「PSN再開で90%のユーザーが戻った」。ソニー株主総会

-不正アクセス問題でストリンガー会長らが謝罪


株主総会が行なわれたグランドプリンスホテル新高輪

 ソニーは、2011年6月28日午前10時から、東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で、第94回定時株主総会を開催した。会場には8,360人の株主が駆けつけ、過去最高の出席者数となった。



■ 平井一夫氏「液晶テレビ事業の収益改善は最重要課題」

 議長を務めたハワード・ストリンガー会長兼CEOは、日本語で開会を宣言したあと、ソニーグループが置かれた現状などについて英語で説明。「2010年度は、スピードに主眼を置いたオペレーションの改善を図ってきた。またコスト削減活動のなか、優れた製品を市場に投入することができた。液晶テレビの製造においては、OEM、ODMの活用などの施策を継続した」などと語った。

 また、ソニーが運営するPlayStation Network、Qriocity、Sony Online Entertainmentに対するサイバー攻撃により、サービスが停止したことについては、「お客様、株主の皆様など多くの方々に、ご心配、ご不便をおけしたことをお詫びする」と謝罪。「全面復旧に向けて24時間体制で取り組んだ結果、現在では、(日本を除く)すべての地域、すべてのサービスにおいてほとんど再開できた。グループ各社にもサイバー攻撃が仕掛けられたが、グループ全体でセキュリティ強化を進めており、新たなユーザー体験を創造していく」と語った。

 同社では、不正アクセスおよびデータ流出の可能性が確認された時点でサービスを停止し、複数の情報セキュリティ専門会社とともに広範な調査を行ない、不正アクセスの範囲について公表。さらに新たな攻撃に対する監視機能の強化、不正アクセスおよび不審行為の検知機能の強化、データ保護と暗号化レベル強化などを柱とする追加的な安全管理措置を実施し、5月15日から一部サービスを再開したと説明。「ネットワーク戦略はグループ全体の最重要戦略のひとつであり、ソニーはグループ全体の情報管理体制を一層強化するとともに、個人情報の保護および安心で健全なネットワーク社会の発展に寄与していく」としている。

 また、中期的な業績目標として2012年度までに連結営業利益率5%、株主資本利益率10%の目標を掲げていたが、著しい為替変動、コンシューマエレクトロニクス市場における価格競争の激化など、事業環境の不透明さが増したことなどをあげ、これまでの事業構造改革をベースに、新たな経営体制の下で成長戦略を推進。「営業利益率5%の達成に向けて全力で取り組んでいく」(ソニー CFOの加藤優執行役EVP)とした。

 一方、2011年4月1日付けで、中核事業であるエレクトロニクスおよびネットワークサービス事業において、組織を再編したことを紹介。ソニーのすべてのコンシューマエレクトロニクス製品およびこれらをつなぐネットワークサービスを統括する「コンスーマープロダクツ&サービス(CPS)」グループと、半導体、放送・業務用機器などBtoB、コアデバイス事業および新規事業領域を統括する「プロフェッショナル・デバイス&ソリューション(PDS)」グループを設置。CPSグループでは、最重要領域であるコンシューマエレクトロニクス商品、ゲーム、ネットワークサービス事業において迅速かつ柔軟にリソース配分を行なうことにより、家庭とモバイルの双方の領域において次世代の商品開発を加速するという。また、PDSではグループではソニーの最先端技術とコアデバイスをベースにした垂直統合型の製品開発に貢献し、それを組み込んだソリューションの提供に力を注ぐとした。

 CPSグループを統括する平井一夫執行役EVPは、ネットワークプロダクツ、ネットワークサービス事業について説明。そのなかで液晶テレビ事業については、「コンスーマープロダクツ&サービスグループにおいて、液晶テレビ事業の収益改善は最重要課題である」とし、「パネルを含めた部品調達コストの削減、より効率的なオペレーションの改善をこれまで以上に加速していくこと。市場シェアの拡大を前提として、新興国を中心とした地域戦略、市場ごとのライフスタイルにあった顧客別商品の投入、販売会社までを含めた一気通貫の体制を確立するほか、メリハリのある商品戦略を図る。さらにバリューチェーンの見直しにも取り組む」とした。

 平井氏は、「ゲーム事業を大きな赤字から立て直した実績がある。テレビ事業においても同様の施策を押し進める」と赤字脱却に意欲をみせた。

 また、年内に発売する予定であるプレイステーション ヴィータ(PlayStation Vita)および今年秋以降の発売を予定しているソニータブレットに概要についても説明し、「感動を与え、好奇心を刺激する商品を提供しつづける」と語った。

 さらに、PlayStation Networkなどに対する不正アクセスについても触れ、「お客様からの信用と信頼を取り戻すことを第一にしてきた。いまはほとんどの地域においてサービスが再開している。お客様、株主のみなさまに多大なご心配をおかけした。またサービスの再開をお待ちいただいたお客様に感謝する。サービスの再開を喜んでいただく声が大多数であり、確実に信頼を取り戻しているものと実感している。今後も楽しんでもらうための高品質のサービスを目指す。ソニーらしい体験をしていただけるコンスーマ戦略に変更はない。今後のサービス強化でお客様の期待に応えたい」とした。

 一方、PDSグループを統括する吉岡浩執行役副社長は、イメージセンサー事業に関して説明。「1983年にCCDの量産を開始して以来、高画質、高感度で圧倒的な差異化を図り、世界の先頭を走り続けてきた。ソニー製品の垂直統合の強みをさらに発揮するために、2012年度はソニーセミコンダクタ長崎テックと熊本テックで1,200億円を投資し、増産体制を図る」などとした。



■ PSN再開で、90%のユーザーが戻る

 質疑応答では、代表執行役副会長の中鉢良治氏が進行を務めた。

 株主からは、「サイバー攻撃により、信頼が失墜し、株価も落ちている。社長交代をしてもらいたい」との提案があり、これに対してストリンガーCEOが回答。「うなずける質問である。震災、津波の影響以降、株価が低下している。サイバー攻撃に関して、ご心配とご不便をおかけし、お詫びしたい。情報管理体制において最大の強化を図る」と改めて謝罪。「PlayStation Networkの再開とともに、90%のユーザーが戻ってきてくれた。ソニーブランドに対する認知度、信頼度は明らかにあがっている。ソニーは、一度の多くの問題に接し、震災のようにコントロールしがたい経験もしている。構造改革のプロセスをさらに推し進めて、ソニーが提供する製品、サービス、コンテンツをネットワークの時代において、グローバルに確固たる地位を目指し、今後の成長を確実に促進していくことが任務。次世代の経営者を育成し、ソニーの将来にしっかりとつなげていく」とした。

 さらに、「ソニーがハッカーに狙われたのは、ソニー幹部の不用意な発言が元ではないのか」という質問については、「最初にソニーが対象となったのは、我々がゲームの知財権を守ろうとしたことに対してのものではないか。つまり、ゲームを無料で使いたいたいということが背景にあったのではないだろうか。ソニーはこれを守らないわけにはいかない。サイバーテロはグローバルに広がり、多くの企業や組織が標的になっている。政府による解決も必要とされるものになっている。我々は最善を尽くして自らを守っていく。そのための専門性を備えていく」とストリンガー会長が回答したほか、平井副社長は、「知的財産を守るために、ソニーが様々な行動を起こしたことで狙われたのではないか。これはソニーのためにだけやっているものではない。ソニーは、ハードを提供し、それによって、社内の制作部門やサードパーティーが投資をして開発したゲームソフトを楽しんでもらう。そして、これを全世界のディーラーが販売するというエコシステムの上で回している。だが、海賊版を放置しておくと、プラットフォームとしてビジネスが回らない。結果として、お客様が本当にユーザーが楽しんでもらえるソフトが出なくなってしまう。知的財産、IP、コンテンツの保護にはこれかも積極的に取り組む」と回答した。

 また、コンスーマープロダクツの赤字が続いていることについては加藤CFOが回答。「コンスーマ部門の収益性については十分ではなく、道半ばである。円高の逆風に立ち向かいながら構造改革に取り組んできた。営業利益2,000億円についてはコンサバティブであるという指摘もあるが、2月に事業計画を組んでいる点ではもう少し高い営業利益目標を立案していたが、エレクトロニクス部門を中心に震災の影響を加味せざるを得ないと考えた結果のもの。震災のインパクトは、エレクトロニクス事業のほとんどの部門に影響があり、売上高では4,400億円、営業利益では1,500億円の影響がある。ただ、これに甘んじているわけではなく、構造改革に取り組んでおり、これも震災の影響を緩和するものになる。できるだけで営業利益で2,000億円を上回るところを目指したい」と語った。

 また、平井執行役EVPは、「今年度はテレビビジネスの改善が最重要課題と思っている。コスト削減のほか、お客様に喜んでいただけるような製品が必要。例えば、インドにはインド特有の市場特性があり、それにあわせて、お客様に喜んでいただけるようなものを製品ポートフォリオとして考えていく必要がある。現在の製品ラインアップが適正なものなのか、成長戦略につながるものなのか、改めて考える必要がある」とした。



■ ネットワーク商品などで「デジタルな巨人として事業を推進」

 「ソニーは、アップルに対してどう戦っていくのか」との質問については、「ソニーには、アップルにはない様々な商品がある。テレビ、BDプレーヤーのほか、プラットフォームとしてのゲームビジネス、デジタルカメラやビデオカメラなどのビジネスもある。商品群の広さ、アセットがあり、これを生かしていく」と平井執行役EVPが回答。さらに、ストリンガーCEOが「初めてCEOに就いた時には、デジタルの世界に関して、あるいはアップルに対する質問をする人はいなかった。5年前にソニーはデジタルプラットフォームは持っていなかったが、いまでは世界第2位の規模を持つプラットフォームを持ち、PlayStation Networkは8,000万人に利用されている。累計で8億台のコンシューマエレクトニクス商品を出荷しており、そのうち3億5,000万台がネットワークにつながる商品となっている。ソニーはどの会社よりも多くのお客様とのタッチポイントを持っている会社である。我々は、さらに反撃を仕掛けていく考えであり、PlayStation Networkのようなプラットフォームを収入源として確立していく。ハードウェアは、いままでと同様にさらに進化を続けるが、それだけでなく、デジタルな巨人として事業を推進していくことが、将来に向けた大きな足がかりになる。アップルは震災には遭っていない、しかしソニーは震災に遭い、我々の歩みはゆっくりになった。だが、歩みを止めるものではない」などとした。

 「ソニーは、顧客に語りかけることが少なくなっている」との指摘に対して、「ソニーはわくわくするような製品、サービスを提供する会社であることは変わっていない。その点では、研究開発部門もがんばっている」と島田啓一郎SVPが回答。ストリンガー会長も、「株主の質問は、これまで大賀さんが築いてきたソニーの将来への懸念だと考えている。大賀さんは、盛田さんとともに、将来は、コンテンツと技術、サービスが融合することを見据えていた。それがいま起こっており、世界を一変させ、世界的な競争になっているが、ソニーは、この分野における融合においてもリーダーとなっており、技術の重要性は変わるものではない。サービスの重要性もそがれるものではない。ソニーもそれにあわせて形を変えてきた」などとした。

 ソニー商品の品質に関する質問では、「2006年以降、品質に対する指針をつくり、不良部品を入れない、作らない、不良製品を外に出さないという原則を守りながら、品質体制の強化に進めてきた」(品質担当の木暮誠SVP)とし、さらに中鉢副会長が、「どこで作ろうが、どんな部品を使おうが、SONYの4文字が培ってきた品質を維持することが最も大切である。かつてのアナログ時代には、量を作り込むことで、品質を良くしていくということもあったが、デジタル時代においては、高い品質のものを最初から作るということに取り組んでおり、さらに、お客様の声を広く聞くといった活動をしている。意見があればぜひ寄せてほしい」とした。

 また、質疑応答のなかでは、ソニーの事業売上高の大半を占めるコンスーマープロダクツを担当する平井氏が副社長に就任したものの、取締役に就任していないのはどうしてかといった質問も飛び出し、取締役会議長兼指名委員会委員長の小林陽太郎氏は、「委員会設置方式を取っている当社の場合、取締役は執行に対する監督機能を、強化、維持する体制としている。平井氏は副社長としての大きな責任に準じて、取締役にすることを考慮してもいいのではないかとの議論もあったが、取締役の負担を加えるのではなく、執行に全力をあげてもらうことが最適と判断したのが、指名委員会の結論である」と語った。

 さらに、ソニーには社外取締役が多いこと、サイバー攻撃が起きた際に、ソニーに駆けつけた社外取締役はいたのかと指摘する株主の質問については、「ソニーは、委員会設置方式を採用しており、業務の執行や、日々のマネジメントは執行役が責任を負う。サイバー攻撃の問題についても執行役が担当する。一方で、取締役会は執行を監督する立場にある。執行役は一つの会社で務めていた人物が多いのに対して、取締役会のメンバーは豊かなグローバルに知見を持った人たちばかりである。取締役会のピーター・ボンフィールド氏はセキュリティの専門家でもあり、その点での意見は大変参考になった」などとストリンガー会長が回答した。

 なお、第1号議案の取締役15名選任の件、第2号議案のストックオプション付与を目的として新株予約権を発行する件については、いずれも可決され、12時25分に閉会した。



(2011年 6月 28日)

[ Reported by 大河原克行 ]