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“HDR”が新たな軸に。高画質な放送に向け各社が協力
ドローン、8K、360度映像などの展示も
(2015/11/18 23:36)
今年で51回目を迎える国際放送機器展「Inter BEE 2015」が18日、千葉県の幕張メッセで開幕した。期間は20日までで、入場は無料(登録制)。'16年にはBSでの4K/8K試験放送を控えるほか、2020年の8Kも見据えた新しいカメラやモニターなどの放送機器、ワークフローなどが展示・紹介されている。
スカパーがHDR伝送デモ。撮影から編集、受信までトータルで実証
4K/8K映像関連の展示が毎年増え続けている一方、今年のInter BEEで見えた大きな動きの一つは、映像の明るい部分から暗い部分までの表現力を高める「HDR」(ハイダイナミックレンジ)を訴求した内容が目立っていること。夜景や日差しの強い映像など、明暗差の大きいコンテンツでは通常のSDRと大きな違いがあることなどから、多くの人にとってわかりやすい高画質化として、各社が提案している。
それを象徴するのは、スカパーJSATが実施している4K/HDR映像の映像伝送。同社の東京メディアセンターからJCSAT-3A衛星を通じて、幕張メッセ会場で受信するというデモが、会場内の複数ブースで行なわれている。
今回の伝送デモでは、HDR映像のガンマと、従来のSDR映像のガンマ、2つのガンマを組み合わせて伝送する「Hybrid Log-Gamma(ハイブリッドログガンマ・HLG)」を採用。この方式は、NHKとBBCが開発し、電波産業会(ARIB)で標準化された。
東芝ブースでは、このHDR映像を、4K対応REGZAの「Z20Xシリーズ」のHDRモードとSDRモードで比較展示。Z20XのHDR復元/色域復元機能により、SDRコンテンツがHDRに近づいた表現が可能になるという点をアピール。また、“マスターモニターと同等”というパラメータの「プロ画質モード」や、入力されたHDRコンテンツのレンジ変換特性、ピーク輝度など詳細なパラメータも表示できる点を紹介。民生用のテレビながら、スタジオや撮影時のコンテンツ確認などに使えることを訴求している。
スカパーJSATの有料多チャンネル部門 事業戦略室 事業戦略部 開発チーム サービス開発主幹の今井豊氏によれば、4K/HDRコンテンツとして「映画」で効果が高いことはよく言われるものの、それ以外の放送コンテンツで何がHDRに適しているかは未知の部分が多いという。そこで、スカパーが得意とするサッカーや音楽ライブなど様々な映像をHDRコンテンツとして制作し、どのように表現できるかを評価/検討している。
サッカー中継がHDR対応になった場合の利点としては、スタジアムの屋根で日陰になった部分と日向との明暗差があるシーンで、従来は手動で調整していたが、それが不要になる。また、音楽ライブでは、出演者の顔に明るさを合わせると、着ている衣装の色が飛んでしまう問題が回避できるメリットがあったという。
今回、HDRデモとして展示されたREGZA Z20Xは、10月末に発売された市販モデルそのままではなく、HLGに対応したファームウェアを適用したもの。HLGはARIBで既に規格化されているため、放送事業者などがHLGを採用することに合わせて、テレビメーカー各社が順次対応していくことが見込まれる。
前述した「プロ画質モード」や、詳細なパラメータ表示などは、民生用テレビのレベルを超えたREGZA独自のこだわりといえる。東芝ライフスタイル ビジュアルソリューション第一事業部 商品企画部 参事の本村裕史氏によれば、元の映像をいじらずストレートに表現できる点などが業務用途でも評価され、プロの購入も多いとのこと。スカパーJSATの今井氏も、業務用モニターではなく、映像を楽しむためのテレビでHDRがどう映るかを確認することで、どんなコンテンツがHDRに向いているかを検討できるという。
このほか、スカパーのスタジオに設置されたソニーの4Kカメラ「F55」で撮影した4K/HDR映像は、ソニーブースで観ることが可能。HDR対応モニタやテレビを使った映像評価コーナーも設け、HDRとSDRの比較もできる。
今回の伝送デモは、HDR映像制作において、撮影から編集、伝送、受信までの環境がひと通り揃ったことを示すものでもある。ソニーが撮影用のカメラを、編集システムは共信コミュニケーションズの「Mistika」、映像チェックの波形モニターはアストロデザインが開発した「WM-3206」と、各社の協力によりトータルの環境が整いつつある。