ソニー、'10年度決算発表。PSN 5月内復旧目標は変えず
-ゲーム黒字化で業績に寄与。'11年度TVは2,700万台
執行役 EVP CFOの加藤優氏 |
ソニーは26日、2010年度連結業績決算を発表した。売上高は、前年度比0.5%減の7兆1,813億円、営業利益は同528.9%増の1,998億円、税引前利益は同661.8%増の2,050億円。23日に業績予測の修正を発表していたとおり、日本における繰延税資産に対する評価性引当金計上により、純損失は2,596億円となった。
連結営業利益は、前年度の約6.3倍と大幅に増加。特に黒字化を目標にしていたゲーム事業は「1,000億円以上改善し、黒字化。収益に大きく寄与した(加藤優 執行役EVP CFO)」という。
震災からの復旧状況においては、グループ製造事業所の10拠点が被害を受けたが、ソニーケミカル&インフォメーションデバイスの多賀城事業所を除く9拠点で稼働を再開。多賀城は、5月末よりBlu-ray Disc生産を、7月より磁気テープ生産を再開する計画。
東日本大震災による、2010年度の業績への影響については、売上高への影響額を約220億円、営業利益段階で170億円と見込む。2011年度における震災の影響額は、営業利益段階で約1,500億円と試算している。
2010年度連結業績 | セグメント別の売上高/営業利益 | 東日本大震災によるソニーグループ拠点の復旧状況 |
■ CPD収益改善も、テレビ事業は赤字拡大
CPDの営業利益増減要因 |
薄型テレビなどを展開するコンスーマー・プロフェッショナル&デバイス分野(CPD)は、売上高前年比1.6%増の3兆5,727億円、営業利益は29億円(前年は532億円の損失)と黒字化した。日本のエコポイント制度など、アジア/太平洋地域で液晶テレビの売り上げが増加したことや、中小型液晶パネル、イメージセンサーなどの半導体売上増が寄与した。
収益面で寄与したカテゴリは、イメージセンサーの売上が増加した半導体、デジタルシネマプロジェクタなどのプロフェッショナルソリューション。マイナスの影響を与えたカテゴリは液晶テレビ。
2010年度の主要製品売上台数は、液晶テレビが2,240万台、ビデオカメラが520万台、コンパクトデジタルカメラが2,400万台、PCが870万台。
テレビ事業単体では、売上高は前年比16%増の1兆1,610億円。販売台数は、BRICsなど新興市場、日本などが好調で、前年比45%、680万台増の2,240万台になった。一方、営業損益は20億円悪化し、750億円の損失。価格下落や為替要因などが響いたほか、上期にパネル調達で苦戦したことが要因という。
今後のパネル調達については、Samsungとの合弁会社のS-LCDと、シャープとの合弁、市場調達などの3つのルートで、最適な方法を模索していく。大型で高精細な高付加価値モデルについては、「合弁でやっていくことになる」(加藤CFO)とした。
2011年度の売上目標は液晶テレビが2,700万台、ビデオカメラが500万台、デジタルカメラ2,400万台、PC 1,000万台。
なお、2011年度もテレビ事業は赤字の見込み。「震災前には黒字で計画を立てていたが、震災によって黒字化が遠のいたのは事実。一部の高付加価値のテレビの部材が不足し、計画が後ろに倒れたため」という。「部品在庫があるので第1四半期の影響は小さいが、第2、3四半期の影響が大きい」と見込んでいる。
テレビ事業の収益改善に向けては、「固定費や、パネルコストを下げる。シャーシの効率化、ラインナップ整理などの定番メニューは引き続きやっていく」とし、「長い目では次世代のディスプレイも念頭に置く。主流の液晶テレビは他社も苦労しており、今のサイクルは利益が出ない局面だが、黒字化は目指さないといけない」とした。
また、「テレビは、単体で大きな利益率を目指すよりは、モバイルとテレビの組み合わせや3Dなど付加価値を担う。そういう位置づけも兼ねている」(業務執行役員 SVP 広報センター長 神戸司郎氏)とした。
■ PS3コスト改善でゲーム黒字化。PSNは5月復旧、NGPの初期投資は軽く
NPSの営業利益増減要因 |
ネットワークプロダクツ&サービス分野(NPS)の売上高は前年比0.4%増の1兆5,793億円、営業利益は356億円(前年は833億円の損失)。PCが増収となったものの、為替の悪影響により売上高はほぼ横ばいとなった。損益面では、PlayStation 3(PS3)のハードウェアコストの改善や、ソフトウェア売上高の増加などゲーム事業がプラスに寄与し、黒字となった。
ゲームビジネスは、為替の悪影響で売上高は5%減の7,980億円となったが、損益は1,035億円の大幅な改善で465億円の利益を計上した。「為替の影響はあったが、PS3のコスト改善や、グランツーリスモ5などのヒットタイトル、PS Moveなどの周辺機器などが貢献。「次世代ポータブル機「NGP」については、「年末の導入に向けて準備を着々と進めている」とした。
2010年度のハードウェア販売台数は、PS3が1,430万台、PSPが800万台、PS2が640万台。2011年度の売上目標はPS3 1,500万台、PSP 600万台、PS2 400万台。
PS3のコスト改善により、ゲーム事業の収益性が改善したが、2011年度はNGPなどの新プラットフォームの立ち上げ時期ともなる。加藤CFOは「PS3の発売時には、多くの技術を詰め込み、売値とコストが乖離していたが、今は抑えられるようになった。PS3は、最先端半導体と自社ファブで数千億規模の設備投資を伴ったが、その当時は(外部の)ファウンダリの能力やキャパシティではできなかった。しかし、今はファウンダリの良いサービスもある。汎用のチップセットや我々の技術などを組み合わせる考え。初期の膨大な設備投資というのは、将来のプラットフォームでは考えていない。あとはソフトビジネスをいかに成功させるかという点がプラットフォームとして重要なこと。ハマれば高いレベルで事業は安定できると思う」とした。
ネットワーク事業に関しては、現在PlayStation Network(PSN)/Qriocityにおける不正アクセス事件の対応中で、現時点では営業利益ベースで140億円の影響を見込む。「ネットワークの強化は着々と進めていたが、心配をかけてしまう事態になった。セキュリティを強化して、できるだけ早く回復したい。ただし、ネットワークが次の成長、収益の柱という考えを変えるつもりはない、一つの試練と考え、さらなる飛躍につなげたい(加藤CFO)」とした。
PSN以外のソニーグループのサーバーが攻撃を受けている状況について、神戸広報センター長は、「世界中のいくつかのWebサイトで攻撃を受けている。これらは、PSNやSOEとは違う事業体のシステムに対するハッキングだ。抱えている情報量や規模や違うが、PSNやQriocityのセキュリティ強化だけでなく、グループ全体として対応をやらなければいけない。とにかくセキュリティレベルを上げ、安全対策を手ぬかりなくやる」とした。
また、PSNの再開については、「5月中に全部再開したいという目標は変えていない。米国、欧州は部分的に再開しており、日本やアジアも日時は言えないが近日中に再開したい。なんとか5月中。遅れたとしても数日中でやりたい」(神戸広報センター長)。現在、一部復旧しているのは課金を伴わない部分で、課金などの安全確認作業を現在行なっているという。
映画部門は、売上高が前年比14.9%減の6,000億円、営業利益は9.7%減の378億円。ベストキッド、Grown Ups、ソルトなどがヒットしたが、ビッグタイトルが相次いだ前年との比較では減少となった。音楽分野は売上高が9.9%減の4,707億円、営業利益が6.6%増の389億円。金融分野は、ソニー生命の減収により、売上高は前年比5.3%減の8,065億円、営業利益は資産運用収益の減少により、同26.9%減の1,188億円。
持ち分法適用子会社のソニー・エリクソンは、売上高が前年比6.5%減の60億3,400万ユーロ、営業利益は1億3,300万ユーロ(前年は6億5,400万ユーロの損失)。高価格帯のスマートフォンに注力し、製品ポートフォリオを集約したことで、販売台数が減少、売上は落ちた。一方、単価は上昇し、コスト構造も改善。黒字化した。持ち分法によるソニーの投資損益は42億円の利益。
液晶合弁会社のS-LCDによる、持ち分法による投資利益は72億円。
■ 2011年度の営業利益見込みはほぼ横ばいの2,000億円
2011年度の業績見通し |
加藤CFOは、「2010年度はそれなりの成果のあった年になった。一昨年はリーマンショックから回復し、なんとか少ない利益を出せたというところだが、昨年は営業利益2,000億円まできた。不幸にして震災が起きてしまったが、今回心強く感じているのは、一昨年は金融やエンターテインメントがけん引していたが、'10年度はエレクトロニクスとソニー・エリクソンという本業の部分が大きく改善したこと。円高という厳しい環境の中、成果を上げることができた。2015年に営業利益率5%という目標に向けて、それなりに成果を上げることができた」とする。
一方で、「不幸にして震災は起きてしまった。それに負けずに事業の立て直しをやる」とした。テレビは第2、3四半期に、デジカメは第1四半期に大きな影響を受けるほか、事業所に大きな被害を受けたデバイスは第3四半期まで影響が続くと見込む。
2011年度の連結業績予想は前年比4.4%増の7兆5,000億円、営業利益は同0.1%増の2,000億円、税引前利益は同12.2%減の1,800億円。純利益は800億円。
(2011年 5月 26日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]