ミニレビュー
Amazonで衝動買いした激安ノイキャン完全ワイヤレスの実力は!?
2021年2月12日 08:00
Amazonで偶然目にした完全ワイヤレス
夜更けにあてもなくAmazonを彷徨っていたところ、ふと目についた完全ワイヤレスイヤフォン。6千円を切る5,999円のプライシングで、昨今は安くなったものよ……とよく見れば「アクティブノイズキャンセリング」の文字が。しかもタイムセール期間中だったので20%オフで驚きの5千円切りとなる4,799円、マジですか? というわけで、気がついたらカートに入れていた。せっかくの機会なので、この「EarFun Free Pro」の実力を検証してみよう。
「TWS+ANCイヤフォン」をまさかの値段で入手
イヤフォンの主流がワイヤレス、それも左右をつなぐケーブルすら存在しない完全ワイヤレス(以下、TWS)に移行してから久しいが、そこに新たなトレンドとして登場したのがアクティブノイズキャンセリング(以下、ANC)。Apple「AirPods Pro」やソニー「WF-1000XM3」といった例を引くまでもなく、目下イヤフォンにおいては「TWS+ANC」がもっとも熱いカテゴリだ。
このTWS+ANCイヤフォン、考えるまでもなく設計が難しい。TWSとして重要な音途切れの少なさ、連続再生時間の長さに加え、ANCの効きを求められるからだ。ANCは周囲のノイズに対し逆位相の音をリアルタイムに生成する必要があり、効果を高めるにはプロセッサ性能が必要となる。マイクの取り付け位置や密閉性などアナログ要素も入ってくるから、高度な設計ノウハウなしには挑めない。そのうえ音質や防水性能などプラスαを要求されるのだから、生半なメーカーでは製造にたどり着くことすら困難だろう。
その高いハードルを下げる役割を果たすのが「Bluetooth SoC」。Bluetoothの通信機能にくわえてDACやアンプなど、ドライバーユニットの前段を一手に担う存在だ。そこにANCの機能を追加するとどうなるか。ANC用プロセッサを別に用意するより設計しやすいうえ省スペースとなると、サイズに厳しい制約があるTWSイヤフォンにとっては魅力的な選択肢となる。QualcommやAiroha、RealTekといったチップベンダーがこの分野でしのぎを削っていることは周知のとおりだ。
前置きが長くなったが、このFree Proもそのような統合型Bluetooth SoC「Airoha AB1562」が搭載されている(本稿執筆時点では公式サイトにもAmazonの販売ページにも記載はないが、SNSで回答を得た)。左右のイヤフォンそれぞれがL/Rのオーディオ信号を受信するAirohaの技術「MCSync」にも対応しているとのことで、音途切れの少なさも期待できる。
スペック的には“てんこ盛り”という言葉がしっくりくる。28dBのアクティブノイズキャンセリング、アンビエント(外音取り込み)モード、レイテンシ100ms以下の低遅延モード、テレビ会議に重宝しそうな片耳利用モード、そして音声通話用ノイズキャンセル機能。平時は約7h・ANC有効時は約6時間という再生時間もポイントだ。
イヤフォン本体以外の部分も充実。ワイヤレスでもUSB Type-Cでもチャージ可能な充電ケースのほか、XS/S/M/L 4サイズのシリコン製イヤーピースにS/M/L 3サイズのイヤーフック、充電用のUSB Type-Cケーブルが付属する。TWSイヤフォンと聞いて思いつく仕様・機能は、ひととおり網羅されているのではないだろうか。Webで見るかぎり、奇をてらわないデザインにも好感が持てる。実物は、果たして?
ANCの効きをチェック
注文翌日に届いた製品を開梱してみると、再びビックリ。パッケージのつくりや梱包は丁寧すぎるほどで、充電ケースやイヤフォンのシェル部分には傷防止のフィルムが貼られていた。イヤーピースなど同梱のアクセサリも、トレイ上に整然と並んでいる。正直、アンダー5千円だからと覚悟していた部分はあったが、いい方向に裏切られてしまった。
イヤフォン本体の質感もいい。樹脂製だが目の細かいサンドブラスト加工が施されており、パッと見は金属のよう。装着感も上々、イヤーフックを耳の凸部にひっかけると細身のハウジングがすっきり収まる。筆者の場合、イヤーピースとイヤーフックは初期状態(どちらもMサイズ)でジャストフィットしたが、SやXSが用意されているので耳が小さい人は安心だろう。
音楽を聴く前に、ANCの効きを検証してみた。対象は走行中の電車内の音とキッチンの換気扇の音(ジェット機内のノイズレベルと傾向が似ている)と自宅での家族の会話の3種類、音楽再生なしの耳栓状態で使うことで、どれほどノイズ低減効果が得られるかというテストだ。
電車内の音は、まずまずというところ。最大28dBの低減というだけのことはあり、「ガタンガタン」が「カタンカタン」くらいには大人しくなるが、発車メロディには気付く。地下鉄乗車時のノイズ低減効果も認めるものの、もう一段階下がって欲しいのが正直なところ。この点、フィードバック方式(イヤフォン内部のマイクでノイズを集音)とフィードフォワード方式(イヤフォン外部のマイクでノイズを集音)を併用するハイブリッド方式ではなく、フィードフォワード方式単独でANCを実現しているからなのかもしれない。
換気扇の音は、不快な低域寄りの部分がかなり低減される印象だ。回転音が「ゴーッ」から「シューッ」へと変化し、より低い「ゴゴゴゴ」とより高い「キーン」いう音はほぼ気にならなくなる。このご時世、海外出張の機会はないが、これまでの経験からいって飛行機内での利用にも効果がありそうだ。
しかし、換気扇につきもの(?)の調理音は取りきれない印象。トントントンという包丁の音、食器がぶつかる音も、約3メートル離れた場所から聞き取れる。衝撃音の低減を苦手とするのはハイブリッド方式のANCイヤフォンだとて同じだが、もっと効果があればというのが本音だ。
家族の会話についても傾向は同じで、全体的なトーンは下がるが、意識すれば会話の大筋をつかめる程度に声は聞こえる。もっとも、リビングで原稿を書いている背後から聞こえるテレビドラマの音声が、集中力を削がれない程度に低減されたので、テレワーク/テレスクール用途の効果はあるといえる。
気になる音質もチェック
肝心の音質だが、基本的には低域重視のテイストだ。複合振動板採用の6.1mm径ダイナミックドライバーは、重低音とまではいかないものの、ベースやバスドラムを量感たっぷりに聴かせてくれる。もう少しスピード感、音の輪郭の緻密さが欲しいところだが、期待値以上の鳴りっぷりといえる。
iPhone 12でAmazon Music HDの楽曲を中心に試聴したが、ボーカルがいい。ウーター・ヘメルの「Details」は音像の重心が低く、声に艶と厚みがある。ダイアナ・クラールの「The Look of Love」はリップノイズが聞こえそうな近さで、エコーの効きにも嫌味がない。
楽器の聴こえ方に関して言うと、中高域の解像度がもう少し欲しいところ。アンドリュー・ヨークの「Sunburst」は、ギターのパッセージ部分は速度感があり響きも自然だが、ハーモニクスの伸びと輝きがあとひと息。ラルフ・タウナー&パオロ・フレスの「Chiaroscuro」も、フレスのトランペットにはもっと光沢感があったはず。
もっとも、この価格帯でこのレベルの音と捉えると印象は変わる。製品としてはANCを訴求すればじゅうぶん他製品と戦えるところ、6.1mmのドライバーでよくぞここまで音を仕上げたものだという気すらしてくる。
なお、音飛び・音途切れはかなり少ない。電車で横浜駅に近づいたとき、一瞬途切れたかなと思うことがあったくらいのもので、不安定さとは無縁だ。これはやはり、LからR(またはRからL)へのリレー送信を伴わない伝送技術「MCSync」の効果だろう。
遠慮なく使い倒せる圧倒コスパのTWS+ANCイヤフォン
このFree Pro、事前情報なしにタイムセールで目に止まったから購入した製品だが、実際に見て・聴いて驚いた。ペアリングは充電ケースから取り出すだけでスタートするし、タッチセンサーの反応もいい。ボディの質感は上々で小柄だからフィット感も良好、IPX5準拠という安心感もあり屋外へ臆せず連れ出せる。
ANCも、より効果が大きい製品を知る身には「なるほどね」というところだが、この価格となると話は変わってくる。TWSイヤフォンの片側を数回紛失した経験があるからだろう、ウン万円のANC+TWSイヤフォンを外へ持ち出すときには少し躊躇してしまうが、なにせ5千円台だ。遠慮なく使い倒せるということは、ふだん使いのガジェットにとってかなりのプラス材料といえる。
音質とANC以外の部分を敢えて指摘するとすれば、近接センサーが搭載されていないため、自動オフ/再生停止にはならないこと。うっかりタッチセンサー部に触れて音量アップなどの操作をしてしまいがちなこと。曲送りはできるが曲戻しはできないこと、なぜか左側の「earfun」ロゴが上下逆転していること、これくらいだろうか。
オンライン専売とはいえ、5千円台で入手できるANC付きTWSイヤフォン。しかも、つくりと機能はかなり"しっかり"している。たまにはタイムセールの衝動買いも悪くないもの、想像を超える出会いに感謝だ。