大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「3D BRAVIAの発売に十分な手応え」

~ソニーマーケティングの栗田社長に3Dテレビ戦略を聞く~


ソニーマーケティングの栗田伸樹社長

 ソニーが6月3日から、3Dテレビ「BRAVIA LX900シリーズ」を前倒しで発売して、約10日が経過した。「手応えは十分。市場導入は成功している」と、ソニーマーケティングの栗田伸樹社長は自信をみせる。

 発売直後の瞬間風速では、3Dテレビにおけるソニーの市場シェアは約8割にまで上昇。ソニーの3Dテレビの登場を待っていたユーザーが多いことを裏付ける結果となった。栗田社長に、ソニーの3Dテレビの取り組みについて聞いた。(以下、敬称略)



■ 「ソニーの3Dテレビの強み」とは

―6月3日から、3Dテレビ「BRAVIA LX900シリーズ」を発売しましたが、その手応えはどうですか。

栗田:極めていい手応えを感じています。予想を上回る出足になっており、まずは市場導入は成功だと考えていいでしょう。3月に3Dテレビの投入を発表して以来、この3か月に渡ってソニーが取り組んできたのは、とにかく3Dを体験していただくという点でした。全国11都市で開催した体験イベントでは、9か所だけで5万人以上の方々に3Dテレビを体験していただきました。東京・銀座のソニービルのほか、ソニーストア名古屋、ソニーストア大阪でも、3Dの体験コーナーを設けたほか、六本木ヒルズで開催したdot parkイベントにおいても、3Dテレビの体験会を行ないました。ここではメインステージで3D映像を使った新たなコンサートの形というものも提案しました。

ソニーの吉岡浩副社長とソニーマーケティングの栗田社長は3月には名古屋の量販店を訪問し、3Dテレビの発売前の展示キャンペーンにも参加

 さらに、1万2,000人の動員を予定している6月19日のFIFAワールドカップ日本対オランダ戦のパブリックビューイングによる3D映像体験への期待感も高まっています。3Dテレビは、とにかく見てもらわないことには、その良さがわからない。かつての3Dの印象とはまったく違うことを知っていただき、その印象を払拭してもらいたい。そこにフォーカスした活動が、出足の手応えにつながっているといえます。

―プレスリリースでは、6月10日の発売となっていましたが、実際には6月3日からの発売となりましたが。

栗田:少しでも早く3Dテレビをご購入いただく体制ができあがり、その点ではユーザー、販売店の方々にも好評です。パナソニックがすでにプラズマテレビで3Dテレビを発売していますが、液晶テレビの3Dを待っていたという方も多かった。4倍速表示や液晶ならではの明るさにも注目が集まっていますし、これだけのすばらしい3D映像が、予想していた価格よりも安く手に入ることを知って、「3Dテレビは、こんなに安く買えるんだ」という驚きの声もある(笑)。

 すでに1,600店舗での展示を行なっていますが、7月中には2,000店舗ぐらいにまで拡張する考えです。量販店店頭では、サッカーや世界遺産、旭山動物園、美ら海水族館、ゲームなど25タイトルの3Dデモ映像を用意し、ここでもソニーならではの3D体験ができる形としています。


6月3日から発売された3D BRAVIA。量販店店頭でも多くの人が体験している

―改めてお伺いしますが、ソニーの3Dテレビの強みとはなんですか。

栗田:私は、3Dは、新たなテレビという位置づけではなく、テレビの新たな機能のひとつであると捉えています。その点で、ソニーのテレビが持つ基本的な強みというものが、3Dでも生かされることになる、という表現が適切ではないでしょうか。4倍速表示は、ソニーの特徴だといえますが、これは3Dを実現するには最適な技術だといえます。また、Monolithic Designというソニーならではのデザインも、3Dへの没入感を高めることにつながる。さらに、ソニーの最大の強みをあげるとすれば、ネットワークであり、コンテンツを含めたソニートータルの提案ができるということになります。3Dという新たな機能に対して、ソニーユナイテッドの力が発揮される。そこにソニーの強みがあります。

 ソニーでは、レンズ・トゥ・ホームという言い方をしていますが、いま3Dコンテンツの撮影用に利用されているカメラのほとんどはソニー製だといっても過言ではありません。制作現場、編集現場でのノウハウも蓄積していますから、どうしたら最適な3D映像が作れるのか、最適な3D映像を再生するためにはどうするのかといったことを、家庭用の3Dテレビにも反映させることができる。3Dの制作現場に最も近いメーカーがソニーであるといえます。だからこそ、3Dの提案によって、ソニーのイメージを一新させることができると思っています。

―それはどんな点ですか。

栗田:2003年のソニーショック以降、ソニーにはヒット商品がないとか、他社商品と革新的な差が見られないといったことをいわれ続けてきました。しかし、3Dはそのイメージを破壊することができる。「やっぱりソニーだよね」と言っていただけるものを、総合力によって提供できる。ソニーのイメージを一新する重要なチャンスだと思っています。ですから、まずは認知度でナンバーワンをとりたい。「3Dといえば、ソニー」と言われる状況を、とにかく早い時期に作りたい。今は、製品発売が早かったパナソニックが先行しているが、総合力を持つソニーの力を発揮すれば、これを覆すことができるはず。年末にかけて、3Dにおける認知度を一気に高めていきたい。ソニーとって、3Dは好機です。とにかく、3Dで大騒ぎしたいんです(笑)

―総合力という観点では、栗田社長が指摘したネットワークを通じた3Dコンテンツの配信がキーになると。

栗田:もちろん、BDによる3Dパッケージコンテンツも重要な意味を持ちます。しかし、「つながる」というキーワードは、3Dの世界においても、ソニーの特徴を示すものになるといえるでしょう。日本は世界最先端のブロードバンド普及国です。ネットワークを生かした展開がやりやすい環境にあるともいえます。ソニーでは、ブラビアネットチャンネルのサービスを提供し、アクトビラやYouTubeに加えて、6月からはUSENとの協業でU-NEXTのサービスも利用できるようになった。1万5,000本以上の映画やドラマ、アニメ、1万5,000曲以上のカラオケが月額2,980円で楽しめる。

 ブラビアネットチャンネルでは、まだ3Dの映像をいつから配信するのかという具体的なものはありませんが、こうしたインフラも3Dテレビの普及のなかではぜひ活用していきたい。いずれにしろ、3Dテレビの普及において、コンテンツの広がりが不可欠です。この絶対量はまだまだ少ないが、ソニーは3Dコンテンツを数多く所有している企業のひとつ。ソニー・ピクチャーズ、ソニー・ミュージック、ソニー・コンピュータエンタテイメントなど、コンテンツを持つ企業がグループの中にあり、これらの企業の力を生かすことができる。

六本木ヒルズで行なわれたdot parkでは、多くの人が3Dを体験dot parkに駆けつけたハワード・ストリンガーCEOも会場の参加者とともに3Dを体験

 先頃、六本木で開催した「dot park」でも、3D映像を流した後に、ソニー・ピクチャーズをはじめとするソニーグループの企業のロゴが次々と映し出されたことで、ソニーグループ全体が3Dコンテンツに本気に取り組んでいることを実感していただいた来場者の方も多かったようです。

 3D BRAVIAでは、2Dの映像を3Dに変換して視聴するという機能も搭載していますが、それだけでなく、すばらしい3Dテレビの機能を3Dコンテンツによって認知してもらい、そして3Dコンテンツによるすばらしい体験が、またハードの販売につながるというポジティブなサイクルを構築しなければなりません。つまり、ソニーの総合力の強みは、コンテンツだけではなく、ハードウェアとコンテンツを組み合わせて提案できるという点にあるのです。その点では、ハードウェアの総合力も大切な要素となります。


■ 国内薄型テレビの20%シェア獲得へ。10%が3D対応

―具体的にはどんな点ですか。

栗田:まずはプレイステーション3との連動があります。現在、日本では500万台のPlayStation 3が利用されており、そのうち、ネットワークに接続されているのが300万台。そして、すでに250万台が3Dを見られる環境にシステムソフトウェアがアップデートされている。あとは3D BRAVIAを接続すれば、3Dを体験できる環境がこれだけ整っているのです。6月10日からは、「3D BRAVIA購入キャンペーン」を開始し、3D BRAVIAの購入者を対象に、プレイステーション3用の3Dゲーム「Mr.PAIN」、「STAR STRIKE HD」、「WipEout HD」の3タイトルおよび「MotorStorm2」の体験版を、PlayStation Storeから無料ダウンロードできるプロダクトコードをプレゼントします。

 また、先頃発売したデジタル一眼カメラ「NEXシリーズ」では、3Dスイングパノラマ機能を搭載することになります。これはサイバーショットで好評を得ている、シャッターを押したあとに、横にスイングすれば、自動的に連続撮影をし、パノラマ撮影できる機能を3D化したもので、7月に予定しているファームウェアのアップデートによって実現できるようになります。これも、3D BRAVIAとの連動によって、自分で撮影した3D画像が手軽に楽しめるようになる。また、BDレコーダーは夏から秋にかけて発売することになりますし、今後は、サイバーショットやカムコーダー、バイオでも3D対応を図ります。

 3Dの普及には、ゲームや映画、テレビ放送といったコンテンツの普及も重要な鍵ですが、今後、積極的にアピールしていきたいと考えているのは、自分で撮影したり、編集したパーソナルコンテンツを、いかに楽しむかという世界の提案です。これはソニーが差異化できる重要な部分でもあります。3D対応したハードウェアの発売時期にあわせて、パーソナルコンテンツによる3Dの楽しみ方を積極化させていきたい。これは次のステップでの訴求だといえます。

―3Dテレビの国内市場における普及は、どんな風に予想していますか。

栗田:2010年度の国内薄型テレビ市場は、年間1,500~1,600万台が見込まれています。ソニーは、このなかで年末には、20%のシェア獲得を目指したい。そのうち、10%程度が3Dテレビになるのではと予想しています。

―年間を通じてのシェアが20%獲得ではないことを加味して逆算すると、ソニーの3Dテレビの出荷規模は20~25万台程度といったところですか。

「2011年度にはテレビの約50%が、2年後にはほとんどが3D対応になる」と栗田氏

栗田:7月からは、3DレディモデルとなるHX900シリーズの発売を予定していますが、これがどれぐらいの反応になるかが楽しみです。最高峰のテレビであり、あとから必要に応じて3D対応することができる。この3Dレディモデルを含めて、2010年度は30万台程度の出荷を目指したいですね。

 私は、2011年度には約50%のテレビが、2年後にはほとんどのテレビが3D対応になると考えています。50型以上では、2011年度の段階で、すべてのテレビが3D対応になるのではないでしょうか。そのなかで3Dレディと呼ばれるテレビがどの程度を占めるかは大変興味深い。まだ競合他社は3Dレディという考え方は前面には出していませんが、ソニーにとっては、3Dレディ製品の投入は重要な施策だと考えています。

―今後、ソニーでは3Dレディ製品のラインアップが増加すると。

栗田:市場の動向を見ながら、ラインアップを広げていくことも検討したいと考えています。

―ソニーは3Dテレビにおけるトップシェア獲得を宣言していますが。

栗田:国内の3Dテレビ市場において、ソニーは存在感を発揮していきたい。そして、3Dという流れはソニーがリードしていきたいと考えています。その鍵となるのが総合力です。ソニーの3Dの取り組みに期待していてください。


(2010年 6月 15日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など