レビュー

これ1台でポッドキャストデビュー! ズーム「PodTrak P8」で番組を作ってみる

Podcast(ポッドキャスト)という言葉をご存じだろうか。ポッドキャストとは、インターネット上で音声番組などを配信・公開する仕組みの一つだ。2005年ごろに日本でもブログを使った手軽なサービスが開始され、iTunesに自分の聞きたい番組を登録し、ポータブルプレーヤーへ転送して楽しむ人が現れるようになった。現在でもポッドキャストという仕組みは機能しており、ラジオ放送局が配信するものから、一般層が自主制作・配信するものまで多様な番組が公開されている。

2000年代後期から2010年代に掛けて、ポッドキャストは国内でブレイクしており、非常に多くの番組が制作されたと筆者は記憶している。プロ・アマ問わず、面白い番組は支持を集め、その競争は熾烈を極めた。現在では、国内のブームは落ちついたものの、米国などでは急成長しているという話もある。

さて、ポッドキャストは、素人というか一般の方でも手軽に参入できる番組配信の方法でもある。番組配信は、対応するブログサービス等を使えば簡単に始められる。ただ、問題は番組の制作方法だ。オーディオインターフェースとDAW(パソコンで音楽を作るソフト)を使えば凝った音響演出ができるが、DAWが苦手な人もいるだろう。Radiotalkといったスマホでポッドキャストを制作・配信できるアプリは、本格的な番組制作には一定の制約はある。

そこで紹介したいのは、一台ですべて完結するハードウェア型の製品だ。ズームが12月に発売した「PodTrak P8」(以下、P8)は、収録から完パケファイルの書き出しまでを本機のみで可能にしたポッドキャスター向けのワークステーション。

P8は最大6人分の音声収録に対応し、電話ゲストのリモート参加が可能な入出力を備え、ジングルやBGMをボタン一つで鳴らせるサンプラー機能も搭載した、至れり尽くせりのハードウェアだ。記録形式はWAV(44.1kHz/16bit)で、記録メディアは512GBまでのSDカード(Class 10以上)に対応する。店頭予想価格は45,000円前後。2in2outのオーディオインターフェース機能(44.1kHz/16bit)も備えるので、ライブストリーミングにも使用出来る。

パッと見でMTRのような外観だが、機能的には異なる。MTR(マルチトラックレコーダー)は、その名の通りマルチトラックで録った音源をハードウェアの中で非破壊編集&ミックスできるが、本機はマルチトラックでも録れるものの、それを編集するならDAWが別途必要だ。P8は、MTRほどに機能が専門的かつ複雑化しておらず、かといって操作性に一切の妥協をしていない、まさにポッドキャスト制作に特化したハードウェアである。「MTR? 古いよ」と一蹴するのはもったいない。というか、それは誤解だ。

何を隠そう筆者は音響エンジニアでもある。セミプロとして、2006年から現在まで一貫して音声コンテンツやイベントPAに関わってきた。ポッドキャスト黎明期の2006年2月から録音と編集業務を担当。主な番組は「二次元へいきまっしょい!」「アニメ会のヲタめし!」「熱量と文字数」などがある(最後の熱量と文字数は、2015年まで担当した)。

アニメマンガ好きなオタクの間では高い支持を得た番組なので、知っている方もいるかもしれない。他にも商業含めいくつかWEBラジオは手掛けつつ、自主制作のネットラジオまで含めると数え切れないほど関わらせていただいた。長年、ポッドキャスト作りに関わってきた筆者が令和の時代に誕生した、”一周回って新しいハードウェア”を徹底解剖していこう。

外観をチェック

まず、その外観から。外形寸法は295×248×61mm(幅×奥行き×高さ)とマイクとヘッドフォンアンプを6基ずつ備えるにしてはコンパクトだ。重量も1.43kgと軽い。マイクプリアンプは最大70dBのゲインアップが可能で、Shure SM7BやHeil PR 40など出力レベルの低いマイクも使用できるとのこと。ファンタム電源にも対応し、ダイナミックマイクとコンデンサマイクを使い分けることができる。

チャンネル毎にファンタム電源はON/OFF可能だ。全体のレイアウトとしては、左上にマイク入力、左下にフェーダー、右下に再生や録音などのトランスポート、真ん中にタッチスクリーンとパッド。MTRの基本的なレイアウトを踏襲する洗練された使いやすい配置といえる。

その中でも一際目を引くのは、4.3型の大きなフルカラー・タッチスクリーンとBGMやジングルの「ポン出し」ができる9個のサウンドパッドだ。日本語表示対応のタッチスクリーンは、スマートフォン感覚でタップやスライドによるスムーズな操作が可能。メニュー階層は浅く複雑化していないので、目的の機能にすぐ辿り着けるのも魅力。

サウンドパッドは、SEやBGMをボタン一つでリアルタイムに流すことができる。一度押したらループさせるとか、一回押したら最後まで再生して自動で停止するとか、再生の方法も指定できる。

全9色で光るパッドは、音源ごとに設定した色で点灯させることが可能。サウンドパッドを使えば録音しながら雰囲気を盛り上げられるし、編集で後から音を付ける必要がないので作業的にも楽になる便利な機能。

全9色で光るパッドは、音源ごとに設定した色で点灯させることが可能

本体には、本番で使えそうなジングルや効果音が13種類あらかじめ内蔵されている。もちろん、SDカードにコピーしたWAV音源をサウンドパッドに割り当てて鳴らすこともできる。BGM/SEのみならず、ポータブルレコーダーなどで録った外部ロケの音源なども割り当てればボタン一つで呼び出せる。

割り当てる音源を格納するフォルダ名は好きに決めていい。条件は、P8_MultitrackとP8_Settingsのフォルダに音源を入れないこと

9つのパッドを1バンクとして合計4バンク、最大36個の音源を割り当てることができるから、まず不足することはないだろう。

さて、このほかの細かな機能面については、後半の実践編でお伝えするとして、基本的な仕様面を選り抜きで紹介しよう。

各チャンネルは、ミュートボタンの他にON AIRボタンを備えている。ON AIRを消灯させると、音声の入力自体は行なわれるが、番組のステレオファイル(録音データ)には記録されないので、音楽を流しているコーナーの間に出演者同士で打ち合わせをしたり、リモートゲストと相談をしたりする際に便利だ。

チャンネル6は、マイク入力の他にUSBオーディオインターフェース機能に切替え可能。番組で使う音楽をPCから再生したり、PCで動く通話アプリ経由でリモート出演してもらうこともできる。

リモート出演の方法は、PC含め全部で3種類あって、4極TRRS端子によるスマートフォンとの有線接続、さらには別売りのアダプター「BTA-2」を組み合わせたBluetooth接続に対応する。もちろん、フィードバックやエコーを防止する機能付だ。時代に沿った、死角の無い機能性は見事である。

4極TRRS端子でスマートフォンとの有線接続も可能
アダプター「BTA-2」を組み合わせたBluetooth接続も可能だ
フィードバックやエコーを防止する機能付

録音が終わったあと、細かな編集をすることができるP8

  • 必要部分以外をカットする(トリミング)
  • ファイルを分割する
  • フェードイン/フェードアウト
  • BGMなどを付加する
  • 複数のファイルを任意の順番で1つにまとめる(コンバイン)
  • ラウンドネスノーマライズ

これらの機能は全て、元ファイルを残すか、上書きするかを選択できる。

編集時は、ヘッドフォンでのモニターはもちろん、モニタースピーカーを使ったチェックも可能だ。そのためのTRS出力を備える。ボリュームは、ヘッドフォンとは別に専用のノブで調整可能。同ノブの隣には、USB出力のノブも備える。これはライブストリーミングのときに、ミックスした2chの音声をどの程度のレベルでPCに送るかを決めるもの。よく見ると、最大ボリュームのところが太い線になっているが、これがノミナルレベル(フェーダーでいうところの、+も-もしない0の位置)だ。基本最大で固定し、OBSなどの配信ソフト側で0dBFSを叩いてクリップしてしまう場合は、少し下げてやればよい。

写真をよくご覧頂くと、マイク端子の近くにあるスイッチ(A)、フェーダーの真ん中(B)、ヘッドフォンの端子(D)、ヘッドフォンのボリューム(E)、この全ての色が対応しているのがお分かりいただけるだろうか。これは最大6組あるマイクとヘッドフォンが、ゴッチャにならないように施された工夫だ。

(A)のマイクと(B)のフェーダーはもちろん対応している。ヘッドフォン出力は、すべて同一の信号が送られるが、ボリュームは個別に調整可能だ。自分の挿しているジャック(D)の色に対応したノブ(E)を動かせば音量が変わる。

電源は、同梱のACアダプターの他に、単三電池4本での駆動も可能。PCからのUSBバスパワーとUSBモバイルバッテリー電源にも対応する(ともにType-Cの5V DC)。単三電池は、アルカリ(約2時間)/ニッケル水素(約3.5時間)/リチウム(約6.5時間)と対応しているが、USBモバイルバッテリーなら大容量タイプを使うことでさらに長時間の駆動が可能とのこと。

実際に使ってみる

ではいよいよ、実用レビューに移っていく。本機は、おそらくアマチュア~ハイアマチュア、セミプロの自主制作といったニーズを意識したハードウェアだと思われる。手頃な価格かつ、本体を小型軽量に収めるため、プロ目線では機能面のシュリンクも見受けられるが、筆者がMTRを使っていた16年以上前では考えられなかった便利な機能が満載である。

ポッドキャストを制作するには、番組内容を決めて、人を集め、台本やネタの準備をし、録音場所の確保、収録と編集、完パケができたあとのアップロード、告知や宣伝と、一連の流れを行なう必要がある。本記事でこれらすべてを網羅することはできないので、P8が担う録音と編集、そしてアップロードまでの流れをかいつまんでご紹介しよう。

限られた期間の試用ではあったが、出演者1人(自分)、ゲスト1人(電話参加)を確保し、録音場所は筆者の自宅スタジオStudio 0.xを使って1本の模擬番組を制作した。構成は以下のようになる。機能をなるべく多く試すため、忙しない感じの構成になっているのは、お目こぼしいただきたい。

  • OPトーク(BGM有)
  • ■ジングルA
  • トーク(BGM無し)
  • 外部録音(ポータブルレコーダー)
  • ■ジングルB
  • お便りコーナー(音楽後付け)
  • ゲスト枠(LINE電話出演)(BGM無し)
  • ■ジングルC
  • BGM入り EDトーク

録音にあたり、マイクとヘッドフォンを本体に接続する。今回は自宅のメインで使っているコンデンサマイク「SONY C-100」を使用した。ヘッドフォンは、軽量で長時間利用に向く機種を選択。ボリュームは、自分が喋っている実音声より少し大きく聞こえる程度に合わせるとよい。

録音の前に、マイクに関する設定を適切に行おう。これは面倒に感じるかも知れないが、ここを適当にすると、音が割れている、音が小さすぎる、何を喋っているのか聞きにくい、といった悲惨な状況になりかねない。番組の中身以前の問題なので、しっかりと調整しよう。

まず、全てのマイクに掛かる「ノイズリダクション」はONにするとよい。これは喋っていないときにレベルを減衰させてノイズを抑える機能だ。マイクの数が増えるほどその恩恵は大きくなるとのこと。

マイク入力の設定は、以下のようにしてみた。

まずリミッターはON推奨。これは笑い声などの大きな入力がマイクに入ったとき、歪みを抑えてくれる機能。デジタル録音では、レベルオーバーして歪んだ場合、バリバリといった不快な音になってしまうので、リミッターはONが望ましい。リミッティングしていないときの音質への影響はほとんど感じない。

次にローカットは基本的にONだ。声の無駄な低域部分をカットし、空調などの暗騒音や環境ノイズを軽減させることができる。ローカット周波数は、割と低めに設定されている気がした。値は非公開だが、録った声に結構低域が残っていたので、もっと上の帯域からカットしてくれてもよかったと思う。

入力ゲインは、レベルメーターのGoodが通常の声量で頻繁に点灯するくらいまで上げてみよう。トーン機能は、ちょっと悩み所だ。個人的にはコンデンサマイクならOFFを推奨。ダイナミックマイクを使うとき、録った音が地味目でもっと声を目立たせたいというときは、ONにしよう。ONにするだけで低域と高域が少し強調される。さらに低域寄り・高域寄りにしたいときは、つまみを左右に動かして調整しよう。コンプレッサー/ディエッサーはON推奨。コンプレッサーは、声の音量のばらつきを抑えて全体の音量を上げてくれる。BGMとのミックスをやりやすくする効果もある。ディエッサーはサ行などの耳障りな歯擦音を抑える効果がある。デフォルトの設定では効果が強めだったので、ご覧のようにつまみを左に動かしてもう少しゆるくコンプレッションが掛かるようにした。

本機のいいところは、コンプレッサー/ディエッサーの細かいパラメータはすべて省いているところ。特にコンプレッサーは、初めての方には難しいエフェクトだ。スレッショルド、レシオ、アタック/リリースといったいろんなパラメータがあり、使いこなすのが難しい。使いやすさと分り易さを優先し、効果の大小だけに絞ったのはむしろ潔い。

コンプレッサーによる声の聴感上の音量は、実際何回か録って聞いてみて決定しよう。BGMとのミックスでバランスを整える際、BGMのカットイン時(最大時)の音量感と、コンプレッサー後の声の音量感が揃っていると聞きやすい。BGMやSEをパッドに割り当てる際、すべてが同じくらいの大きさで聞こえるように音量を個別に調整しておこう。パッド用のフェーダーを何度も動かす手間が省ける。

パッドに音源をアサインした状態
各音源の音量を微調整して、再生方法を決めている画面

そのためにもマイク入力の設定は事前に人数分しっかりと行なっておくと、クオリティの高い完パケに繋がる。ちなみに、これらのエフェクトを使用した場合のレイテンシー(自分の声がヘッドフォンから遅れて聞こえる現象)は、ほとんど気にならなかった。もちろん皆無ではなく、特にコンプレッサー/ディエッサーを使ったときが最も長いが、喋っていて気持ち悪くなるとか不便な感じはまったく無かった。

複数人で使った場合は、部屋の響きの影響も絡んでくるので、レイテンシー以前の問題になることもある。なお、コンプレッサーなどの音質調整をする前のオリジナル音声は、マルチトラックでSDカードに記録可能だ。あとでDAWに読み込んで細かな編集ができる。P8では録るだけで編集はDAWでやりたいといったニーズにも応える。音質調整後のマルチトラックを残す設定も可能だ。本機でミックスされた2ch音源のみで番組を作るなら、マルチトラック録音はOFFで構わない。

フォーマットは44.1kHz/16bitとはいえ、モノラル換算で最大13chの同時録音になるのでSDカードの容量も圧迫する(マルチトラックは、ミュートやON AIRのON/OFFにかかわらず、全チャンネル分記録される)。

マルチトラックで記録したSDカード内部
2chの音源はルートフォルダに保存される

録音スタート

さて、ここまでできたら、次は録音だ。セッティングなど音響テクニック的な部分は、字幅の都合で割愛する。P8は、録音しながらBGMやSEをパッド1つで鳴らして、ラジオ放送局さながらの雰囲気で本番を進めていくことができる。

OPはBGMをリアルタイムで付けながら録音した。

使わないチャンネルはON AIRを解除し、ミュートにしておく

録音ボタンを押してスタート、間髪入れずOPテーマがアサインされているパッドを押して、BGMをカットイン。いいタイミングでサウンドパッドのフェーダーを適度なところまで音量ダウンさせ、わずかに喰い気味で喋りを開始。「音楽の音量が落ちきったな」とリスナーが感じるより少し前に喋り始めるのは個人的にはお勧めだ。

OPトークが終わったら音楽の音量を上げてちょっと聞かせてからフェードアウト。すかさずフェーダーを0の位置まで戻して、ジングルのパッドを押す。ここの操作は素早くやっても、不自然な間が空いてしまうこともあるので、のちほど編集で詰めてもいい。

本機は、不要な部分を指定して削除する編集ができないので、一度分割してからトリミングして、あとでコンバイン(繋げる)するのが順当だろう。

続いて、BGM無しのトークコーナー。マイクプリや純粋なレコーダーとしての性能を見るためのパートだ。本機は、ラジオ番組を作るのにまったく差し支えのない十分な音質を備えている。

44.1kHz/16bitで録るのは本当に久しぶりで、その独特な音の質感やデジタル録音らしさに感動すら覚えた。ああ、こういう音だったなぁと。MTRはもちろん、初めてのDAW「Pro Tools LE 7」を使い始めたころは44.1kHz/16bitで録っていたので、タイムスリップした気分だった。

続いて、外部録音の音源をパッドに割り当てて鳴らしてみる。このために近所の自然公園に出向いて外ロケを敢行。多摩丘陵の豊かな自然を眺めながら、ポータブルレコーダーで5分ほどのテイクを録音。恐ろしく寒かった。

ここで注意したいのが、録音フォーマットと録音レベルの設定だ。パッドに割り当てる際、44.1kHz/16bit or 24bitのWAVが対応フォーマット。録音レベルについては、ポータブルレコーダー側で自動調整してくれるオートゲインコントロールなどを使った方が良い。自宅で録っている音声との音量バランスが悪くなるからだ。最終的には、P8のサウンドパッドにアサインする時点で個別に音量を微調整する。

外ロケの音源は、雰囲気を出すべくP8のフェードインフェードイン/アウト機能を使って編集してからパッドにアサインした。

外部録音の音源をパッドで鳴らしている間は、マイクのチャンネルはON AIRを押して消灯させておいた。これで咳払い等をしても2chの完成音源には残らない。

外部録音の音源が終わったら、すぐにジングルを挟む。ここでいったん録音を停止した。もし、ブレイクタイムが短いなら、再生/一時停止を押してもよいだろう。

一時停止ならファイルがそこで分かれず、もう一度再生/一時停止を押すと録音が再開する。休憩を終えて、続いてお便りコーナーの録音(BGM後付け)。架空のお便りを読んで適当にコメント。録音を終えたらファイルの編集画面に移る。BGMは範囲を指定して後から付けることもできる。指定した範囲で自動ループ再生になるため、あらかじめ曲の前後は無音を消しておくと良い。

具体的には、音がある部分をトリミングする

画像のように、範囲を指定して聞きながら音量を上げたり下げたりして、ちょうどいい案配をチェックしてから確定。ちょっと残念なのは、曲の入り=頭はともかく、曲の終わり=ケツがカットアウトになるところ。急に曲が終わるので、トーク中の場合はちょっと気になる。BGMの音量が大きいと目立つから、かすかに鳴らす程度がよいだろう。

最終的な設定値

ケツをフェードアウトにしたい場合は、やはり録音中にリアルタイムにフェーダーを操作して曲を付けることになる。続いて電話によるゲストパートだ。

友人に頼み込んで時間を作ってもらった。P8をお借りした際にBluetoothアダプターのBTA-2(別売)を同梱いただいたので、せっかくだからBluetooth接続で通話してみた。コーデックはSBC。iPad Airと接続し、LINEの通話アプリで繋ぐ。リモート通話のフェーダーは、ノミナルレベル=0フェーダーで問題なかった。こちらの声も特にフェーダーで上げることはなく、先方に適度なレベルで届いたようだ。

数分間対話した後、録音を終了。編集でいい感じにカットして、頭とケツを整えて完成。作業時間の関係で、ここは筆者の使うDAWであるPro Toolsに取り込んでやらせていただいた。

10分を8分に短縮。最後は、ED部分を録る。ジングルからカットインして、EDテーマを流す。OPと同じく音量を落としてトーク開始。適当に喋って、音楽のボリュームを上げて最後はフェードアウト。以上で録音終了だ。

出来上がった音源は、複数のWAVファイルに及ぶため、まずファイルごとに頭とケツに無駄な無音(間)が無いか確認し、あればトリミングを行なう。波形は拡大/縮小ができるので、パソコンで波形編集する感覚に近い細かな編集処理が可能だ。次に、コンバインで全ファイルを順番に繋げるのだが、ファイル名はパッと見何のコーナーか分からない。そのため、ファイル名冒頭に「01_...」「02_...」などと番号を振って分かるようにしてから、コンバインで繋げてみた。繋ぎ合わせる処理時間はそれほど待たなくても出来上がった。

ファイルが出来上がったら、いよいよアップロードだ。ラウドネスノーマライズ機能を使えば、音源を解析し、iTunesのラウドネス基準である-16LUFS近辺に揃えてくれる。詳細は省くが、ここで言うラウドネスは、人間の聴感に基づいたコンテンツ全体の平均的な音量感のこと。聴感上の音量と思ってもらえればいい。

個人的には、-16LUFSは音圧がキツめで声の臨場感が損なわれるため、自分なら本機能は使うのを見送ると思う。

ラウドネスノーマライズ前
ラウドネスノーマライズ後

解析した結果、0dBFSの天井が赤印で一杯になっていることからも分かるとおり、True-Peakを何度も何度も越えてしまっているのは気になった。ファームウェアアップデートで改善を期待したい。個人的には、ネットラジオなら-20LUFS程度、大きくても-18LUFS程度でもいいのではないかと思う(数字が0に向かうほど、聴感上の音量は大きい)。

次に音声ファイルの圧縮だ。本機でもファイル編集画面からMP3への変換は可能。128kbpsのステレオファイルに変換してくれる。アップロードするサービスの1ファイル辺りの最大容量をチェックし、その範囲内であれば本機で作ってしまうのも手だ。

ポッドキャストに対応した無料のSeesaaブログでは、1ファイル25MBまでなので、30分番組の場合、90kbps(VBR高品質)くらいがちょうど良い。長時間番組なら、思い切ってステレオをモノラルにして、その分ビットレートを稼ぐのがお勧めだ。個人的にはモノラルでも80kbpsが下限値かなと思う。PCでfre:ac等のフリーソフトを使って変換しよう。

AACの方が同じビットレートでも音が良くなるので、AACに変換してもいい。ファイルアップロードサーバにサウンドクラウドを使う場合は、WAVのままアップロードし変換はサービス側に任せよう。同サービスは、ポッドキャストのように長時間コンテンツをアップロードする場合は、月12$の有料プランを契約する必要がある。Seesaaブログやサウンドクラウド等のサーバに音声ファイルをアップロードしたら、RSSのURLをポッドキャスト配信したいサービスに登録申請しよう。各サービスのRSS URL取得方法は、別途調べてほしい。

サウンドクラウドのRSS設定

ポッドキャストの配信先は、iTunesやAmazon music、Spotifyが代表的だ。対象のサービスに番組が登録されると配信が開始され、新しい番組を追加する度に自動で登録者に音声コンテンツがダウンロード(あるいは通知)される仕組みだ。手っ取り早くポッドキャストを始めたいなら、無料でSeesaaブログを開設し、音声ファイルは25MB以内に抑えて、アカウントごとに割り当てられるRSSのURLをiTunesに登録しよう。放送1回当たり、記事は1つだ。これが筆者の勧める鉄板かつ平易な方法である。

こうして模擬番組を制作して、P8の機能や使い勝手を確認していったが、いやはやとにかく楽しかった! 昔ネットラジオを作りまくっていた頃を思い出して、自分は喋るのも録るのも大好きなのだなぁと改めて実感した。率直に言って、この便利すぎるツールを筆者が声優を目指して上京した17年前に欲しかったし、これを実売5万円以下で購入できる今の若い世代が羨ましくて仕方ない。

1ハードで完パケまで制作できて、今の時代ならではのリモート出演にも対応した機能を実装し、コンパクトかつ軽量に仕上げてくれたのは本当に素晴らしいと思う。

一方、音響エンジニアの立場として、いくつか気になる部分もあった。

SDカードにコピーしたWAV音源をサウンドパッドに割り当てる前に、音源ごとにアイコンや色を変えることができる。ここで設定した色でパッドを光らせることができるので、操作ミスを防ぐためにも活用必至の機能だ。しかし、オリジナルのWAV音源から44.1kHz/16bitに変換するソフトウェアによってはアイコンや色の変更が行なえなかった。

ズームに取材したところ、WAV音源にはメーカー側の機器が自由に情報を書き込めるエリアがあって、そこにアイコンの色情報を記録するとのこと。しかし、そのエリアが何らかの要因で失われている不正なWAVファイルの場合、変更が記録できなくなる。これは今後のファームウェアアップデートで対応できるよう検討したいとのことだった。

ちなみに筆者の環境ではMacのXLDを使って変換すれば上手くいった。CDからWAVにリッピングする場合も、ソフトウェアによっては同様の事象は起きるかも知れない(ちなみに市販のCDの曲を勝手に使ってはいけない。音源そのものを使うための原盤権の許諾は個人にはまず下りない。ネットのフリーBGMや許可を取った同人音楽などから使用しよう)。

もうひとつ、MTRでないが故の惜しい部分は、本機で録った音声を組み合わせて「音声ジングル」を作れないこと。「橋爪徹の!オーディオよもやま話~!」というタイトルコールがあったとして、後半の「オーディオよもやま話~!」の部分を4重くらいのユニゾンコーラスで重ね録りして一つのジングルにするとかいった場合。適性、リバーブなども掛けたいところだ。MTRの頃は散々やった。一発録りなら、複数人でタイトルコールを合唱してそれをパッドに割り当てることはできるだろう。

しかし、リバーブを付加する機能が無いので、ドライの音声になってしまう。BGM後付け機能のように範囲を指定して掛けるリバーブはファームウェアのアップデートで可能にならないものか、期待したいところだ。

あると便利なのは、サウンドパッドにアサインした音源の解除。使わなくなった音源は、パッドから誤操作防止のため割り当てを解除したいが、現状は本体初期化以外に方法が無い。これはちょっと不便だ。

いずれにせよ、DAW全盛のこの時代にオールインワン型のハードウェアを開発してくれただけでも、合掌して土下座して感謝感激雨あられだ(古い)。ズームには今後の新たな展開を期待したい限り。

こぼれ話になるが、今回の試用において、ズームよりP8と組み合わせるのに最適な「ZDM-1PMP|ポッドキャスト用マイクパック」を合わせてお借りした。卓上スタンドとダイナミックマイク、ケーブル、軽量なモニターヘッドフォンのセットだ。マイクは中域が適度にエネルギッシュ。指向性が強く余分な響きや雑音を拾わないため、家庭内で使ってもコンデンサマイクより聞きやすい音が収録できる。

フラットに声を集音するコンデンサマイクとは音の傾向が異なるが、ラジオトークならダイナミックマイクでも何ら問題は無いと思う。最終的には好みで選んでよいだろう。

ZDM-1PMP|ポッドキャスト用マイクパック

音声コンテンツの需要と供給は、潜在的にはきっともっとあると思う。トークを使って、自分の表現を届けてみたいと思う方。難しいことは考えずにまずはやってみよう。YouTubeと同じだ。クオリティを気にしていたら、いつまでも踏み出せない。表現したいものがあれば、まずはやってみる。自分もそうだった。とにかくやってみて、現場(実践)で覚えるのだ。

1人でもいいが、友人を誘って複数人でやるともっと楽しい。トーク初心者の内は2人、多くても3人までをお勧めする。録音までのネタ作りの過程も本当にわくわくするので、ぜひポッドキャスターの同志を見つけてみて欲しい。

P8は、声で何かを届けたい多くの人にお勧めできるハードウェアだ。分かり易い使い勝手と、かゆいところに手が届く高い機能性を絶妙なバランスで両立している。特に若い方に使って欲しいと願ってやまない。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト