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日本未発売のソニー8Kブラビア「Z9G」。7万ドルの弩級映像を体験した

米ラスベガス開催の「CES2019」で披露され、来場者から大きな注目を集めたソニー初の8Kテレビ「BRAVIA Z9G」シリーズが5月、世界に先駆けて中国市場で発売された。来月には北米での導入が控えており、85型は12,999ドル、98型は69,999ドルという“衝撃プライス”で販売されることになっている。

写真上が「98Z9G」。下に見えるのは4Kマスターモニター「BVM-X300」

5月中旬、国内で98型の海外モデル「98Z9G」を視聴する機会を得た。限られたコンテンツと数十分という短い時間での視聴だったが、画質競争が数段階も引き上がる8K新時代がすぐそこまで来ていると痛感させられる体験だった。

24型フルHD16枚を並べたサイズと解像度。Backlight Master Driveが復活

様々な機材が並んだ開発兼視聴部屋の奥に、黒くて大きな“壁”があった。逆Y字の専用フロアスタンドが両端から床に伸びていて、“黒い4本足”が巨大なディスプレイを地面から支えている。スタンドを含めた重量は100kg超。高さだけで172.5cmもあり、これは日本人男性の平均身長をもしのぐ背丈だ。

ディスプレイ部のサイズは、横幅220cmで高さは131cm。なかなかイメージし難いが、98型の8Kパネルは、24型相当のフルHDパネル16枚、50型弱の4Kパネル4枚を並べたサイズ・解像度に匹敵する。

98Z9G
ディスプレイ部だけで横幅220cm・高さは131cm。フロアスタンド込みの高さは172.5cmもある

パネル方式は液晶で、解像度は7,680×4,320ドット。直下型のLEDバックライトを採用し、映像信号に合わせてLEDの明るさを制御するローカルディミングにも対応する。解像度以外で特筆すべき他シリーズとの違いは、そのLED制御を“エリア”ではなく、1個1個のLEDごとで行なう、独自のバックライト技術「Backlight Master Drive(バックライトマスタードライブ)」を搭載していることだろう。

この技術は、LEDの完全独立制御に加え、光学設計と映像処理を高度にバランスさせることで、液晶方式における一般的なエリア制御と比べて“鮮烈な輝きと引き締まった深い黒”を両立し、高コントラストで高輝度な映像を実現する、というもの。'16年発売の最上位4K液晶「BRAVIA Z9D」シリーズで初搭載された後、'17年以降のモデルには搭載されず、3年振りに“復活”した技術でもある。

Z9GではなくZ9Dの時に公開されたバックライト マスタードライブの説明動画

映像エンジンには、同社最上位グレードの「X1 Ultimate」(A9G/Z9F/X9500Gと同じ)が使われており、8Kコンテンツの高画質化処理はもちろんのこと、8K解像度に満たない2K/4Kコンテンツのアップコンバート表示など、様々な映像処理を担う。

ほかにもXDRコントラスト20倍(!)のX-tended Dynamic Range-PROや広視野角技術X-Wide Angle、残像低減技術X-Motion Clarity、画面4隅にビルトインされたスピーカーによるAcoustic Multi-Audioなどの独自技術に加えて、IMAX EnhancedやDolby Vision/Atmosをサポートするなど、フラッグシップに相応しい、ほぼ全部入りな仕様になっている。

目がくらむほどの“暴力的”光量。これほど生々しく立体的な8K映像は初めて

視聴した8K/60p/HDR 10bit RAWコンテンツは、人気ゲームソフト「グランツーリスモSPORT」のフルCGデモリールと、イエローストーン国立公園、およびブラジル・リオのカーニバルの実写映像の3種類だ。映像信号の送り出しは業務用プレーヤーからで、途中で開発用HDMIコンバーターを経由し、短尺のHDMIケーブル1本で98Z9Gに接続されていた。

8K RAWコンテンツとの組み合わせでは、別次元のクオリティを見せる。8Kの高精細はもちろんのこと、パワフルな輝度と滑らかな階調、明部から暗部まで鮮烈でリアルな高コントラスト映像は、見とれるほどに美しい。8K/60p信号をZ9G側で倍速表示(120p化)させていることもあって、表示の不自然さはほとんどない。

これまでプロジェクターや業務用モニターなどで8Kを体験したが、これほどまで高い輝度に富み、生々しく立体的な8K映像を筆者は観たことが無い。

CGで描かれたボンネットの光沢や収束したヘッドライト光もまるで本物のようなピーク感だが、巨大なパネルから放たれる目がくらむ程の“暴力的”な光量(消費電力1,102W!)は実写映像を一段と臨場感豊かに描く。それはまるで、太陽が照りつける国立公園や、たくさんの照明でリオを煌びやかに彩るカーニバルの場に自分が移動して、視力2.0級の目でそれらを眺めているような感覚に近い。

8K/60p素材を4K/60pにダウンコンバートした実写素材を分配器で同時出力し、98Z9Gと海外製の8Kディスプレイなどと比較視聴することもできた。バックライトパワーといったディスプレイの基本性能差だけでなく、アップコンバートを含む総合的な映像処理においても俄然Z9Gが上回っており、ディテールや色の豊富さ、コントラストに大きな違いが見られた。

ヒューサークルや全黒→全白などのテスト信号でも、バックライト制御の緻密さや輝度ムラを補正したユニフォーミティの高さで、本機が他と大きなアドバンテージを付けている。確かに実際の映像を見直しても、映像がパンしたときのムラも見えないし、夜空に浮かぶ月もハローが少なく周辺の黒も締まっている。

キラキラと光る水面やスパンコールのピーク感、最暗部の黒の表現や微細部の色のりなどは自発光タイプのマスターモニターに適わぬが、Z9Gは大多数の視聴者が一目で恋に落ちる「弩級の8K画質」と言えると思う。全財産を揃えても筆者には手が届かないが、98Z9Gを手にできる海外の猛者がただただ羨ましい。

冒頭でも記したとおり、Z9Gシリーズはあくまで海外モデルであり、残念ながら5月現在「日本導入は未定」(ソニー広報)となっている。8Kチューナーの価格やHDMI 2.1規格の整備など、様々な要因があっての判断なのかもしれないが、もしZ9Gが日本でも発売されるとしたら「8Kは何が違うのか? 本当に必要なのか?」という疑問を持つ方々に解を示す、強力な切り札となると感じた。