レビュー

バズーカ+BS 4Kの新REGZA「55BM620X」の高画質・音質と安心感

 地デジ化の買い替えラッシュの後、長く続いた薄型テレビの需要低迷が回復のきざしを見せている。買い替え需要が増していることに加えて、大画面化、4K化の動きも進んでいる。しかもサッカー ワールドカップロシア大会が開催中であり、日本代表や好きな国のプレーを見るために薄型テレビを買い替えたという人もいるだろう。「テレビの買い時は見たいコンテンツがあるとき」、とすれば、その判断は正しいはずだ。

REGZA 55BM620X

 ワールドカップロシア大会は、全試合が4K/HDR撮影されており、NHKはいくつかの試合で8K撮影カメラを持ち込んでいるようだ。国内で4Kあるいは8Kの映像を見る機会はパブリックビューイングなどで、現時点の放送は地デジやBSのハイビジョン放送。それを4Kテレビで見ても良さは感じないだろうという意見もあるかもしれないが、4K収録された映像は、きっと12月に始まる新4K衛星放送(4K BS放送)でオンエアされるはずだ。

 そして、ハイビジョン放送で見ていても、今年の中継が4K撮影されていることはよくわかる。フィールドを広範囲に画面に収めたアングルが多用されており、ボールを追うだけでなく、オフェンス陣、ディフェンス陣の選手の展開する様子がよくわかる。リプレイシーンなどでクローズアップも挿入されるが、フィールド全体が把握できる見せ方が多くなったと感じた。だから、日本代表のディフェンス陣が見せた「キャプテン翼」ばりのオフサイド・トラップも、ディフェンスラインの一糸乱れぬ動きをしっかりと見ることができたわけだ。

他社に先がけ、BS/CS4K放送チューナを内蔵

 前置きが長くなってしまったが、今回は6月に発売された東芝の4Kテレビ「55BM620X」(22万円)を紹介する。頂点となる有機ELテレビのX920シリーズ(7月下旬発売予定)に次ぐミドルクラスモデルで、「重低音バズーカオーディオシステム」の搭載が特徴となるモデルだ。

 今春の東芝の4Kテレビは他社にはない特徴がある。それはいちはやくBS/110度CS 4K放送チューナを内蔵していること(以下[BS 4K]と表記)。他社の今春モデルは、チューナ内蔵を見送り、将来発売予定の単体チューナを追加することでBS 4K放送に対応可能になる。

BS/110度CS 4Kチューナを搭載

 東芝が4Kチューナ内蔵で先行できた理由は、BS 4K放送のために必要なACAS方式のICを別体で実装する方法としたため。ACASのためのICは従来のB-CASカードのような別体ではなく、テレビ基板に実装される方式となっている。ACAS方式のICが各テレビメーカーに出荷されるのは秋から年末のため、本来ならばチューナ内蔵型のテレビは発売できない。

発表会で展示された「BS/CS 4K視聴チップ」。現時点では試作品だが、外観などはほぼそのままである模様

 東芝は、今春モデルでチューナ内蔵型のテレビを発売するため、来年度生産のモデルまで限定的に許される外部接続型を採用したわけだ。このため、購入したユーザーは、ホームページなどでBS 4K放送の視聴に必要な「BS/CS 4K視聴チップ」の申し込みをする必要がある。申し込みを行なうと、後日「BS/CS 4K視聴チップ」が届くので、テレビ本体に接続し、ファームウェアを更新することで、BS 4K放送の視聴が可能になるというわけだ。

背面にある専用の拡張端子に「BS/CS 4K視聴チップ」を装着する。端子はUSBに似ているが、USB端子として使うことはできないし、誤装着を避けるために専用のピンが接続部にある
「BS/CS 4K視聴チップ」を装着した状態。カバーを取り付けてしまえば外観上の変化はまったくない
付属のリモコン。BS 4K放送用の切替ボタンの新設にもとない、いくつかのボタン配置が変更されている
リモコンの「4K」ボタンでBS 4K放送に切り替えた状態。現状では、放送の視聴をすることはできない。

 BS 4K放送については、すべてのチャンネルを受信するためには、左旋円偏波に対応した新しいBS/CSアンテナが必要で、ブースターや配線などの変更も必要になるなど、それなりに視聴のためのハードルは高い。しかし、東芝は現在使っているBS/CSアンテナでも、右旋円偏波で放送されるNHKの4K放送と民放系4K放送は受信可能であることから、少なくとも現行のBS/CS放送を視聴しているならば、決してハードルは高くないことをアピール。薄型テレビもいち早くチューナ内蔵型とすることで、より積極的に普及を促進していく姿勢だ。

 BS 4K放送については、いずれはほとんどの4Kテレビがチューナ内蔵型となることは間違いない。ならば、「チューナ内蔵型の登場を待ちたい」という消費者も多いだろう。それによる今春から夏にかけての買い控えをなくす意味でも、東芝はBS 4K放送チューナの内蔵にこだわったわけだ。「東芝の4Kテレビならば、BS 4Kチューナ内蔵だから、今すぐ買っても安心」といえる。「見たいコンテンツがあるときが買い時」ではあるが、そんなタイミングにきちんと将来性も兼ね備えたモデルを発売する姿勢は立派だ。

 外観は前モデルのBZ710Xに近いが、薄型のスタンドはさらに目立たないデザインとなり、大きな画面と前向き配置のスピーカーが際立つ印象。テレビ画面部の上側も、有機ELほどではないがかなり薄さを強調したフォルムになっている。

 そのぶん、下側にある「重低音バズーカウーファー」が思ったよりも大きく、存在感を主張している。

55BM620Xの外観。ディスプレイ部はベゼルも細めですっきりとしたデザイン。画面下には前向き配置のスピーカー部がある。最近のモデルはしっかりとスピーカー部を主張するものは珍しい。
横から見たところ、画面部分の上半分はかなり薄型になっている。十分な強度はあるが、設置時などは無理な力を加えないように注意したい。
55BM620Xの背面。下側に大きく張り出しているのがウーファ部で、左右の両端には低音を増強するポートがある。
ウーファ部のポート部分。ウーファの低音をポートで増強して放出する。開口部はカバーで保護されている。
スピーカー用のユニット。左側が背面にあるウーファで、右側が前面に配置されるスピーカー

テレビ基板のSoCを更新。高画質「レグザエンジンEvolution」

 55BM620Xの詳しい内容を紹介していこう。テレビ基板はSoC(システム・オン・チップ)が最新のものとなり、高画質エンジンは「レグザエンジンEvolution」に進化した。機能的な強化としては、意外に要望の大きかった「ダブルウィンドウ」が復活。放送+外部入力などの組み合わせで二画面表示に対応した。

 地デジと現行のBS/CSチューナは3チューナで、視聴とは別に2番組の録画が可能。クラウド利用した番組リコメンド機能の「みるコレ」は継承しており、各種の動画配信サービスも充実。Socが最新となることで、映像配信サービスもさらに魅力を増している。また、新たにGoogleアシスタント搭載のスマートスピーカーとの連携も実現。「works with Googleアシスタント」対応で、音声によるテレビ操作や番組探しなどがより快適に行なえるようになっている。

「みるコレ」の画面。基本的に従来と変わりはなく、お気に入りパックを自由に登録して、自分の好きな番組が探せるようにカスタマイズできる。
動画配信サービスの一覧。主要な動画配信サービスに対応しており、多彩なサービスを活用できる

 SoCの更新による機能強化は案外多く、操作画面も一新されている。従来のような画面も邪魔しない最小範囲でのコンパクトな表示ではなく、機能メニューの階層構造が把握しやすいツリー状の表示になった。表示面積が増えたことで、機能説明やイラストも多用され、よりわかりやすい操作メニューになっている。

 このあたりは、他社を含めた最新のトレンドに合わせたものと言えるが、使いやすさの一方で、視聴中にメニューを開くと画面が見えないという問題もある。特に画質調整では、調整した結果を確認しづらく使いにくいこともある。しかし、東芝の場合は、画質調整で明るさやコントラストといった調整になると、調整用のバー表示のみの最小スペースのものに切り替わり、画質調整時に画面の邪魔を極力防ぐようになっている。画質調整自体の機能はもともと多彩なので、ツリー状のメニューのおかげで使いたい機能を探しやすくなり、なかなか使い勝手が良い。

「設定」ボタンで表示されるメニュー一覧。表示エリアが大きくなり、各項目もアイコン付きでわかりやすくなっている。
「映像設定」を選択した状態。映像調整のためのメニューに続いて、音声設定などにも移動できるようになっている

 今度は「レグザエンジンEvolution」による高画質機能だ。上位モデルであるX920シリーズが搭載する「レグザエンジンEvolution PRO」に比べると、いくつかの機能は省略されているが、従来からの高画質技術はきちんと踏襲。新たにBS 4K放送のための「BS/CS 4Kビューティ X」が搭載された。これは、映像をブロックごとに解析し、ディテールの少ない部分はノイズを抑え、ディテール部ではより精細感を高めるといった処理で、ノイズの少ない見やすさと精細感を両立している。4K放送や4K動画配信で目立ちやすいブロックノイズやモスキートノイズを低減する「4Kノイズクリア」も備える。4Kコンテンツというと、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)のような高品位な映像を思い浮かべるが、放送や動画配信では転送レートが制限されるため、ノイズの影響も大きくなる。そのため、4Kコンテンツに最適化したノイズリダクションを実装したというわけだ。

レグザエンジンEvolution

 このほかに4K映像をさらに精細化する「4K高精細復元」、色の質感を再現する「4Kカラーテクスチャー復元」と、4Kコンテンツのための高画質機能を豊富に盛り込んでいる。

 もちろん、地デジ放送の高画質化も進化した。新たに「地デジビューティーX」を搭載。地デジの1,440×1,080の映像のアップコンバートを、汎用のスケーラーで行うのではなく、専用のアップコンバート技術で1,920×1,080化し、高画質化を行う。BS 4K放送の開始に合わせて、現行のBS/CS放送も多くのチャンネルが1,440×1,080の映像になるなど、帯域の変更が行なわれているが、もちろんこれらのBS/CS放送の高画質化にも対応している。

 このほか、精細感の復元やノイズリダクションも地デジ放送に最適化したものとなり、くっきりと見やすい映像を追求している。肌の質感をより美しくする「美肌リアライザー」も継続して採用している。

映像メニュー。映画やアニメ、スポーツなど、コンテンツの特徴に合わせたメニューを用意している。通常は「おまかせ」を選んでおけば、自動的に最適な映像に調整される
コンテンツモードは、BDソフトや放送など、映像の品質に合わせて選択し、より最適な高画質化が行なえる。普通の使い方ならば「オート」でいい

 続いては、大きな特徴のひとつであるオーディオシステムだ。「重低音バズーカオーディオシステム」は、前向き配置された「クリアダイレクトスピーカー」と、背面の「重低音バズーカウーファー」による2.1ch構成。これに最適な音響に補正する「レグザサウンドイコライザー・ハイブリッド」が組み合わされている。

 「レグザサウンドイコライザー・ハイブリッド」は、中高音域は896バンドの分解能で補正する「レグザサウンドイコライザー」と、低音域を20バンドで補正する「オーディオオプティマイザー」を組み合わせたもの。低音~高音まで幅広い帯域を補正することで、不要な歪みのないクリアな音を実現している。

 このほか、FIRフィルターで周波数軸補正と時間軸補正を行ないインパルスレスポンスを改善する技術や、3次元空間測定と自覚軸解析による4次元補正で広がりのある音とサービスエリアの広い再生音を実現する技術、音像補正処理で画面の下にあるスピーカーの位置ではなく、画面から音が聴こえるような再生を行なうなど、数々の技術が盛り込まれている。

 音質調整としては、ダイナミック(音楽/ライブ向き)や映画などの音声メニューや、イコライザー、サラウンド機能などが盛り込まれている。ダイナミックや映画といった音声メニューでトータルで調整内容が切り替わるので、まずは音声メニューを選び、そこから好みで微調整していくといいだろう。

音声設定のメニュー画面。音声メニューの切り替えのほか、豊富な調整機能がある。
重低音の設定。オフ/弱/中/強が選択でき、低音再生を好みに合わせて選べる。
サラウンドの設定。左右の音の広がり感が選べる。オフのほか、ライブとシネマがある
イコライザーの設定。5バンドのイコライザーで音質の微調整が可能だ

 放送受信設定や初期設定は、電源投入時の「はじめての設定」で一通り行なえる。BS 4K放送については、今後のソフトウェアアップデートの後でないと視聴も設定もできないが、現行放送のチャンネル設定やアンテナ設定とほぼ同様のものになると思われる。

 気をつけたいのは、「その他の設定」にある「外部入力・HDMI連動設定」の「HDMIモード選択」。これは、「高速信号モード」を選ぶことで、4K/60pやHDR信号を入力できるようになる。UHD BDのプレーヤーなどを接続するときには、接続したHDMI入力のモードを切り替える必要がある。これを忘れると、HDR映像の表示ができずにSDR表示となるので、かならず確認しよう。

BS・110度CSアンテナ設定。これは現行BS/CS放送のもの。接続したアンテナの受信状態を確認できる。
初期設定の画面。「はじめての設定」のほか、ネットワーク設定など、基本的な機能を使うために必要な設定を行う。
HDMIモード選択の画面。UHD BDのプレーヤーなどとの接続時は「高速信号モード」に切り替える。HDMI入力ごとに独立して選択が可能だ。

地デジやBSでは厳しいソースである、サッカー中継で実力を画と音を試す!

 ではいよいよ画質と音質の実力を見ていこう。テレビ放送については、ニュースやドラマなども含めて、いろいろな番組を見ているが、今回は当然ながらサッカーの中継を見ることが多かった。サッカーをはじめとするスポーツ中継は、カメラの動きが早いなど、地デジで見るとノイズが目立ちやすく、厳しいソースでもある。そのあたりも含めて、少々不安な気持ちもあったが、結果から言えばかなり安心して見られる映像に仕上がっていた。

 サッカー中継は「スポーツ」モードで見たが、倍速表示がLEDバックライトの駆動を活用してよりスムーズでなめらかな映像にする「クリアスムーズ」を選ぶと残像感のない鮮明な映像を楽しめた。激しい動きに伴うノイズの発生もよく抑えられており、映像の破綻も少ない。強いて言うならば、4K収録で引いた画面が多くなったこともあり、選手の顔に注目するとやや細部が不足した感じはあるが、地デジ放送でそこまで欲張っても仕方のないところ。ただ、スカパープレミアムサービスの4K放送ではJリーグの試合の中継をしているが、これを見ると、引いたアングルで選手たちがどこを見ているか(案外ボール以外の選手を追っている)、選手同士でのアイコンタクトの様子まで見えていて、サッカー通にはうれしい映像が多いのだ。

 今後、4K収録や8K収録が増えてくるとなると、スポーツ中継も4Kでみたい。今後は東京オリンピックも控えているので、スポーツ中継好きならばBS 4K放送に対応した薄型テレビをぜひおすすめしたくなる。

 ワールドカップの映像も、かなり見やすく満足できる内容だった。日本選手の青いユニフォームも鮮やかなブルーを描いているし、背番号がくっきりと読めるのでどの選手が活躍しているかもわかる。クローズアップの画面ならば、闘志溢れる表情もしっかりと描かれる。また、SDR映像ながらHDR的なコントラスト感の増加も行なわれており(アドバンスドHDR復元)、フィールドの日陰の部分と日差しの入った部分の明るさの違いも明瞭。日陰の部分も見えづらくなることもなく、見通しの良い映像になっていた。

 サッカー以外の番組も、明るくはっきりとした映像で見やすいものに仕上がっている印象。ニュース番組のスタジオでの場面はアナウンサーの服の質感や表情もきめ細かく再現され、ノイズも少なく見やすい。ドラマも暗部の再現を含めて表現力豊かな映像となっており、比較的手頃な価格のモデルとしては十分以上に優秀な画質だ。

 有機ELテレビのユーザーからすると、暗部の再現性に違いを感じた。これは、まさしくパネルによる画質の違いそのもの。液晶テレビでは黒の締まりには限界があるが、暗部の階調自体はきちんと描いており、情報量の不足はない。有機ELは黒が完全な真っ黒になるので、映像が引き締まった印象になるが、その良さを十全に味わうならば部屋も映画館のように暗くする必要がある。

 55BM620Xの場合、部屋は少々薄暗い程度の照明として視聴したが、黒浮きが目立つようなこともなく十分なコントラスト感が得られた。黒の再現については、映画などで厳しく見れば限界はあるが、一般的な明るさの部屋などで見るならば、十分な黒の締まり感があり、暗部の再現が潰れてしまうこともない。

 しかも、明るいシーンがパワフルで生き生きとした感触になる。スポーツ中継や一般的なドラマでは、こうした明るい映像の方が見やすいし、見ていて楽しい。有機ELテレビと比べる価格帯の製品ではないが、適正な明るさの環境で気軽に楽しむ使い方をすれば、有機ELテレビとの大きな差を感じることはあまりない。

 BS 4K放送を考えても、映画のようなコンテンツよりも、スポーツ中継やドラマ、ドキュメンタリーなど、一般的な放送コンテンツの充実が期待されるので、そうしたコンテンツの満足度は十分と言える。

 音質については、テレビ放送を見るならば、十分以上の実力。一番感心したのは声の明瞭な再現で、サッカー中継では実況するアナウンサーの声をより明瞭に聴くことができた。また、解説者はアナウンサーほど滑舌が良くないが、それでもモゴモゴと聞きにくくなるようなこともなく、十分に聴き取りやすかった。実は人の声は案外低い帯域も含まれており、低音の再現力が弱いとカンカンと耳障りに感じたり、力不足で聴き取りにくい声に感じやすい。

 バズーカウーファーの低音も、逆に低音が過多で声に曇ってしまうこともなく、低音の量感と明瞭度がきちんとバランスしている。スタジアムの観衆が声を上げた時のうなるような低音感まで感じられるし、広いスタジアムに響く広がり感も良好。サラウンドは「中」の設定だったが、不自然な広がり感にはならないので安心して使えた。

4K/HDRの映画コンテンツは果たしてどうか?

 今度はUHD BDの4K/HDRの映画だ。画質の良さでも評価の高い「オリエント急行殺人事件」や「グレイテスト・ショーマン」などを見たが、「映画」モードを選択すれば、暗いシーンでの暗部の再現も階調感がきちんと出ているので、見づらく感じることもない。全体的に明るめの画面になってしまうが、映画の雰囲気を壊してしまうほどではない。なめらかな階調感やしっとりとした再現はレグザシリーズの質の高い画質をきちんと受け継いでいる。

グレイテスト・ショーマン 4K ULTRA HD+2Dブルーレイ
(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 発色の良さも十分だ。明るめの力強い映像ではあるが、そのために色が薄くなってしまうようなこともなく、質感の豊かな色がきちんと描かれている。UHD BDということもあり、ディテールの再現性も十分以上。今回は視聴環境に合わせてコントラスト感や黒の再現性を少々微調整したが、環境や好みに合わせて微調整をすれば、かなり満足度の高い映像が楽しめるはず。

 画質調整というと、多くの人は面倒だと感じるだろう。最高級の実力を持ったテレビは出荷時設定のままであらゆる映像を最高の画質で楽しめると思っているかもしれないが、必ずしもそうではない。有機ELテレビですら、弱点はある(画面全体の輝度パワーがやや不足、HDRのピーク輝度も不足しがち)。4K/HDRのコンテンツは一般的な液晶テレビや有機ELテレビのポテンシャルを超えた情報量を持っているので、作品に合わせた微調整はむしろ欠かせない。

 液晶テレビはさまざまな弱点はあるので、それを補うためにもちょっとした画質調整も試してほしい。東芝のREGZAは画質調整の項目も豊富で、画質モードやコンテンツモードと難しいイメージもあるが、画質モードとコンテンツモードを適切に選ぶだけでより好ましい映像が楽しめるようになっている。なにはともあれ、使ってみることが肝心だ。

 バズーカウーファ搭載ということで「音」にも注目したい。「グレイテスト・ショーマン」の楽曲の数々は、厚みのある音で十分に楽しめる。もちろん、いかにバズーカウーファーといっても、映画の重低音をすべてカバーできるほどではなく、低音域の伸びには限界がある。だが、意外と物足りなさを感じない。低音感のまとめ方が上手で、よほどの爆音映画でもなければ、テレビだけでも十分なサウンドを得られるはずだ。

スピーカー用のユニット。左側が背面にあるウーファで、右側が前面に配置されるスピーカー

 強いて言うならば、サラウンドの再生は十分とは言えない。サラウンド機能で、広がり感はでるものの、前後左右の移動感や包囲感まで再現されるわけではない。サラウンドを重視する人は、対応機器を使うほうがいいはずだ。ここでは、Dolby Atmosに対応したシステムをおすすめしておく。

NetflixでDolby Atmos音声が楽しめる!!

 なぜDolby Atmosシステムがおすすめなのか。最新のサラウンド技術であるDolby Atmosは、Netflixでも昨年から採用しており、コンテンツ数も増えている。だが、そのことにあまり気付いていない人も多いかもしれない。というのは、Netflixでは4KやHDR、Dolby Atmosといったコンテンツは、対応した機器が接続された状態でないと表示されないからだ。

 Netflixでコンテンツを選択すると、「HD」とか「5.1」といったアイコンが表示されているのだが、これが4Kテレビならば、同じ作品でも「4K」とか「HDR」という表示になっていて、当然ながら4KやHDRの映像を楽しめる。

 Dolby Atmosの場合、現在公式に対応とされているのは、Windows 10のPC、Xbox One S、LGエレクトロニクスのDolby Atmos対応の薄型テレビ。決して高級機ばかりというわけではないが、Netflixのために上記の機材を入手するかというと、なかなか手を出しにくい。筆者は手持ちのWindows 10 PCで試していたのだが、PC自体が古いため、Dolby Atmosは試せたが、4KやHDRへの対応が困難だった。

 何故こんな話をしたかというと、NetflixのオリジナルコンテンツをDolby Atmos音声で楽しめるという魅力が大きい。UHD BDなどで、発売されていないものも数多いし、音質的にも通常の5.1ch(Dolby Digital+)よりも明らかに高音質だ。

 これが、55BM620Xでは、4KやHDRといったコンテンツはもちろん、Dolby Atmos音声も選択できた。ただし、内蔵スピーカーのままでDolby Atmos音声が楽しめるわけではないので要注意。Dolby Atmos音声を楽しむには、対応したAVアンプやサウンドバーといったシステムが必要になる。55BM620XにはDolby Atmos対応システムがおすすめといったのはこれが理由だ。

 というわけで、アニメ映画の「BLAME!」を見てみた。これはBDが発売されていて、映像はHDだが、音声はDolby Atmos。Netflixでは、手持ちの環境では映像はHDRで、音声は5.1だった。「BLAME!」を見て以来、映像はHDRで、音声はDolby Atmosという組み合わせで視聴してみたかったのだ。

Netflixでのアニメ映画「BLAME!」のコンテンツ画面。タイトルの下にある「HDR」と「Dolby Atmos」のロゴに注目。現時点でこの表示ができる環境は決して多くはない

 当然ながら素晴らしい体験だった。HDRのハイコントラストな映像で暗い階層構造都市が鮮やかに描かれ、爆発の光や光学兵器のまぶしい輝きがあり、それにふさわしい力強い音が組み合わされる。4KやHDR、Dolby Atmosも含めて多くの動画配信サービスが対応を表明しているが、いち早くそれを進めたNetflixは充実したタイトル数が大きな武器となっている。

 55BM620XでNetflixのDolby Atmos対応ができた理由は、前半で述べたSoCの更新が理由とのこと。SoCの進化でDolby Atmosレディとなったわけだ。東芝では今春モデルである、BM620X、M520X、X920が対応モデルとなる。旧機種については残念ながらソフトウェアアップデートによる対応はできないようだ。

 Dolby Atmos音声のタイトルもその数が増えてきてはいるが、決して十分ではない。ここにNetflixなどが加われば、Dolby Atmos音声がより多く楽しめるようになる。これはサラウンドシステムを持っている人ならばうれしいはずだ。

Netflixオリジナル作品のSFドラマ「ロスト・イン・スペース」のコンテンツ画面。こちらもHDR&Dolby Atmos。映像的にも見応えがあり、おすすめのコンテンツだ。
NetflixでDolby Atmosをキーワードに検索した結果。タイトル数は思った以上に多く、しかもほとんどがUHD BD化されていない

「今すぐ買って安心」と断言できる

 NetflixのDolby Atmos対応は思いがけない発見だったが、BS 4K放送チューナ内蔵を含めて、今後当たり前になっていくであろう新機能を先取りして盛り込んでいるのが、東芝の55BM620Xだ。画質やバズーカ搭載の音質も含めて実力が高く、比較的手頃な価格なので、誰にでもおすすめできるモデルだ。

 現時点で考えてられるほとんどの機能を網羅し、基本性能も高い。今すぐ薄型テレビが欲しいという人に、うってつけの製品だと思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。