レビュー

ソニーテレビリモコンの映像配信ボタンは素晴らしい。AbemaTVがBSみたい

 ソニーが5月に発表したテレビ「BRAVIA」シリーズの最新モデルは、4KやHDR対応などの画質向上や、テレビ向けOS「Android TV」最新バージョンへのアップデート対応といった王道的な機能とは別に、“脇役”のリモコンの大胆なデザインでも話題になった。リモコンの最も目立つ部分に映像配信サービスの専用ボタンをサービスロゴ入りで配置してきたからだ。

 最近は映像配信サービスに標準対応のテレビが増えており、リモコンに映像配信サービスの専用ボタンを割り当てている機種も登場しているが、さすがに“6つ”のボタンを映像配信用に割り当てているのは珍しい。BRAVIA X8500Fシリーズの43型「KJ-43X8500F」を試用して、注目の専用ボタンを中心に利便性を確かめてみよう。

BRAVIA「KJ-43X8500F」

本体上部に6つの専用ボタン。ログイン不要ですぐ視聴できるサービスも

 映像配信系のボタンは本体上部、電源と入力切替の下に2列で配置されている。電源や4色のカラーボタンなど一部の専用ボタン以外は基本的にモノトーンの配色となっているため、カラフルなサービスのロゴが入ったボタンは非常に目を引く。ボタンの大きさ自体、他のどのボタンよりも横幅が長いこともあって存在感は非常に大きい。

専用リモコン
リモコン上部に配された6つの映像配信サービス専用ボタン

 6つのボタンのうち、直接サービスが起動するのはボタンに表示されている通り「Hulu」「Netflix」「U-NEXT」「AbemaTV」「YouTube」の5つ。残る「アプリ」はこれら5つのサービスを含むすべてのアプリ一覧が表示される「Sony Select」が起動する。

 設定不要ですぐに動画が視聴できるのは、ユーザー登録不要のAbemaTVとYouTubeのみで、Hulu、Netflix、U-NEXTはログインが必要。HuluとU-NEXTはログインしなくても配信されている作品一覧を見ることができるが、Netflixはログインしないと一切何もできないという細かない違いがある。また、AbemaTVのプレミアムプラン、YouTubeのGoogleアカウント連携もログインが必要だ。

AbemaTVはログイン不要ですぐに視聴できる
YouTubeもログイン不要
U-NEXTはログインせずに配信作品一覧を確認できる
Netflixはログインしないと作品一覧も見られない

 ログインが必要な有料サービスのうち、最も手軽なのがHulu。ログイン、新規登録ともにQRコードとアクティベーションコードが用意されているため、リモコンを使って文字を入力するという煩わしさがない。Netflixはリモコンでの文字入力が必要となり、U-NEXTは画面に表示されたQRコードを利用してスマートフォンから登録する手順となっている。

ログインや新規登録が手軽なHulu

 「アプリ」ボタンで起動するSony Selectは、専用ボタンが用意されたサービスも含むさまざまな映像配信サービスが用意されている。dTVやFOD、DAZN、ひかりTV、スカパー!オンデマンドなど、主要な映像配信サービスは一通り網羅されているほか、音楽配信のSpotify、SNSのFacebook Video、ショッピングサイトのQVCなど、映像以外のサービスもSony Selectから起動可能だ。なお、Google Playでこのほかのアプリをインストールすることもできるが、Sony Selectで利用できるアプリは固定となり、入れ替えや追加などはできない。

「アプリ」ボタンで起動するSony Select

1つのリモコンで映像配信もテレビも操作できるのはとても便利

 「アプリ」を除くボタンはいずれも電源オフの状態で押すと配信サービスがそのまま立ち上がり、視聴したい映像配信サービスをすぐに利用できる。テレビ番組を見ながら「映画を見たいな」と思えばボタンを押すだけというシンプルな操作がとても手軽だ。余談だが、映像配信ボタンだけでなく、テレビのチャンネルボタンも押せばそのチャンネルで電源が入るため、電源ボタンは「電源を入れる」というより「電源を切る」ための用途が中心になりつつある。

 こうした専用ボタンやアプリを搭載していないテレビで映像配信サービスを視聴する場合には、Fire TVやApple TV、PS4といったプレーヤーが必要な上に、別途リモコンやコントローラで操作するという手間も発生する。HDMI CECに対応した機器であれば、外部機器のリモコンを押すだけで入力が切り替わり、画面が表示されるところまでは自動で遷移するのだが、それでも普段テレビで使っているリモコンから1ボタンで切り替えられる手軽さには及ばない。

 筆者宅では10年もののREGZAをリビングのテレビとして愛用しているため、映像配信サービスを利用するには必ず外付けの機器が必要(厳密に言えばアクトビラは対応している)。さまざまな映像配信サービスのセットトップボックスを試しては次の製品に移るという試行錯誤を繰り返したのち、現在はFire TVにNetflixやHulu、Amazon Prime Videoなどのアカウントを設定して集約している。

 Fire TVはHDMI CEC対応のため、Fire TVのリモコンのボタンを押せば自動的にテレビの電源が入り、Fire TVを装着したHDMIに切り替わる。動作としてはBRAVIAリモコンのボタンを押すのと変わらないのだが、わざわざ別のリモコンを手に取って電源を入れるのか、いつも使うテレビのリモコンのボタンを1つ押すだけで目的の番組が視聴できるのかは小さいようで大きな違いだ。今まで映像配信サービスは「わざわざリモコンを探して視聴する」存在だったのが、テレビのリモコンにボタンがあることで「なんとなく見てみよう」とボタンを押してみる機会が増えた。

KJ-43X8500F

 映像配信サービスのボタンがテレビリモコンに集約されたことで、操作を一元管理できるのも嬉しい。Fire TVで動画を見ている時はFire TVのリモコンだけでいいのだが、テレビの電源を切りたい、21時から始まるドラマを見るためにテレビに切り替えたいと言うときには2つのリモコンを使い分けなければいけない。繰り返しながら2つのリモコンを使い分けること自体がそこまで大変ではないのだが、1つのリモコンで完結できる便利さを味わってしまうと、わざわざリモコンを持ち帰ることがおっくうに感じてしまう。

テレビ番組のようなAbemaTV、チャンネル限定ながら「全録」感覚のHulu

 視聴体験として面白いのがAbemaTVだ。専用ボタンの用意されたサービスの中で、AbemaTVのみがテレビ番組型のライブ配信が基本となるため、視聴体験も非常にテレビに近い。他のサービスは視聴を中断するとトップページに戻されるのだが、AbemaTVは最後に見ていたチャンネルが表示されるところも実にテレビ的。ユーザー登録不要でアクセスできることもあり、CSやBSのテレビ番組を見ているかのような感覚で楽しめる。

 また、Huluは日本テレビが運営していることもあり、日本テレビのテレビ番組が積極的に配信されている。筆者は日本のドラマ好きで、クールと呼ばれる3カ月ごとにドラマを録画予約して片っ端から見るという趣味があるのだが、忙しい時は録画予約を忘れてしまい第1話を見そびれて悔しい思いをすることも少なくない。

日本テレビのテレビ番組が見逃し配信できるHulu

 しかしHuluであれば、日本テレビに限られるものの放送中のドラマは一通り見逃し配信されているため、ある意味全録のような感覚でドラマを楽しめる。番組改編期にありがちな「録りたい番組の時間が重なりすぎて時間が削れてしまう」という時も、「日テレならHuluで見ればいいか」と割り切ることもできる。

 ボタンも横幅が大きく、サービスのロゴがカラフルに印字されていることもあって操作感も良好。また、Hulu、Netflix、U-NEXTともに視聴していた番組の続きをすぐに再生できるUIになっているため、途中で視聴を止めた番組を再度見るのも手軽だ。テレビの電源や入力切り替えはリモコン上部だが、利用頻度の高いチャンネルや音量はリモコン中央部にあるため、テレビを普段見るときの操作と、映像配信サービスに切り替えるときの操作もエリアが分かれていて押し間違いもほとんどない。

いずれの映像配信サービスも続きをすぐ再生できる仕様になっている

 なお、ボタンについては表示されたサービスのみが対象であり、ボタンの入れ替えなどはできない。当然のことながら自分が契約していないサービスについては番組情報の検索程度はできても視聴することはできず、まったく使わないボタンということになる。

 かなり大胆なボタン配置ではあるものの、CSやBSも環境がない家庭であれば使わないボタンという点ではさほど変わらないだろう。むしろ映像配信サービスの普及が進む今、CS/BSよりもこうしたサービスの専用ボタンを割り当てるほうが自然な流れなのかもしれない。

Chromecast機能も1台に集約できる「Chromecast Built-in」

 リモコンばかりに話が集中してしまったが、本機がOSとして搭載するAndroid TVも特徴の1つ。Googleの各種サービスに幅広く対応しており、映像をストリーミング再生できる「Chromecast built-in」機能も本体に内蔵している。

 Chromecast built-inの詳細は別記事を参照して欲しいが、要はChromecast同等の機能をテレビに内包したということ。本来はHDMI入力を1つ消費して接続するChromecastが内蔵されたことで、HDMIポートを減らすことなくChromecastとほぼ同等の機能が利用できる。

【ミニトピ】スマホの映像・音楽をより楽しむ「Chromecast」の魅力。“built-in”でさらに便利

 映像配信サービスについてはAndroid TVがほぼ対応しているためあまりメリットを感じられないかもしれないが、テレビのリモコンを使わずスマートフォンをリモコン代わりに動画を視聴できるという手軽さはメリットだ。

 視聴したい番組をテキスト検索するなら、リモコンのボタン操作よりもスマートフォンのタッチ入力のほうが圧倒的に便利。また、AllCastのようなスマートフォン内のコンテンツをストリーミング表示するアプリを使って、手持ちの動画や写真を簡単にテレビで共有することも可能だ。

 動作としてはほぼChromecastと同等ながら、細かな違いとしてはバックグランドで動作を継続できないこと。Chromecastであればキャスト中にチャンネルを切り替えても外部入力を切り替えて元に戻ることができるが、Android TVの場合はスマートフォンから映像をキャストしている最中にチャンネルを変更するとその時点でキャストが終了する仕組みになっている。

音声操作の機能はまだ少なめ。OSアップデートで機能を拡充予定

 Android TV搭載の特徴として音声検索機能も搭載。リモコンの「Google アシスタント」ボタンを押し、リモコン上部に向かって発声すると、見たい映画や録画予約の結果などを検索できる。

本体中央に搭載されたGoogle アシスタントボタン

 ただし、現時点で利用できる音声認識操作はまだまだ少ない。音声で検索できる映画はGoogle Playで配信されている作品のみで、HuluやNetflixといったボタンが用意されている番組は検索できなかった。また、録画予約も結果を確認できるのみで、音声で録画予約ができるわけではない。

Google アシスタントボタンを押して音声で検索
「アクション映画」で検索した結果。表示されたのはGoogle Playの動画のみ

 このほか音声認識関連の機能として、Google HomeなどGoogle アシスタント搭載のスマートスピーカーと連携し、スマートスピーカーに向かって話しかけるとBRAVIAを操作できる機能も備えているが、こちらも対象となる操作は音量の上下、YouTubeやGoogle フォトのキャストといった程度で、テレビの電源オンオフや選局までは未対応。

 ChromecastをHDMIポートに装着すればスマートスピーカーからの電源オンオフはできるだけにこの点は少々残念だが、2018年内に予定されているOSアップデートやGoogleアシスタント built-inの対応が完了すれば音声検索周りの機能は大幅に改善されるだろう。スマートスピーカー連携もWorks With GoogleアシスタントやWorks with Alexaへの対応が予定されているため、音声で操作できる機能もより広がりそうだ。

映像配信サービスのユーザーには魅力的。今後のアップデートに期待

 専用ボタンの多さとロゴ印字によるインパクトで話題を集めたBRAVIAのリモコンだが、映像配信サービスを活用している身からすると非常に便利な存在だ。テレビのリモコンはとかく数が多く、時にはほとんど触ることのないボタンもある中で、試用中という短い期間ながらも映像配信サービスを視聴するためにボタンを押す頻度は非常に高かった。

 映像配信サービスを使わないという場合も、リモコンの操作は本体中央の十字ボタンが中心であり、操作の妨げになることはない。存在感が大きすぎるという印象の問題さえなければ、映像配信サービスを使わない人にとっても大きなデメリットはないだろう。

 むしろ、映像配信サービスを活用しているユーザーにとっては「自分が使っているサービスのボタンがない」ということのほうが課題かもしれない。dTVやAmazon Prime Videoといったサービスを使いたいときに、専用ボタンのあるサービスに比べると操作の手間が増え、利便性ではどうしても劣ってしまう。また、一般に10年ほど使われるというテレビにおいて、ボタンに印字されたサービスが10年後も継続しているかという心配もあるだろう。

 ボタンを番号にすれば汎用性は上がるが使い勝手は下がるし、ボタンの表示を切り替えられる機構を入れればコストが上がってしまう。なかなか悩ましい部分ではあるものの、少なくとも映像配信サービスをよく使う人にとっては、通常のリモコンに比べれば利便性が上がることは間違いない。今後予定されているOSアップデートやスマートスピーカー連携が対応すればより魅力的なテレビとなりそうだ。

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KJ-43X8500F

甲斐祐樹

Impress Watch記者から現在はフリーライターに。Watch時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。ライター以外にも家電ベンチャー「Shiftall」スタッフとして活動中。個人ブログは「カイ士伝