第364回:ズームの新開発X-Yマイク搭載24bitレコーダ「H4n」

~ 音質が向上。3種類の録音モードなど搭載 ~


リニアPCMレコーダ「H4n」

 ズームから新型のリニアPCMレコーダ「H4n」が発売された。2006年4月にリリースされたH4の後継という位置づけのレコーダで、24bit/96kHzに対応した同社の最高峰として位置づけられるポータブル機となっている。

 数多くのメーカーがリニアPCMレコーダという分野に参入し、厳しい競争が強いられているマーケットとなっているが、満を持して投入した新機種だけに自信もありそうだ。実際、どんな機種なのかチェックした。



■ 性能や操作性が向上した「H4n」

 ズームは、2007年8月に発売したコンパクトなリニアPCMレコーダ「H2」が大ヒットとなった。24bit/96kHz対応の機種ながら、現在安いところでは2万円を切る価格をつけており、そのコストパフォーマンスの高さに目をひかれる。

 今回登場したH4nはそのH2の上位機種となるのだが、標準価格36,750円(実売価格30,000円前後)で、見た目や大きさはかなり違う。手元に前機種のH4がなかったので並べて比較はできなかったが、サイズ的にはほぼ同等。X-Y型のマイクを内蔵し、入力端子でキャノン/PHONE兼用のコンボジャックを2つ装備している点でも同様となっている。

H2(右)と比べてみても、大きさはかなり違う

前機種の「H4」

 しかし、そのデザインや性能、操作性は大きく変わっており、まったく新たな機種に設計しなおされたと見てよさそうだ。ちなみにH4nのnはnextの“n”だという。参考までにH4nとH2、それにローランドのR-09HRと比較してみると、その大きさの違いがわかるだろう。

H2とローランドの「R-09HR」とのサイズの比較。左からR-09HR、H4n、H2

 またiPod touchと並べると、ポータブルとはいえ大きな機材であることがわかる。ちなみに重量は電池抜きで約280gだ。H4が約190gであったことと比較して、ちょっと重たくもなっている。

iPod touchとのサイズの比較

 先に使った感想を言ってしまうと、確かに大きくゴツイ機材ではあるが、H2やH4と比較して内蔵マイクの性能が格段によくなっているようで、音質的に非常にいい。またH4では使いにくかったユーザーインターフェイスも洗練され、マニュアルなしでも十分使えるわかりやすいものへと進化した。その上で、ほかのリニアPCMレコーダにはないズームらしいユニークな機能をいろいろ搭載しているのだが、ひとつひとつ順に見ていこう。


■ 指向角が選択可能なX-Yマイク搭載

 まずは外観だが、一番の特徴はソニーのPCM-D1やPCM-D50で搭載されたマイクと似たX-Y型のものとなっている。ただし、位相ズレの発生を防ぐ目的で右マイクと左マイクが互い違いの構造になっており、それぞれのマイクカプセルを回転させることによって、ステレオ指向角を90度(標準)から120度(広角)に切り替えることが可能。

左右が互い違いの構造になっているX-Y型マイクを搭載マイクカプセルを回転させて、ステレオ指向角が選択可能

 たとえばソロ楽器やセッションなど少人数の演奏を録る場合は90度、オーケストラやコーラスなど大人数の演奏を録る場合は120度など、シチュエーションに応じて最適な録音範囲が選択できるようになっている。

 さらに、このマイクとは別に2種の外部入力端子を備えている。一つは内蔵マイクの反対側に備えられた2chのコンボジャック。キャノンジャックにもPHONEジャックにも対応しているほか、メニュー設定によってファンタム電源をオンにすることでコンデンサマイクを駆動させることも可能だ。

XLRとPHONE入力のコンボジャック搭載

ファンタム電源対応


プラグインパワー対応、ステレオミニのマイク入力装備

 もうひとつはリアに設けられたステレオミニジャックであるEXT MIC端子。こちらは内蔵マイクとの切り替え式になっており、プラグインパワータイプのマイクにも対応している。

 このリアを見てもわかるとおり、スピーカーが内蔵されており、ヘッドフォンがなくても、録音した音をすぐにモニターできるようになっている。さらに、グレー部分はラバー塗装となっており、触った際の質感も向上している。この辺の仕様はR-09HRの影響を受けている、とも感じる。

 まあ、これだけ数多くの競合が出ているだけに、いろいろと研究をしているのだろう。結果として、他社製品のいいところをうまく取り入れた格好になっているようだ。

 前モデルのH4は電池やSDカードの出し入れがしづらかったが、その点も大きく改善された。SDカードは左サイドから簡単に出し入れできるようになるとともに、電池はリアにある蓋を取り外すことで、単3電池2本を簡単に交換できる。

SDカードは左側面からスロット可能電池は背面から出し入れできる


ニッケル水素電池も使用可能で、メニューから選択できる

 この蓋を開けて気づいたのが「STAMINA」というスイッチの存在。これをONにすることでスタミナモードとなり、消費電力を抑えて、通常時の1.8倍、約11時間の連続録音が可能となる。ただし、この場合は、16bit/44.1kHzのリニアPCMに固定され、24bit/96kHzやMP3といったフォーマットでの録音はできない。また、バッテリは、アルカリ電池のほかにニッケル水素電池を使用することもでき、この場合はメニューでNi-MHに設定しておくことで対応できる。

 使い勝手は基本的にH2のものを踏襲しており、各種設定はMENUボタンを押してメニューを表示させた後、“クルクルピッピッ”のジョグダイアルで選択していく形になっている。液晶もH2と比較して大きく、見やすくなっているほか、液晶下にはFOLDER、FILE、SPEED、WAV/MP3というショートカットボタンも用意され、MENU操作せずに即、目的の画面に遷移できるようになっている。


■ 3種類の録音モードを搭載

STEREO/4CH/MTRの3種類の録音モードを用意

 では、実際の機能のほうを見ていこう。H4nには「STEREO」、「4CH」、「MTR」という3種類の録音モードがあり、これを切り替えることにより、大きく性格の異なるレコーダへと変身する。まずは、もっとも基本となるSTEREOから見ていこう。

 STEREOモードは他のリニアPCMレコーダと同様のモードであり、フォーマットの切り替えによって、最高で24bit/96kHzからCD相当の16bit/44.1kHzまで、さらにはMP3の320kbpsから48kbpsおよびVBRのそれぞれで利用することができる。

 24bit/96kHzに設定した上で、モニターヘッドフォンを接続して、いつものように裏山に鳥の鳴き声を収録しにいってみた。やや風もあったので、付属の風防を取り付けて持っていった。

 日によって鳥の種類や、その位置、鳴き方が異なるので、一概に比較することはできないが、かなりリアルに音を捉えることができた。マイク入力レベルは最高にしても、大きすぎることはない。ただ、風の音やグリップノイズを拾ってしまうため、若干絞って録ってみた。また、どうしても遠くに飛んでいる飛行機やヘリコプターなどの騒音が入ってしまうため、マイクのローカットをオンにして、98Hzに設定している。

最高で24bit/96kHzの録音が可能なSTEREOモード付属のウィンドスクリーンを装着して録音

ローカットをオン

 ちなみに、ローカットは80Hzから237Hzまで10段階で周波数設定できるようになっており、マイク用、外部入力用それぞれ独立した設定が可能だ。このようにして録った音を聴きやすくするため、後でノーマライズ処理をかけたものを掲載しておくので、ぜひ聴いてみてほしい。マイクは左右ともに標準の90度の設定となっているが、鳥が鳴きながら飛んでいるステレオ感も存分に味わえるはずだ。

 

録音サンプル
鳥の鳴き声を収録dalsam1.wav(16.9MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定した上で付属のウィンドスクリーンを装着して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 次にこれもいつもと同様に、CDを再生した楽曲のレコーディング性能のチェックも実施。例によってTINGARAのJUPITERを使わせてもらい、24bit/96kHzでレコーディングを行なった。

 H4nはカメラの三脚に固定し、マイク角度は標準の90度に設定して捉えてみた。かなり大きな音量で再生するためこれまで扱ってきた多くのリニアPCMレコーダの場合、マイクレベルをしぼって録音してきた。

 それに対し、H4nではマイクレベルを0~100で設定できるが、90近くでようやくレベルオーバーする程度。ここでは80の設定で行なった。もちろん、こちらではローカットはもちろん、コンプレッサ/リミッタなどの設定をすべてオフにしている。

 ちなみに、このコンプレッサ/リミッタは内蔵マイク、外部入力それぞれ別に設定することができ、コンプレッサ3種類、リミッタ3種類の設定が用意されている。

コンプレッサ/リミッタは内蔵マイク、外部入力それぞれ別に設定可能。それぞれ3種類の設定が用意されている


録音サンプル :
 楽曲(Jupiter)

H4n音声サンプル
h4n.wav(7.06MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、いずれも24bit/96kHzで録音した音声を編集し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 実際にこれで録った音を聴いてみると、H2とはまるで違う、かなりの高音質。現在発売されているリニアPCMレコーダの中でも上位に入る音だと思う。試しに周波数分析をかけた結果も掲載しておこう。

 24kHzまでのスケールで見えるようになっているが、22.01kHzで減衰せずに、さらに高い音まで拾っているようだ。これはCDの再生系統で高周波が出ているせいなのか、H4n側のアナログ性能によるものなのかは検証できていないが、聴いた感じはとても自然だ。

 とはいえ、元がCDの音なので24bit/96kHzで残しておく意味はあまりない。アンチエイリアスをかける形で44.1kHz化するとともに、ディザ処理をする形で16bit化した16bit/44.1kHzのサウンドを掲載しておくので、ほかの機材での音と聴き比べてみると面白いだろう。感覚的にはやや高域が強めに出ているが、その分抜けのいいクッキリとしたサウンドになっているようだ。



■ 4ch録音可能な「4CHモード」

4CHモード

 今度は4CHモードについても見てみよう。これはその名のとおりステレオ2chではなく、一気に4ch分を録音するというもの。16bit/44.1kHzから最高で24bit/48kHzまでの対応で、24bit/96kHzでのレコーディングはできない。

 また捉える音は内蔵マイクまたはEXT MICからの入力が1/2ch、外部入力が3/4chという設定であり、外部入力が必須となる。この場合、SDカードには2つのWAVファイルが同時に書き込まれる形になっており、デフォルトでは1/2chが「4CH000M.wav」、3/4chが「4CH000I.wav」というファイル名となる。

 この4CHモード、もちろん使いたい人はいるとは思うが、H2でのそれと比較すると、あまりニーズは高くないかもしれない。というのもH2には標準で4つのマイクを搭載しており、トータルで360度見渡せるサラウンドに対応していたため、これを置いて録るだけで、すぐにリアリティーのある立体的な音響空間を実現することができた。

 それに対し、H4nの場合はマイクは2ch分のみで、外部マイクに接続し、それを自分で設定しなくてはならないことを考えると、ちょっと簡単にはいかないかもしれない。


■ MTRモード

2トラック同時録音/4トラック同時再生可能なMTRモード

 そしてH4nのズームらしさというか、ほかの機材にはないユニークな機能がMTRモードだ。これはH4nを4chのMTR(マルチトラック・レコーダ)として利用するためのモードとなっている。

 サンプリングのフォーマット的には16bit/44.1kHz固定で、24bit/96kHzなどほかのモードは利用できない。つい先日、TASCAMのDP-004というポータブルレコーダについてレポートしたが、基本的スペックは同様なのだ。

 H4nの場合、入力にはDP-004搭載の内蔵マイクと比較してずっと高音質なマイクが搭載されているだけでなく、キャノン接続のマイクで、ファンタム電源が必要なものも利用できるという点でのメリットは非常に高い。

 DP-004の場合、数多くのツマミがあり、とにかく操作しやすいのが特徴だったが、H4nの場合は、コンパクトな機材に機能を詰め込んでいるため、そこまでの操作性は期待できない。

 とはいえ、各トラックレベルやパンの設定はジョグダイヤルと液晶画面を使って設定はできるようになっているほか、時間を指定してのパンチイン・パンチアウトにも対応している。

 さらに、強力なのが50種類ものエフェクトを搭載していること。これは前モデルのH4の機能をそのまま引き継いでいるようだが、ボーカル用、ギター用などのマルチエフェクトがいろいろ用意されており、パラメータのエディットも可能だ。

各トラックレベルやパンの設定も可能

50種類のエフェクトを搭載。パラメータのエディットも可能

 このエフェクトはトラックにレコーディングした音に対してかけるのではなく、あくまでもレコーディング時にかけ録りするためのものとなっているようだ。コンボジャックにギターを直接接続して、エフェクトをかけて録ることができるので、かなり便利に使うことができる。ちなみに、H4に搭載されていた内蔵マイクの音質を変化させるためのマイクシミュレータ機能は削除されている。

 そのほか、メトロノーム機能や、チューナ機能も用意されているので、必要に応じて利用することができる。

メトロノーム機能

チューナ機能

 この4トラックのうち同時に録れるのは1トラックまたは2トラックまで。それを重ね録りしていくわけだ。4トラック分録り終えたら、ミキサーやパンでバランスをとった上で、バウンス機能を使って2chのステレオのWAVファイルにミックスダウンすることも可能。このバウンス機能は、ミックスダウン用として利用できるほか、トラックをまとめて空トラックを作るピンポンの用途でも利用できる。


■ USB端子搭載でPC接続可能。オーディオI/F機能も

 H4nの左サイドにはUSB端子が用意されており、これを用いることでPCとの連携も可能。これも基本的にはH4の機能がそのまま踏襲されているのだが、メニューからUSBを選択するとSTRAGE、AUDIO I/Oという2つのメニューが表示される。STRAGEを選択すると、H4nに入れてあるSDカードの中身がPC側から見えるようになる。

 一方、AUDIO I/Oを選択するとオーディオインターフェイスとして機能する。この場合、44.1kHzと48kHzの2種類が選択できるのだが、44.1kHzを選択した場合は、MTR機能で用いたエフェクト機能も利用可能となっている。 

USB端子も装備

メニューからUSBを選択すると、STRAGE、AUDIO I/Oという2項目が表示される
別売リモートコントローラ「RC4」

 機能てんこ盛りともいえるH4nを駆け足で紹介したが、音質的にも操作性的にも非常によく、価格も安いため、これからリニアPCMレコーダを選ぶという人にとっては、また有力な選択肢が登場した格好だ。

 やや大きい機材であるのが難点ではあるが、コンボジャックを搭載しており、外部にコンデンサマイクなどを自由に接続できる点を考えれば納得のいくところだろう。

 なお、今回オプションとして、ケーブルで有線接続するリモコンも登場している。これを使うことで、本体スイッチを操作する際のノイズから解放され、使いやすさも向上する。


(2009年 3月 23日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]