ミニレビュー

アップルAirPods Proは“自分仕様”が魅力。ノイズキャンセルだけじゃない音の進化

アップルから、新たなイヤフォン「AirPods Pro」が登場、10月30日より発売された。アクティブノイズキャンセリングにより周囲の騒音を低減する機能だけでなく、装着方法も、一般的なイヤフォンに近いカナル型(耳栓型)に変わったのが大きなポイント。イヤフォン自体の音質も強化したとのことで、さっそくiPhoneと組み合わせて使ってみた。

AirPods Pro

AirPodsといえば、最初に登場したときに独特のシルエットと装着感のインパクトが特に注目されたが、次第にアップルのファンやガジェット好きな人以外にも広まり、今では完全ワイヤレスを代表するモデルの一つとなっている。

その上位機として登場したAirPods Proは、一見すると今までより“普通のイヤフォン”に近くなったという印象。音が出てくるノズル部をそのまま耳に差し込むような方法から、イヤーピースを介して耳穴に密着するスタイルに変更され、下側にあるステム(スティック状の部分)は、従来よりも短くなった。Apple Store価格は27,800円。なお、既存のAirPodsも引き続き販売される。

最大の進化点は、コンパクトな完全ワイヤレスの筐体を維持したままノイズキャンセリング機能を備えたこと。通話や音声アシスタントなどヘッドセットとしての利便性を保ちながら、さらに音楽再生の満足感を高める方向にも注力したようだ。さっそく、機能強化された部分を中心に試した。

AirPods Proのパッケージ

ただのイヤーピース型じゃない独自形状。装着状態テストも

iPhoneとのペアリングは既存のAirPodsと同様にシンプル。AirPods Pro本体を収納した充電ケースのフタを開けて、iOS 13.2にアップデート済みのiPhone 11 Proに近づけると、iPhoneが認識して接続を案内する。一度ペアリングすると、同じiCloudアカウントで使っているデバイス全てと連携可能になる点も従来モデルと同様だ。

ケースのフタを開け、iOS 13.2搭載iPhoneに近づけると認識されてペアリング

イヤーピースを使って装着してみると、従来モデルと比べて安定感が大きく向上。これまでも、意図せず外れるようなことはほとんどなかったが、やはりイヤーピースを介した方が自分の耳にぴったり合っていることを実感できる。今までのAirPodsの4gから、Proでは5.4gとわずかに重くなっているが、装着しても重さの違いはほとんど感じない。

ステムを含めた長さは、従来の40.5mmから、Proは30.9mmに短くなっている。ステム部に角度を付けた形状ということもあって、顔の形に沿うため目立たない。こうした“ヘッドセットっぽくない”デザインも、評価したいポイントだ。

左がAirPods(第1世代)、右が新しいAirPods Pro
従来のAirPods装着時
新しいAirPods Pro装着時。耳からはみ出ていない
充電ケースは横長(左がAirPods Pro)になった

従来モデルも3Dスキャンで作られた、耳へのフィット感を追求した筐体だが、これまで蓄積した人の耳の形のデータだけでなく、新たに数千に及ぶ耳の形を実際に調査してAirPods Proに反映したという。具体的には「耳のどの部分に当たってもいいか、当たらない方がいいか」などを検討しながら最終的な形状が決まったとのことだ。

イヤーピースは楕円形で、イヤフォンへの装着も実は独特。一般的なイヤーピースは筐体から長く伸びたノズルのような部分にギュッと押し込んでかぶせる形だが、AirPods Proはノズルのような部分がほとんど無い。音が出る楕円形の開口部に、イヤーピースを軽く押し込むと、小さくカチッという感触があり簡単に着けられた。深く差し込むような形ではないが、軽く引っ張っただけでは外れない。外したい時は躊躇せず一気に引っ張ると取りやすかった。

イヤーピースを外した状態

付属イヤーピースは3つのサイズから選べるが、それが自分の耳に合っているか確認する方法も用意されたのもポイント。iPhoneの設定画面でBluetoothを選び、ペアリングしたAirPods Proの「i」マークをタップすると、通常のBluetoothイヤフォン接続時にはない、「イヤーチップテスト」という項目が用意されている。

イヤーピースは3サイズ
iPhoneのBluetooth設定画面から、詳細なカスタマイズが可能

これは、イヤーピースがその人の耳に合っているかどうかを音でチェックしてくれる機能。耳穴に対してイヤーピースが小さすぎて音が正しく伝わっていないと、サイズの違うものに変更するよう案内される。

装着状態テスト
左はサイズが合っていない、右は合っている場合の表示

イヤフォンから出る音がしっかり鼓膜に伝わるために、正しく密閉するのは重要なポイント。隙間があると、低音が逃げてしまったり、高音がシャカシャカした音になってしまいがちだ。人の耳の形は様々で、同じ人でも左右でサイズが違うことも珍しくはない。曲に含まれる音を損なわず楽しむために、使う人の感覚だけでなく、客観的な測定データとして教えてくれる。今まで当たり前と思っていたサイズが、実は1サイズ上げるともっと良い音で楽しめるということもあるだろう。

AirPods Proには左右それぞれに2つのマイクを備えており、このテスト機能は内側のマイクにより実現している。実際にイヤフォンから出した音が、耳穴の中で想定通りに鳴っていない時は、別サイズのイヤーピースを試してみるよう案内される。

密閉してもこもらない音質。低域に明らかな変化

装着状態テストが終わったら、いよいよ音楽を再生。最初に驚くのは豊かな低音の再生能力で、前述したようにノズルが短い分、ドライバーが耳に近くにあることも影響しているのかもしれない。ボーカルも、近くでアーティストが語りかけてくるような温度感がそのまま伝わる。

従来のAirPodsも、第1世代、第2世代へと進化する過程で音質も着実に向上してきた。ただ、今回は装着スタイルの変更とノイズキャンセリングの追加とも合わせて、変化の大きさはかなり分かりやすい。この音だけでも、価格差を上回る魅力があると感じる。

イヤーピースで密閉するからといって、音がこもらないのも特徴。こもりの原因である、耳の内部の圧力が高まることを防ぐために通気する仕組みを導入したためだという。昔のノイズキャンセリングイヤフォンのような閉塞感のある音にはならず、広い音場で鳴るのが心地よい。耳を圧迫しないAirPodsの良さを残したまま高音質化されているのが最大のポイントといえる。

新機能であるノイズキャンセリングは、外側のマイクで外部の騒音を集めて検知、その逆波形の音でノイズを打ち消す方式。さらに、内側のマイクも使うことで、耳に入ってしまったノイズも集めて低減することで、個人に最適化できるのが特徴。ノイズキャンセルを調整する頻度は毎秒200回とのことで、屋内外などを移動して環境が変わっても、そこに合わせた形で騒音をカットできる仕組みだ。

内部構造。一番右がハウジング部、その左がドライバー、その左にある四角い小さなパーツが内部マイク

歩道にいる時に聞こえる車のロードノイズや、オフィスの空調や様々な機材が発する音など、音楽の妨げになる音が、装着した瞬間にスッと収まる。曲の始まりのインパクトや、終わり際に音が消え入る部分など、周りの余計な音が耳に入らなくなったことで、曲の聴きどころがしっかり味わえた。

強力にノイズを防いで音楽へ没頭できる一方で、電車を降りる前など、周りの音を聞き逃したくない時に活用できるのが「外部音取り込み」機能。外側のマイクを使って集音することで、イヤフォンを着けたままでもアナウンスなど周りの音を聞きとれる。ノイズキャンセリングを単純にオフにした時よりも周りの音がはっきり聞こえた。

ノイズキャンセリングと外部音取り込みを搭載するイヤフォン/ヘッドフォンは他にも存在するが、重要なのは、これらをすぐに切り替えられること。せっかく機能を搭載していても、アナウンスを聞きたい時にすぐ使えなければあまり意味はない。

AirPods Proは切り替えに3つの方法を用意。一番シンプルなのは、左右どちらかのイヤフォンのステムにある少しくぼんだ部分を強めに押し込むようにつまむ方法。これでノイズキャンセルと外部音取り込みが切り替わる。なお、モードを切り替えても大きく音質の傾向は変わらないが、ノイズキャンセル有効時の圧迫感は、気にならないレベルだが存在はするので、オフ時と“全く同じ”ではない。

ステム部を少し強めにつまむとノイズキャンセルと外部音取り込みが切り替わる

iPhoneのBluetooth設定画面でもノイズキャンセリング/オフ/外部音取り込みの切り替えが可能。また、iPhone画面の右上部分から下にスワイプして呼び出すコントロールセンターも、AirPods Pro用の項目が追加されており、その部分をロングタップすると、ノイズキャンセリング/オフ/外部音取り込みの選択ができる。

さらに、Apple Watchユーザーであれば、30日から提供開始されたWatchOS 6.1にアップデートすると、Apple Watchからも切り替えが可能になる。

コントロールセンター画面で、AirPodsのアイコンをロングタップすると詳細設定に

耳穴の特徴にも合わせてユーザーに最適な音質

イヤフォンのドライバーは、特に低音の豊かさを表現できるというもので、「高偏位ドライバー」と名付けられている。低い帯域の音までしっかり出せることを目的に、振動板をより柔軟に駆動させており、20Hzまでをカバーするという。さらに、専用の「ハイダイナミックレンジアンプ」により、中高域も含めた全体の高音質化を図っている。

“もう一工夫”として搭載するのが「アダプティブイコライゼーション」という機能。前述した通り、耳の形は人によって異なり、耳穴の内側も当然同じではない。耳の中で、実際どのように響いているのかを内側のマイクで検出して、低域などを調整するのがこの新しい機能。トータルで音質向上していると感じるが、密閉型になったことやノイズキャンセル機能と合わせて、一番恩恵があるのが中低域。低域を単に前へ押し出すだけでなく、ボーカルを含めた解像感と情報量が、ワイヤレスでも損なわれずに耳にしっかり届く印象だ。

従来機から継承している特徴として、耳から外れると光学センサーが検知して再生が止まる機能や、Hey Siriと呼びかけた時に反応する音声感知の加速度センサー、ユーザーの声をしっかり拾うビームフォーミングマイクなども搭載。

また、1台のiPhoneで再生中に、他のAirPodsでも同時に聴ける「オーディオ共有」も利用可能。音楽以外でも、着信メッセージの読み上げが、iPhoneのロックを解除しなくても行なえる。

新機能を含む様々な処理を担っているのが、10基のオーディオコアを備えたワイヤレスチップの「H1」。チップ自体は従来機に載っていたものと同じとのことだが、ノイズキャンセリング機能の細かな調整など、より多くの部分に活用されたという。H1はレイテンシー(遅延)の低さにも貢献しているという。ゲームでも試してみたが、操作したときの音のズレによるストレスがなく遊べた。

H1チップを持つシステム・イン・パッケージ(SIP)デザイン

音楽の連続再生時間は最大4.5時間で、ノイズキャンセリングや外部音取り込みモードをオフにした場合は最大5時間。連続通話は3.5時間。充電ケースからイヤフォンへ、5分間の充電で約1時間の利用が可能。ケースへの充電端子はLightningで、ケーブルはLightning to USB-Cタイプが付属する。別売パッドを使うとワイヤレス充電もできた。

ケースの充電端子はLightning、ケーブルはLightning to USB Type-C

【お詫びと訂正】記事初出時、充電ケースの端子をUSB-Cと記載しておりましたが、Lightningの誤りでした。また、ノイズキャンセルの調整は「200秒に一回」と記載していましが、「毎秒200回」でした。お詫びして訂正します。(10月31日)

iPhoneユーザーに寄り添った着実な進化

AirPods Proで使えるようになったノイズキャンセリング機能は、ただ機能が追加されたというだけでなく、内外のマイクを使って個人の耳に最適化されたことで、初搭載とは思えない完成度の高さで登場したことが大きい。

耳穴にサッと掛けるような従来の装着スタイルから一新して、しっかりはめ込むイヤーピース付きに変更したことも、装着安定性の点で歓迎したいポイント。既存のAirPods(直販22,800円)は併売なので、そちらの装着感が好きな人も安心だが、これから新たに買うなら、トータルの面でProを選んだほうが満足感が高いだろう。

AirPodsならではの特徴として、カスタマイズなどの機能がiPhoneの設定画面内だけで完結しているのも個人的にはうれしい。専用アプリで様々な機能を使えるイヤフォンも便利ではあるが、アプリを立ち上げなくてもすぐに設定を切り替えられるのは、アップルならではの強み。iPhoneユーザーへの最適化が、さらに一歩進んだことを感じた。

中林暁