レビュー

オシャレで1万円台、でも「羊の皮をかぶった狼!?」。AKGのイヤフォン「N25」

 上を見ればキリがないイヤフォン/ヘッドフォン市場。だが、多くの人が「ちょっといいヤツが欲しいな」と買うのは、1万円台くらいの製品だろう。また、多機能でマニアックな製品もグッと来るが、通勤通学でも使うので「あんまり威圧感の無い、小さくてオシャレなヤツがいい」という人も多いハズ。そんなニーズにマッチしそうなイヤフォンが、今回聴いてみるAKGの「N25」だ。

AKGの「N25」

 オーストリアで1947年に創立されたAKG。今年で70周年を迎える老舗メーカーだ。現在はハーマンインターナショナルの中のブランドになっている。マニアにはお馴染みで、ドイツ語読みで「アーカーゲー」と呼ぶのが正解だ。

 古くからモニターヘッドフォンを得意とし、歴史も長いので名機も多い。オーディオファンにとってはある意味“泣く子も黙る”立ち位置にあるブランドだ。一方、最近はハウジングにでっかく「AKG」とデザインしたヘッドフォン「Y50/Y50BT」を身につけた若い女性を電車で目にする機会が増え、“音もいいけど、オシャレ”というブランドイメージを持っている人も増えているようだ。

AKGの「Y50BT」

 今回取り上げる「N25」も、外観は小さくて可愛い。だが、中身は一筋縄ではいかないという、ある意味AKGらしい製品だ。2月から発売されており、価格は19,880円でほぼ2万円だが、発売から少し時間が経過しており販売価格は下がってきている。さらに現在、ハーマンの直販サイトではキャンペーンで8,000円引きの11,880円で販売中。これなら「お、買ってみようかな」と思いやすい価格と言えるだろう。

「N25」。左から時計回りにティールグリーン、ベージュ、ブラック

 AKGのイヤフォンラインナップとしては、最上位に「K3003」(直販148,000円)が存在。その下に、ケーブル着脱が可能で、フィルタ交換で音のカスタマイズもできるマニアックな「N40」(直販39,880円)、「N30」(29,880円)と続き、「N25」はN30の下に位置する。なお、N25はハイレゾに対応しており、AKGのハイレゾ対応イヤフォンとしては最もリーズナブルなモデルとなる。なお、N25よりも上位モデル「N40/N30」については以前レビューをしているので、そちらを参照して欲しい。

小さな筐体に、ダイナミック型ユニット×2を投入

 デザインを見ていこう。カラーバリエーションは、ブラック、ベージュ、ティールグリーンの3色。ティールグリーンはイヤフォンでは珍しいカラーだ。また、ベージュはシックで上品なカラーで、大人の女性にもマッチしそうだ。

 ハウジングは小さめで、キラッと光沢のある縁取りがアクセントとなっている。イヤフォンというより、ちょっとしたアクセサリのような雰囲気もある。プレゼントにも良いかもしれない。

「N25」のベージュモデル。女性にも好まれそうなカラーだ
こちらはブラックモデル

 ここからが面白い。一見すると「ハウジングが小さいから、バランスド・アーマチュアユニットのシングルか、小口径のダイナミック型ユニット1基が入っているのかな?」と思いきや、実はこのハウジングの中に、5.8mm径と9.2mm径、2つのダイナミック型ユニットが搭載されている。

5.8mm径と9.2mm径、2つのダイナミック型ユニットが搭載されている

 「2基、しかもダイナミック型がよくこのサイズに入るな」と驚くが、分解イラストを見ると、確かに2基入っている。当然余分な隙間はほぼなく、まさに“ミッシリ”詰まった状態。開発もそうだが、作るのも大変そうではある。

 周波数特性は20Hz~40kHzで、前述の通りハイレゾ対応。感度は92dB/mW、インピーダンスは16Ωと、スマホなどに接続しても鳴らしやすいイヤフォンと言えるだろう。

 ケーブルは1.2mで、入力は3.5mmのステレオミニストレート。ケーブルの途中に、スマホ用マイクリモコンも装備している。このケーブルは、ハウジングのカラーと揃えられており、なおかつ布巻き仕様で高級感があり、肌触りも良い。価格を考えると、かなりおごった仕様だ。

ケーブルは布巻き仕様で高級感

 上位モデルと異なり、ケーブル着脱はできない。残念な点ではあるが、このイヤフォンの場合はデザインがエレガントなので、もし着脱可能でケーブルの付け根が“モコッ”と膨らんでいたら、ちょっとカッコ悪くなっていたかもしれない。重量は15gだ。

ケーブルの着脱はできない

 イヤーピースはXS/S/M/Lの4サイズを同梱する。普通はS/M/Lだが、より小さなXSが付属しているので、耳穴が小さい女性にもマッチしやすいだろう。

 イヤーピースもデザインセンスが良い。ベージュモデルでは、付属するピースも白い。それだけならよくあるが、このイヤフォンの場合、内側にカラフルなカラーリングが施されている。見た目の可愛さだけでなく、色の違いでサイズが瞬時に判断でき、「左右同じサイズを取り出したつもりが、LとMが混ざっていた」なんてこともないだろう。

付属のイヤーピース。サイズはXSも付属する

 ハウジングが小さい事もあり、装着感も良好。重量も軽いので、自重で徐々に抜けてくる事も少ないだろう。当然の話ではあるが、耳孔のサイズにマッチしたイヤーピースを選ぶのが何より重要だ。左右の耳で穴のサイズが違う事もあるので、柔軟に選ぼう。

 装着後の安定感も良い。ハウジングから伸びているノズル部分には角度がついており、ハウジングが耳に当たって不快にならないように配慮しつつ、遮音性も高めるアングルド・イヤチップ構造になっている。

イヤーピースを外したところ。ノズル部分に角度がついている

音を聴いてみる

 ハウジングが小さく、デザイン性も高いので「低音はそんなに出ない、ハイ上がりのスッキリ系サウンドかな?」と予想しながら装着し、AK70 MKIIの再生ボタンを押すと、見た目とまるで違う「ズゴーン」と重いアコースティックベースの低音が吹き出してきて驚く。“羊の皮をかぶった狼”という感じだ。

 音圧が非常に豊かで、迫力は抜群。最低音がそこまで深いわけではなく、さすがに地鳴りのような低音は出ないが、ダイナミック型らしい肉厚で、ゆったりとした低域が心地良い。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」のようなアコースティックな楽器を使った楽曲では、あたたかみが良く伝わってくる。

 同時に感心するのは、これだけモリモリと分厚い低音が出ているのに、中広域の描写にシャープさがある事だ。普通、低音がこれだけ元気だと、音がボワボワと膨らみ過ぎて、中高域を覆い隠して、全体としてはナローな音になりがちだが、そうはなっていない。このあたりのバランス、全体の音作りの上手に、老舗メーカーらしさを感じる。

 また、最近のイヤフォンは、中低域をダイナミック型ドライバに、高域をバランスド・アーマチュアに担当させ、BAらしい鋭く高解像度な描写を活用して、低域に負けないようバランスをとる……というのがよくあるパターンだ。だがN25の場合、2基のユニットが両方ダイナミック型ながら、バランスのとれた再生音を実現している。

 そのため、ドライバの種類の違いによる音色の差が少ない。つまり、中低域はダイナミック型でウォームな音なのに、高域のBAが固くてキンキンした音になる……という音色のミスマッチが起きていない。全体のトーンが統一されており、極めて自然な描写だ。

 中高域の細かな音も聴き取れるので、宇多田ヒカルの「花束を君に」などで、声の感情表現が良く伝わって来る。

 低域も、音圧だけでなく適度な締まりがあり、歯切れの良さも感じる。「ボンボン」、「ボワボワ」と膨らむ低域ではない。スマートフォン(HUAWEI Mate 9)でドライブしてもしっかりした音は出るが、やはりAK70 MKIIのような専用プレーヤーでドライブすると、低域の情報量やユニットの制動力がさらにアップ。ベースのうねりのラインなど、低域の中の細かな景色が見やすくなる。

シンプル&オシャレに良い音を

 ケーブルやイヤーピースなど、各パーツの質感も高い事は前述した通りだが、航空機用のプラグアダプタもハウジングと同じカラーになっているなど、細かい部分のこだわりも感じる。だが、1点だけ、キャリングケースはベージュモデルでも真っ黒で、チャックの部分だけベージュカラーなのだ。ここまででこだわるなら、ケース全体もベージュにしてほしかった。

航空機用のプラグアダプタもハウジングと同じカラー
左がブラックモデル、右がベージュモデルに付属するケース。どうせならばケース全体もベージュにしてほしかった

 全体としての印象は“上品で、コンパクトで、質感が高く、シンプルに使えるイヤフォン”だ。それでいて、パワフルな低域など、“頼りがいのある音”を実現しているところが面白い。“見た目は派手にしたくないけど、音楽はロックやパンク、メタルなどの激しいヤツが好き”という人にもマッチしているかもしれない。個人的には、音圧が豊かなので、映画のサントラを再生すると気分がグッと盛り上がった。

 小型ハウジングを活かして、装着時のストレスが少ないところも評価できる。高級で大きなイヤフォンを持っているけれど、気楽に使えるイヤフォンも欲しいというサブ機的な用途にもマッチするだろう。

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AKG N25
ハイレゾ対応
ブラック
AKGN25BLK
【国内正規品】

(協力:ハーマンインターナショナル/AKG)

山崎健太郎