本田雅一のAVTrends
第188回
再びの“BMD”搭載、ソニー「8K液晶BRAVIA Z9G」の衝撃
2019年1月12日 10:23
“すっかり騙された”というと言い方は悪いが、ここで再びバックライトマスタードライブ(BMD)を搭載したソニーの新型BRAVIA「Z9G」の投入には、本当に驚いた。サイズ展開は98型と85型。この2サイズのみが8K解像度のパネルを採用するとともに、直下型のバックライトLEDの明るさを個々に制御するBMDを搭載する。
価格は未発表。日本市場への投入も検討中(サイズ的に日本での市場性の有無などもある)とのことで、おそらく実際に購入できるという人は、ごくごく限られた一部の人だけになると考えられる。ちなみに初代BMD搭載機の100型モデルは700万円。おそらく98型モデルも同等になるだろうが、85型も普通乗用車が一台買えるレベルだろう。
しかし、Z9D以来、久々にBMD搭載モデルが復活したことは、素直に喜びたい。もちろん「BMD=高画質」という一方的な判断は危険だが、すでに発表済みの映像処理エンジン「X1 Ultimate」とともに、その画質は極めて高く、8Kパネルであることの意味も充分に感じられるものだ。
また、Z9Dにはなかった「X-WideAngle」が搭載され、液晶の泣き所のひとつであった視野角の問題を回避している点も、好印象をもたらす大きな理由となっている。
筆者がCESで取材した限り、ソニーは70型台、あるいは65型以下で8Kテレビを展開する意思を持っていないようだ。しかし、BMD技術がZ9G以降の世代でも継続されるのであれば、60~70型台製品へのBMD展開もあり得るかもしれない。
そうした期待を持ちながら、Z9Gのレポートを読み進めていただければ幸いだ。
“BMD”のブランドは同じだが、微妙に異なる実装?
さて、BMDについておさらいしておこう。
BMDは、直下型LEDの明るさを“個別に制御”する点がユニークなシステムだ。各LEDの影響範囲などが適切になるよう光学系の設計も行ない、さらには制御に伴う輝度変化を信号処理で適切な明るさに補正するのは、他の直下型LEDローカルディミングと同じだが、1,024分割などといった数字は公表されていない。
しかし、100型モデルの場合、画面に対して60度のビューアングルで視聴したとき、個々のLEDが影響する範囲が「目の水晶体内で拡がるハロ」と同等になることから、実質上、大幅な輝度制御を行なっても気にならないというものだった。
ただし、当然ではあるがサイズが小さくなるとLED数は減っていくため、75型では、水晶体内での光の滲みよりも大きなハロになる(が、ほとんど気にならない)。また、65型では極めて優秀なローカルディミング制御ながら、本来の性能からすると、少々意味が異なるものとなっていた。
ということで、おそらくだが85型以上であれば、液晶でHDRを表現する上では最終兵器とも言えるBMDの思想を、ほぼ不満なく再現できる“はず”である。
“はず”と書いたのは、関係者への取材によると、Z9Dの時とはバックライト構成が異なるようだからだ。8Kでは、画素の開口率(配線部を除く光が通る部分の比率)が4Kより低くなるため、同じ構成ではピーク輝度を出せないから……との説明だった。
あるいは、LED 1個ずつの明るさを調整しているわけではない(2個のLEDを1グループで制御するなど)のかもしれないが、いずれにしろ次の疑問は「ピーク輝度は下がっていないか?」だろう。
Z9Dは画面サイズごとにピーク輝度に違いがあったが(公表はされていないが)、65型と75型は、おおよそ1,200nits~1,500nits程度、100型ではさらに高い輝度が出ている印象だった。
この点も、どうやらZ9Dよりはピークが出ているという。ただし、こうしたピーク輝度は全体の消費電流の制約がある中で振り分けられるため、どの程度の条件でピークが出せるかなどはわからない。
ただ、はっきりと言えるのは、バックライト制御の面ではトータルでZ9Dよりも進化していること。そして、8K化で開口率が下がったことに対して、きちんと対応できていることだ。
ソニーが主張する“網膜解像度の2倍でリアリティが出る”を検証
一般的なテレビの視聴距離やビューアングル(画面の端から端を見渡す角度)から考えて、4Kで充分に人間が視認できる“点”の密度をクリアしているため、8Kなんて解像度は必要ないのでは? という意見も多い。
実際、筆者もそう考えていた。
ところが、ソニーによると8Kパネルの評価を行なう中で、あることに気付いたという。
8Kパネルに8K映像を映し、画面の縦サイズの1.5倍(1.5H)の視聴距離で映像を観る時に、それまでの4K映像などと比べ、明らかに”現実感”が増すというのだ。
しかも、例えば1Hや2Hなど、距離を多く取っても、短く取っても、そのリアリティは落ちていく。
4Kディスプレイでの1.5Hは、ほぼ人間の網膜解像度に近い位置関係なのだが、このちょうど2倍で見るときに、リアリティが高まることには、何らかの相関があるのではないか? と論文を探したところ、NHK技研の研究員が発表している論文が見つかったそうだが、実際に高画質映像の研究に携わる人たちに試してもらったところ、やはり”視野角度1分”に対して2画素を割り当てる位置から見たときに、急激に質感が高まるのだそうだ。
これは98型の8K BRAVIA Z9Gで言うと、およそ1.5mの視聴距離に相当する。(視野角度に依存するため、4Kテレビの場合は3Hで見ると同等になるが、少々遠すぎて感じにくいかもしれない)
実際にCES会場で試したところ、確かに1.5Hより遠くはもちろん、近付きすぎるとリアリティが下がり1.5Hで現実感が高くなることが確認できた。ちなみに4Kからのアップコンバート映像も見せていただいたのだが、この場合でも映像の密度感が高まり、4K映像を4Kそのままで楽しむよりも、情報量が多く感じられた。
このあたりはもう少し研究の余地はあるだろうが、8Kテレビを楽しむために8K放送やコンテンツが必要ということではなく、4K映像をより良い状態で楽しむために、8Kパネルを活かせるだけの、映像処理技術が確立されてきているとは言えるかもしれない。
“世界最高峰の大画面テレビ”が手の届く範囲にやってくることを期待
結論に移ろう。
CESでは8Kテレビへと大きく舵を取るメーカーが出始めた。多くはOLEDテレビへの対抗という意味合いが大きく、とりわけサムスンの影響が大きいと考えられる。中国市場のスペック至上主義もそこに絡んでいるが、では実質的な面、すなわち画質などトータルの製品体験で、8K液晶テレビに意味があるのか? が、日本の消費者にとっては重要なことだと思う。
“OLEDで8K”は、当面の間、商品化が難しい。と考えれば、議論の対象は液晶ということになる。
HDRの品位も必須となれば、VA型+よく調教されたバックライト制御システムが必須だが、さらにそこに「広視野角」も外せない。なぜなら、高精細を活かせる大画面(広いビューアングル)で見るということは、画面の端と端での視線入射角が大きく違うからだ。
さらに、OLEDに対する液晶の長所を活かす上では、ローカルディミング制御と連動して低輝度分の階調性をきちんと担保できる優れた信号処理とパネル駆動、それにOLEDでは実現できないピーク輝度や明部での広色域なども必要となろう。
「8K BRAVIA Z9G」シリーズが、用意周到に作られていると感じたのは、これらすべての要素……すなわち、OLEDではなく液晶でハイエンドを狙う意味の多くが、ここに詰め込まれていることだ。
一方で詳細がまだわからない部分もある。
パネル解像度が8Kになる最大のデメリットは、開口率低下に伴う明るさの減少だろう。画質面では、この部分を克服していることはわかる。一般的なハイエンドの液晶テレビよりもずっと高いピーク輝度と、明部の色再現範囲の広さがある。
おそらく、どちらのモデルも購入できる人は限られるだろう。しかし、現時点において“世界最高峰の大画面テレビ”であることは間違いない。あとは、この製品が持つ最高峰のエッセンスを、どう“僕たちが買える製品”へともたらしてくれるのか。
OLEDテレビの「BRAVIA A9G」も、暗部階調の表現力を増していただけに、年末に向けた新しいBRAVIA Masterシリーズの展開にも期待したいところだ。