レビュー
シンプルなダイナミック型だが侮れない音「DM008」
DynamicMotion初オリジナルイヤフォン。13,440円
(2013/12/19 09:32)
バランスド・アーマチュア(BA)を沢山内蔵したイヤフォンや、ダイナミック型とBAのハイブリッド、ダイナミック×2個のダブルドライバなど、多様化を続けるイヤフォン市場。そんな中、ダイナミック型ユニットを1基採用した、シンプルな仕様が特徴と言えるイヤフォンが11月から発売されている。DynamicMotionの「DM008」だ。価格は13,440円。
DynamicMotionという社名に馴染みがある人は少ないだろう。しかし、創業は'82年と30年以上の歴史がある。ダイナミック型ドライバユニットの製造・開発を続けており、世界トップシェアのスマートフォンに付属するイヤフォンのユニットも、同社が手がけているそうだ。
そんなDynamicMotionが、初の自社ブランド製品として開発したのが、今回の「DM008」だ。初イヤフォンとはいえ、長年のドライバ開発で培われたノウハウが投入されているというのが注目ポイントだ。
なお、日本での発売にあたり、サエクコマースと共同でサウンドチューニングを実施。5月に開催された「春のヘッドフォン祭」で参考出展され、10月の「秋のヘッドフォン祭 2013」で大々的に発表されたので、印象に残っているというマニアも多いだろう。
イヤフォンのドライバが多様化する中に、あえてシンプルなダイナミック型で挑む「DM008」の音を聴いてみる。
L/R表記をデザインに活用
外観から見ていこう。カラーはブラック/ゴールド、ホワイト/シルバーの2色で、どちらのモデルもハウジングは樹脂製だが、光沢のあるアルミのカバーを使い、高級感を高めている。また、不要振動の抑制にも効果があるという。
デザイン面の特徴は、なんといってもハウジングの「L/Rマーク」だろう。イヤフォンの中には、デザインをおしゃれにするあまり、どこにL/Rが書かれているかわからず、必死に探して、ようやくケーブルの付け根に薄くて書いてあった……なんて苦労もあるが、「DM008」はL/Rの文字そのものをデザインに昇華している。これならば、L/Rがすぐに判別でき、同時に見た目も野暮ったくない。
ちなみにこのL/Rの文字、最初は塗装かと思っていたが、よく見るとケーブルの一部がハウジングに埋め込まれるようにしてL/Rの文字を描いているのがわかる。斬新なデザインだ。そのため、ケーブルの色や質感と、L/Rの文字のそれがまったく同じであるため、イヤフォン部分とケーブル部分が融合したように見える。使う色の数も少ないため、シンプルなデザインと、落ち着いた色味が良くマッチしている。
ケーブルは1.2mで平型タイプ。なお、着脱はできず、昨今の高級イヤフォンとしては残念なポイントだ。リケーブルで音を追求するユーザーは少ない価格帯かもしれないが、断線時の対応のしやすさとして着脱機構はぜひ採用して欲しいところだ。なお、ケーブルを含む重量は85g。
マグネットの配置、振動板の素材に注目
搭載しているのは前述したようにオリジナルのユニットで、名前は「Power Dynamic Driver」。サイズは8mm径と小型だが、振動板やマグネットなどを独自の方法で配置しているのが特徴だ。
マグネットはユニットの中央ではなく外周部に配置されており、「10mm径ユニットと同等のパワーやクオリティを実現した」というのがウリだ。ドライバが小さいため、ハウジングのサイズは小さく、耳にも挿入しやすい。最近の高級イヤフォンは、BAドライバに対し、ダイナミック型の特徴を出そうと、大口径ユニットを搭載するモデルが多いので、ダイナミック型でこの小ささは新鮮だ。
サイズが小さいので、装着した時の収まりも良く、自重が重くて抜けやすいという場面も少ないだろう。イヤーピースは一般的なシリコンタイプで、サイズはS/M/Lを同梱する。
ただ、小さなハウジングは耳穴周囲の空間に密着しておらず、浮いた状態になっている。つまり、イヤーピースのホールド力だけで装着が維持されている状態だ。例えばShure SEシリーズや、オーディオテクニカのIM01~04シリーズなどは、ハウジングの形状が耳穴に“蓋をする”ようなフォルムになっており、カスタムイヤフォンのように、ハウジング自体のホールド力も活用している。そうしたモデルと比べると、なんというか“昔なつかしいカタチのイヤフォン”という感じだ。
マグネットだけでなく、振動板にも特徴がある。一般的なPETフィルムを使わず、理想的な音響性能を持つというフィルムを採用。解像度の高さや音像の密度感、低域から高域までのバランスの良い再生を目指して開発されたものだという。
再生周波数帯域は20Hz~20kHz、感度は110±3dB、インピーダンスは32Ω±15%だ。
音を聴いてみる
ハイレゾプレーヤーのAK120を用いて試聴した。
「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生。冒頭のギターからヴォーカルへと続くが、いずれも音色がナチュラル。暖かいギターの響きや、人の声がキッチリと暖かく聴こえる。最近はBAイヤフォンのレビューが多いので、久しぶりに純粋なダイナミック型イヤフォンを聴くと、硬さの無い、自然な描写の良さが好印象。聴いていてホッとする。
ダイナミック型とBAと比較した場合、ダイナミック型は音圧や低音の豊かさなどを出すのが得意だが、その特徴を活かそうとするとユニットがどんどん大口径化。その特色を精一杯発揮しようとユニットを大型化。低域は豊富になるが、全体として量感過多になり、ボワボワした音になってしまう製品もある。
「DM008」の場合は8mmドライバなので、音圧は豊かだが、過度と言うほど膨れ上がらない。それが中広域のクリアさを邪魔せず、見通しの良さを維持。結果として高解像度でキレの良い高域と、量感の豊かな低域がバランス良く共存している。この低域の“節度をわきまえた量感”に好感が持てる。
では中低域が大人しいのかと言うと、そうではなく、ダイナミック型らしい響きの豊かさや、量感はたっぷり楽しめる。1分過ぎから入ってくるアコースティックベースも、「ズォーン」という地鳴りのような迫力がダイナミック型ならでは。その音像が膨らみ過ぎず、タイトさがあり、中高域の邪魔をしていないのが良い。
8mmのドライバだが、マグネットを振動板の外周部に配置し、10mm径ユニットと同等のパワーを実現したというのがウリだが、確かに8mmドライバとは思えない低域の沈み込みで、何か“貫禄”のようなものを感じさせる。
13,440円という価格を考えると、同価格のBAイヤフォンはシングルユニットモデルが多くなるだろう。シングルBAでは一般的に低域の量感が不足しがちなので、そうしたライバルモデルと比較すると、ダイナミック型の利点を十分発揮したサウンドと言えそうだ。
スキマスイッチの「Hello Especially」(アニメ銀の匙の エンディング)を再生すると、高域にほんの少しだが綺羅びやかな響きを感じる。ハウジングのアルミカバーの響きだろうか。ただ、付帯音として高域を汚すほどではなく、タンバリンのシャンシャンという音や、ヴォーカルの高域などが若干爽やかに味付けされているかな? という程度。ヌケの良さを出すための隠し味程度で、過度に演出された感じは無い。中低域の節度と良い、初のオリジナルモデルと思えないほど手慣れた、センスの良い音のまとめ方だ。
コストパフォーマンスの高い優等生。さらなる特徴も欲しい
1万円台はイヤフォンの激戦区と言えるが、その中に参戦しても十分戦える、完成度の高いイヤフォンだ。高級イヤフォンではBAが主流になっているため、BAのユニット数を見ながら選んでしまうという人も多いかもしれないが、方式にとらわれず聴いてみて欲しい1台だ。BAとは違った、ダイナミック型の良さを出しつつ、かといってその利点を過度にアピールしすぎない。派手さは無いが、真面目なモデルだ。
一方で、市場にはすでに“良く出来たイヤフォン”が沢山ある。その中でも各社が特徴を出そうと、ダイナミック型ユニットを2個入れたり、BA+ダイナミックのハイブリッドにしたり、低価格モデルでもケーブル着脱ができたり、ハウジングのデザインを後から変えられたり、ネジを回すと音質をカスタマイズできたりと、さながらアイデア合戦のような状態にもなっている。
「方式にとらわれず聴いてみて欲しい」と書いた直後に言うのもおかしな話だが、「DM008」は良く出来た優等生モデルである一方で、話題になりやすいインパクトが不足しているのが勿体無く感じる。例えば、この価格でもケーブル着脱ができて、予備ケーブルが最初から1本入っているとか、装着感を高める面白いシカケがあるなど、購入決断を後押ししてくれるような魅力がもう1つあると、市場でさらに存在感を発揮できるだろう。
とはいえ、これが同社の初オリジナル・モデル。第1弾からこの完成度にまとめあげた開発力は特筆すべきものだ。今後のモデルが楽しみな、要注目メーカーが1社登場したと言えるだろう。
DynamicMotion 「DM008」 ブラック/ゴールド | DynamicMotion 「DM008」 ホワイト/シルバー |
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