レビュー

「クロノ・クロスライブ」ハイレゾ版、超高音質の秘密に迫る。FOSTEXスピーカーを追い込め!

FOSTEXのデスクトップオーディオと共に、「クロノ・クロスライブLive Audio」をさらに深く楽しんでみる

本年冬、中野サンプラザにて開催された「CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019」の追加公演。その千秋楽を記録したライブ音源、通称「クロノ・クロスライブLive Audio」が7月1日から各種配信サイトでリリースされた。「CHRONO CROSS」は1999年にプレイステーションで発売されたRPGだ。

この追加公演千秋楽に筆者はいちファンとして参戦。当時、ハイレゾ版の配信予定はまったく告知されていなかったので、電撃的に配信が決定したと思ったら、約2時間半のボリュームながら希望小売価格1,800円(税込)という破格のプライスに度肝を抜かれた。

前編では、クロノ・クロスライブLive Audio ハイレゾ版の楽しみ方を、ハイレゾ入門者に向けて詳しく解説した。後編では、驚くべき高音質の秘密について、光田康典氏にオンラインインタビュー。さらに、FOSTEXのデスクトップオーディオを、より高音質で楽しむグレードアップ方法を紹介していきたい。

CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair Live Audio at NAKANO SUNPLAZA 2020

moraハイレゾ先行配信日:6月24日から
配信日:7月1日
品番:SBPS-0041~42
レーベル:SLEIGH BELLS
発売元:有限会社プロキオン・スタジオ
希望小売単曲価格:200円(税込/通常・ハイレゾ共通)
希望小売アルバム価格:1,800円(税込/通常・ハイレゾ共通)
※配信サイトによって価格が変わる可能性がある

実は光田氏の大ファンです

何を隠そう、筆者は光田康典氏のファンである。生まれて初めて購入したCDアルバムはクロノ・トリガーだ。当時、小学生の私は兄が購入したSFC用ソフト「クロノ・トリガー」にハマり、街のCDショップまでサントラを買いに走った。メロディーを口ずさめるまでにヘビロテし、弾けもしないのにピアノ楽譜も買った。

筆者秘蔵の光田康典氏関連CDコレクション

写真は、所有しているCDの全てだ。途中からハイレゾ版のみ購入しているので、最近の作品は写っていない。「ゼノサーガ エピソードI」の衝撃により、当時存在していた公式ファンクラブにも入会。No.5からの会報や限定CD/楽譜は宝物だ。2004年、三鷹で行なわれたファンクラブイベントに参加。吹けもしないのにオカリナを買い、ファンとミュージシャンで合奏する本番に備え猛練習した。他にも光田氏を巡る思い出は語り尽くせない。少年時代からその世界に魅せられ、40手前に差し掛かった今でも最も敬愛する作曲家として光田氏は不動の位置を保っている。

そんな私だったから、クロノ・クロスライブLive Audioの記事化にあたり、光田氏に直接インタビューしたいと考えた。光田氏のスタジオが山梨にあり、昨今のコロナ情勢もあってリモートインタビューとなったが、光田氏はこちらのマニアックな質問にそれは丁寧に答えてくれた。

まず、クロノ・クロスライブLive Audioの細かな仕様面を解説しよう。ハイレゾを普段から楽しんでいる方、音楽制作プロセスに興味のある方も想定して、突っ込んだところまで伺っている。

ライブ録音とは思えない、驚きの音質の秘密

CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair Live Audio at NAKANO SUNPLAZA 2020
(C)1999 SEPTIMA LEY CO., LTD. & SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

クロノ・クロスライブLive Audioのマスター音源は、U-NEXT配信に向けて録音していた96kHz/32bit-floatのマルチトラックをそのまま利用しているが、ミックスが映像配信版と異なるのは前回述べたとおりだ。

例えば、映像が無い音楽だけで臨場感を伝えるために、オーディエンス(観客)の声を大きめに調整したり、映像配信ではあえてそのままにしていた楽器ノイズや空調ノイズを音楽だけに集中できるように除去している。ミックス作業は、光田氏の制作拠点「PROCYON STUSIO Mt. Fuji Studio」にて光田氏監修の下、秋田裕之氏が担当した。秋田氏は当日のレコーディングエンジニアも務めたという。

秋田氏は、「ハルカナルトキノカナタヘ」やXenogears 20th Anniversary ConcertのBlu-rayも担当されている。当日のシステムは、Pro Tools HDXを用いたトラック数64ch弱の大がかりな物。なんとドラムだけで16ch以上もあったという。

ハイレゾ収録に合わせて、DPA社などの20kHz以上が録音できるマイクも使用。プラグインやアウトボードを使った“掛け録り”は極力行なわず、素の音を録音したそうだ。リミッターを掛けすぎると、後半テンションが上がって演奏したとき音が潰れてしまうので、それを回避する狙いもあったという。ライブ録音とは思えない驚異的な純度は、このこだわりのセッティングにあると感じる。

マイクは楽器用だけではなく、ホール側にもアンビエンスを捉えるために設置された。2階席両サイドのフロントに2本、1階席後ろの方に2本の計4本とのこと。1階席のステージ前に、客席に向かって立てなかった理由を聞いてみたが、ステージにある楽器用のマイクに結構な熱量で観客の声が入っているとのこと。熱い声援の甲斐があったというものだ。

ドラムとパーカッションの定位に注目

光田康典氏

「秋田さんとはEQやPANの使い方など綿密に打ち合わせをしました。難航した曲ですと、“時のみる夢”は印象的ですね。ミックスには全部で4日間かかっていまして、最後の1日でもう一度頭から聴いてみたら、ドラムとパーカッション、そしてベースとのバランスに違和感があったので再度調整し直しました。最後の最後までバランスは悩みました。ベースとドラムのローエンドを伸ばして、音量も少しだけ上げたところ、ライブ音源としての迫力や臨場感が増しました。秋田さんには山梨まで来ていただくのですが、面と向かってああでもないこうでもないとやれた方が作業が早いんです。リモートだとハイレゾのデータを何曲もサーバーに上げてチェックするのは大変ですから(笑)」(光田氏)。

PANについては、ドラムとパーカッションを実際のステージ配置のように左右に分けて定位させるべきか、通常のレコーディングと同じようにドラム、ベースはセンターといったパンニングにするべきか、ここは特に念入りに調整を重ねたという。一般的には、ドラムとベースを中央に定位させると、音の絡みも良くなり迫力も出てくる。左右に定位させると最初は音がスカスカになってしまったそうで、そこから迫力を備えかつLch-Rch間のバランスが良いものに調整するのが大変だったそうだ。結果はお聴きのとおり、違和感なく当日の雰囲気を楽しめる仕上がりになっている。

そして、オーディオファイルとして、気になる点も伺ってみた。

まず “音圧について”。今回のライブアルバムは、筆者が普段の聴いているボリューム値よりも、さらに8dBほど大きくしても全然うるさくないことにとても感動した。逆に言えば、一般的なPOPSと比べると音が小さいかもしれない。しかし、光田氏は決して音が悪いわけではないと訴える。現場で鳴っていた音に極力近いように、“小さい音は小さい音で”、“大きい音は大きい音で”ナチュラルに聴けるようにミックスをしてもらったという。

ミックスからマスタリングまでリミッターは極力掛けないように音作りしたそうだ。作品に合わせてオーディオ機器の音量を調整する行為は、ネガティブなことではないと語る光田氏だが、筆者も同意である。広いダイナミクスを感じることは、現場にいる感覚を呼び起こす。まさに「本作を聴いてライブに参加して欲しい」ということだ。

生楽器の質感表現が優れている点について伺ったところ、「演奏者がそこで演奏している音をそのまま伝えたい」との答え。意図的に原型を壊している音楽も存在するし、実際の作業は楽曲次第ではあるものの、今回の作品についてはEQやコンプレッサーは控えたという。使っても、ちょっとピーキーな部分を削るといった範囲に留めたそうだ。

低域についてはどうだろうか。本作は、ハイエンドオーディオで楽しみたくなるような低音がしっかりと入っており、ローエンドの深さはオーディオマニアも唸る仕上がり。ここにも光田氏のこだわりがある。

「なぜ低域をバッサリとカットする方が多いのでしょうね。制作時にラージ/スモール/ラジカセといろんな機器でチェックする方も多いですが、僕はジェネレックのメインモニターでしか聴きません。例えば、“ラジカセで聴いたら(筐体が共振して)低音がビビるからカットしよう”とかは一切やらないようにしています。それは言ってみれば機器側の問題であり、作る側の僕らがそれに合わせてバランスを変えることはしたくないのです。一方で、ホールの低音ノイズはもちろん、中域から上しか出てない楽器の低域とかはカットすることがあります。やっぱり気持ちのいいロー(低域)を聴いてもらいたいのです」。

そもそも光田氏は“ハイレゾで制作することの意義”を、どう感じているのだろうか。その答えは、“楽器が鳴っている音をそのまま届けたい”と考えた結果、最低でも96kHzで録っていくようになったという。機材などで掛かる予算も、ハイレゾと非ハイレゾでさほど変わらないため、ハイレゾで作るのは至って自然だと光田氏は言う。

また、一般の人は“ハイレゾ”と言うとすぐ超高域の話になる事が多いが、ハイレゾの一番の魅力を光田氏は、「“可聴帯域の解像度が上がること”が大事であって、超高域が伸びることだけがメリットではない」と語る。例えば96kHzで録音すると、プラグインによるリバーブの掛かり方も違うそうだ。48kHzは階調が粗いという。

“ゲームミュージックのライブ”としてのこだわり

今回のライブアルバムは、音楽単体でも素晴らしいものだが、「CHRONO CROSS」という“ゲームの音楽”として生まれたものだ。当然、ゲームミュージックならではの、こだわりも深い。

「(今回のライブに参加した)ミュージシャンは、主にお仕事の付き合いがある方から選ばせてもらいました。深く考えたというより、ビビッと来る瞬間を信じて“この方となら楽しくやれそう”と思ったら直感でお声掛けしましたね。携わっている音楽は人それぞれですが、最終的にはみんな息が合って仲良しになっていました」。

「CHRONO CROSSは発売から20年経っていますが、20年って長いようで短いと思うのです。(ライブを聴いている人の中にある)当時の思い出は壊してはいけません。そこで、1ループ目は当時を思い出せるよう原曲に忠実に、2ループ目はソロを入れたりして崩していくことで”今のCHRONO CROSS”を表現するようにしました」。

「『次元の狭間』は、インストを歌ものにしたいと思いました。作品内の重要なシーンで掛かる音楽に歌詞を付けるということで、とても考えました。サラさん作詞の歌詞はWEBでも公開しようと思っています(現在公式サイトで公開がスタートしている)」。

オンラインで光田氏にインタビューした

当日の千秋楽を思い起こすと、光田氏の遊び心を随所に感じるステージがとても印象に残っている。ゲームへの深いリスペクトと、音楽への妥協なき追求、そして、ファンへのサービス精神に溢れていた。あのステージはどのような思いから作られたのだろうか。

「やっぱり、今回のライブはゲームありきのステージです。音楽だけが良くても、このようなライブにはなりませんでした。ゲーム作品のライブでは、大事なのは“ゲーム”です。一方、ライブコンサートでは“音楽”が主役。そのバランスには悩みました。その上で、自分ならではの演出を、お客様が見たいと思う演出を作っていかないといけないと。はっちゃけるところと、感動していただく部分の、喜怒哀楽をどう作るか悩みました。セットリストは、ゲームで流れた順番にしなきゃいけないと思っていました。通常なら、曲の中身で構成(曲順)を考えていくこともできるのですが、今回はゲーム優先です。弊社スタッフmauは、CHRONO CROSSのとても熱心なファンでして、迷ったときゲームファン目線で『これが欲しい』という意見をくれるんです。音楽方面に入り込みがちな僕をサポートしてくれました。自分に限らず、ゲームのオーケストラコンサートはずいぶん増えましたが、今回のようなもっと違ったアプローチで楽しんでいただく機会も今後は作っていきたいですね」。

現在光田氏は、将来の展望としてVRやDolby Atmosのようなバーチャルサウンドにも注目しているという。例えばライブ配信なら、好きなミュージシャンの演奏をずっと見ていられるようなインタラクティブ性のある配信をVRでできないか、本格的に考えているとのこと。また、映像方面も勉強中とのことで、なんと撮影用のドローンも最近導入したそう。時代の流れに合わせて、シネマミュージックビデオにも挑戦していきたいと抱負を語ってくれた。

買い替えなくてもOK! ちょっとした工夫で音はもっと良くなる

前編で、このライブアルバムの魅力をキッチリ再生してくれたFOSTEXのデスクトップオーディオ。合計4万円弱という単品オーディオコンポーネントとしては比較的リーズナブルな価格ながら、高いクオリティを実現している。

ハイレゾアクティブスピーカー「PM0.3H」(ペア:オープン/実売13,000円前後)、サブウーファー「PM-SUBminin2」(15,000円)、DAC兼ボリュームコントローラー「PC100USB-HR2」(9,800円)

買ってきてそのまま置いて楽しんでも、十分なクオリティは備わっている。ただ、せっかく足を踏み入れたオーディオを趣味として楽しむのであれば、その上の音質を目指したい。

となると、スピーカーをもう少し大型な機種に変更するとか、USB-DACをハイサンプリングレート対応のミドルクラス製品にする……など、“買い替え”が頭をよぎるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。音質のレベルをアップさせる方法は、買い換えだけではない。セッティングやアクセサリーに気を遣うことで、ワンランクもツーランクも上の製品にも匹敵するような変貌を遂げることがある。

正しくは、「音が良くなる」という訳ではなく、「機材本来の音質に近づいていく」=「音が良くなったように感じる」というのが真実だ。いくつか工夫できるポイントから抜粋してその効果を紹介していきたい。

後編では、部屋を防音スタジオへと移動

まず、セッティングだ。写真は、筆者の自宅防音スタジオである。より音の変化を厳しくジャッジできるように前編のリビングから部屋を移動したのだ。よくご覧いただくと、スピーカー(PM0.3H)が少し内側に向けて角度を付けているのがお分かりいただけるだろうか。スピーカーの設置は、どうしても内振りでなければいけないということはない。多人数で楽しんだりするリビングオーディオでは、むしろ正面に向けた方がいいケースもある。しかし、デスクトップオーディオはほぼ一人で楽しむものだ。内振りにすることによって、特にセンターの定位が明確になる。

スピーカーを少し内振りにセッティングした

「センターの定位とは?」。正しく設置されたスピーカーシステムでは、左右のスピーカーの間に楽器やボーカルの音が浮かび上がるように聴こえる。真ん中にはスピーカーを置いてないのに、中央からサラ・オレインの声が聴こえるのだ。信じがたい現象だが、本当である。高級オーディオじゃないと味わえないと誤解している方もいるかもしれないが、そんなことはない。少なくとも本システムでは、はっきりとセンターの定位は確認できた。ミキシングエンジニアが意図した定位表現をよりハッキリ&クッキリと味わうためには少し内振りにするとよい。内振りの角度は、スピーカー左右間の距離やリスニングポイントまでの距離にもよる。少しずつ内振りにしながら、(特に分かりやすい)ボーカル等が中央にピッシリと焦点が合う角度を探っていこう。

ノートPCと組み合わせる場合は、できるだけ写真のように再生中はモニターを閉じた方が自然な音場になるのでお勧めだ。モニターを開けたままにするときも、画面をスピーカーのユニットと平行にするといくぶん改善する。

デスクに置いた場合、スピーカーと耳の高さの差異に注意して欲しい。具体的には、スピーカーのツイーター(小さい高音域用のドライバーユニット)と耳の高さがなるべく同じになることが望ましい。筆者環境では、完全に同じ高さはリビングでも防音室でも難しかったが、椅子を一番低くし、少しもたれるように座ると、それほど違和感はなかった。スピーカーが耳に対して下過ぎると、ある意味でステージを見下ろしているような感じになる。「ホールにいる感覚」を味わうためにも、できる範囲でいいので高さの調整は気をつけてみよう。

PM0.3Hのツイーター

続いてアクセサリーだ。オーディオアクセサリーは、ケーブルやインシュレーターなど、オーディオ機器と組み合わせて音質の向上やその変化を楽しむためのアイテムだ。星の数ほど種類やアイテムがあり、ここではとても全ての種類を網羅できない。導入しやすい価格、かつ分かりやすい効果の出るアイテムに絞って紹介しよう。

アクセサリーによる音質対策の要素はいくつかあるが、今回は「振動対策」と「ノイズ対策」を取り上げる。

最初は、振動対策だ。スピーカーはドライバーユニットが空気を震わせて音を出している。しかし、ユニットの駆動によってスピーカーの筐体自身も振動するため、その振動が設置場所にまで伝わって不要な共振を招き、音を濁らせる。また設置場所の振動はスピーカー自身にも戻ってきて、これまた不要な振動として音に悪影響を与える。音量を上げれば上げるほど、音波は設置場所を大きく振動させ、それが机の上のUSB-DACにも伝わり、音に悪影響…(以下略)。

つまり、スピーカーの振動を設置場所に伝えないこと、また設置場所の振動をスピーカーに伝えないことが大事だ。いくつか対策はあるが、手っ取り早いのはインシュレーターである。今回は価格的にもマッチするオーディオテクニカの「AT6098」(8個入り/3,500円)を3点支持で使用してみた。手前に2個、奥に1個だ。4点支持と比べて音の好みで選べばOK。

左がオーディオテクニカの「AT6098」、右がAETの振動吸収アイテム「VFE-4005U」
PM0.3Hの下に「AT6098」を設置

前編で試聴したライブ冒頭を聞いてみると、まずテーブルの共振が抑えられることで、楽器の音が明瞭になり、ステージの空間描写がハッキリとした。置く前は音量を少し上げるとテーブルも一緒にビビっているのが丸分かりであり、スピーカーの下に横長のバーチャルスピーカーがあるみたいだった。ボンヤリと薄もやのような、音の濁りが存在していた。有り無しで比較すると、何も対策してない時の音がちょっと不気味に思えてしまう。中低域方面にも効果があった。

続いて、重低音を担当するサブウーハー「PM-SUBmini2」にもインシュレーターを使ってみる。AETの振動吸収アイテム「VFE-4005U」(4個1組1,500円)。最初、ホームセンターで売っているような防振ゴムでやってみようと思ったが、VFE-4005Uがリーズナブルだったので思い切って買ってしまった。

サブウーハー「PM-SUBmini2」の下に「VFE-4005U」を設置

これはすごい。低音楽器の不要な膨張が一気に解消された。敷く前はブヨブヨ太って気品がなく音階も分かりにくいベース等の低音パートが、実にカッコよく引き締まったではないか。筆者の防音スタジオの床はとても重く堅牢な構造になっているのだが、それでも大きな改善効果があった。一般的な部屋ならもっと大きな音質向上が見込めるだろう。絨毯や畳に置く場合は、オーディオボードを敷くことを推奨するが、ホームセンター等で“拳で叩いてもあまり鳴らないしっかりした木の板”を買ってきて、それとVFE-4005Uを組み合わせるだけでもよいだろう。

オーディオで大切なのは電源だ!

続いてノイズ対策だ。PM0.3Hは電源にACアダプターを使用している。一般的なACアダプターの電源は、スイッチング電源の宿命とも言えるノイズ成分を含んでいる。これは残念ながら十分なオーディオグレードとはいえないため、ノイズ除去のアクセサリーがいくつかのブランドから発売されている。今回は、その中でも特別に安価であり人気商品となっているFX -AUDIO-の「Petit Susie」(直販1,380円(税込)/別売のアクリルケースキット追加済み)を使ってみた。

使い方は簡単。PM0.3H付属ACアダプターのDCプラグ先端をPetit SusieのDCジャックに接続、Petit SusieのDCプラグをPM0.3Hに挿すだけだ。PM0.3Hの電源仕様は15V/3.2Aだが、Petit Susieは最大35V/MAX 5Aなので特に問題ない。また、モニタースピーカーながら、一般的なセンタープラス仕様なので極性条件もクリアだ。

PM0.3H付属ACアダプターとFX -AUDIO-の「Petit Susie」を組み合わせる

より正確に効果を確認するため、前述のインシュレーターを2種類使った上で比較を行なった。まず、前編で触れた高域の気になるピークは軽減され、耳に優しい自然な高域の伸びへと変化した。生楽器の質感表現が大きく向上しており、録音された音源としてのデジタル臭のようなものがなくなった。推測になるのだが、倍音表現がよりピュアに正確に再現されるようになったと思われる。生音らしい有機的な質感は特筆に値する。さらにエネルギー感もアップした。同じ音量で聴いても、各楽器が生き生きと鳴っていて、前にグッと押し出してくるようなダイナミックさが楽しめた。

ノイズ対策は、USBの経路にも重要である。USBケーブルはデジタルで信号をやり取りしているが、ケーブルの中を通っている電気そのものはアナログの物理現象である。PCはノイズのデパートとも言われ、そのノイズがUSBケーブルに乗ってUSB-DACに送られれば、行った先の回路で悪さをする。USBのノイズ対策は、これまた様々な製品が発売されているが、その中から一際小型なiFi-Audioの「iSilencer+」(8,800円)を紹介しよう。

iSilencer+はノイズを広帯域に渡って除去するだけでなく、デジタルオーディオの⼤敵であるジッターも低減してくれる。使い方はとっても簡単。USBケーブルのPC側Aオス端子にiSilencer+を加えるだけだ。PCに差し込むとiSilencer+のLEDが点灯するので、動作していることが確認できる。

iFi-Audioの「iSilencer+」を使ったところ

インシュレーターを2種類使った上で、Petit Susieは取り外して、有り無し比較した。一聴して息を呑むほど、生楽器のディテールがリアルに変化した。全ての楽器音に立体感が出る。楽器音に立体感といってもイメージが沸かないかもしれない。あくまで例えだが、アコースティックギターの弦の一部しか見えなかったのが、弦の太さや材質、ボディやネックまで見えるような音に変わるのだ。空間がクリーンになって、ステージの奥行きが深まる。分離が向上し、各楽器もより聴き分けやすくなった。ノイズによって失われてしまう情報量の多さに唸ってしまう。

最後に全てのアクセサリーを併用してみたら、ライブ演奏に心から浸れる、極上のリアリティにうっとりしてしまった。USBケーブルやRCAケーブルなどまだまだやれることはあるものの、ここまででもう十分じゃないかというくらい、没入型のライブサウンドを味わえた。まさにFOSTEX製品の真の実力が引き出された結果といえよう。ちなみに、少しずつ製品を揃える場合は、振動対策を先にやって、次にノイズ対策を行なうのがお勧めだ。

作り手が聴いているそのままの音を楽しむハイレゾ、挑戦しないのはもったいない

今回はクロノ・クロスライブLive Audioをデスクトップオーディオで楽しむ方法を紹介したが、これはあくまで一例だ。貴方の環境や好みに合った形でハイレゾを体験してみて欲しい。

また、光田康典氏のインタビューからは、氏がいかに本作を丁寧に丹精込めて作り込んでいるか伝わってきたと思う。ハイレゾを楽しむということは、フォーマットがどうとかいうよりも、“作り手が聴いているそのままの音を楽しめる”というメリットがある。

現場で鳴っていた音と近い音が家で楽しめるのに、やらないのはもったいない。安価な機器でも、ハイレゾの魅力を味わえる製品は沢山ある。クロノ・クロスライブLive Audioの場合は、嬉しい事にハイレゾ版も、CD音質版も価格は同じだ。始めるなら、今である。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト