レビュー
JH AUDIOが身近に、「ビリー・ジーン」を魅力的に聴かせるプレーヤーは?
2018年7月16日 08:00
ポータブルオーディオファンにお馴染みのJH AUDIO。“イヤモニターの神様”とも呼ばれる、ジェリー・ハービー氏が手がける製品で、カスタム/ユニバーサルどちらも展開。高価なモデルが多いが、近年では下位モデルも充実。5月から発売され、話題となっているのが直販39,980円(税込)の「Billie Jean」(ビリー・ジーン)だ。
そこで、“イヤフォンとプレーヤー”の合計で10万円以下を意識し、Billie Jeanを最も魅力的に楽しめるプレーヤーを探してみる。プレーヤーは、エントリー~ミドルクラスの3機種、Fiio「X3 Mark III」、ソニー「NW-ZX300」、Astell&Kern「AK70 MKII」を用意した。
マイケル・ジャクソンの楽曲から名付けられたBillie Jean
このモデルは、Astell&KernとJH AUDIOのコラボイヤフォン「THE SIREN」シリーズの新製品。名曲を製品名のモチーフにする事が多いJH AUDIOだが、「ビリー・ジーン」はもちろん、マイケル・ジャクソンの楽曲からとられている。
開発者したジェリー・ハービー氏によれば、「Astell&KernとJerry Harvey Audioの、初めてのデュアルBAドライバーモデルであり、Jerry Harvey Audioの象徴的とも言えるロックンロールサウンドを特徴としている」という。
ユニットは独自開発のカスタムBAを採用。高域用と中低域用を搭載するシンプルな構成だ。
上位機種と同様に、独自のfreqphaseテクノロジーを導入。これは、独自のチューブウェイブガイドを使う事で、ドライバの信号を0.01ミリ秒以内に確実に到達させるもの。2ドライバ構成の時間軸と、各帯域の位相を正確に制御するという。
さらに、新技術の「アコースティック・チャンバー・サウンド・ボア」を採用。ノズル部分にアコースティックチャンバーを設けたもので、特に高域特性の最適化されたワイドレンジ再生を実現。導管に汗や異物が入り込む事を防止する効果もあるという。インピーダンスは18Ω。遮音性は-26dB。
JH AUDIOのイヤフォンとしては、筐体が小さいのが特徴。Michelle Limitedよりも30%の小型化を実現し、ユニバーサルタイプのイヤフォンながら、耳にフィットしやすくなっている。
ケーブルはMichelle Limitedに使われているものと同じ。銀メッキ銅線を圧縮し、平らにした状態で強化繊維のケブラーに巻き付け、高い伸張強度を備えた適度な反発力を実現している。端子は2ピンで、着脱も可能。シリコンイヤーピースはS/M/Lの3サイズ同梱する。
Billie Jeanを魅力的にドライブするプレーヤーとは?
今回用意したプレーヤーは、実売約24,000円というコストパフォーマンスの高さが話題のFiioの「X3 Mark III」、ソニーのウォークマン定番機「NW-ZX300」(実売約6万円)、
AKの人気モデルが進化した「AK70 MKII」(実売約7万円)だ。Billie Jeanとの組み合わせでは、X3 Mark IIIが約65,000円、ZX300が約10万円、AK70 MKIIが約11万円というイメージだ。
試聴に使った楽曲は、もちろん「マイケル・ジャクソン/ビリージーン」の2.8MHz DSDだ。
まずFiioの「X3 Mark III」でドライブ。スマホ(Mate 9 Pro/HF Player)で聴くのと比べ、中低域の張り出しが強くなり、迫力がアップ。音場も広くなり、ドラムのビートが虚空に広がっていく様子がよくわかる。マイケルの声や楽器など、各音像の輪郭がシャープになり、細かな音がどれだけ入っているのかわかりやすい。視力というか、聴力が良くなったような印象だ。
ウォークマンのZX300に変更すると、低域を中心に馬力がさらにアップ。音の“キレ”が良くなり、さらに躍動的なサウンドになる。ノリが良くなるというか、聴いていて音楽に引き込まれる気持ちよさが強化される。
さらに「AK70 MKII」に切り替えると、音は大きくかわる。全体にメリハリのあるサウンドになり、低域の迫力はさらに増加。単純に低音が大きくなるのではなく、低い音がしっかりと沈み込み、重い音としてズシンと響く。ボワボワ、ボンボンと膨らむものではなく、ソリッドで、切り込むような鋭さもある音だ。
例えば「X3 Mark III」のイコライザで、低域を強調すれば迫力はアップする。しかし、低音が重く、深く、鋭くはならない。低域はアンプの駆動力の違いが一番顕著に出るポイントであり、コストを多く投入しているプレーヤーの良さが感じられる部分だ。
面白いのがZX300とAK70 MKIIの違いだ。どちらも駆動力の高いプレーヤーなのだが、音の傾向が異なる。簡単に言うと、ZX300の方がおだやかでまとまりの良い音、AK70 MKIIはメリハリのあるパワフルなサウンドだ。
言い方を変えると、ZX300はモニターライクな誇張の少ない音、AK70 MKIIはややドンシャリ気味のサウンドと表現できる。「それならばZX300の方が良いのでは?」と思われそうだが、実際に聴き比べてみるとBillie Jeanというイヤフォンと組み合わせる場合は、AK70 MKIIの方が“グッとくる”音だ。
これは恐らく、Billie Jeanというイヤフォン単体がモニターライクな傾向ではなく、低域をパワフルに、それに負けない中高域も鋭くという、ややドンシャリ傾向である事と無関係ではないだろう。その傾向に、AK70 MKIIの音質やアンプのドライブ能力がマッチしていると感じる。
もちろんZX300で駆動した音も悪くはない。むしろ良い音なのだが、AK70 MKII+Billie Jeanのノリノリ、肉厚、なおかつクリアで気持ちのいいサウンドをしばらく楽しんだ後で、ZX300+Billie Jeanに切り替えると、大人しく、盛り上がりに欠ように聴こえてしまう。Billie Jeanがヤンチャなクラスの人気者だとすると、ZX300でドライブした音は、まるで先生に怒られてシュンとしてしまった音に聴こえる。
この傾向はビリージーンを聴いた時だけでなく、例えば「スリラー」や「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」など、他の楽曲を聴いた時にも同様に感じる。AK70 MKII+Billie Jeanの組み合わせは、イヤフォンの特徴を殺さず、長所を伸ばすような傾向になるのだろう。
Billie Jeanはドライブ力の高いプレーヤーで楽しみたい
JH AUDIOのイヤフォンに多い傾向だが、Billie Jeanもまた、ロックやポップスに向いたサウンドだ。中低域がややパワフル寄りで、高域も鋭く強い。Billie Jeanの良いところは、そんな濃厚サウンドながら、音の細かさ・繊細さといった、情報量の多さも両立しているところだろう。
そのため、プレーヤーを変えていくと、プレーヤー毎の音の傾向の違いがよくわかる。イヤフォンがボワボワした音だったらきっと、どのプレーヤーでドライブしても同じような音に聴こえてしまうだろう。単なるドンシャリではない、ベースにある再生能力の高さがBillie Jeanの特徴だ。
JH AUDIOの中ではエントリーという位置づけだが、直販39,980円(税込)という価格は、決してイヤフォンとして安いものではない。だが、この価格で“JH AUDIOらしい”旨味たっぷりのサウンドが楽しめるというのは魅力だ。そしてその魅力をぞんぶんに発揮するためにも、高いドライブ能力を持ったプレーヤーと組み合わせて楽しみたい。