レビュー
シンプルお洒落で音はガチ! B&W流“未来のオーディオ”Formation Suite
2022年3月18日 08:00
オーディオに興味がありつつも、いかにも“ザ・コンポ”と言えるハードな見た目の機材を、普段生活している部屋に置くのはちょっとなあ……と思っている方は少なくないだろう。オーディオマニアの僕からしても、「自分達オーディオファンが楽しんでいる素晴らしい音の世界に、みんながもう少しカジュアルに手を出せたら……」と歯痒い思いをする時がある。
そんな中、おお! と期待できる凄いオーディオ製品が登場した。イギリスのスピーカーメーカー Bowers & Wilkins(以後 B&W)が発売した「Formation Suite」シリーズである。
オシャレなデザインを見ると「はいはい、流行りのライフスタイルオーディオにB&Wが参入したのね」と思いがちだが、中身はそんな軽いものではない、B&Wが“完全に本気モード”で全力開発した製品群だ。
まず驚くのは、一気に6モデルものラインナップで発売された事。有線/無線のネットワーク機能を有するが、基本的にはワイヤレスで使用できる。種類としては、1本で使用できる単体スピーカーとして「Formation Flex」と「Formation Wedge」、2チャンネル再生向けに「Formation Duo」、テレビと組みわせるサウンドバー「Formation Bar」に、サブウーファー「Formation Bass」。
さらに、既存のオーディオシステムとFormation Suiteを連携させたい人向けに拡張ユニット「Formation Audio」がある。様々な再生ニーズに、全方位的に対応するラインナップであることがわかるだろう。B&Wが本気モードであることが感じられると思う。
今回はこの6モデルを全て自宅に持ち込み、一挙にクオリティチェックを行なった。
- Formation Flex 77,000円(1台)
- Formation Wedge 154,000円(1台)
- Formation Duo 495,000円(ペア)
- Formation Bar 187,000円(1台)
- Formation Bass 154,000円(1台)
- Formation Audio 88,000円(1台)
Formation Suiteとは何か
ストリーミング再生に対応したワイヤレスオーディオは日本でも広まりつつあるが、市場にある既存製品では音質的に満足できないB&Wが、他ならぬ自分達で“ワイヤレスであっても、ピュア用スピーカーと同じ思想で開発しよう”と生み出したのがFormation Suiteだ。
そのため、手掛けたメンバーも“ガチ”で、ハイエンドの800シリーズを手掛けたステイニングの研究所のアコースティックチームが担当。音質だけでなく、安定した通信やデザインまでこだわりぬいているのが特徴だ。
では、サブウーファーを除く「Formation Suite」シリーズ5機種に共通する5つのポイントから見ていこう。
1点目は、Formation Suiteシリーズのスピーカーは、D級のアンプを内蔵するワイヤレスタイプのスピーカーだという事。
2点目はインターフェイスとして、無線/有線LAN、Bluetoothを搭載し、定額制のストリーミングサービスやスマホとのBluetooth接続がメインソースとなっている事。完全に無形メディアを再生対象としているのだ。1点目の特徴と合わせて、つまるところ“他にコンポがいらない”。
3点目はその再生可能なメディア・ソースの種類が豊富であること。ストリーミングサービスはDeezer、Spotify、Amazon Musicに対応。SpotifyとAmazon Musicはスマホやタブレットにインストールした各サービスの純正アプリが使える(Amazon Music HDは44.1kHz/16bitまで、それ以上のレゾリューションはダウンコンバート再生)。その他のストリーミングサービスへの対応も検討されている。
BluetoothはAAC SBC aptX HDに対応。AirPlay 2もサポートする。さらに、なんとRoon Ready対応機でもある(他のRoon対応機器と同じく同一ネットワーク内にRoonサーバーの設置が必要)。
4点目として、いずれのモデルもB&W独自技術「Formationワイヤレス mesh テクノロジー」を搭載している事。これは、2~5.1chなど複数のスピーカーが動作する場合に使われる独自の通信方式だ。Wi-Fiルーターを介さず製品同士が直接通信を行なうので、ホームネットワーク内のトラフィックに影響されず、96kHz/24bitのレゾリューションで通信可能。さらに各スピーカー間の時間的なズレは、1μ秒以下となる。
5点目は、専用操作アプリ「Bowers & Wilkins Music」が用意されており、スマホやタブレットからスピーカーの再生指示や設定が行なえることだ。
ブックシェルフスピーカー「Formation Duo」
まずは、Formation Suiteシリーズの中で最も本格的な2ウェイブックシェルフスピーカー「Formation Duo」をご紹介したい。本機は、オーディオファイルからメーカーまで多くの再生環境でリファレンスとして使用されているB&Wの代表的モデル「800 Series Diamond」シリーズの技術を採用しつつ、アンプと有線/無線のネットワーク機能を搭載した存在となっている。
ガチなオーディオマニアであれば、このスピーカーを見て同社のハイエンドブックシェルフ「805 D4」(1台539,000円~)を連想した方も多いことと思うが、エンクロージャー上面にあるトゥイーター・オン・トップ構造や、現在のB&Wの象徴ともいえるシルバーのコンティニュアム・コーン・ドライバーも見える。口径は、カーボンドーム振動板を採用したツイーターが25mm径、コンティニュアム・コーン振動板を採用したミッド/バスユニットが165mm径だ。
そして125WのクラスDアンプを内蔵し、これら2つのユニットをそれぞれ独自に駆動するバイアンプ駆動方式を採用。再生周波数帯域は25Hz~33kHzを確保する。また左右2本のスピーカーは、上述した直接通信を行なう「mesh」テクノロジーにより、スピーカー間のタイミングのずれを1μ秒以下に抑え、96kHz/24bitのレゾリューションで駆動される。
1本でOK「Formation Flex」、「Formation Wedge」
次に、2本の単体スピーカーを紹介していこう。Formation Flexは直径130mm、高さ215mmの円柱形のキャビネットを採用した、シリーズ中で最もコンパクトなスピーカーだ。一瞬Bluetoothスピーカーにも見えてしまうが、高性能なユニットとアンプが搭載されている。
ツイーターには、なんと「600シリーズ」が搭載する25mmデカップリング・ダブルドームユニットを採用し、100mm径のウォーブン・グラスファイバーコーン・ミッドバスユニットと組み合わされる。2つのスピーカーユニットは、それぞれ50WのクラスDアンプで駆動するリッチな仕様。
Formation Flexは単独での使用の他に、2台使ったステレオ再生も可能。さらに5.1chのサラウンド環境を構築する場合に、リアサラウンドスピーカーとしても利用できる、小さくて小回りの効くモデルだ。
別売のスタンド「Flex Floor Stand」や壁掛け用のブラケット「Formation Flex Wall Bracket」が用意されているので、机の上から家具、さらに壁まで様々な場所に設置できるのも嬉しい。
Formation Wedgeは、楕円形のボディと多面体の表面で構成された一体型スピーカー。440×243×232mm(幅×奥行き×高さ)と少し大きめなサイズで、重量は6.5kgとなっており、25mmのダブルドームツイーター×2基、90mmのFSTミッドレンジ×2基、150mmサブウーファー×1基を備える本格的な3ウェイ構成。
ツイーターとミッドレンジの出力は各40W、サブウーファーが80Wのバイアンプ方式で駆動される。こちらも壁などに取り付け可能な専用金具「Formation Wedge Wall Bracket」が用意されている。
サウンドバーとサブウーファー。便利なFormation Audio
Formation Barは、55型クラスのテレビとのマッチングが想定されたサウンドバーだ。外形寸法は1,240×107×109mm(幅×奥行き×高さ)、重量は5.5kgと、現在市場にあるサウンドバーの中でも比較的大型のハイエンドモデルといえる。TVとは光デジタルケーブルでの接続となり、ドルビーデジタルのデコード機能を持つ。ARC/eARC対応のHDMI端子を装備しないのは少し惜しい。
単体のサウンドバーとしても使用できるが、サブウーファーFormation BaseやFormation Flexを組み合わせてワイヤレスの5.1chサラウンドシステムも構築できる。しかもこの場合でも、全てのスピーカーから音が出るタイミングを同期させる事が可能だ。詳しくは後述するが、本システムはアプリ上からスムーズに4本のスピーカーがセッティングでき、サラウンド品質はかなり印象が良かった。
Formation Audioは、使用中のオーディオシステムとFormation Suiteシリーズのスピーカーをつなげる、メディアセンター(ハブ)的な機能を持つ製品。A4サイズほどの薄型筐体で、背面にはRCAのアナログ入力と光デジタル入力、さらにRCAアナログ出力と同軸デジタル出力を搭載する。また、MMフォノイコライザーも搭載されており(アプリで通常のアナログ入力と切り替える)、CDプレーヤーやアナログプレーヤーを接続することもできる。
もちろん音質も担保されており、入力されたアナログ信号は、内蔵のA/Dコンバーターによって96kHz/24bitに変換された上、そのままのレゾリューションでスピーカーに伝送される。
アプリで簡単セットアップ。そのサウンドクオリティに驚く
セットアップは各スピーカーほぼ共通で、iOSデバイスやAndroidスマートフォンかタブレットに操作アプリ「Bowers & Wilkins Music」をインストールして、アカウントを作成、スピーカーの電源を入れてからアプリを立ち上げて、初期設定を行なう流れ。
設定画面は対話式でイラストも豊富に出てくる、初期設定時に一発でスピーカーを認識する(この部分は本当に大切)ので、スムーズに行なえるはずだ。これは本シリーズの優秀な部分で、スマホの操作に慣れている、Wi-Fiの電波状態が良好な環境であれば、ここまでの作業は10分もかからないと思う。
音質に加えデザインにもこだわる人へ「Formation Audio + Formation Duo」
試聴は3つのスタイルで実施した。
1つ目は“オーディオマニア寄り”な人向けのスタイルで、オーディオ製品にデザイン性も求めた「Formation Audio + Formation Duo」だ。
Formation Duoを1F視聴室に運び、左右のスピーカー間隔を約1.8mとして少しだけ内振りに設置した。Formation Audioにはフォノイコライザー内蔵のアナログプレーヤー、LINN 「LP12」を接続。デジタルからアナログまで対応するシステムだが、これでも使用する機材はいつもよりかなりシンプルで、新鮮な気持ちになる。
まずは、44.1kHz/16bitのロスレスCDクオリティのストリーミングサービスDeezerから、最近筆者がリファレンスとしている女性ボーカルのアデル「Easy on me」(44.1kHz/16bit)を聴いた。
音が出た瞬間、オーディオの新しい時代が訪れたことを直感した。スピーカーから出てきたのは、オーディオマニアの僕が知る音の良いB&Wの音そのものだ。分解能と鮮度が高くて情報量の多いB&Wの持ち味が、ワイヤレスのスピーカーから聞こえてくるなんて、ちょっと衝撃的である。
しかもB&W的なサウンドといっても、音の傾向は新型モデル805 D4のイメージに近い、空間表現力やダイナミックレンジの広さが印象的。さらに低音の伸びや重力感もあり、分析的にならず、より音楽的な方向にチューニングされている。
次にアナログ再生は、手島葵のベスト盤「Highlights from Simple is best」(VIJL60248 180g 2枚組)を再生。シームレスで密度感のある中低域に彼女のボーカルがピンポイントで定位する。ガチでオーディオ的能力の高い再生音。レコードプレーヤーの性能の高さもあるが、オーディオマニアも十分納得できるクオリティの高いサウンド。しかも繰り返すが、これがワイヤレスの音なのだから、驚くしかない。
今回はアナログプレーヤーを接続したが、CDプレーヤーを接続してお気に入りのCDコレクションを楽しんでも良いだろう。どちらにせよFormation Duoがあれば、シンプルかつかなりのレベルのサウンドで音楽を楽しむ事ができる。
Formation Barでテレビの音質大幅アップ
続いては、テレビのサウンドをよりリッチにするパターンを想定してシステムを組んだ。55インチのテレビとFormation Barの横幅はピッタリ。しかもFormation Barのデザインが洗練されているので、インテリア的にも全く問題ないのが嬉しい。
テレビとFormation Barを光TOSのデジタルケーブルで接続してApple TV 4K端末から、Apple TVの『フォードvsフェラーリ』からチャプター1のレースシーンを再生する。
テレビ内蔵SPと比較するとサウンドバー投入時の大きな音質向上は当たり前とはいえ、その差は歴然だ。まず高域から低域までのレンジが広がり、1つ1つの音のディテールがしっかりしている。また小さい音のフォーカスも上がる。本タイトルのような迫力あるレースシーンでは迫力の増大により盛り上がりシーンでの臨場感が大きく増すし、セリフがかなり明瞭に聞こえるようになる。またシリアスなシーンでは全体の音量が下がるが、その時でも明瞭さは失わないなど良い事尽くめだ。
次にサブウーファーのFormation Bassとサラウンド用のリアスピーカーとして2本のFormation Flexを設置して、5.1chのサラウンド再生にチャレンジ。結論からいえば、「これすごい!」と思わず口に出る品質の高いサラウンド効果があった。
『フォードvsフェラーリ』は、その精密なサラウンド音声がアカデミー音響編集賞を受賞した作品だが、その魅力がよくわかるようになった。Formation Bassによりレース車両のエキゾーストノートの迫力が大きく上昇し、さらに視聴者の左右後ろに設置したFormation Flexにより、360度方向から全方位的なサウンドに包まれる。
と、ここまでであれば一般的なサラウンドシステムでも体験できるが、独自の伝送方式による各スピーカーのタイムラグが統一されているおかげもあり、サラウンドのフォーカスが大きく上がって、フロントに設置したFormation Barとリア側のFormation Flexの音のシンクロ率が高い。サーキットを疾走するレーシングカーの前後への移動感もシームレスで実に再現性が良いのだ。
まるで、より大掛かりな専用のAVアンプを用いたときに感じる良質なサラウンド効果がワイヤレススピーカーから聞き取れる。これは凄い事だと思う。
僕は昨年から今年にかけて様々なメーカーの、価格帯が異なるサウンドバーを聴いてきたが、Formation Barはその中でもかなり音が良い部類に属する事も伝えておきたい。テレビを見ない時は、音楽再生にも対応できるので、このシステムを導入した方は、かなり満足度が高いと思う。
1台置くだけのシンプルオーディオ、Formation Wedge
最後は、いちばんシンプルなワンボディタイプのFormation Wedgeを試聴した。一般的なイメージだと、この手のスピーカーは「音楽をそこそこの音で楽しむ」的な使い方をされると思うが、流石にB&Wが作っただけあり、音のレベルは悪くない。
基本的なサウンドキャラクターは、高分解能かつ高域の透明感と低域の迫力を両立した音。一体型だけど作り手の感性の高さを実感させる音楽性も持ち合わせており、音に広がりがあり、良い音で聴ける範囲も広いので、書斎やリビングの片隅などにFormation Wedgeを設置すれば、高品位に音楽を楽しむ事ができる。
オーディオファンも、そうでない人にも
そして、Bowers & Wilkins Musicアプリの操作性についても記載しておこう。セッティングのパートでも書いたが、本アプリはグラフィカルユーザーインターフェイスが上手に考えられており、製品の初期設定から音を出すまで一連のメニューも使いやすい。高域や低域の量感を可変できるので、視聴環境に合わせて音を自分好みに調整できる。1つだけ重箱の隅をつつくツッコミを書くと、本アプリは日本語に対応しているものの、ごく僅かだがメニュー内に不自然な表記(翻訳)が見受けられたので、ここだけはアップデートに期待したい。
また、本アプリは使用中の環境に新しくスピーカーを追加したり、複数のスピーカーを家の別の部屋に設置するマルチルーム再生を行なう場合も、設定が容易で印象がよかった。すなわち家のスピーカーをFormation Suiteで揃えれば、家全体で快適な音楽再生環境を構築できる。
そしてあえて正直に伝えたいが、僕は今回かなりショックを受けた。Formation Duoはスピーカー本体以外のコンポーネントを用意しなくても、B&Wらしい高分解能で音像やサウンドステージの良い音が出てしまうのだから。
アンプを用意して、ソース機器を用意して、接続して、というオーディオコンポの難しさ(マニアにとってはこれが魅力だが)は存在しない。Wi-Fiや有線ネットワーク環境があれば、電源とスマホだけ用意して、最低1つのストリーミングサービスに加入すれば良い音が出る。
オーディオマニアも納得させるサウンドを、スタイリッシュかつシンプルに導入できるなんて、理想はあってもなかなか現実的ではなかった。本システムは、それを現実にしてしまった。今回の試聴を通じて致命的な欠点も見当たらなかったし。それこそ音楽再生の理想を本システムに感じた次第だ。オーディオの未来がまた少し明るくなってきたように思う。
B&W、ワイヤレスオーディオ「Formation Suite」体験店舗公開
(協力:ディーアンドエムホールディングス)