藤本健のDigital Audio Laboratory
第729回
新iPad ProをDTMに使ってみる。iPad Air 2と比べて分かった大きな違い
2017年7月3日 12:53
先日発売されたiPad Proを購入した。特に買うつもりもなかったのだが、発表された数日後、たまたま渋谷の量販店で見かけ「iPad Air 2を買ってからもう3年近く経過しているので、特に不満はないけれど、久しぶりにiPadを買ってもいいかも」と、あまり大きな目的もなく購入した。ただ、試しにiPad Air 2と比較してみると、性能的な違いがハッキリと見えたのは、ちょっと驚きではあった。そこで、改めてiPad ProをDTMマシンとして見たときのハードウェア互換性なども含めてチェックした。
10.5インチiPad Proと、iPad Air 2の基本的な違い
3年前にiPad Air 2が出たときは、発売日の朝に店頭に並んで購入した記憶があるが、その後は、もうこれで十分、と思ってしまい、後継機種にあまり興味を持てなかった。具体的にはiPad Proの9.7インチと12.9インチが登場して、今年3月には第5世代iPadが出ていたけれど見送っていた。そうした中、今回、第2世代のiPad Proの10.5インチと12.9インチが登場したわけだが、発表内容を見たときには、「あまり目新しいこともないな」と今回も見送るつもりだったのだ。ただ、その後、たまたまiPadでDAWを使う仕事が入り、久しぶりに買ってみてもいいかなと思い、量販店にたまたま1つだけ在庫があったので、購入したのだ。
選んだのは10.5インチのWi-Fiモデル。個人的には12.9インチは大きすぎると思い、10.5インチにした。店頭においてカラーもメモリ容量も選択の余地はなくピンクの256GBとなった。開封してモノを見た際、大きさ的にはiPad Air 2と同じなんだろうと思っていたが、実際には若干大きく、純正カバーも流用できない。裸のままで持ち歩くのも怖いので、せっかくならとSmart Keyboardを購入。ただ残念ながら、キーボードをセットすると手前が5mm浮いてしまう不良品だったことが判明。購入したお店に持って行ったところ、返品交換を受け付けてくれるとのことだったが、在庫がなく、入荷を待っているところ。とりあえず、この機材を使ってレポートしていく。
まず、試してみたのは本体のスピーカーを使っての音楽再生。買ってから気づいたのだが、iPad Proはスピーカーが4つ搭載されていて、横位置で置いた際に左右から音が出るようになっている。
iPad Air 2と聴き比べてみると、明らかにiPad Proの勝ち。音量・音圧的に、それほど大きな差は感じないが、聴いた感じでの音質・音の広がりにおいてiPad Proのほうがいいのだ。ちなみに、以前にAndroidタブレットのNexus 10を初めて使ったとき、まさに横位置で音を聴いた際のステレオ感がすごくいい、と思った覚えがあるのだが、試しに、このNexus 10と並べて同じ音を聴いてみたところ、iPad Proのほうが音量も、ステレオ感も、そして音質的にもよかった。
iPad Pro(10.5インチ) | iPad Air 2 | |
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発売 | 2017年6月 | 2014年11月 |
サイズ (幅×奥行き×高さ、最厚部) | 250.6×174.1×6.1mm | 240×169.5×6.1mm |
重量 | 約469g | 約437g |
CPU | 64bitアーキテクチャ A10X Fusion 組み込み型M10コプロセッサ | 64bitアーキテクチャ A8X M8モーションコプロセッサ |
メモリ | 4GB | 2GB |
画面サイズ/解像度 | 10.5型/2,224×1,668ドット (264ppi) | 9.7型/2,048×1,536ドット (264ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | |
バッテリ持続時間 | 最大10時間 | |
スピーカー | 4基 | 2基 |
Smart Connector | ○ | - |
Apple Pencil対応 | ○ | - |
価格(発売時) | 69,800円(64GB) 80,800円(256GB) 102,800円(512GB) | 44,800円(16GB) 55,800円(64GB) |
オーディオインターフェイスやMIDI機器との接続性は?
続いて行なったのは、さまざまなDTM機器との接続実験。Apple純正の最新機器なのだから、iPad Air 2で動いてiPad Proで動かないというものはないはずだし、動いて当たり前ではあるが、Lightning-USBカメラアダプタを介してのUSBクラスコンプライアント機器との接続などは、そもそも動作が保証されているものではないため、念のため試しておく価値はあるはず。ということで、いろいろと試してみた。
まずはオーディオデバイスから。 最初に試してみたのはIK MultimediaのiRig Pro Duo。これはバッテリ駆動する2IN 2OUTのオーディオインターフェイスで、付属のLightningケーブルで接続することでiOSデバイスで利用できる、いわゆるMFi(Made for iPad/iPhone)というもの。結果は、当然ながらまったく問題なくオーディオ入出力ともにできた。同じくMFiであるTASCAMのiXRについてもテスト。こちらも問題なく使うことができた。
ではUSBクラスコンプライアントデバイスの場合どうなのか? 試してみたのはヤマハ/SteinbergのUR22mkII。これはUR22mkIIのmicroUSB端子に電源供給した上で、Lightning-USBカメラアダプタ経由でiPad Proと接続すれば動作するはず。こちらもあっさりと使うことができた。ここで一つ試してみたのは電源供給にmicroUSB端子ではなく、iPadと接続するのほうのUSB端子を使う方法。もちろん、普通にLightning-USBカメラアダプタ経由で接続しただけでは電力供給容量が足りずに動作しない。そこでLightning-USB3カメラアダプタを使うのだ。Lightning-USB3カメラアダプタにはACアダプタからの電源供給する機能があるので、これを使ってみた。試してみた結果、こちらもうまく動作した。
もうひとつ試してみたのが古いiPhone/iPadの接続コネクタである30ピンDock機器が利用できるかというテスト。ここではLighting-30ピンアダプタを利用してTASCAMのステレオマイク、iM2を接続してみたが、やはり問題なく使うことができた。
次にMIDI機器はどうだろうか? こちらもまずはMFi機器からということでIK MultimediaのiRigKEYSをテストしてみた。これも問題なく動作する。さらに別のMFiのMIDI機器と思って探したが、現状手元になかったので、やはりLightning-30ピンアダプタを使い、ヤマハのMIDIインターフェイス、iMX1と接続してみたところ、「USB-MIDI装置」という名前での認識とはなったが、こちらもしっかり動作してくれた。
ではUSBクラスコンプライアントなMIDI機器のほうはどうだろうか? これも先ほどのオーディオデバイスと同様にLightning-USBカメラアダプタを経由してコルグのnanoKEY2に接続。これは従来と同じようにiPadからの電源供給だけで動作させることができた。
一方、ローランドのA-RRO300はUSB端子から電源供給する必要があるがiPadの電力では足りないため、Lightning-USB3カメラアダプタを使って接続してみたところ、動作させることができた。また、MIDIの動作チェックで必須のツールであるアールテクニカのMidi ToolBoxでみると、入力ポートが3つ、出力ポートが2つと、完全に認識されていた。
そしてMIDIの物理的接続ではなくBluetooth LEを使って接続するBLE-MIDIについてもテスト。コルグのmicroKEY Airの電源を入れ、BLE-MIDIのスキャンをすると簡単に見つかり、接続して使うことができた。さらにキッコサウンドのmi.1についても追加で接続してみたところ、こちらもすぐに接続することができ、BLE-MIDIのほうも問題ないようだ。
こうした点を見ていると、当然ではあるが、これまで使えた機器は問題なく利用することができそうだ。一方、DTM系のアプリについては、あまり細かくチェックはしていないが、GarageBand、Cubasis、Auria Pro、FL STUDIO Mobileなどを試してみた限り問題はないので、普通に使うことができるだろう。
バッファサイズを少なくすると大きな違いが
ここまでは書いてきた内容は、iPad Air 2もiPad Proもまったく同じであり、問題なく動作するとはいえ、新しく購入したメリットはあまり感じられない。大きさ的にもほぼ同じなので、多少画面サイズが大きくなったとはいえ、格段よくなったとは実感できない。ところがアプリを動かしてみると、明らかなメリットを見出すことができた。それがiPad用のDAWであるAuria Proを使ったときの動作だ。
iPad Air 2とiPad Pro、それぞれに最新版のAuria Pro 2.11をインストールし、デフォルトの設定状態でプリセットのデモ曲を演奏してみる。このAuria ProにはCPUメーターおよびDISKメーターがついているので、このメーターの動きを見てみると、確かにiPad Air 2よりiPad Proのほうが低く抑えられていて安心して使えそうではある。
試しに重たいプラグインエフェクトであるConvolution Reverbを12トラックそれぞれにインサーションで掛けてみたところ、やはりiPad ProのほうがCPUメーターを低く抑えることができたが、iPad Air 2でもそこそこ動いてしまう。
これを見ると、iPad Air 2で十分だったようにも思うが、Aurio Proでは安定して動作させるために、デフォルトでのオーディオインターフェイスのバッファサイズが512と設定されている。このため、たくさんのプラグインを入れても問題なく動作したのだ。では、このバッファサイズを最低の32に設定するとどうなるだろうか? 。ここでは、極端な差が出てしまった。iPad Air 2はCPUメーターが完全に振り切れ、完全に壊れてしまったような音となり、途中で止まってしまったのに対し、iPad ProではメーターはCPU使用率15%程度と余裕で動いてくれたのだ。
ほかのDAWでもバッファサイズを小さくすると、やはり負荷が上がり、iPad Air 2だと安定した動作が難しくなってくるが、iPad Proなら余裕をもって動いてくれる。この処理能力の向上、バッファサイズを小さくしてレイテンシーを縮めたときにはじめて顕著になってくる。ここが大きな違いというわけだ。
PCでDAWを使っている方ならよくご存じのとおり、バッファサイズを縮めるとレイテンシーが小さくなる。512あると、リアルタイムモニター時に明らかな時間差を感じるが、32まで縮めればほぼゼロといっていい状態にまで詰められる。
今秋には、現在パブリックベータ版が配信されているiOS 11の正式版が提供開始予定ということもあって、今後さらに違いが見えてくる可能性もありそうだが、まずは購入したばかりのiPad Proを存分に使っていこうと思っている。
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iPad Pro 10.5インチ Wi-Fi 256GB |