レビュー

もはや隙なし!? ソニーのワイヤレスNCヘッドフォン「1000X」は空も陸も快適

 ソニーから、ワイヤレスヘッドフォンのフラッグシップモデル「MDR-1000X」が登場した。“業界最高クラスのノイズキャンセリング機能”を備えるということで、'15年に発売された「h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)」を愛用している筆者もその性能が気になっていた。ちょうど出張で飛行機に乗る機会があったので、両機種のノイズキャンセリング機能比較を中心に、MDR-1000Xの実力をチェックした。

MDR-1000X

 MDR-1000X(以下1000X)の大きな特徴は、強力なノイズキャンセリング(NC)機能をワイヤレスでも利用できる点にあるが、その他にも、独自のDSEE HX機能による圧縮音源のアップスケーリング再生や独自のデジタルアンプ「S-Master HX」など、従来モデルから強化されたポイントはいくつもある。

 これまでと変わった点の中で、最初に触れておきたいのはデザイン。3月に発売された既存モデルのMDR-100ABN(100ABN)は、シナバーレッドをはじめとした鮮やかな5つのカラーリングが目を引き、幅広なヘッドバンドも特徴的だ。若年層なども含めてユーザー層の拡大を狙ったように思えるが、その一方で、落ち着いた色や形が好みの人は、ボーズが6月に発売した「QuietComfort 35 wireless headphones(QC35)」の方が魅力的だったようにも思う。

 今回の1000Xは、ブラックとグレーベージュの2色で、ハウジング外側に、シボ加工の合成皮革を用いるなど、最上位機としての風格を持ったデザインに仕上がっている。過度には目立たず、スーツやジャケットなどの服装にも違和感がない、大人向けといえる存在感だ。

ハウジング部の表面は人工皮革を使用

 装着してみると、従来モデルよりも、すんなり頭にフィットするように感じる。よく触ってみるとハウジングが横に回転する可動域が広がっており、動き方も滑らか。とはいえフニャフニャしているのではなく、低反発ウレタンを使った柔らかなイヤーパッドと相まって、一度頭に着けると吸い付くようにその場所に留まるのが快適。重量は約275gで、100ABN(約290g)より少し軽くなったのもうれしい。

装着例
100ABN(右)に比べて、1000Xはヘッドバンドもスリムに

 2機種を比べてみると、イヤーパッドの耳や側頭部に触れる部分に細かな違いがある。従来の100ABNも、弾力のあるイヤーパッドの手触りは心地よいが、新しい1000Xの方が全体的に丸みのある形状で、肌に縫い目の部分が触れないようになっている。飛行機など、長時間利用することも多いNCヘッドフォンで、こうした細かな配慮があるのは、最上位モデルとしてのこだわりを感じる。

100ABN(右)と1000X(左)のイヤーパッド部の比較
付属ケースも落ち着きのあるデザインで、フラットに折り畳んで収納
ステレオミニケーブル(右)も付属し、バッテリが切れた場合などは有線でも利用できる。右は充電用のUSBケーブル

“ハイレゾ”を強調しすぎない、優しく包む低域が魅力

 早速、メインの目的である飛行機でのノイズキャンセリング機能を試した。今回は国内線で1時間強の短いフライトだったが、1000Xと100ABNを交互に試してみた。プレーヤーは、ウォークマンの「NW-A30HN」シリーズを使用。NFCに対応し、ハウジングにかざすとヘッドフォンの電源がONになり、自動でBluetooth接続される。

NFCでウォークマンAとペアリング

 なお、飛行機の中でのワイヤレスヘッドフォンの使用については、2014年9月のルール変更により、利用できる機体が増えている。今回は使う前に客室乗務員に確認したが、航空会社のサイトや、機内のパンフレットなどにも記載されている場合があるので、乗る機体がわかった時点で、事前に確認しておきたい。

飛行機でNCの実力をチェック

 機内で1000Xを聴いて最初に気付いたのは、低音のゆったりした響き。従来の100ABNは、Bluetoothのコーデック「LDAC」での高ビットレート伝送によって、“ワイヤレスでもハイレゾ相当”をNCヘッドフォンでも実現したのが新たな特徴だったこともあり、低域の力強さと合わせて繊細な中高域描写も印象的だったが、大きなノイズに包まれる機内では、解像感の高い中高域は感じられる一方、低域は一歩引いたような印象になってしまった。新しい1000Xは、解像感の高さは失わずに、低域の厚みがプラスされたようだ。

 例えば、明るい曲調と澄んだ歌声が特徴的な、藤田麻衣子「STEP」を聴いたときは、両機種を、それぞれ聴きやすい音量にして比べると、100ABNでは、特にボーカルの「サ行」や「タ行」のエッジが少し立ちぎみだと感じるのに対し、1000Xでは、中高域の解像感は高い一方で、低音が程よく包み込むことで、全体的にバランスの取れた聴きやすいサウンドになった。

 また、ダイアナ・クラール「Wallflower」は、ボーカルとピアノ中心の静かな曲だが、中盤以降に盛り上がる弦楽器パートが、1000Xで聴いた方が低域の安定感が心地よく、ゆったりした落ち着きを全体にもたらしている。100ABNで聴くと、ハスキーな歌声の特徴が、より強調される一方、1000Xで聴くと、少し湿度がプラスされたような、落ち着きや、温かみが感じられた。

 こうした違いは、騒音の多い環境だけでなく、比較的静かな室内で試したときにも実感した。NC機能の強化で、あまり音量を上げなくても周囲のノイズが適切に抑制されただけでなく、再生音そのものの高音質化も貢献しているのだろう。ハイレゾ音源だけではなく、CDからリッピングしたFLACなどでも同様の傾向があり、ヘッドフォンに備えたDSEE HX機能による圧縮音源のアップスケーリング機能も効果があるようだ。

 音の個性の違いは、あくまで比較した場合に分かったものであり、これまで100ABNを単体で使い続けてきて、長時間で聴き疲れたと思うことはなかった。しかし、いま2つを並べてどちらか選ぶなら、1000Xの方が、約5,000円という価格差以上の満足感が得られるといえる。側圧は、わずかに1000Xの方がソフトなように思うが、歩いたりしてもずれるようなことはない。よくフィットするイヤーパッドなどの効果もあるのだろう。

 飛行機内で、試しにウォークマンA35HN本体のNC機能を使って、ウォークマン付属イヤフォンの音とも聴き比べてみた。このイヤフォンは、高域まできれいに出ることもあって、付属品としてはかなり優秀だが、電車で聴く場合とは違って、飛行機の中ではかなり音量を上げなければ音楽が聴こえにくい。例えば飛行機内でダフト・パンク「Get Lucky feat.Pharrell Williams」を聴くと、この曲の魅力である低域の迫力は、ボリュームを70くらいまで上げないと、満足できるレベルに感じられなかった(電車などでは50前後で聴いている)。NCがイヤフォンで利用できること自体はメリットだが、本格的なNCヘッドフォンと比べてしまうと、やはり1000Xに軍配が上がるのは仕方ないだろう。

ウォークマン付属のNCイヤフォンとも比較

細かな配慮が行き届いたNC機能。タッチの操作感も満足

 メガネ使用者などにもうれしい1000Xの新機能が「パーソナルNCオプティマイザー」。装着したユーザーに合わせて、最適な設定を行なうというもので、髪型やメガネの有無、装着のズレ具合などを計測して、最適なノイズキャンセリングができる。ハウジング側面のNCボタンを長押しすると、試験信号が流れて測定と設定を開始。ボタンを押し始めてから20秒前後で終わった。極端に音が変わるほどの変化ではないが、確かにメガネを掛けていても、NCの効果が薄れるといった問題は無かった。メガネを着けたり外したりといったタイミングで、簡単に微調整できる便利な機能だ。

NCボタンを長押しすると「パーソナルNCオプティマイザー」が動作

 音楽を聴きながら、周囲の音を取り込む新機能「アンビエントサウンドモード」も試した。ノイズを低減しつつ、人や声のアナウンスなどをマイクで取り込むボイスモードと、自然に周囲の音を取り込むノーマルモードが利用できる。

 騒音の大きい飛行機では、アンビエントモードにすると、ボイス/ノーマルどちらのモードでも音楽が少し聴こえにくくなった。ボイスモードにすると分かりやすいのは、「ゴー」という低域のノイズをカットしつつ、人の声などの中域~高域は取り込んで聞きやすくしてくれる点。周囲の音をマイクで拾っている分、NC機能をオフにしたときよりも、周りの音が聞こえやすい。いつ始まるかわからないアナウンスなどを聞き逃したくない場合には、あらかじめボイスモードにしておくといいだろう。

 一方、「ヘッドフォンをしていない時のように周囲の音が聞こえる」というノーマルモードは、飛行機より少ないノイズの環境であれば、音楽もある程度聴こえた。こちらは電車や街歩きなどに適したモードのようだ。

アンビエントサウンドモードON時

 もっと簡単に、とっさのタイミングで外の音を聴きたい場合に使えるのが、「クイックアテンション」機能。外部の音を取り込むだけでなく、再生している音楽のボリュームが小さくなる。飛行機や電車のアナウンスなどがあった時に、ヘッドフォンを外さなくても、ハウジングを手で覆うようにすると、音楽はミュートに近い状態になる。手で覆っている間はずっと周囲の音が聞こえる。

ハウジング部を手で覆うと、クイックアテンション機能が動作

 こうしたNC機能のほかに、接続したウォークマンなど音楽再生の操作もハウジングのタッチ操作でできるようになった。前にスワイプすると曲送り、後ろで戻し、上が音量アップ、下が音量ダウンとなる。ダブルタップで一時停止/再生。こうしたタッチ操作は、反応が遅いとストレスになりがちだが、前述したクイックアテンション機能を含め、素早く動作するため、ハードウェアのスイッチが省略されたことにデメリットは感じない。ジョグスイッチを手触りで探す従来の方法に比べると、とっさの時にはタッチの方が素早くできた。

 細かい進化点としては、前述したようにハウジングの可動域が広がったことで、首に掛けた状態でもハウジングを平らにできるようになった。従来の100ABNでは、首掛けしている時にアゴにハウジングが当たって首が動かしずらい時もあったが、平らにできると首も楽なので、使っていない時も邪魔にならない点はうれしい。

 なお、今回のフライトは往復でも3時間に満たない時間だったが、内蔵バッテリでの連続使用時間は最大20時間(NC OFF時は22時間)のため、海外へのフライトでも、片道でバッテリが切れる心配は少なそうだ。

100ABN(右)が、ハウジングを写真の位置までしか回転できないのに対し、1000X(左)は平らになるまで回転可能

飛行機だけでなく普段から使いたい、新たな全部入りモデル

 新しい1000Xは、LDAC対応でNC/ワイヤレスでも高音質で楽しめる“全部入り”ヘッドフォンとしては2世代目に当たるモデルとして、従来の100ABNと比べても確実に進化したことを確認できた。あえて気になった点を挙げるとすれば、動作中のLED点灯は、もう少し目立たなくしてもいいのではと思ったくらいだ。

 100ABNも、これまで使ってきて、完成度の高いヘッドフォンだという考えは変わらない。ただ、より快適な装着感や、高い音質を求めるなら、その違いは1000Xで実感できるだろう。本体のデザインは好みによって意見は分かれそうだが、100ABNのエッジが効いた形状と色から、1000Xではスタンダードなものに落ち着いており、服との組み合わせもあまり気にする必要はなく、使えるシーンが幅広くなりそう。もしデザインの面で100ABNの購入を見送っていた人がいたら、今回の1000Xは迷わず“買い”だといえる。また、高音質なLDACに対応したウォークマンやXperiaを持っているなら、ワイヤレス再生にベストな組み合わせであることも間違いない。

 NCは特別な機能というよりも、快適に、よりいい音で聴くために常時ONにする、当たり前の機能になったことを今回のモデルで改めて感じた。出張時など必要な場合だけでなく、仕事などで集中したいときや、外でゆったり音楽を聴きたい時、電車で少し外出する時などにも気軽に使いたいヘッドフォンに仕上がっている。

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MDR-1000X

中林暁