藤本健のDigital Audio Laboratory

第729回

新iPad ProをDTMに使ってみる。iPad Air 2と比べて分かった大きな違い

 先日発売されたiPad Proを購入した。特に買うつもりもなかったのだが、発表された数日後、たまたま渋谷の量販店で見かけ「iPad Air 2を買ってからもう3年近く経過しているので、特に不満はないけれど、久しぶりにiPadを買ってもいいかも」と、あまり大きな目的もなく購入した。ただ、試しにiPad Air 2と比較してみると、性能的な違いがハッキリと見えたのは、ちょっと驚きではあった。そこで、改めてiPad ProをDTMマシンとして見たときのハードウェア互換性なども含めてチェックした。

10.5型iPad Pro

10.5インチiPad Proと、iPad Air 2の基本的な違い

 3年前にiPad Air 2が出たときは、発売日の朝に店頭に並んで購入した記憶があるが、その後は、もうこれで十分、と思ってしまい、後継機種にあまり興味を持てなかった。具体的にはiPad Proの9.7インチと12.9インチが登場して、今年3月には第5世代iPadが出ていたけれど見送っていた。そうした中、今回、第2世代のiPad Proの10.5インチと12.9インチが登場したわけだが、発表内容を見たときには、「あまり目新しいこともないな」と今回も見送るつもりだったのだ。ただ、その後、たまたまiPadでDAWを使う仕事が入り、久しぶりに買ってみてもいいかなと思い、量販店にたまたま1つだけ在庫があったので、購入したのだ。

 選んだのは10.5インチのWi-Fiモデル。個人的には12.9インチは大きすぎると思い、10.5インチにした。店頭においてカラーもメモリ容量も選択の余地はなくピンクの256GBとなった。開封してモノを見た際、大きさ的にはiPad Air 2と同じなんだろうと思っていたが、実際には若干大きく、純正カバーも流用できない。裸のままで持ち歩くのも怖いので、せっかくならとSmart Keyboardを購入。ただ残念ながら、キーボードをセットすると手前が5mm浮いてしまう不良品だったことが判明。購入したお店に持って行ったところ、返品交換を受け付けてくれるとのことだったが、在庫がなく、入荷を待っているところ。とりあえず、この機材を使ってレポートしていく。

iPad Air 2(左)よりも若干大きい
重ねたところ、下のiPad Proがわずかにはみ出るのがわかる
iPad Air 2のカバーは当然使えない
購入したSmart Keyboardは、装着した時に手前が浮いてしまった

 まず、試してみたのは本体のスピーカーを使っての音楽再生。買ってから気づいたのだが、iPad Proはスピーカーが4つ搭載されていて、横位置で置いた際に左右から音が出るようになっている。

iPad Air 2(上)にはないところに2つのスピーカーが内蔵されている
ボトムのスピーカーの位置と大きさもiPad Air 2(上)とは少し異なる

 iPad Air 2と聴き比べてみると、明らかにiPad Proの勝ち。音量・音圧的に、それほど大きな差は感じないが、聴いた感じでの音質・音の広がりにおいてiPad Proのほうがいいのだ。ちなみに、以前にAndroidタブレットのNexus 10を初めて使ったとき、まさに横位置で音を聴いた際のステレオ感がすごくいい、と思った覚えがあるのだが、試しに、このNexus 10と並べて同じ音を聴いてみたところ、iPad Proのほうが音量も、ステレオ感も、そして音質的にもよかった。

スピーカーの音は、iPad Pro(下)のほうがNexus 10(上)よりも良かった
iPad Pro(10.5インチ)iPad Air 2
発売2017年6月2014年11月
サイズ (幅×奥行き×高さ、最厚部)250.6×174.1×6.1mm240×169.5×6.1mm
重量約469g約437g
CPU64bitアーキテクチャ
A10X Fusion
組み込み型M10コプロセッサ
64bitアーキテクチャ A8X
M8モーションコプロセッサ
メモリ4GB2GB
画面サイズ/解像度10.5型/2,224×1,668ドット
(264ppi)
9.7型/2,048×1,536ドット
(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/ac
バッテリ持続時間最大10時間
スピーカー4基2基
Smart Connector-
Apple Pencil対応-
価格(発売時)69,800円(64GB)
80,800円(256GB)
102,800円(512GB)
44,800円(16GB)
55,800円(64GB)

オーディオインターフェイスやMIDI機器との接続性は?

 続いて行なったのは、さまざまなDTM機器との接続実験。Apple純正の最新機器なのだから、iPad Air 2で動いてiPad Proで動かないというものはないはずだし、動いて当たり前ではあるが、Lightning-USBカメラアダプタを介してのUSBクラスコンプライアント機器との接続などは、そもそも動作が保証されているものではないため、念のため試しておく価値はあるはず。ということで、いろいろと試してみた。

 まずはオーディオデバイスから。 最初に試してみたのはIK MultimediaのiRig Pro Duo。これはバッテリ駆動する2IN 2OUTのオーディオインターフェイスで、付属のLightningケーブルで接続することでiOSデバイスで利用できる、いわゆるMFi(Made for iPad/iPhone)というもの。結果は、当然ながらまったく問題なくオーディオ入出力ともにできた。同じくMFiであるTASCAMのiXRについてもテスト。こちらも問題なく使うことができた。

IK Multimedia「iRig Pro Duo」
TASCAM「iXR」

 ではUSBクラスコンプライアントデバイスの場合どうなのか? 試してみたのはヤマハ/SteinbergのUR22mkII。これはUR22mkIIのmicroUSB端子に電源供給した上で、Lightning-USBカメラアダプタ経由でiPad Proと接続すれば動作するはず。こちらもあっさりと使うことができた。ここで一つ試してみたのは電源供給にmicroUSB端子ではなく、iPadと接続するのほうのUSB端子を使う方法。もちろん、普通にLightning-USBカメラアダプタ経由で接続しただけでは電力供給容量が足りずに動作しない。そこでLightning-USB3カメラアダプタを使うのだ。Lightning-USB3カメラアダプタにはACアダプタからの電源供給する機能があるので、これを使ってみた。試してみた結果、こちらもうまく動作した。

ヤマハ/Steinberg「UR22mkII」
Lightning-USB3カメラアダプタ経由で接続

 もうひとつ試してみたのが古いiPhone/iPadの接続コネクタである30ピンDock機器が利用できるかというテスト。ここではLighting-30ピンアダプタを利用してTASCAMのステレオマイク、iM2を接続してみたが、やはり問題なく使うことができた。

Lighting-30ピンアダプタを利用してTASCAM「iM2」と接続

 次にMIDI機器はどうだろうか? こちらもまずはMFi機器からということでIK MultimediaのiRigKEYSをテストしてみた。これも問題なく動作する。さらに別のMFiのMIDI機器と思って探したが、現状手元になかったので、やはりLightning-30ピンアダプタを使い、ヤマハのMIDIインターフェイス、iMX1と接続してみたところ、「USB-MIDI装置」という名前での認識とはなったが、こちらもしっかり動作してくれた。

iRigKEYS
iMX1と接続

 ではUSBクラスコンプライアントなMIDI機器のほうはどうだろうか? これも先ほどのオーディオデバイスと同様にLightning-USBカメラアダプタを経由してコルグのnanoKEY2に接続。これは従来と同じようにiPadからの電源供給だけで動作させることができた。

Lightning-USBカメラアダプタ経由でコルグのnanoKEY2に接続

 一方、ローランドのA-RRO300はUSB端子から電源供給する必要があるがiPadの電力では足りないため、Lightning-USB3カメラアダプタを使って接続してみたところ、動作させることができた。また、MIDIの動作チェックで必須のツールであるアールテクニカのMidi ToolBoxでみると、入力ポートが3つ、出力ポートが2つと、完全に認識されていた。

Lightning-USB3カメラアダプタを介して接続
Midi ToolBoxで、入力ポート3つ、出力ポート2つが認識されているのを確認

 そしてMIDIの物理的接続ではなくBluetooth LEを使って接続するBLE-MIDIについてもテスト。コルグのmicroKEY Airの電源を入れ、BLE-MIDIのスキャンをすると簡単に見つかり、接続して使うことができた。さらにキッコサウンドのmi.1についても追加で接続してみたところ、こちらもすぐに接続することができ、BLE-MIDIのほうも問題ないようだ。

コルグのmicroKEY AirとBLE-MIDI接続
BLE-MIDI機器として認識
キッコサウンドのmi.1も追加で接続

 こうした点を見ていると、当然ではあるが、これまで使えた機器は問題なく利用することができそうだ。一方、DTM系のアプリについては、あまり細かくチェックはしていないが、GarageBand、Cubasis、Auria Pro、FL STUDIO Mobileなどを試してみた限り問題はないので、普通に使うことができるだろう。

バッファサイズを少なくすると大きな違いが

 ここまでは書いてきた内容は、iPad Air 2もiPad Proもまったく同じであり、問題なく動作するとはいえ、新しく購入したメリットはあまり感じられない。大きさ的にもほぼ同じなので、多少画面サイズが大きくなったとはいえ、格段よくなったとは実感できない。ところがアプリを動かしてみると、明らかなメリットを見出すことができた。それがiPad用のDAWであるAuria Proを使ったときの動作だ。

iPad用DAWのAuria Proを使用

 iPad Air 2とiPad Pro、それぞれに最新版のAuria Pro 2.11をインストールし、デフォルトの設定状態でプリセットのデモ曲を演奏してみる。このAuria ProにはCPUメーターおよびDISKメーターがついているので、このメーターの動きを見てみると、確かにiPad Air 2よりiPad Proのほうが低く抑えられていて安心して使えそうではある。

iPad Air 2
iPad Pro

 試しに重たいプラグインエフェクトであるConvolution Reverbを12トラックそれぞれにインサーションで掛けてみたところ、やはりiPad ProのほうがCPUメーターを低く抑えることができたが、iPad Air 2でもそこそこ動いてしまう。

iPad Air 2
iPad Pro

 これを見ると、iPad Air 2で十分だったようにも思うが、Aurio Proでは安定して動作させるために、デフォルトでのオーディオインターフェイスのバッファサイズが512と設定されている。このため、たくさんのプラグインを入れても問題なく動作したのだ。では、このバッファサイズを最低の32に設定するとどうなるだろうか? 。ここでは、極端な差が出てしまった。iPad Air 2はCPUメーターが完全に振り切れ、完全に壊れてしまったような音となり、途中で止まってしまったのに対し、iPad ProではメーターはCPU使用率15%程度と余裕で動いてくれたのだ。

バッファサイズを最低の32に設定
iPad Air 2はCPUメーターが完全に振り切れ、音が止まってしまった
iPad ProはCPU使用率15%程度で余裕の動作

 ほかのDAWでもバッファサイズを小さくすると、やはり負荷が上がり、iPad Air 2だと安定した動作が難しくなってくるが、iPad Proなら余裕をもって動いてくれる。この処理能力の向上、バッファサイズを小さくしてレイテンシーを縮めたときにはじめて顕著になってくる。ここが大きな違いというわけだ。

 PCでDAWを使っている方ならよくご存じのとおり、バッファサイズを縮めるとレイテンシーが小さくなる。512あると、リアルタイムモニター時に明らかな時間差を感じるが、32まで縮めればほぼゼロといっていい状態にまで詰められる。

 今秋には、現在パブリックベータ版が配信されているiOS 11の正式版が提供開始予定ということもあって、今後さらに違いが見えてくる可能性もありそうだが、まずは購入したばかりのiPad Proを存分に使っていこうと思っている。

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iPad Pro
10.5インチ Wi-Fi
256GB

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto