本田雅一のAVTrends

ソニー'19年の有機ELと液晶BRAVIAはどう進化したのか。狙い目機種は?

ソニーのテレビBRAVIAシリーズ新モデルが、4月23日に発表された。4K有機ELの最高峰「A9G」をはじめ、4K液晶の上位機や、43型で約11万円というスタンダード機まで多岐に渡るが、近年のBRAVIAシリーズのネーミングルールに基づき、型番末尾の英字が“何年型”かを表している。今年モデルは「G」で、全モデルにGが付与されていることがわかる。

4K有機EL BRAVIAの77型「KJ-77A9G」

もっとも、1月にラスベガスで行なわれた「CES 2019」で8Kパネル搭載のBRAVIA Z9Gシリーズも発表済みなこともあり、ラインナップ全体について把握し切れていない方も多いのではないだろうか。

今回の記事では、主にA9GシリーズとX9500Gシリーズの画質についてレポートするが、その前に昨年、液晶搭載のハイエンドモデルとして発表されたZ9Fとの関係も併せてラインナップ全体を整理しておきたい。

多数のモデルが入り交じる新ラインナップ、それぞれ何が違う?

同じくBRAVIAシリーズのネーミングルールで、“一桁”数字モデルは、昨年新たに追加されたトップエンドの「Masterシリーズ」を示す。それに次ぐ“4桁数字モデル”は、9000番台がハイエンド、8000番台が高品位モデル、7000番台が普及型だ。

ただし、今年は7000番台が廃止されて9000番台と8000番台のシンプルな構成となった。どのモデルがどんなパネルを採用しているのだ? と気になる人もいるかもしれない。

今後、どのようなルールでネーミングするかはソニーのみぞ知る……だが、今年に関して言えば、“ローカルディミングを行なわない”液晶テレビは、すべて8000番台と位置付けている。

その上で、4Kチューナを内蔵せず、高画質化エンジンのX1も搭載しないベーシックモデルをX8000G、4KチューナとX1(Extremeではないことに注意しておきたい)を搭載するモデルをX8500Gとしている。このモデルから120Hzの倍速駆動やDolby Vision対応が加わり、アップデートでのAirPlay2/Home Kitといったアップル製OSとの連動性向上が提供される。

さらにX8550と微妙に50番上がった型番のX8550Gは、4つのスピーカーで仮想的に画面内に音像を定位させるアコースティックマルチオーディオという、X9500Gにも採用されている技術が搭載される。つまり純粋に高音質版という位置付けと考えればいいだろう。画質に関してはX8500Gと同じだ。

X8550シリーズ(KJ-75X8550G)

なお、AirPlay2/Home Kit対応は後述の上位モデルにもすべて提供される(Z9Fも同じ)。ちなみにアップルは先日の発表会で、Apple TV機能がソニー製テレビにも年内に提供されると発表しているが、ソニー側はどのモデルで対応するかを明らかにしていない点に注意したい。

これらAirPlay 2対応機が、そのままApple TV対応になる可能性もあるが、AirPlay 2対応機にも、映像エンジンがX1 Extreme搭載のモデルとX1 Ultimate搭載モデルの2つがあるため、正確な予想は難しい。

さて、液晶でもローカルディミング対応液晶モデルのX9500Gシリーズは、75インチと85インチという2サイズを追加した上で、(従来は65インチまでだった)Z9Fに搭載された最上位X1 Ultimateが採用されることになった。Netflixと共同開発したNetflixモードに対応いているのは、液晶ではこのモデルとZ9Fのみとなる。部分駆動は直下型だがZ9Fよりは分割数は少なめだ(実際の数値は公開指されていない)。

X1 Ultimate

注意したいのは、Z9Fでは全モデルで導入されていた広視野角技術のX-Wide Angleだが、65インチ以下のモデルには搭載されていないこと。なお、ダイナミックレンジ拡張や動画ボケ防止機能などは対応している。またアコースティックマルチオーディオに関しては、49インチモデルのみ非対応だ。

やや複雑に思えるかもしれないが、Z9Fを除くすべてのモデルが置き換わったこともあり、全体を通してみると価格帯と機能・画質の上下関係は整理されている。

広視野角技術のX-Wide Angleを搭載

使用する映像エンジンで異なる、シンプルな有機ELモデル構成

一方、OLED(有機EL)パネル搭載BRAVIAは、全ラインナップが一新されたため、液晶搭載モデルよりも整理されている。基本的な上位・下位モデルの違いは、用意されているサイズの違いを除けば、基本的に搭載している映像エンジンの違いと考えればいい。

以前は77インチのみA1という名称だったが、Masterシリーズとなる上位モデルがA9GでX1 Ultimate搭載、X1 Extreme搭載の下位モデルがA8Gだ。それぞれA9FとA8Fの後継で、遅れて導入されていた77インチモデルが、この機会に春モデルと同時期の発表へと切り替わった。4Kチューナが内蔵されるのは上位のA9Gのみだ。

しばらく上位モデルに採用されてきたX1 Extremeだが、今年のラインナップではA8Gのみへの搭載。上位の高画質モデルはX1 Ultimateに統一され、液晶普及型モデルは無印X1となったことになる。

やや残念なのは、差異化を意識したのか、A8GはX1 Extreme搭載ながら(無印X1の液晶モデルに搭載されているにもかかわらず)新しいユーザーインターフェイスやAirPlay 2/Home Kitへの対応が見送られていることだ。

画質面では、X1 Ultimate搭載か否かがもっとも大きなポイントで、超解像やダイナミックレンジ復元といった部分以外にも、昨年、A9Fに搭載されていたPixel Contrast Booster(X1 Ultimateに依存している)の有無が差異化点となっている。

Pixel Contrast Boosterに関しては、昨年秋のAF9(A9Fの欧州モデル)に関するレポートを参照いただきたい

新BRAVIAのラインナップや進化点など

光るX9500Gの“お買い得感”

これまでの説明を踏まえつつ、やっと本題に入ろう。

新モデルについて最終版に近い状態で映像の品位をチェックしてみたが、分割数が減っていると言われているものの、印象から言えばX1 Ultimateが搭載されていながらも「Masterシリーズではない」X9500Gシリーズのお買い得感が光る印象だ。

X9500Gシリーズ(KJ-49X9500G)

既存のX1 Extreme搭載モデルであるX9000Fとのもっとも大きな違いは、なんといっても“奥行き感”だ。超解像とダイナミックレンジ復元の精度が大きく異なるためだろう。ピンの合っている被写体と、そこからの距離の違いによるボケ方が自然。それ故に、風景にしても静物にしても、もちろん人物のショットにしても、立体的に描かれる。

フルHDや一般的な地デジなどの放送映像に関しても、ノイズ処理が適切でS/Nが改善している上に、自然に4K解像度へとアップコンバートされる。単純に“ハッキリと見える”だけならば、シャープネスを上げるだけだろうが、HD映像を4Kパネルに描写した際に奥行き表現が自然になるのは、超解像が優秀なだけでなく、ダイナミックレンジ復元がうまく行なわれているからだ。

これは4K放送でも違いとして出る部分で、4K放送の持つ豊富な情報量を損ねないまま、ピンの来ている部分がパリッと明瞭に映し出される。UHD-BDでも効果的だが、一般的な4K放送では、なおさらにその違いを明瞭に感じるだろう。

たとえば人物の顔が、しっかりと丸く楕円の形をしていることが感じられるよう、描かれる。これはA9FやZ9Fですでに体験していたことだが、MasterシリーズではないBRAVIAでも実現されたことの意義は大きい。

ただし、返す返すも65インチ以下……つまり、一般的な家庭で導入しやすいサイズのモデルには広視野角技術が導入されていない点は残念。もちろん、光学的に補償しているのだろうから、そこにはコスト差が発生していることは予想されるが、ファミリー層向けにこそ導入されて欲しい技術だけに来年以降、搭載モデルが拡がることを期待したい。

一方で、75インチ、85インチという超大型を望んでいるならば、広視野角かつリーズナブルなX9500Gシリーズは他に競合がないユニークなモデルとも言える。85型は店頭予想価格70万円前後、75型は同55万円前後だが、液晶でここまで広視野角な製品は他に存在しない。

同じ有機ELパネルでも画質差が生まれる理由

ところで本連載の中で、“今年からパナソニックが独自T-CONを採用しているようだ”という話を伝えた。一方でパナソニックのエンジニアは“独自T-CONではない”と話しているという。筆者が話を聞いたのもまた、パナソニックのエンジニア(ただし所属は異なる)なのだが、実はこの話には、OLEDテレビごとに同じメーカー、同じ世代のOLEDパネルでも画質差が生まれる理由が隠れている。

T-CONというデバイスは「タイミングコントローラー」のことで、OLEDの画素を時分割駆動するドライバーチップのことだ。パネルとセットで開発されるため、基本的にパネルから切り離すことはできない。

しかし、T-CONの中に入っているのはOLEDのパネルドライバー(駆動回路)だけではない。OLEDパネルが焼き付きを起こさないようにしたり、パネル全体に供給すべき電流が一定制限値を超えないように見張る機能などもある。

平たく言うと“パネルの保護”のために、ピーク輝度などが動的に変化するようになっているのだが、ディスプレイパネルメーカーであるLGディスプレイは“パネルに不具合が出ないよう安全な方向に振って”、T-CON内の映像処理を行なっている。

勝手にパネルを制御され、品質問題を長期的に起こされては(パネルメーカーとしては)困るからだ。しかし、この部分の制御がOLEDパネルの画質を決めている側面もある。保護回路と映像処理エンジンには密接な関係もあるからだ。

そこでLGディスプレイは、同一グループ内のLGエレクトロニクスも含め、テレビセットメーカーの一部に、T-CONが持つパネル保護を目的とした映像処理機能をT-CONの外に持つことを許している。

これが“独自のT-CON”と(筆者が聞いていたエンジニアが)話していた部分だと考えられる。なぜ映像エンジンと関係するかと言えば、逐次変化を続けている映像フレームの輝度分布などを評価する回路は、高画質化のために多くの半導体資源を投入した最新映像処理エンジンの方が優秀にできているからだ。

より正確に細かく映像の特徴を把握し、適切な処理が行なえれば、パネルの信頼性に影響を与えない範囲内で、可能な限り、高いコントラスト、ピーク輝度を引き出せる。メーカー間のOLED画質の差は、T-CON内に本来はあった映像処理機能をどこまでT-CON外に引っ張りだし、他社よりも優れたものにするか……という勝負になっているわけだ。

実は“ローカルディミングの実力”とも関係するOLED画質

その違いは“直下型ローカルディミング”を行なっている液晶テレビといっても、ハロ(漏れ光による雲のように見える揺らぎ)の出方やコントラスト感が、メーカーやモデルごとに異なるのと似ている。

なぜなら、的確な映像分析と、その分析結果に伴う画像補正・画質処理といった部分のノウハウは、ローカルディミングとOLEDパネル保護でかなり似通った部分があるためである。

今後、メーカー間の直接対決になれば、その差も見えてくるだろうが、映像エンジンの分析能力は、全社が同じOLEDパネルを使っている中でも“品質の高低”という形で出てくるということ。絵作りによる印象の違い、などではないということだ。

X1 Ultimateが(最初に採用されたA1に引き続き)優秀だと感じるのは、そうした部分をより上手に引き出しているからで、局所コントラストの高さといった違いを生み出している。

A9FとA9Gの画質差は、安定したと言われる黒周辺の階調安定性といった、パネルの世代による質の差は観られるが、さほど大きなものではない。一方で、A8GとA9Gの差としては、映像エンジンの分析力や超解像、ダイナミックレンジ復元も合わせたトータルで大きな違いが生まれている。

局所コントラストや、全体の輝度が低めの中で点光源で明るい部分があるような……いわゆるUHD BDのHDRグレーディングされた映画に観られるような映像では、A9Gの方がより立体感の深みのある映像となり、高輝度部の色ノリも良いと感じたことは報告しておきたい。

8K BRAVIAシリーズの国内投入は?

パネル単価が高価なOLEDを選ぶならA9G、一方で費用対効果やサイズの大きさを求めるならX9500を選びたいところだが、もちろんそこには予算もある。悩ましいのは「G世代」のZ9GがCESで発表されていながら、日本では未発表ということだ。

CESで披露されたZ9Gの98型は、日本では未発表

ただし、Z9Gには65インチ以下のモデルが存在しないことに注意して欲しい。つまり、Z9の今年世代は“8Kモデルの85インチ以上のみ”ということになる。言い換えれば、65インチ以下はZ9Fの継続販売となる。価格帯も大きく異なるため、今回の製品とは競合もしない。

8Kパネルで65インチ以下となると、液晶の開口率も低く、バックライトの消費電力、放熱が厳しく、またサイズ面でも高精細を活かしにくいという理由もある。国内での発表が行なわれるかどうかは承知していないが、85インチ以上を狙う場合を除けば、いま8K BRAVIAの存在は意識しなくていいだろう。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。