レビュー
シンプルで高音質。AirPods Maxで豊かになる“音楽のある生活”
2021年1月26日 07:30
2020年12月8日夜に突如発表されたアップルのワイヤレスヘッドフォン「AirPods Max」。同社にとって初のヘッドフォン製品、イヤーカップ部にアルミニウムを使った筐体もさることながら、なにより61,800円(税別)という価格が大きな話題となった。今回、そんなAirPods Maxを自腹で購入し、約1カ月使い倒してみて、ハイプライスにふさわしい快適さを手にできたかどうかをお届けする。
筆者はAirPods、AirPods Proと、アップルの完全ワイヤレスイヤフォンを愛用してきたひとり。ケースから取り出すだけでiPhone/iPadと接続される快適さ、iOS/macOS端末であればシームレスに接続先を変更できたり、片耳からイヤフォンを外すと楽曲再生が一時停止されるといった便利さの虜になってきた。
これまでワイヤレスヘッドフォンは、ソニーのWH-H900Nや、ボーズのBOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700を愛用してきたのだが、AirPodsに慣れすぎたせいか、最近は耳から外したときに再生が一時停止されないことに、少し不満を感じるようにさえなっていた。
そんな時に登場したAirPods Maxは、シリーズの特徴である接続性、快適性を備えていた。発表された価格は、ネット上でまことしやかにささやかれていた噂や、自身の予想よりもはるかに高かったため、購入する際、さすがに戸惑ったが、「ヘッドフォンでも、あの快適さを味わえるならば……」と半ば勢いで購入した。
今回購入したカラーはグリーン。購入した直後は12月30日配送予定と案内されていたが、発売日の18日に手元へ届いた。
快適さを生み出す音質。映画はまるでミニシアターに
到着後、約1カ月ほど使用してきたが、AirPods Maxがある生活はやはり快適。自宅内はもちろん、近所のコンビニやスーパーへの買い物など、ちょっとした外出時にも持ち歩いている。
特に快適さを感じるのは音質と操作体系。AirPods Maxには、アップルが独自開発した40mm径のダイナミックドライバーが搭載されており、低音域も量感豊かに響かせつつ、中高音域もしっかり響かせてくれる。
筆者は普段、カスタムインイヤーモニターの「UE Reference Remasterd」を愛用していて、モニターライクなサウンドが好み。そんな筆者にとって、AirPods Maxのサウンドは、モニターライクでありながら、低音域もやや強めに奏でてくれる印象を受ける。
特にボーカルモノとは相性が良い印象で、例えばキーボードとボーカルを務める井口理のハイトーンボイスが特徴的なKing Gnuの「三文小説」は、歌い出しのボーカルや弦楽器、金管楽器のサウンドが臨場感たっぷりに感じられ、サビにかけて重なっていくコーラスはもちろん、ドラムのズシンと響くサウンドもしっかりと届けてくれる。
昨年末の第71回紅白歌合戦でテレビ初パフォーマンスを披露したYOASOBIの「夜に駆ける」や、LiSAの「炎」なども、ボーカルがすぐ近く感じられつつ、ピアノやストリングスなどのサウンドも心地よく鳴らしてくれる。
映画などのコンテンツを視聴する際も、低音が頭部を揺らしてくるような感覚で、ディズニー+で「アベンジャーズ:エンド・ゲーム」を視聴した際は、まるで頭だけミニシアターに飛び込んだかのような感覚さえ味わえた。
AirPods Maxと比べると、それまで音質面で不満を感じていなかったWH-H900NやHEADPHONES 700は、どの音域もベールがかかったように少し曇って聴こえるようになってしまった。
いつまでも聴いていたくなるサウンドを奏でてくれるAirPods Maxは、装着感も良好。筆者は耳が大きく、ヘッドフォンによっては短時間の装着でも痛みを感じてしまうのだが、AirPods Maxに関しては4時間ほど連続で着け続けても、痛みや不快感を感じることはなかった。
しかし、重さについては少しネックに感じる部分。AirPods Maxの重さは384.8gで、ボーズのHEADPHONES 700(約250g)と比べると、100g以上重い。デスクワーク中や電車内などで座っている際に重さを感じることはないものの、立ち上がったり、歩いたり、少しかがむような動作をすると、いつもより頭が重いなと感じることがある。
ただ、AirPods Maxは頭部へのホールド力も程よいため、前かがみになっても、重みでズレるようなことはない。
AirPods Maxの目玉機能のひとつである「空間オーディオ」については、昨年12月21日に掲載したコラムで西田宗千佳氏が「思わず微笑んでしまうほどエキサイティングな体験」と評していたので、ぜひ体感したかったのだが、iTunes Storeで配信されている対応作品に観たいものがなかったこと、Apple TV+を契約していないことなどから、いまだに体験できていない。ここはNetflixやHuluなど、アップル以外の動画配信サービスにも選択肢が増えてほしいところだ。
電源ボタンさえないシンプルな操作体系も快適さの要因。ケースには不満も
操作系については、右ハウジングに物理ボタンがひとつとデジタルクラウンがあるのみで、タッチセンサーはおろか、電源ボタンさえ用意されていない。初めて使う場合や、久しぶりに使う場合でも「このボタンは何だっけ?」と操作に困ることはなく、すぐに使いこなせるだろう。
デジタルクラウンを使ったボリューム調整は快適そのもの。クラウンの回転はスムーズで、細かなボリューム調整も簡単なので、物理ボタンで調整する場合に直面しがちな「音量をひとつ下げると小さすぎるけれど、ひとつ上げると大きくなりすぎる」といった事態を回避できる。物理ボタンを使ったノイズコントロールモードの切替も、AirPods Proと同様、スムーズだった。
電源ボタンがない点も便利さを感じるポイント。付属のスマートケースから取り出して装着すればiPhone/iPadと接続される上、スマートケースに収納すれば自動で“超低電力状態”に切り替わるので、うっかり電源を切らずにケースにしまってしまい、次回取り出したときにバッテリー残量がない……といった状況に直面することがない。
ただ、スマートケース自体が134.5gとやや重いこと、一番衝撃に強いであろうアルミ製ハウジング部分を保護しながら、最も保護してほしいメッシュ製ヘッドバンド部がむき出しになる点は気になるところ。いまのところ、ヘッドバンドにダメージはないが、カバンなどにしまう際は、一番最後にしまうように心がけている。
バッテリー持ちや接続性、ノイズキャンセリング性能も優秀
社会情勢などもあり、連日外出するようなシチュエーションがなかったため、バッテリー持ちについて本格的な検証はできていないが、自宅で毎日1~3時間ほど使っていると、3日間の使用でバッテリー残量は約半分といったところ。本体にバッテリー残量を読み上げるような機能はないが、接続したiPhone/iPadのバッテリーウィジェットで確認できる。
ソース機器との接続も極めて良好。この1カ月の間に接続が不安定になったのは、渋谷の地下街を通ったときと、表参道を歩いていたときの2回だけ。ただ筆者の場合、メインで使っているiPhone Xに電波を少なからず遮断してしまうアルミ製バンパーを装着しているので、それが影響した可能性は否めない。
ノイズキャンセリング性能はHEADPHONES 700と同等程度に感じられ、自室で作業中は空気清浄機や加湿器から生まれるノイズやタイピング音を、音楽を再生すれば気にならないレベルまで抑制してくれる。電車のノイズも同様で、音楽などを聴いていない状況で、うっすらと車内アナウンスが聞こえる程度まで遮断してくれた。
また、今回はヘッドフォン端子接続用に、3,800円(税抜)で販売されている「Lightning - 3.5mmオーディオケーブル」も購入した。ケーブル長は1.2m。価格の高さがネックだが、Bluetoothを利用できない端末や環境でAirPods Maxを使う場合の必需品となる。
ただし、iPhoneやiPadと接続する際には、さらに「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」や「USB-C - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」などが必要になる。
ちなみに、このケーブルを接続している場合でもノイズキャンセリング機能は利用可能。また接続したソース機器側とは別に、ヘッドフォン側でも音量調整ができるようになっているので、注意が必要だ。筆者は最初そのことに気づかなかったため、接続したソニーのNW-ZX100+ポータブルアンプPHA-1Aでボリュームを最大にしても、まったく音量が取れず戸惑ってしまった。
AirPods Maxは記事執筆時点で、Apple Storeでの配送は早くても8~10週と入手困難な状況が続いているが、ケースから取り出して装着すれば、すぐに音楽が再生され、外せば一時停止される快適さ、操作の単純さは、一度味わうとほかには移れないと感じるポイント。
映像作品だけでなく、どんな音楽も量感豊かに表現してくれるので、いろいろな音楽を聴いてみたいと、音楽ストリーミングサービスへの加入も検討したくなるほど。手元に届いてから1カ月、AirPods Maxは、音楽のある生活をさらに豊かにしてくれる良きパートナーになってくれた。