レビュー

デジタルスピーカーの音とは? クラリオン「ZP1」

応答性能の高さ体感。ソーラパネル+Bluetooth

クラリオン「ZP1」

 最近のオーディオ製品でにわかに盛り上がっているのがBluetoothスピーカー。Gfkによる調査では、2012年のBluetoothスピーカー販売数量は'11年の4.8倍にもなったという。もはや市場でシェアの高い“オーディオプレーヤー”といえるスマートフォンや、タブレットなどでBluetoothが標準搭載されていることが、その大きな要因といえるだろう。

 増加するBluetoothスピーカーのなかでも異色といえる製品がクラリオンの「ZP1」(MG-1100A-A)だ。太陽光パネルを装備し、本のような折りたたみ型の筐体を採用しているという形状も十分にユニークだが、唯一無二の特徴は「フルデジタル駆動」による世界初のポータブルスピーカーであるという点だ。

 フルデジタルといってもわかりにくいが、一般的なスピーカーのように、デジタル音源をDACでアナログ変換してアンプで増幅する方法とは異なり、デジタル音源からスピーカー駆動までを完全デジタルに伝送するもの。同社の車載用フルデジタルスピーカーシステム「01DRIVE」と同じく、Trigence SemiconductorのDnote技術を採用し、民生の小型スピーカーとして初めてデジタル対応したという。12月より発売開始しており、実売価格は約24,800円。

 デジタルスピーカーの音質とは? スマートフォンやタブレットと組み合わせてテストした。

独特のユニット配置。ソーラーパネルも搭載

パッケージ

 同梱品はシンプルで、USBケーブルと説明書のみ。外形寸法は192×115×39mm(幅×奥行き×高さ)、重量は550g。普段持運ぶには少々大きく、重いが、家庭内で持ち運ぶのには全く問題ない。

 本体の前面にスピーカーを内蔵。本体向かってやや左側に、32mm径のアルミ製フルレンジユニットを3基配置。3ユニットをパラレル駆動する。デジタル音声信号処理は、Trigence SemiconductorのDnote技術を採用。44.1kHzのデジタル音源にオーバーサンプリング(256fs)をかけ、11MHzに変調してスピーカーのボイスコイルに直接入力するという。

 ZP1では、2つに分割されたデジタル信号をボイスコイルに入力。ユニットを駆動する。技術的な詳細については、以前のインタビュー記事などを参照してほしい。

ZP01
正面
3つのユニットを内蔵する

 Bluetoothは、Ver.2.1 + EDRに対応し、プロファイルはA2DP。音声入力はBluetoothのみで、アナログ音声入力などは装備しない。スイッチ類も電源ボタンとBluetoothのペアリング用ボタンのみで、ボリュームなどはスマートフォンなどのBluetooth出力機器側で操作する。

 背面には太陽光パネルを装備。バッテリ容量は約2,500mAhで、連続30時間の駆動が可能。ソーラーパネル利用時は、約3時間の充電で約1時間動作する。充電用のUSB micro端子を装備し、パソコンなどのUSBケーブルやACアダプタ経由で充電できる。もう一系統のUSB端子はスマートフォンなどの充電用。

側面に電源やBluetoothボタン、USBなどを備えている
スタンドで自立
背面にソーラーパネル
折りたたんで持ち運びも可能となっている
折りたたみ時

 利用方法は非常にシンプル。電源を投入し、Bluetoothペアリング用のボタンを押して、LEDを点滅させる。そこで、スマートフォンやオーディオプレーヤーのBluetoothをONにして、ZP1を検索。4桁のPINコードが求められる場合は[0000]と入力する。これだけで基本設定完了だ。

iOSからの設定。Bluetooth設定からZP1を選んでPINコードを入力
再生画面でiPhoneとZP1を選択
Nexus 7のBluetooth設定

 今回はiPhone 4SとAndroid 4.2.2のNexus 7を利用したところ、特に問題なく設定できた。iPhoneからはiPod(ミュージックプレーヤー)機能の再生画面からBluetooth(ZP1)とiPhoneの内蔵スピーカー/ヘッドフォン切り替えが行なえる。

 なお、ZP1ではボリュームや操作ボタンを一切備えていないため、操作は全てスマートフォンなどのBluetooth出力機器側で行なうことになる。iPhoneやNexusでは問題なく利用できる。

 ただし、一部の機器においてはここが大きな注意点となる。というのもBluetooth出力機器でもボリューム操作が行なえないものがあるのだ。今回試した製品では、ウォークマンF800(NW-F805)とPlayStation Vitaからは音量調整できず、大音量で音楽が出力されてしまった。現時点では対応策が無いので、音量調整なしで運用する以外、使い道がない。

 クラリオンのWebサイトでも、対応のスマートフォンやタブレット情報を公開している。ここを見る限り、ドコモやソフトバンクの「AQUOS PHONEシリーズ」の一部が非対応となっている。ZP1の購入を検討している人は事前にこのリストをチェックしたほうがよい。

デジタルスピーカーの音を体験。応答性能が特徴

 デジタルスピーカーという新しい技術だからこそ、気のなるのは「音質」。4.2Wというスペックを見る限り、出力は他のBluetoothスピーカーより小さめだが、音量的には十分な大音量で再生できる。

 クラリオンによれば、デジタルスピーカーの特徴は「音の立ち上がりの良さ」とのこと。これはすぐに体感できた。例えばアート・ブレイキーの「Once In A While」を聞くと、アナログテープのヒスノイズの音から浮かび上がる最初のピアノのタッチが非常に明瞭で、輪郭がクッキリしている。演奏が始まる前のアンビエンスから、演奏開始で変化する空気感がすごく明確にわかるのだ。

 アコースティックギターのPat Metheny「One Quiet Night」では、弦の響きが心地よく、ものすごくクリア。とにかく歪みなく美しく聞こえるので感動した。また、テクノやハウス系、特にクリック系の電子音の描写がクリアで驚かされる。印象としては硬く、歯切れがよく“デジタル”という言葉から連想できるイメージに近いサウンドといって良いかもしれない。PS Vitaではボリューム操作ができないため、ZP1に繋ぐとメニュー画面のBGMが大音量で再生されてしまうのだが、このBGMが大音量にも関わらず、全く歪みなくクリアで驚いた。

 一方で物足りなささを感じるのは中低域。山下達郎の「Nerver Grow Old」では、シンセベースの輪郭は明瞭で、ボーカルのセンター定位など音像がくっきりとしたサウンドが楽しめる。ただし、中低域に物足りなさが残り、他のスピーカーよりボーカルが際立ちすぎてしまう印象。また、音場感も今ひとつと感じる。音場の広がりについては、クラシックなどストリングス中心の楽曲だと、不足を感じると思う。

 また、ノラ・ジョーンズ「Don't Know Why」などは、音像がクリアで見通しはいいのだが、若干ボーカルのキツさを感じた。高域の解像度は素晴らしく、特にアコースティック系の楽器だとその特徴が際立つのだが、中低域が細いので迫力は今ひとつ。マイルス・デイヴィスの「Directions(Part I)」を聞くと、オープニングのトランペットなどの管楽器の印象が鮮烈なのだが、後に続くリズム隊の迫力が今ひとつ。また、ディストーションの効いたギターなどは妙に痩せて感じてしまう。ヒップホップやハウス系のソースでも低域の量感が足りなず、シャカシャカした質感になってしまうなど、ソースによっては今ひとつハマらない場合もある。

 まとめると、音の立ち上がりの良さ、音像のクリアさという明らかな長所は、確かにデジタルスピーカーならではの可能性を感じさせてくれる。一方、低域の弱さやロック系のソースのライブ感はやや控えめになるという短所をどう使いこなすか、ということが課題といえる。低域については、しっかりとした机の上に置くと、かなり改善されるので設置方法なども注意したい。

 設置という点では、デジタルスピーカーの音は直進性が高く、指向性は従来のスピーカーほど広くないという。最近のBluetoothスピーカーでは無指向性で、家の中で自由に聴けるという製品が多いのだが、ZP1はそれらに比べるとリスニングポジションの制限がある。横方向はそれほど指向性は強くないのだが、上下方向はスイートスポットから20度ぐらい移動すると、かなり音やせして聞こえる。こうした傾向をしっかり意識して設置したい。

 なお、伝送できる音声は44.1kHzまでで、24bit/96kHzなどの音源は出力できない。もともとBluetoothの規格自体で圧縮を伴ってしまうので、技術的な制限といえるが、ハイレゾ音源をそのままデジタル駆動といった使い方はできない。

低消費電力性能を活用

 音楽だけでなく、スマートフォンやタブレットでYouTubeを見ながら、その音声をZP1に出力したり、radikoの音声を出力するといった応用も可能だ。ただし、マイクを内蔵していないので、スピーカーフォンとしては利用できない。

YouTubeの音声をZP1に出力

 もう一つのZP1の特徴が低消費電力。容量は約2,450mAhのバッテリを内蔵し、連続30時間の駆動が可能。背面にはソーラパネルを装備しているが、USB充電の場合は約5時間、ソーラーでは約15時間でフル充電できる。ソーラーパネル利用時で約3時間の充電で約1時間動作可能とのこと。

 今回、充電後に15時間以上再生したがバッテリがなくなる気配がない。この低消費電力性能はZP1ならではの特徴といえるだろう。ただし、残量を示すインジケータなどがなく、電源LEDが点滅したら充電を促すサインというだけ。あとどれくらい充電せずに使ええるのか、よくわからないというのはやや難点だ。

 USB端子も備えており、ZP1のバッテリからスマートフォンの充電も可能となっている。モバイルバッテリとして使うにはZP1の192×115×39mmという外形寸法は大きすぎるが、いざというときのバックアップには重宝しそうだ。

 ソーラーパネルでも充電可能だが、そもそもバッテリが無くならないし、どれくらい充電できたかも今ひとつわからない。説明書でも「補助的な充電となるので、USB充電をおすすめします」と記載されていることから、ZP1の省エネ性能をアピールするための装備といえるかもしれない。それでも30時間という長時間再生能力は魅力といえる。

デジタルスピーカーに感じる可能性

 高い応答性能とくっきりとした音像、というデジタルスピーカーならではの音は確かに体験できた。低域の薄さや音場感などはやや物足りなさはあるものの、新しい技術が育ちつつあるという実感が味わえるユニークな製品。とにかく、デジタルスピーカーならではの高応答性能を活かした音作りは一聴に値する。

 使い勝手の面でいえば、本体側でボリューム操作できず、Bluetooth機器側で対応できないことがあることが最大の注意点。長時間バッテリ駆動やソーラーパネル、スマホ充電など、低消費電力を活かした様々な提案も魅力的に感じる人もいるだろう。ZP1の、新しい技術と音作りの可能性を、是非多くの人に体感してほしい。

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クラリオン
ZP1

臼田勤哉