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「欧州プレミアム市場に真剣に取り組む」、Technicsや家電の狙いをパナソニックAP副社長に聞く

 「欧州市場において、パナソニックが真剣になって、プレミアム領域へと踏み出すことを示したい」。ドイツ・ベルリンで9月4日~9月9日(現地時間)に開催されるIFA 2015において、インタビューに応じたパナソニック アプライアンス社の楠見雄規副社長は、今回の出展の狙いをそう語った。

パナソニック アプライアンス社の楠見雄規副社長

 空間演出をキーワードに、製品を組み合わせた提案を行なう中で、「テレビは重要な役割を果たすことになるのには変わりがない。だが、空間の中で大きな存在感があるテレビのデザインをどうするのか、あるいはテレビ単体だけでなく、住空間全体とどう組み合わせるのか、それによって、今まではできなかったことができる、といった提案も行ないたい」とする。パナソニックのIFAへの取り組み、欧州市場での展開、テレビ事業への取り組みなどについて、楠見副社長に聞いた。

 なお、プレスカンファレンスの模様はこちらの記事で、Technicsの製品に関してはこちらの記事でレポートしている。

後追いでの欧州プレミアム市場への参入、“和のデザイン”を活用する

――今回のIFA 2015でのパナソニックブースの狙いはなんですか。

楠見氏(以下敬称略):昨年のIFAではTechnicsの発表があり、大きな関心を集めましたが、今年はそこまでの大きな発表はありません。しかし、今回の展示を通じて、欧州市場において、パナソニックが真剣になって、プレミアム領域に踏み出していくことを感じていただけるのではないでしょうか。

 ディスプレイが昇降して、表示情報にあわせて最適な画面サイズに変わるアンビエントディスプレイをはじめとして、より上質な空間を提供することに力を注ぎました。また、冷蔵庫や洗濯機に関しても、欧州市場向けに設計した製品をきっちりと導入していくことができる状況が整いました。

欧州に投入する有機EL(OLED)テレビ「CZ950シリーズ」

 もともと欧州市場はプレミアム感を持った製品を投入するメーカーがひしめき合っていますが、そこにパナソニックが後追いで参入しても戦うことはできません。だが、その一方で、エレクトロニクス製品以外に目を転じると、和の文化が持つシンプルさや、すがすがしさによって、欧州市場に受け入れられている製品もあります。

 そうした例を参考にしながら、欧州の人たちが求めるデザインを、パナソニックの和のデザインのなかに組み込むことで、欧州市場におけるポジションを確立する地盤をつくりたい。欧州においても、パナソニックは信頼性が高く、技術力を持った企業であるというイメージかある。それを今後も維持しながら、事業を成長させ、市場における存在をしっかり認知してもらえるようになりたい。

 今回、パナソニックは、欧州市場におけるアプライアンス事業の売上高を、2018年度までに2倍以上に拡大する計画を掲げました。昨年のIFAでは、450億円の売り上げ規模を、2018年度には900億円に引き上げる計画を打ち出していますが、そうしたことを前提として、冷蔵庫や洗濯機などの主力製品は2倍以上に拡大するほか、得意とする電子レンジや、理美容製品の拡大などにも取り組みます。

 たとえば、冷蔵庫では、日本で高い評価を得ている「保鮮」といった切り口から、欧州市場にプレミアム感を提供していきたい。洗濯機でも、センシング技術を活用して水の汚れ具合を検知したり、汚れが少ない洗濯物の場合には短い時間で洗濯を終えるといった機能を搭載するといったように、パナソニックならではの強みを発揮したいと考えています。

――テレビ事業の位置づけはどうなりますか。

楠見:今回のIFA 2015では、「空間演出」を打ち出していますが、その中で、テレビは住宅の中において、重要な役割を果たすことになることに変わりはありません。しかし、住空間の中で大きな存在感があるテレビのデザインをどうするのかといったことを考えることは必要ですし、一方で、テレビ単体だけで見るのではなく、テレビを住空間全体とどう組み合わせるのか、それによって、いままではできなかったことができないかといったことにも取り組んでいきたいと考えています。

欧州市場で事業を拡大し、存在感を持つために

――パナソニックが、欧州市場に力を注ぐ理由はどこにありますか。2018年度に2倍規模に拡大しても、まだ規模は限定的です。

楠見:ご指摘のように、事業規模を2倍にするといっても規模はまだ小さいですから、これはボリュームを追うという意味ではありません。韓国メーカーがシェア獲得を狙うのは、大規模な生産投資を行ない、効率性を追求し、調達力の強みを生かすためです。しかし、これで収益を生むのは難しい。パナソニックは量を追うことはしません。

 ただ、欧州市場は、パナソニックにとって重要な市場です。この市場において事業を拡大し、存在感を持つという点での重要性もありますが、欧州市場での実績が中国やアジアでの事業展開にプラスになるという観点も見逃せません。たとえば、中国では、ボッシュやシーメンスといったブランドが、「あこがれのブランド」として、高い人気を誇っています。

 パナソニックも欧州での実績をあげることで、中国やアジアで同様の展開ができるようになる。パナソニックは、2009年に欧州市場向けに冷蔵庫、洗濯機を投入し、それ以来、欧州市場向けの製品を投入してきましたが、リソースが限られていたこと、欧州市場に対する知見が蓄積できていなかったこともあり、まだ本気になって取り組むことができない部分もありました。

 私も英国に3年ほど住んだことがありますが、やはり、日本とは食料の買い方、調理の仕方、洗濯の仕方が違います。日常的に毛足の長いタオルを使っており、それを上手に洗濯できるものでなくてはならない。日本の製品や技術をそのまま持って行っても成功しないのは明らかで、欧州のそれぞれの地域にあわせて、細かい配慮を行なえなくては、欧州市場においては成功し得ません。

 5年を経過し、欧州での知見を蓄積でき、ゴレーネとの協力関係による成果も、ようやく出始め、共同開発製品を投入。効率的なリソース配分もできるようになった。我々の技術を活用して、欧州市場にどうアプローチしていくかを考え、収益確保とともに、成長を目指していきたいと考えています。

――今後の欧州での具体的な戦略はどうなりますか。

楠見:欧州市場に適合した製品を、日本のコントロールで開発するのは難しいと考えています。マーケティングを強化して、欧州から製品軸で発信できる形へと体制を強化しようと考えています。英国にデザインスタジオがあるのですが、欧州の意見を反映してデザインをする体制を整えたいと考えています。

 欧州では、電子レンジのほか、シェーバーやスロージューサーなどの「刃物」が力を発揮しています。これも伸ばしたいですね。当然、大型製品である冷蔵庫、洗濯機も大切な製品ですし、小物の領域に入る調理家電もテコ入れしたいですね。

スロージューサーなどの“刃物”にも注力するという。右の写真はブレッドメーカー

 たとえば、冷蔵庫は、「高級=大型」という認識がありましたが、パナソニックの冷蔵庫はそうではなく、しっかりとした価値を提供する部分で、高級というイメージを出していきたい。これはパナソニックが欧州で展開する製品に共通するものといえます。

 欧州市場は魅力的な市場ではありますが、一方で、すでに飽和した市場という言い方もできます。高級レンジにはミーレがあり、さらにボッシュやシーメンスといった企業もある。そして、普及製品の領域にもインデジットなどのメーカーが存在し、それぞれの領域に強いメーカーがいる。そうした市場において、ボリュームを追うのは難しい。高付加価値で差別化をしていく必要があります。

 まずは、販売ルートやタッチポイントは、慎重に選びながら構築していきたいですね。また、理美容製品についても、フィリップスやブラウンという強いメーカーがあります。そうしたブランドに対して、パナソニックは、日本で高い評価を得ているナノイーを搭載したドライヤーといった付加価値製品で戦いたいと考えています。

 ただ、こうした評価は、一朝一夕でできあがるものではありません。日本でも長い歳月を経て、評価が定着したという経緯があります。欧州でも、じっくりとやっていく必要があると思います。いまは、トリマーをサロンで使ってもらうといったように、新たな販売ルートの開拓にも取り組んでいます。

ラインナップを拡充したTechnicsブランド

――昨年のIFAで、Technicsブランドを復活させてから、ちょうど1年を経過しましたが、2018年度の100億円の売り上げ達成に向けた進捗状況はどうですか?

楠見:初年度の計画という点では、下回っているというのが実態ですが、その数字でどうこう評価するというものでないと考えています。そして、100億円という計画についても修正する必要はないと考えています。むしろ、現在、全世界150店舗での取り扱いが可能になるなど、販売の間口を拡大し、さらにこれらの販売店からは、Technicsの製品をしっかりとやってもらいたいという激励の声もいただいています。

 復活したブランドの1年目としては、しっかり展開できていると評価していただいているようです。また、当社では、実際にご購入をいただいた方を対象にした調査も行なっているのですが、そのなかに、偶然、店頭でTechnicsの製品を見つけて購入してしまったという声がありました。まだ、Technicsが復活したことを知らない人たちも多いのが実態です。

 言い換えれば、ポテンシャルはまだあるともいえます。タッチポイントを増やしていく努力もしていきたいですね。ただ、その一方で、販売店からは、やはり2機種だけでは厳しいという声もあり、今回、新たにGrand Class G30シリーズと、OTTAVA Premium Class C500という新たなモデルを追加しました。

Grand Class G30シリーズ
OTTAVA Premium Class C500

 さらに、ターンテーブルを新たに発表しました。ターンテーブルは、2016年に欧州市場で投入し、その後、日本での投入も検討していくことになります。位置づけとしては、従来、Technicsブランドで発売していた「SL-1200」の後継機ということになりますが、新たな時代に向けて、ダイレクトドライブを再定義し、SL-1200を超える性能を達成することを目指した製品となります。

 Technicsは、高音質を極めていく製品です。技術的にできるところだけでなく、今はできないが将来に向けて実現できる可能性があるのならば、高い目標を掲げて、挑戦していきたいですね。100億円のなかには、車載関連のビジネスも含めていますから、次のステップではそうした領域にも進んでいきたいと考えています。

プレスカンファレンスで発表された、新開発の「ダイレクトドライブモーター」搭載の、アナログターンテーブルの開発試作機

(大河原 克行)