レビュー
Android搭載+HDMI出力のメディアプレーヤーNAS。QNAP「TAS-168」を検証
(2015/12/22 10:00)
NASといえば、基本的には家庭やオフィスのデータを共有したり、保存する製品。その中でもQNAPというメーカーは、家庭用から業務用まで多くのNASを手がけ、その過程で「QTS」というNAS用のOSに磨きをかけてきた。ファイルサーバーという“受け身”な機能が主軸のNASという製品ながら、QTSにより、様々なアプリ追加や、Webブラウザからログインするデスクトップ環境、NAS上のデータをインデックス化し高速なサーチを実現する検索エンジン「Qsirch」など、ひと味もふた味も違うNASに仕上げている。
そのQNAPが、またユニークな製品を11月に発売した。「TAS-168」と「TAS-268」は、最新のQTS 4.2にくわえAndroid 4.4.4が動作し、Google Playのアプリも利用できるNASとなっている。さらに、HDMI出力や、MPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265ハードウェアデコーダも搭載されているため、NAS単体で動画ストリーミングサービスに対応できる。いわば、NASとAndroidメディアプレーヤーを融合したようなユニークな製品だ。
実売価格は2TB HDD搭載の「TAS-168」が42,800円、RAID 1構成の「TAS-268」が57,800円。今回はTAS-168のAV機能を中心に検証した。
2つのOSが並行動作するNAS
NASとしてのTAS-168のセットアップは、従来のQNAP製品とまったく変わらない。電源ケーブルとEthernetを接続するだけ、しばらく待てばLAN上のDHCPサーバによりIPアドレスが割り振られ、PCやスマートフォンにNAS(ファイルサーバー)として認識される。
Webブラウザでログインして使う管理ツールなど、QTS 4.2ベースの機能も従来モデルと同じだ。管理ツールの「Qmanager」、音楽再生の「Qmusic」といったスマートフォンアプリも、QTSのシステムと連携するもので、変わらず動作する。基本的なNASとしての機能は、従来のQNAP製品そのものだ。
相違点といえば、HDMI端子が1基用意されていることと、スティック型のリモコンが付属していること。システムレベルでは、一種のハードウェア抽象化レイヤーの上で「QTS Service Manager」が稼働し、効率的にQTSとAndroid OSへリソースを割り振るしくみを採用しており、それが本製品ならではの活用法と操作スタイル実現に大きく貢献している。
Android OSはプリインストールされているため、HDMIケーブルでテレビと接続し、リモコンのホームボタンを押すだけで起動する。QTSとは異なり、Googleアカウントの登録など初期設定は必要だが、それさえ完了してしまえば「リモコンで操作できるAndroidテレビ」は目前だ。
ところで、付属のリモコンでAndroid OSを操作するときには、「Q」ボタンを多用する。このボタンは、リモコンの動作モードをキーボードとマウスにスイッチさせるためのもので、ふだんはキーボードとしてカーソルキーで項目選択を行い、ホーム画面下に並ぶボタンなどのUI要素はマウスに切り替えてクリック、といった使い方が可能になる。背面のUSBポートにキーボードやマウスを接続して使うことも可能だが、AV用途というレビューの趣旨を踏まえ今回はスルーしている。
QTSとAndroid OSは、並行処理が可能だ。Android OSは必要なときに起動するスタイルで、不要なときはオフのままにできるが、QTSはつねに起動された状態となる。実際、Webブラウザでログインしてファイルコピーしているとき(これはQTSの処理)、Android OSで動画再生するなど、まったく別の処理を行なうことができた。
搭載されているSocがARMv7 1.1GHz/デュアルコアということで、2つのOSを同時に稼働させると負荷レベルが過剰になるのではと懸念していたが、QTSでファイルコピーを実行しつつAndroid OSで動画再生している時の状態をリソースモニタで確認したところ、ピーク時でもCPU使用率は50%を上回る程度だった。ゲームなど要求スペックが高いアプリはともかく、NASとして常時稼働させつつAndroid OSで音楽や映像を楽しむ、といった使い方はじゅうぶん可能だ。
NetflixやHulu対応は厳しい結果に。手持ちの4K動画を再生
AndroidとしてのTAS-168に期待したい機能の1つが、「動画配信サービスの視聴」だ。Google Playを利用できるということは、HuluやNetflixなどの動画配信アプリもダウンロードできるわけで、テレビ機能を持たないPC用ディスプレイをテレビ代わりに使う、といった活用法も可能かもしれない。思惑どおりに事が運べば、地デジ放送などテレビ番組には、興味はないが映画や海外ドラマを楽しみたい、という向きにはコストパフォーマンスに優れた買い物となることだろう。
最初に試したのは「Netflix」。最新版アプリの動作環境はAndroid 4.0以降、具体的な端末名は示されていないが動作する可能性はある。とりあえず、目に付いた「ブレイキング・バッド」を再生すると、難なく映像と音がテレビから出力された。再生はスムーズで、テレビに組み込みのアプリと変わらない……かと思いきや、再生が落ち着いても映像はボヤけたまま。他のタイトルを再生しても状況は変わらず、どうやら解像度に問題があるらしい。
Netflixのサイトを確認したところ、アプリの説明文に「Androidスマートフォンおよびタブレットは現在、480pでのストリーミングに対応しています」という気になる箇所が。TAS-168は4K対応だが、アプリの制限によりフルHDどころか480pに制限されるようなのだ。アプリに解像度を変える設定項目は見当たらず、こちらのページにHD再生対応機種としてリストアップされていないこともあわせると、少なくとも現時点では解像度が480p固定だと考えられる。
次に試したのは「Hulu」。起動までは至ってスムーズに進み、サムネイルが表示された段階では大いに期待したが、残念ながら「HDMI出力が無効になっています」というダイアログが現れ再生できない。480pとはいえNetflixでの再生が成功したことを考えると、HDCP対応の判定で躓いたわけではなさそう。残念ながら出力を可能にするような設定項目は見当たらず、今後のバージョンアップに期待するしかない。
nasneに録画したDTCP-IP保護コンテンツを再生しようと「TV SideView」を試したが、Wi-Fi接続を動作条件としているため、機器登録に進むことができなかった。「Twonky Beam」も同様に、対応機種に含まれていないためかHDMI出力が始まる時点でエラーとなり再生に進めない。残念ながら、アプリ側のチェック基準が変わらないかぎりは利用できないようだ。
現状、TS-168を動画配信サービスや録画番組再生用メディアプレーヤーとして使うのは、難しいと言わざるをえない。
動画再生アプリも試してみた。再生したソースは4K(HEVCとAVCの各1点)、2K(AVC)の計3点。アプリには、QNAPが提供する「QVideo」にくわえ、多様なコーデックのサポートで知られるPC定番メディアプレイヤーの移植版「VLC for Android」を利用した。なお、H.264エンコードの4K映像は、iPhone 6sの標準カメラアプリで撮影したものを利用している。
結果はどちらも変わらず。4K/HEVCおよび2K/AVCの再生は滑らかで、音声を含めフレーム落ちなどの問題は確認できなかった。出力先のテレビを2Kに変更すると、フルHD解像度に落として再生される。ただし、iPhone 6sで撮影した4K/AVCムービーは、QVideoとVLCの両方とも再生できず、VLCは再生開始直後に異常終了した。Windows版およびOS X版のVLC(v2.1.5)では支障なく再生できていることをあわせると、Android OSのビデオ再生APIに関わる問題である可能性が高い。
新次元のNAS。ただし課題も
TAS-168は、すでに実績豊富なOS「QTS」に加え、Android OSが動作可能するという点でユニークな存在。それもただ動くというだけでなく、一種のハードウェア抽象化レイヤーを介してQTSと並行動作し、しかもその負荷を感じさせない。パワフルとはいえないSoCであるにもかかわらず、4Kムービーの再生とファイルコピーを異なるOSで同時処理するという離れ業をさらりとやってのけることは、NASというハードウェアの新次元すら感じさせてくれる。
ただし課題は少なくない。Google Playで公開されているアプリは、タッチパネルを搭載する端末を前提としたUIであり、カーソルキーとボタンで指示をするリモコンでの操作はあまり考慮されていない。そのため、時折リモコンをマウスモードに切り替えなければならない。リモコンでのマウス操作がかなり面倒ということは、ここで改めて述べるまでもないだろう。
動画配信アプリの対応も必要だ。解像度の制限はその最たるもので、480pでは大画面で鑑賞する気にならない。せっかくのHDMI/4K出力対応を活かせるよう改善を望みたい。また、リモコンによる操作も、キーボードモードのみで完結できるようにしてほしいところだ。
STBやテレビ向けのAndroid OSが普及すれば、アプリの対応など事態は好転するのかもしれない。ただ、いかんせん“仲間”が少ない。OSの並行駆動というコンセプトはユニークで、NASという製品の差別化にも大いに貢献する機能だけに、今後のシリーズ化や、さらなる熟成を期待したい。
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