レビュー

高音質+マニアックだけどカッコイイ、AKGの新定番ハイレゾイヤフォン「N40/N30」

 10万、20万円のハイエンド製品も珍しくなくなり、50万円近い製品まで登場しているイヤフォン市場。だが、実際のところ、多く人が「えいや」と購入するイヤフォンの価格帯はおそらく2万円台、もうちょっと頑張っても“5万円以下”がほとんどだろう。その結果、2万円台、4万円台は各メーカーの意欲作がひしめく“激戦区”に。自ずと切磋琢磨され、コストパフォーマンスに優れた製品が並ぶ。今回はその中でも、“音質の良さ”、“デザイン性”、“マニアックさ”、“コストパフォーマンス”のバランスの良さが光る、AKGの2機種「N40」(オープンプライス:直販39,880円)、「N30」(同29,880円)を紹介する。

左がN30、右がN40

 また、既にN40/30を聴いた事があるという人にも、注目の情報がある。純正のリケーブル「CN120-2.5」(2.5mm 4極バランス入力)と、「CN120-3.5」(3.5mm 3極アンバランス)が7月から発売されたのだ。標準ケーブルとどのように音が変わるのか? さらに、バランス駆動でどう“化ける”のか? 結論から言うとかなりの効果がある。このあたりも後ほどじっくり聴いてみよう。

左がN30、右がN40

AKGってなに?

 オーディオに詳しい人なら「ああ、AKGね」と思うだろうが、最近ポータブルオーディオに興味が出てきたという人にとっては、あまり耳馴染みがないメーカーだろう。「AKG」の読み方だって「エーケージーでいいの?」と戸惑うはずだ。

 オーストリアで創立されたメーカーなので、ドイツ語読みで「アーカーゲー」と呼ぶ人が多い。マニアやオーディオ業界の人達は略して「アカゲ、アカゲ」と言ったりするので「え、赤毛!?」なんて驚く人もいるかもしれない。ちなみに「ゼンハイザー」もドイツ語だが、ドイツ語の響きというのはやたらとカッコよく聞こえて羨ましい。

 創立は1947年、なんと今年で70周年だ。音楽の都と言われるオーストリアのウィーンで、ラドルフ・ゲリケ博士と、エンジニアのアーンスト・プレス氏によって創立された。現在はハーマンインターナショナルの中のブランドになっている。

 もともとマイクなど、プロ用機材の開発を目的に誕生しており、1959年には世界初のオープンエア型ヘッドフォン「K50」を発売。1975年に現在のAKGスタジオモニターヘッドフォンの原型と言える初代「K240」を発売するなど、スタジオなどで使うマイクやヘッドフォンの老舗メーカーとして活躍。

 そのため、日本の一般人にあまり知られるメーカーではなかったが、1985年にクインシー・ジョーンズがプロデュースし、マイケル・ジャクソンやダイアナ・ロス、ボブ・ディラン、レイ・チャールズらが結集した「We Are The World」の中で、大物アーティスト達がAKGのモニターヘッドフォンを着用。「プロの現場で使われているモニターヘッドフォン」というイメージがオーディオファンにも広まったのは、このあたりからだと思われる。

 ちなみに、AKGが何の略なのかと言うと「Akustische und Kino-Geraete Gesellschaft m.b.H」、ドイツ語だとわからないので英語で言うと「アコーステック・アンド・シネマ・エクイプメント・リミテット」“音響や映画用機器メーカー”みたいな意味だろう。

 そのため、個人的にAKGのヘッドフォンには「ザ・モニターヘッドフォンサウンド」というイメージがある。簡単に言えば「高解像度で音場が広く、ハイレスポンス」な音だ。現在でもプロ向けのモニターヘッドフォンを手がけ、さらにコンシューマ向けのラインナップも拡充している。

 イヤフォンで強烈なインパクトがあるのは、2011年に登場した「K3003」だろう。今ですら珍しくなくなったが、当時はまだ斬新なBAとダイナミックのハイブリッド構成で、フィルタを交換してユーザーが音をチューニングできるカスタム機能も搭載。当時のイヤフォンとしては高価な実売約138,000円(現在は直販148,000円)という価格も話題となった。今回紹介するN40、N30には、この「K3003」で採用された技術も取り入れられている。

2011年に登場した「K3003」

 ヘッドフォンでも2016年に、装着者の耳の形状をスキャンニングし、耳の形状に応じてサウンドを最適化、オートキャリブレーション機能を備えた「N90Q」を発売し、話題を集めた。オーディオ業界の老舗メーカーというと“長年のファンを大切にして、伝統を守る”的な印象を持たれるかもしれないが、AKGは「伝統的なモニターヘッドフォンを続けながら、ある日突然、ものすごく革新的なモデルを出してくる」メーカーでもあるわけだ。

N40とN30は何が違うのか

 直販価格は「N40」が39,880円、「N30」が29,880円で、価格差はキレイに1万円だ。ハウジングのサイズは共通。内部のユニット構成も似ており、どちらも中高域用にBAを1基、低域用に8mm径のダイナミック型ドライバを搭載している。中高域用のBAは、N40とN30で同じものだそうだ。

 どちらのモデルも2ウェイシステムになるわけだが、フラッグシップ「K3003」と同じ技術として、電気的なネットワークを一切使わず、アコースティックにチューニングしている。そのため、ハイブリッド方式ながら、自然な音の繋がりが実現できているという。

N30はマットブラック、サテンシルバーの2色展開
N40

 さらに、振動板の振幅する時に発生する背圧を最適化する「ベンチレーション・システム」も搭載。空間表現能力を高めている。

N40の内部
N40を横から見たところ
N40の裏側

 周波数特性は、N30が20Hz~40kHz、N40が10Hz~40kHzでどちらもハイレゾ対応。感度とインピーダンスは、N30が109dB/mWで20Ω、N40が86dB/mWで32Ω。重量はN30が19.5g、N40が22gだ。

 ケーブルは耳掛けタイプ。着脱も可能で、MMCX端子を採用している。N30のケーブルには、途中にマイクリモコンを装備。スマートフォンで利用しやすくなっている。

 MMCX端子でリケーブルが可能なのだが、ここで1点注意。N30のイヤフォン側MMCX端子は、少し奥まった場所にあるため、交換するリケーブルによってはプラグが届かずに接続できない場合があるのだ。そのため、例えばN40のケーブルを、N30に接続する事はできない。

N30のケーブルを外したところ
上がN30付属ケーブルの端子部、下がN40。端子の根本の形状が異なる
N40のケーブルを外したところ

 これを踏まえてAKGでは、N30でも接続できる純正のグレードアップケーブルや、バランス接続ケーブルを販売している。これらについては後述する。

純正リケーブルに注目

 前述の通り、純正のリケーブルが7月から発売開始された。N40、N30向けで、2.5mm 4極バランス入力の「CN120-2.5」と、3.5mm 3極アンバランスの「CN120-3.5」だ。価格はオープンプライスで、実売は「CN120-2.5」が13,880円前後、「CN120-3.5」が12,880円前後だ。

2.5mm 4極バランス入力の「CN120-2.5」
3.5mm 3極アンバランスの「CN120-3.5」

 なお、これらの純正リケーブルと、N40、またはN30をセットで購入すると、合計金額から3,000円値引きされるキャンペーンも7月1日~8月31日までの期間限定で実施されている。また、既にN40、N30を使っている人にも、HARMAN Owners’Clubから製品登録をすると、純正リケーブルを直販サイトで3,000円引きで購入できる案内がメールで届くようになっている。

 このAKG純正のリケーブルは、付属のケーブルからの音質向上を目指し、導体に高純度6N-OFCを採用。信号の伝送ロスや歪みを抑えている。ケーブルによって音がどう変わるかも後でチェックしよう。

フィルタで音をチューニング

 2機種に共通するユニークなポイントとして、ユーザーが音をカスタマイズできる事がある。「メカニカル・チューニング・フィルター」と呼ばれる機能だ。

 フィルタというのは、音が出てくるノズル部分。そこにネットのようなパーツがついているが、そのパーツ自体がネジ式で取り外しできるようになっている。

N40のイヤーピースを外したところ

 出荷時についているフィルタは、中庸なサウンドバランスの「REFERENCE」。N40は、それに加え、シンバル、ピアノ、ヴァイオリンなどの高域をクリアに表現する「HIGH BOOST」、ベースやドラムの低音域を増強する「BASS BOOST」のフィルタも付属している。合計3つのフィルタから、好みに合わせて選べるわけだ。

 N30の場合は、「REFERENCE」に加え、ベースやドラムの低音域を増強する「BASS BOOST」と、合計2個のフィルタから選ぶカタチとなる。

N30の付属フィルタ。フィルタを固定するプレートやフィルタ自体の色も、本体カラーに合わせて異なっており、芸が細かい
N40の付属フィルタ
フィルタを外したところ

 「こんな小さなネットみたいな部品で音が変わるの?」と思われるかもしれないが、実際に試してみると、誰にでもすぐわかるほど、かなり大きな変化がある。実際、他社のイヤフォンであっても、このようなフィルタで音をチューニングしている製品は多い。それを交換可能にして、ユーザーが選べるようにしているのは面白い。

光に透かしてみると、穴の空き方がだいぶ違って見える。また、素材も異なり、透過率によって音が変化する

 ちなみに、この小さな部品を交換していると、ゴルフクラブを磨いたり、愛車の整備をしているような、「ウイスキー片手に趣味の道具をいじっている幸福な時間」みたいな感じが漂うのが面白い。本当に小さな部品なので、気を抜いて床に転がると捜索が困難だ。間違っても電車の中とか、歩きながら交換はしない方がいいだろう。

フィルタ交換は楽しい

音を聴いてみる

 N40が39,880円、N30が29,880円なので、価格的なバランスの良いハイレゾプレーヤーとしてAstell&Kernの「AK70」を用意した。

 まずは、各イヤフォンに標準で付属している3.5mmのステレオミニケーブルで聴いてみる。フィルタは「REFERENCE」を使っている。

N30から聴いてみる

 N30を接続して「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生する。冒頭のギターが聴こえた瞬間に感じるのは、BAらしいキリッとした中高域の描写だ。輪郭がシャープで細かい音まで聴こえて気持ちが良い、同時に女性ボーカルも入ってくるが、全ての音色がBAの金属質な響きに染まる事はなく、ギターの弦の金属っぽい質感、人の声の温かい響きが描き分けられている。完全に無色透明かというと、若干金属質な響きに寄ってはいるが、それが中高域のクリアさ、透明感につながっており、AKGのモニターヘッドフォンの開放的で繊細な描写とどこか似ているのが面白い。

 バランス面も良好だ。N40に対して、N30は下位モデルになるわけだが、だからと言って低音をブイブイふくらませるような下品な音ではなく、適度な締りがあり、中高域のハイスピードな描写が低域にも貫かれている。

 個人的なイメージなのだが、AKGのヘッドフォンには「中高域が繊細で低域は控えめ」という、いわゆる“ハイ上がり”な印象がある。そんなイメージを持ったままN30を聴くと、意外と言えるほど豊かで張り出しの強い低域が吹き出してきて「おおっ」と驚かされる。この肺を圧迫されるような低域の張り出しは、BAではなかなか出すのが難しい。ダイナミック型の得意とするところであり、ハイブリッドイヤフォンならではの美味しさと言えるだろう。

 それにしても、これだけ豊かな低域を出しながら、それが中高域を覆い隠す事はなく、全体が不明瞭にならず、透明感と迫力の低音が共存しているのは凄い。ハウジングの小さなこのイヤフォンで、広大な音場や、高域、中域、低域が節度をわきまえた描写をするのは難しそうだが、流石老舗メーカーという音作りの上手さだ。低域がしっかり音楽を支えてくれるので、サイズからは想像できない安心感がある。

 モニターライクなイヤフォンを聴き慣れた人だと,もう少し低域を弱めてとか、中高域の分解能が欲しいといった意見が出るかもしれない。ただ、中低域をダイナミックに出して、音楽を楽しく、ドラマチックに描写しつつ、その味わいが強すぎない、胃もたれしない、飽きの来ない爽やかさも両立しているイヤフォンは多くないので、このトータルの音をN30の個性として評価したい。

N40を聴いてみる

 続いて、N40に交換。ケーブルは付属のアンバランスタイプだ。音が出た瞬間「やっぱりそう来るか」と思わず笑みがこぼれる。今しがたN30とモニター系イヤフォンの違いとして指摘した部分を、全部N40がカバーしているからだ。

 ダイナミック型+BAという構成は同じなので、大枠ではN30と似た傾向のサウンドなのだが、高域の透明感、分解能はN40の方が一枚上手で、「Billy Joel/Just The Way You Are」を聴くと、広大な音場にビリー・ジョエルの歌声が広がっていく様子がN30よりもさらい遠くまで見える。まるで開放型ヘッドフォンを聴いている気分だ。

 中低域の張り出しはN30より控えめで、一瞬N30の方が低音が“凄い”ように聴こえる。だが、「Best of My Love」のアコースティックベースで聞き比べるとそうではない事がわかる。グイグイと前に出て来る事が“凄い”とは限らない。ベースのズーンと沈む音は、むしろN30よりさらに深く、凄みがある。N40は、その深い低音に付随する中低域が必要以上に張り出さないというだけだ。全体のバランスとしてはN30よりもモニターライクで、ソースを選ばない。クラシックやJAZZなどにもマッチする。

 2機種を聴いていて感じる共通の特徴は、ハイブリッド型としての完成度の高さだ。ダイナミック型の低域、BAの高域と、方式が違うので音色や音圧などに違いがあるものだが、そのつなぎ目をあまり意識させず、非常につながりが良い。低域と高域、どちらの音にもクリアさ、明瞭さ、そして力強さがある。ハイブリッド型の中には、膨らむダイナミックの不明瞭な音と、BAのカリカリサウンドを無理に融合させようとして、全部がモワッと不明瞭な音になる製品もあるが、N30とN40に関してはそんな心配は杞憂だ。

フィルタ交換で好みの音を追求してみる

 普通のイヤフォンならここで終わりだが、ここからいろいろ音を追求できるのがN30/N40の面白いところ。むしろここからが本番と言える。まずは付属のフィルタ交換から手を付けてみよう。

 「N30」には標準の「REFERENCE」に加え「BASS BOOST」が属しているので、REFERENCEを外してBASS BOOSTを装着してみる。音を出すと、その名の通り。低域の量感がアップする。フィルタを変えただけで変化するなんて信じられないという人もいるかもしれないが、イメージとしては、REFERENCEフィルタで抑えられていた低域の吹き出しの強さが、開放されたような印象だ。

 そのため、沈み込みの深さ、分解能がアップするわけではない。しかし、勢いが増す事で低域の存在感が増すため、ベースラインの迫力が増す。打ち込み系の楽曲も、さらに“のれる”ようになる。ロックにもマッチするだろう。

 ただ、悪くいうと“野太い低音”になるので、モニターライクな音が好きだという人にはちょっと合わないだろう。その場合は素直にREFERENCEを使ったほうが良い。REFERENCEに戻すと、低域にタイトさが出て、全体の見通しがよくなる。むき出しの低域も魅力ではあるが、適度に締まりがあったほうが、スイカにかける塩のようなもので、低域がより印象深くなるというのもあるかもしれない。

 N40はREFERENCEに加え、HIGH BOOST、BASS BOOSTが付属する。BASS BOOSTを装着すると、N30の時と同様に、低域の勢いが増す。「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」のような、冒頭からベースが活躍する楽器では迫力がアップして良い。ライブ録音のロックも派手さがあって良い。凄いのは、低域が野太くパワフルになっても、中高域のクリアさが損なわれないところだ。

 さらに面白いのがHIGH BOOSTフィルタだ。BAユニットの音がそのままむき出しで出てくるような変化で、高域がカリカリになり、ドラムの「ズンチャズンチャ」が耳にやや痛……くはない。痛いんじゃないかな? いや、まだ大丈夫という絶妙なラインで、まさに不快に感じる一歩手前で踏みとどまる日本刀のようなキレ味の高音にゾクゾクする。

 ニュートラルな音とは違うわけだが、この超高精細な描写は聴いているとクセになってくる。同時に、高域がシャープで、さらに高く突き抜けるようになると、低域の沈み込みも少し深くなったように聴こえるのが不思議で面白い。

 例えば、ハイレゾの新しい楽曲を買ったので、細かな描写をとことん聴き込もうとか、女性ボーカルをより近く、口の中が見えるほどの鮮明さで楽しみたいという気分の時にマッチする。常用するのはREFERENCEの方が良いが、なかなか捨てがたい魅力がある。“魔性の音”というイメージだ。

リケーブルでクラスを越えた音に変化

 両モデルのフィルタをREFERENCEに戻し、次はリケーブルを試してみよう。2.5mm 4極バランス入力の「CN120-2.5」(実売13,880円前後)と、3.5mm 3極アンバランスの「CN120-3.5」(12,880円前後)だ。

 今回は試聴に、2.5mm 4極バランス出力を備えたAK70を使っているので、2.5mm 4極バランス入力の「CN120-2.5」から使ってみよう。

N30のケーブルを「CN120-2.5」に交換

 N30のケーブルを「CN120-2.5」に交換すると、「うそっ、こんなに変わるの!?」と驚く。全体の情報量が増えて、描写が細かくなり、女性ボーカルの表情がより鮮明に見えるようになる。まるでコンサートの席が、前方に移動したかのよだ。

 中高域の情報量の多さに意識を奪われるので、しばらくはそこばかり聴いてしまうが、少し時間が経つと中低域の分解能も大幅にアップしているのがわかる。標準ケーブルでは押し出しが強く、パワフルな印象があったが、リケーブルによって分解能がアップする事で“モコモコ感”が無くなり、張り出しの強さとシャープさが同居。押し寄せる迫力が凄いと同時に、その迫ってくる音の細かさが気持ちいい。

 全体の透明度、中低域のシャープさといった面で、N30+リケーブルのサウンドは、ノーマルN40のサウンドにかなり肉薄している。N30は29,880円で、そこに「CN120-2.5」の13,880円をプラスすると、合計で43,760円となり、N40の39,880円をちょっと越えた値段になるので、N40に肉薄するのは価格的には当たり前なのだが、リケーブルの効果がキチンと値段分感じられるのは嬉しいポイントだ。

 もちろん、完全にN40と同じ音になるわけではない。超厳密に聴き比べると、N40の方がわずかに透明感は高く、しかしN30リケーブルの方が低域の迫力があって気持ちがいい。甲乙つけがたい比較となる。「高精細な描写を大事にしたいけど、やっぱり低音の迫力も少し強めの方が好きだから予算的にはどちらも買えるけど、あえてN30リケーブルにする」という選び方もまったくおかしくない。

N40のケーブルを「CN120-2.5」に交換

 ではN40にCN120-2.5を接続するとどうなるだろうか? 音が出た瞬間「あー参りました」と頭をかかえる。もともとモニターライクで音場の広いN40だが、リケーブルによってさらに広くなる。また、AK70のバランス駆動により、チャンネルセパレーションが向上するためだと思うが、その空間に浮かぶ音像の立体感がまして、なんというか、VR映像を見ているような感覚になる。

 リケーブルによって情報量や鮮度もアップしているので、立体的な音像の生々しさもアップ。本当にそこにいるような感覚に磨きがかかる。空間、音像の配置が明瞭になる事で、音楽が様々な音の組み合わせで構成されているのがよくわかり、聴き慣れた曲にも新しい発見があり、新鮮な気分で楽しめる。

 N40のニュートラルさを維持したまま、能力が全方向にまんべんなく進化するイメージなので、弱点が無く、文句のない音だ。まあ、合計金額が一番高くなるので当たり前と言えば当たり前だが、期待した進化を裏切らない音を出してくれるのは立派だ。

 なお、3.5mm 3極アンバランスの「CN120-3.5」も情報量の増加、音のレンジ拡大という面で確かな効果が得られる。バランス駆動対応のプレーヤーを持っていないという人でも、このケーブルを入手する価値はあるだろう。スマホとの接続でも効果はしっかり感じられる。ただ、バランス駆動ではさらに高みを目指せるので挑戦する価値はある。「CN120-2.5」を買うついでに、AK70などの購入を検討してもいいだろう。

マニアックだけれどそうは見せない、新たな定番イヤフォン

 N30/40を仕事の行き帰りや、喫茶店に入った時など、様々な場所で試用していると、これまで書いてきた音の良さにプラスして、“小ささ”や“デザイン性の良さ”を改めて実感する。

 ドライバ数の多いイヤフォンや、カスタムイヤフォンはどうしても筐体が大きくなったり、形がサザエの中身みたいな不思議な形状だったりと、見た目からして“マニアック”だ。「大金を払って買った凄いイヤフォンだぞ!」というオーナー心をくすぐる部分でもあるわけだが、N30/40の落ち着いた、過度な主張の無い、大人っぽいデザインはTPOを選ばない使い勝手の良さにつながっている。

喫茶店でフィルタ交換

 それでいて、フィルタ交換ができたり、リケーブルで音を追求できたりと、マニアックに使えるのがニクイ。フィルタを交換しても、イヤーピースを装着したら、外からそれは見えない。ハウジングプレートに“なんとかスイッチ“がついていたり、ケーブル途中の“なんとかユニット”がついているような、ゴテゴテ感が一切無いのだ。大人の男性だけでなく、女性にも喜ばれそうな要素だろう。「カスタムイヤフォンや巨大なイヤフォンも買った」というマニアが、一周回って、普段使いに選ぶ……というパターンもあるかもしれない。

 価格、カスタマイズ性、発展性、デザイン性、そして音質。すべての要素が高いレベルで達成されているので、末永く支持される製品になるだろう。イヤフォンに詳しい人にも、そうでない人にも、推薦しやすい。AKGの老舗らしい完成度の高さと同時に、イヤフォン市場の成熟も感じさせるモデルだ。

(協力:ハーマンインターナショナル/AKG)

山崎健太郎