レビュー
トランスコーダ搭載で実用的になったDTCP+対応RECBOX
スマホでリモート視聴。アイ・オー「HVL-ATシリーズ」
(2013/6/14 10:55)
最近のデジタル放送録画機器に関する大きなトピックといえるのが「DTCP+」だ。著作権保護を理由に、これまでは宅内に限定されていたデジタル放送番組のネットワーク経由の再生を、宅外からも可能にするという技術だ。2月のアイ・オー・データ「RECBOX/HVL-Aシリーズ」発売を皮切りに、NTTドコモやソフトバンクのスマートフォンでのクライアントアプリのプリインストールなど、採用事例が増えてきた。パナソニックもDIGAの周辺機器としてDTCP+サーバーの「DY-RS10」を発売した。
そして、DTCP+対応の第1弾「RECBOX REMOTE HVL-Aシリーズ」を2月に発売したばかりのアイ・オー・データは、早くもRECBOX REMOTE 第2弾となる「HVL-ATシリーズ」を投入してきた。発売は6月下旬予定で、2TBの「HVL-AT2.0」が36,645円、3TBの「HVL-AT3.0」が45,570円、4TBの「HVL-AT4.0」が61,215円というラインアップだ。
従来モデルとの違いは、MPEG-4 AVC/H.264トランスコーダを内蔵し、HVL-ATシリーズ上の録画番組をトランスコードしながら、パソコンやスマートフォン、タブレットなどに転送できる点だ。この機能により、RECBOX REMOTE、そしてDTCP+による外出先からのリモート視聴はどう変わるのだろうか? 今回はHVL-ATシリーズ付属のパソコン用クライアントだけでなく、DTCP+クライアントアプリ「DiXiM Player」を搭載したNTTドコモの「ARROWS NX F-06E」も用意し、テストした。
トランスコーダを新たに搭載した理由とは?
従来モデル「HVL-A」シリーズとの違いは、トランスコーダ機能の有無。どちらのモデルも、外出先などの宅外からデジタル放送をインターネット経由で再生できる「DTCP+」に対応しているが、2機種ともに採用するリモートアクセスサービス「DiXiMリモートアクセスサービス」は動画のビットレートとして上限5Mbpsが推奨されており、DRモードのような大容量録画はもちろん、長時間モードや3倍モードで録画した番組でもビットレートが5Mbpsを超える場合、コマ落ちや音飛びなどが発生して視聴が難しかった。
新モデルとなる「HVL-AT」シリーズでは、MPEG-4 AVC/H.264のトランスコーダ「Smartplaying Engine」を搭載。5Mbpsを超えるビットレートの番組でも、トランスコーダを使って0.6Mbps~4.5MbpsのAVCに変換することで、録画設定を気にせず外出先からインターネット経由で録画を視聴できる。
「なぜ、NASにトランスコーダが必要なのか?」と思わるかもしれないが、もちろん理由がある。DTCP+によるリモートアクセスを行なう前提条件として、(1)「録画番組をレコーダからRECBOXシリーズにムーブ/ダビングする」、(2)ダビングする番組のビットレート5Mbps以下に抑える」という2つの操作が必要になるためだ。
この(2)が、従来モデルHVL-Aシリーズの大きな課題となっていたことは前回のレビューでも触れたが、例えばデジタル放送をMPEG-2 TSのまま録画した場合、RECBOXへの転送時に5Mbps以下のAVCに変換して転送しなければいけなかった。しかし、HVL-ATでトランスコーダを搭載したことで、レコーダからRECBOXにムーブされてくる録画番組の形式がなんであれ、出力先の環境にあわせて自動的に最適な画質で変換して、出力してくれるようになる。これはDTCP+を活用する上で非常に大きな進歩といえる。
なお、課題(1)についても、nasneなどのDTCP-IPダウンロードムーブ対応機からの「自動ダウンロード」に対応したことで、ダウンロードムーブ対応レコーダとの組み合わせでは、かなり改善されたといえる(HVL-Aシリーズもアップデートで対応)。
トランスコーダ非搭載の従来モデルHVL-Aシリーズも、6月中旬に発売するUSB接続タイプのトランスコーダ「GV-TRC/USB」(9,975円)を接続することで、機能としてはHVL-ATシリーズと同等になる。なお、HLV-ATシリーズとHVL-Aシリーズでは、価格差もあるため、HVL-Aシリーズも引き続き併売される。
トランスコーダ以外の機能はHVL-Aシリーズと共通で、本体サイズや重量も変わらない。DTCP+を中心とした機能については、HVL-Aシリーズ発表時にレビューしているため、今回は新たに加わったトランスコーダ機能に加え、アップデートで追加された自動ダウンロード、新たにクライアントとして追加されたスマートフォンからの視聴を中心にレビューする。
HVL-ATシリーズ | HVL-Aシリーズ | ||||
型番 | HDD | 価格 | 型番 | HDD | 価格 |
HVL-AT2.0 | 2TB | 36,645円 | HVL-A2.0 | 2TB | 27,720円 |
HVL-AT3.0 | 3TB | 45,570円 | HVL-A3.0 | 3TB | 36,645円 |
HVL-AT4.0 | 4TB | 61,215円 | HVL-A4.0 | 4TB | 52,290円 |
宅外ネットワークから録画済みのデジタル放送を再生できる「DTCP+」
HVL-ATシリーズの新機能に触れる前に、HVL-Aシリーズから対応しているDTCP+についても簡単に触れておこう。DTCP+は、デジタル放送をネットワーク経由で再生できる規格「DTCP-IP」の最新バージョン「1.4」で新たに追加された、宅外からインターネット経由で録画済みのデジタル放送を再生できる規格だ。これまで家庭内など同一ネットワークに限られていたDTCP-IPが、外出先などでもインターネット接続環境があれば自宅のレコーダなどに録画した番組を再生できる。
DTCP+の利用には、RECBOX +REMOTEなどDTCP+に対応したサーバー機器に加え、同様にDTCP+に対応したクライアント機器が必要。RECBOX +REMOTEの場合、Windows用ソフト「DiXiM Digital TV 2013 for I-O DATA」をインストールしたPCに加え、2013年夏モデルの富士通製スマートフォン「ARROWS NX F-06E」、「Disney Mobile on docomo F-07E」、「ARROWS A SoftBank 202F」の3機種がDTCP+に対応している。
視聴にはクライアント機器をサーバー機器へ事前登録する必要があり、登録できるのは最大で20台まで。また、視聴の対象は録画済みの番組のみに限られており、放送中の番組をライブストリーミングすることはできない。これらはHVL-ATシリーズの仕様ではなく、DTCP+の規格として定められている条件のため、DTCP+に対応したすべての製品で共通となる。
また、ARIBの技術要件を満たすことが困難なため、現時点ではレコーダが直接DTCP+サーバー機能を搭載することはできない。HVL-ATシリーズもテレビと連動したレコーダ機能で内蔵HDDへ直接録画した番組はDTCP+では再生できず、別のレコーダ機器からHVL-ATへダビングした番組でなければDTCP+で再生できない仕組みになっている。
最大で7つの画質から自由に選択
リモートアクセスの操作方法は前モデルと変わらない。あらかじめRECBOX内に視聴したい番組をダビングしておき、視聴するPCに同梱のソフト「DiXiM Digital TV 2013 for I-O DATA」をインストール。さらにHVL-ATシリーズと同一のネットワークに接続している状態で接続端末の事前登録を行なっておくことで、宅外ネットワークからのリモートアクセスが可能になる。こうした一連の流れについてはHVL-Aシリーズのレビュー記事を参照して欲しい。
トランスコード機能が利用できるのは動画再生時だが、初期設定ではトランスコードによる画質設定が自動選択になっているため、通常の視聴と使用感は変わらない。画質を手動で選択したい場合は設定の「デジタルテレビ番組設定」から「リモート再生時の画質選択」を手動選択に切り替えておく必要がある。
手動選択の場合、再生画質を7段階から選択可能。録画時の画質でそのまま再生するモードのほか、回線種別に応じてビットレートを700kbps程度、画面サイズをVGA程度まで落とすことができる。選択画面には最適な通信回線の説明に加え、解像度やビットレートも表示されるためわかりやすい。なお、後述するnasneのSD画質ダウンロードの場合はもともと画面サイズやビットレートが低いため、選択できる画質も3種類となる。
名称 | ビットレート | 解像度 |
---|---|---|
宅内のWi-Fi(高速/中速)での再生向き※ | 変換なし | 1,440×1080 |
宅内のWi-Fi(低速)での再生向き | 4.7Mbps | 1,440×1,080 |
宅内のWi-Fi(低速)での再生向き | 3.7Mbps | 1,280×720 |
ブロードバンド回線での再生向き | 2.2Mbps | 1,440×1,080 |
モバイル回線(LTE)での再生向き | 1.8Mbps | 1,280×720 |
モバイル回線(LTE)での再生向き | 1.2Mbps | 1,280×720 |
モバイル回線(3G)での再生向き | 708kbps | 640×360 |
※元の動画のビットレートに応じて「高速」「中速」の表示が変わる
ノートPC「Lavie G タイプZ」で、実際に視聴してみたところ、DRモードで録画したビットレート14.2Mbpsの動画は数秒おきに動画と音声が途切れてしまったが、ビットレートを4.8Mbpsまで下げることで快適な視聴が可能だった。録画時にわざわざ低いビットレートを設定する必要なく、すべての録画済み番組を視聴できるというのは実に便利だ。
なお、トランスコードで画質を選択できるのはリモートアクセスで接続した時のみで、同一ネットワーク内で再生する場合は画質を選択することができない。同一ネットワークであれば通信速度も十分という判断なのだろう。
ただし、やや変則的ではあるが、同一ネットワーク内からリモートアクセスで接続することも可能になっており、この場合は画質を自由に選択することが可能だ。実際に試したところ、リモートアクセス経由でも10Mbpsを超える動画がコマ落ちすることなく再生できたため、実際にはビットレートを選択した状態でDTCP-IPにて再生できているようだ。
自動ダウンロード機能でレコーダとほぼ同等の使い勝手を実現
DTCP+対応で宅外からでも録画したデジタル放送が視聴できるHVL-ATシリーズだが、前述の通りDTCP+で視聴できる番組はレコーダから一度ダビングを行なう必要があり、テレビの録画機能などを利用して直接HVL-ATシリーズへ録画した番組はDTCP+では利用できない。そのため宅外で番組を視聴するためには、見たい番組をこまめにダビングしておく必要がある。
そうした手間を省き、レコーダ感覚で利用するための機能がDTCP-IPダウンロードムーブ対応機器からの自動ダウンロード機能。nasneやDIGA、AQUOSブルーレイなど、DTCP-IPダウンロードムーブに対応した機種であれば一定時間間隔でレコーダの番組をHVL-ATシリーズへ自動ダウンロードすることで、手動ダビングの手間を省いてくれる。なお、本機能は前モデル「HVL-Aシリーズ」でもファームウェアのアップデートにより実装されている。
自動ダウンロードはブラウザから本体設定の「コンテンツ操作」から画面左上の「他からダウンロード」を選択、「自動ダウンロード」をクリックすると設定が可能。どのレコーダからダビングするか、HVL-Aシリーズのどのフォルダに保存するかを順番に選択できるほか、nasneの場合は番組のジャンルを指定することも可能だ。ブラウザから本体へのアクセス方法はHVL-Aシリーズのレビュー記事を参照して欲しい。
詳細設定では、ダビング対象の番組種別を「地上デジタル」「BS」「CS」「スカパープレミアムサービス」など絞り込めるほか、録画時に720×480のSD画質でも同時に録画を行なうnasneの場合、HD画質とSD画質どちらをダウンロードするかを選択できる。HVL-ATシリーズはトランスコード機能を搭載しているためHD画質で保存しても視聴に問題は無いが、ディスク容量の節約を考えてSD画質で保存するのも手だ。
このほか、ダウンロードチェックの監視間隔を15分から120分の間で選択する機能、空き容量が少なくなったら自動ダウンロードを行なわない制限を10GBから1TBの間で選択できる機能、ダビング10のコピーカウントが残り1回となった場合に自動ダウンロードを行なわないチェック機能など、細かな点まで機能が行き届いている。
なお、自動ダウンロードの対象となるのは自動ダウンロードを設定した以降に録画された番組で、設定前に録画した番組は自動ダウンロードできず手動でダビングする必要がある。録画済み番組が大量にある場合はHVL-ATシリーズの容量も埋まってしまうし、過去の番組をダビング中に新しい番組が録画されてもダビングできない、ということを考えれば使い勝手としてはこの仕様で実用上は十分だろう。
ただし、気になるのは自動ダウンロードを使い続けた場合。残り容量が少なくなった場合に自動ダウンロードを停止する機能はあるが、自動ダウンロードを再開するためには手動で動画を削除しなければならない。一定のHDD容量を自動ダウンロード専用に割り当て、容量がいっぱいになったら古い動画から自動で削除していく、といった機能も欲しいと感じた。
富士通製スマートフォン「ARROWS」最新モデルがDTCP+に対応
HVL-ATシリーズの発売に合わせ、DTCP+対応のクライアント機器も幅が広がった。これまでクライアントは同梱ソフト「DiXiM Digital TV」をインストールしたWindows PCのみだったが、2013年夏モデルの富士通製スマートフォン「ARROWS NX F-06E」「Disney Mobile on docomo F-07E」「ARROWS A SoftBank 202F」がDTCP+に対応しており、リモートアクセスが利用可能になっている。外出先で利用するシーンを考えるとPCを開くよりもスマートフォンから視聴できるほうが使いやすく、対応機器の拡充はユーザーとして大歓迎だ。
視聴にはプリインストールされている「DiXiM Player」を利用する。最新バージョンの4.0では画面下部にリモートアクセスを表すアイコンが追加されており、ここからDTCP+を利用した宅外からの視聴が可能。なお、DTCP+の利用にはPCと同様、事前にHVL-ATシリーズと同一ネットワークにスマートフォンを接続し、機器登録を行なっておく必要がある。
リモートアクセスのアイコンをタップすると、機器登録済みのHVL-ATシリーズが画面に表示され、あとは宅内と同様に録画済み番組の視聴が可能。また、番組の再生時には通信速度に合わせ、PCと同様最大7種類の画質から任意の画質を選択できる(SD画質の場合は3種類)。通信速度に合わせて自動で選択することも可能で、自動選択と手動選択は設定画面から切り替えが可能だ。
フルHDディスプレイを搭載した「ARROWS NX F-06E」で再生したところ、7Mbpsのビットレートでは数秒ごとに回線が切断されてしまいまともに視聴できなかったが、4.7Mbpsにビットレートを落としたところ回線が切断されることもなく快適な視聴が可能だった。フルHDディスプレイということもあり、録画番組はテレビで見ているかのような美しい画質で堪能できる。
ビットレートを最も低い約700kbpsに設定すると、画像がややぼやけた状態にはなるものの、VGAに近い解像度のため、ワンセグよりもはるかに高画質な視聴が可能だ。また、それぞれ画質選択時の、データ転送容量の概算値も表示される。この機能も重要だ。
というのも、DTCP+は便利だが、LTEや3Gなどの通信回線を使う場合にはデータ通信容量の制限にも注意する必要がある。国内各キャリアのLTE回線では、各キャリアのプランによって違いはあるものの、1カ月に利用できるデータ通信容量「7GB」が1つの基準となっており、この上限を超えると通信速度が制限されるものがほとんど。DiXiM Playerで画質モード選択時に、容量を表示してくれるため、LTEのデータ転送容量が気になる場合に参考にできる。
なお、PCと異なるのはリモートアクセスだけでなく同一ネットワーク内の再生でも画質が選べること。現状はDTCP+に対応する機種が富士通製のスマートフォン最新機種のみであり、いずれもクアッドコアCPU搭載のハイスペックモデルのために処理能力不足という心配はないと思われるが、それでも自由に画質を選べるのはありがたい。
トランスコード対応でリモートアクセスの利便性が飛躍的に向上
DTCP+に初めて対応した従来モデル「HVL-Aシリーズ」からわずか4カ月で登場することとなった新モデル「HVL-ATシリーズ」。HVL-Aでは、最大の特徴であるリモートアクセス機能が、5Mbps以下の動画でなければ視聴が難しいという仕様により、せっかくの特長が活かされていなかったが、トランスコード機能の追加により、リモートアクセスの課題が大幅に改善され、非常に魅力的な製品に仕上がった。
従来のHVL-Aシリーズのレビューでも比較した通り、アナログ画質であれば「VULKANO FLOW」や「Slingbox PRO-HD」という製品も存在するが、デジタル画質をいったん味わってしまうともうアナログには戻れないと感じた。あくまで機種限定ではあるがスマートフォンにも対応したことで、リモート環境での視聴環境も大幅に拡充されており、自動ダウンロード機能を活用すれば手動でダビングすることもなくレコーダと同様の感覚で運用が可能。宅外から録画番組を楽しみたいユーザーにはお勧めの製品だ。
一方、トランスコード機能を搭載しないHVL-Aシリーズも、ファームウェアのアップデートで搭載された自動ダウンロード機能を利用することで、nasneユーザーであれば持ち出し用のSD画質をダウンロードすることが可能。持ち出し用動画はビットレートが最大でも2Mbps程度で収まるため、トランスコード機能を持たないHVL-Aシリーズでも快適に視聴できる。nasneを前提とし、画質をさほど気にしないのであれば、新モデルの発売により価格も安くなっているHVL-Aシリーズを購入するというのも手だろう。
視聴環境もPCやAndroidに加え、DLPAが開催した発表会では、デジオンからiOS版のDTCP+クライアントも公開された。今夏の提供を目指して開発を進めているとのことで、iOS版がリリースされればリモートアクセス環境もさらに充実する。自宅で録画した番組をなかなか消化できない、外出先でも高画質の動画を視聴したいというユーザーにはお勧めの1台だ。
RECBOX HVL-ATシリーズ |
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