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ファイナル、世界初3Dプリンタ造形のチタン製イヤフォン
16万円、少ロットで製品化。羽生選手の話題も
(2014/2/18 15:30)
ファイナルオーディオデザイン事務所は、NTTデータエンジニアリングシステムズ、プロポックスと協力し、量産品としては世界初という3Dプリンタで造形された64チタン製筐体のイヤフォン「final audio design LAB I」(FI-LAB01)を2月下旬に発売する。ダイレクトショップでの販売のみとなっており、直販価格は16万円。
今回の製品は、日本と海外で合計150セット限定での発売となり、日本への割り当ては30セットのみとなる。
デュアル・バランスド・アーマチュアユニットを搭載したイヤフォン。2基のユニットはフルレンジで、ネットワーク回路は使っていない。筐体が3Dプリンタで造形されたのが特徴。3Dプリンタには、ボタン1つで造形物が完成するようなイメージがあるが、量産品の部品として採用するには、様々な制約と困難があるという。
今回のイヤフォン開発では、3Dプリンタによる金属造形において、量産品に求められる精度と、金属表面の光沢仕上げを実現しているのが特徴。最終製品の形状、コスト、精度、表面の平滑度など、様々な要素を考慮して出力データを最適化したという。
また、レーザー照射の痕が残る粗い仕上がりを磨き上げるにも様々なノウハウが必要という。こうした作業を経て、ハウジングが作られている。素材には64チタンを使っており、不要共振の少ない、クリアな音質を実現したという。
ファイナルに協力したNTTデータエンジニアリングシステムズは、1997年から、独EOS製のエンタープライズ3Dプリンタの日本総代理店を務め、技術評価段階から装置導入、運用までを支援。プロポックスは、20数年医療器、医療分析器など、最先端分野での金属加工技術支援の経験を持ち、特にチタン合金パイプの開発など、パイプを応用した製品に強いという。
デュアルBAだが、どちらのユニットもフルレンジとしたのは「ネットワークを入れる事で、音の生々しさが失われるのを避けるため。デュアルユニットとした事で、低域の不足を解消しながら、生々しい音を実現した」(企画・開発担当の細尾満氏)という。ユニット自体は「自社製品ではないが、特別にオーダーしたものを使っている」という。
筐体内部の空気の流れを最適化するBAM(Balancing Air Movement)機構も採用している。
音道の出口には、ステンレス製メッシュフィルタを配置し、中高音のバランスを整えている。イヤーピースは遮音性の高いタイプと、共振音の少ないタイプの2種類用意。ケーブルは1.2mで、タッチノイズを抑えたフラットタイプ。重量は約26g。革製のキャリングケースも付属する。
なぜ3Dプリンタを使ってイヤフォンを作るのか
企画・開発担当の細尾満氏は、「final audio design LAB I」という製品名称について、「実験的な製品を今後も出していくという意気込みを込めて、“ラボラトリーシリーズ”の第1弾と位置付けている」と説明。今後も3Dプリンタを活用したイヤフォン/ヘッドフォンなどをリリースしていく予定だという。
3Dプリンタを使う理由として細尾氏は、「初期ロットが少なくても、思い通りのものを作るため」と説明する。細尾氏によれば、金型を作って製品作りをする場合、コストのイメージとしてヘッドフォンでは金型代で2,000万円、開発費も入れると3,000万円強、イヤフォンでも少なくとも金型で500万円、開発費を入れると1,000万円はかかるという。こうした初期投資が必要であるため、例えば100台など、少ロットだけしか生産しないイヤフォン/ヘッドフォンなどをビジネスとして成立させるのは困難になる。3Dプリンタを使えば、その問題がクリアされ、少ロットでも製品を作れ、思い切った商品に挑戦しやすくなるというわけだ。
細尾氏は、「ファイナルは比較的エッジの効いた、尖った製品を出すメーカーとして評価していただいていると感じている。しかし、それでも製品の企画段階でエッジの効いたアイデアを出すと、営業や品質保証など、社内のそれぞれの立場から、コストやお客様からのクレームなどに関する情報や意見があり、製品化する際には“エッジの効いた良さ”が失われてしまう面がある」と、自身の経験を語る。
一方で、「これまでの経験から、お客様は“これが欲しい”とは言えないが、実物を見て、使って、“これじゃない!”という意見は非常に深いものがいただける」と語り、ユーザーからの意見を集めて製品に活かすとしても、実験的な製品が紙に描いた企画ではなく、実際に“存在”している重要性を説明。「現実のお客様とのコミュニケーションが不十分なまま(社内で)議論がなされるため、お客様からのクレームを過剰に設定してしまい、“この指とまれ!”型のものづくりを実現しにくい仕組みになっている」とする。
こうした流れを打破するために採用したのが3Dプリンタにより、金型を作るよりもコストを抑え、少ロットでも実験的な製品を作れるソリューションだ。同時に細尾氏は、単純に3Dプリンタで筐体を作るだけではダメだと言う。「理論的に“良い”と思っても、購入には結びつかない。欲しいという壁をジャンプで乗り越えないとお客様は買ってくれない。そのためには、一目見てグッとくる、欲しくて涎が出てくるような製品でなければならない。そのためには、製品の外観に金属の光沢などが必要」とする。
つまり、挑戦的な製品を3Dプリンタでコストを抑え、少ロットで製品化しても、“実験的な製品だから”という理由で外観が荒かったり、カッコ悪いものであれば誰も欲しいと思わず、そこで終わってしまう。3Dプリンタで少ロットであっても、磨きをかけ、カッコイイ製品にする事で購入してもらえ、反響が得られる。それを元に社内で議論を重ね、「売れそうだからいっぱい作ろうよ、(沢山作るから3Dプリンタではなく)次は型物で作ってみようよという話に繋がる」(細尾氏)という。実験的な製品の、製品としての魅力をアップさせ、それ以降の展開に繋げるための“流れ”を生み出すソリューション。そのケース第1号として生み出したのが、今回の「final audio design LAB I」というわけだ。
なお、ファイナルは大手コネクタメーカーであるモレックスと共に、AV機器のODMを手掛ける事業会社S'NEXTを展開している(ODM:他社からの依頼で設計から生産までを行なう事業)。今回の3Dプリンタを使った少ロット生産のソリューションは、ファイナルが利用するだけでなく、ODM事業の一種として提案していく予定で、「実現できれば、大手AVメーカーからも、より面白い製品が出しやすくなる」と展望を語った。
どのように作るのか
製造は、NTTデータエンジニアリングシステムズが代理店を務める、独EOS製の「EOSINT M 280」という3Dプリンタを使用。CADで3次元のイヤフォン形状のデータを作り、それを輪切りの2次元データに変換。64チタンの粉末を薄く敷き詰め、そこに2次元データのレーザーを照射。照射した部分が溶けて固まり形となる。完了したらその上に薄く粉末を敷き詰め、再び照射。積み重ねていくように造形し、最終的に粉末の中からイヤフォンのハウジングが掘り出される。
切削加工や鋳造では作れない複雑な形状を作る事も可能だが、単純にCADのデータを入力すれば、完全な形で完成するわけではない。例えば、だるま落としや階段のように、積み重ねていく層がズレた形状の場合、下に層が無い、宙ぶらりんな部分にレーザーエネルギーが伝わると、下の層にエネルギーが行かないため、余剰に硬化する。他にも、未溶解や半溶解した金属粉が周囲に付着するなど、様々な問題がある。プラモデルの“バリ”のように余分な部分が生じる場合にも、それが容易に除去できるものでなければ、それを除去するのにコストが増え、3Dプリンタを使う意味が無くなってしまう。
そうした問題が起きないよう、あらかじめデータを工夫してから3Dプリンタに入力するのだが、そうした「造形方案」に関するノウハウにおいてNTTデータエンジニアリングシステムズが協力したという。
さらに、プロポックスの協力を得て、金属表面の光沢仕上げも行なうのだが、均一の磨きで仕上げられるよう、3Dプリンタの造形時に金属表面の鏡面化(Ra0.1μm以下)を達成したのもポイントだという。
なお、細尾氏は3Dプリンタを使ったAV機器の可能性について、「LAB Iの形状は3Dプリンタでなければ作れない。似た形状であればメタルインジェクションでも作れるが、筐体を2つに分けて別々に作り、それを焼結して作るよりもなめらかな音になると感じている。また、これまでにない形状のパーツを活用したイヤフォン/ヘッドフォンなども考えている」と、音質やデザインにも良い影響があると説明した。
音を聞いてみた
短時間ではあるが発表会場にて、音を聴いてみた。プレーヤーはAK240を使っている。
BAのフルレンジデュアル構成という事で、ファイナルのイヤフォンとしては特に中低域がパワフルで押し出しの強いサウンドだ。しかしながら、レンジの繋がりは自然で、特定の帯域が出っ張るような不自然さは無い。全体のバランスは良好で、パワフルながら、繊細な中高域の表現もしっかりと耳に入る。
また、こうした押し出しの強さと、空間描写の広さが同居できているのも特筆すべき点だ。64チタンの筐体は余分な振動が無く、非常に精密で静粛なサウンドステージに寄与しており、力強い描写も、細やかな描写もこなせるオールマイティーなサウンドに仕上がっている。