を掲げる。さらに、同工場の敷地内に洗濯機工場も建設(2012年夏竣工予定)。2015年度に二層式洗濯機年間100万台のグローバル生産体制を構築する。

 こうした取り組みを合わせ、2013年度にインドネシア国内で、テレビ、PC、白物を合わせ、売上高10億ドル(約800億円/2011年度の約1.7倍)を掲げる。グローバルでは、「ローカルフィットを加速し、新興国におけるデジタルプロダクツ販売台数構成比を2011年度の32%から、2013年度50%を目指す」(大角社長)という。

 同社が新興国に注力する背景には、日米欧の先進国市場の落ち込みがある。特にテレビ事業は深刻だ。「日本メーカーのテレビ事業は、国内市場に大きく依存してきたわけだが、そこが落ち込む現状では、世界市場でビジネスをしなければならない。東芝はパネルに関与しておらず、ODM化も他社より早く始め、工程費の軽いオペレーションにすることで、黒字をなんとか確保できた。テレビ事業自体が苦しくなる中で、相対的に見ると我々のポジションは有利になるのではないかと思っているが、絶対的に生き残っていくためには、構造転換を進めなければならない」。

 「つまり、グローバル市場でビジネスをする必要があるが、世界と言っても欧米の事業で大きな黒字を出すのはもはや難しい。インドネシア、インド、ベトナムなど、アジアを中心に事業を拡大し、利益を構築する。それで過去、東芝を支えてきた日本での事業損益を補う必要がある。まだそのレベルではないが、かなりの営業利益を稼げる形には育ってきている」(大角社長)。

 なお、大角社長は2011年度のテレビ出荷目標として掲げている1,800万台という数字について「国内の年末商戦は少し回復の兆しが見えているものの、かなり厳しくはなっている。だが、その目標に向けて頑張っている」という。

 また、Android OSを採用したテレビや、噂されるAppleのテレビなど、新しいカタチのテレビについては、「タブレットやPCなどとの繋がるテレビが増え、徐々に(テレビやPCやタブレットが)ボーダレスになっていくだろう。その中でそれだけユニークな商品が出せるか、コスト構造をどうするか、その製品によって何ができるのかという3つが重要。これを来年以降、さらに強くなっていかないと勝ち残れない。具体的には、2012 International CESでお話する機会があると思います」(大角社長)と語った。


(2011年 12月 8日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]