藤本健のDigital Audio Laboratory

第752回

楽器演奏のiPhone録音/コラボアプリがソニーから。「Jam Studio」を使った

 先日、シンガポール発で日本語でのサービスもスタートさせたBandLabについて紹介した。BandLabはスマホで音楽制作するためのツールであり、DAW的に利用したり、ネットワーク経由で仲間と、また知らない人ともセッションできるツールだが、これに近いサービスをソニーも昨年11月28日にスタートさせている。正確にはソニーの関連会社であるソニーエンジニアリングがリリースした「Jam Studio」というアプリ&サービスだ。

Jam Studio

 「アマチュアミュージシャンのためのオンライン録音スタジオアプリ」としてリリースされたJam Studioは現在iOS専用。とりあえず誰でも無料で使えるが、一部の機能を使うには月額590円(税込み)の利用料が必要となる。最初の6カ月間は無料で使えるということだったので、実際試してみたので、これがどんなものなのか紹介しよう。

Jam Studioでできる録音&コラボ

 スマホを用いて音楽コラボレーションを行なうというサービスはいろいろと登場してきている。BandLabもそうだが、日本国内ではnanaやMelocyといったものもあり、より手軽に、コラボレーションができるため、女子中高生を中心に大人気となっている。

 ご存知ない方のために音楽コラボレーションについて簡単に紹介すると「ある人がアップロードして発表した音楽に対し、別の人が新たなパートを追加して発表する」というもの。つまりAさんがアップロードしたカラオケとなる楽曲に対し、Bさんがボーカルを重ね、さらにCさんがコーラスパートを重ね……といったことを意味している。しかもiPhoneやAndroidのマイクに対して直接歌って録音できる気軽さから、大ヒットとなっているのだ。

 そうしたnanaやMelocyに対して、もう少し複雑なことまでできる音楽コラボレーションサービスが、BandLabであり、今回紹介するJam Studioなのだが、どう違うのかを見ていこう。

 まずアプリ自体は無料でダウンロードでき、起動するとアカウント作成を求められる。Facebookアカウントからの認証か、メールでの認証。ここではメールを登録すると、メールに認証コードが届くので、これをアプリに入力すれば完了だ。

サインイン/アカウント作成から選ぶ

 これでJam Studioのトップ(ホーム画面)が表示される。iPhone用の縦位置画面とiPad用横位置画面がそれぞれ用意されているので、ここからはiPad用画面を元に見ていこう。

iPad用の横画面

 このホーム画面、見てみると上からピックアップ、ジャムスタジオ、Beginner's Lounge、Expert Arena、The Original songs、Beutiful vocals……とさまざまな項目が立っているが、それぞれにいろいろな人がアップした曲が掲載されている。まだ使っているユーザーはそれほど多くはなさそうだが、完成度の高い曲も少なくない。

ホーム画面のメニュー

 気になる曲を見つけたらタップすると再生され、再度選択すると詳細情報が得られる。ここで「コラボレーション」というボタンをタップすると、その楽曲がローカルにダウンロードされるとともに、レコーディング画面へと切り替わる。コンデンサマイクが画面に表示されるあたりはnanaっぽい感じでもある。

詳細情報画面
レコーディング画面(iPhoneの場合)

 ここで録音ボタンをタップすれば、いま聴いた曲が流れると同時にレコーディングが始まる。なお、ヘッドフォンをしないと再生音がマイクに乗ってしまうので注意だ。ここで重ねるのがボーカルなのか、ギターなのか、ベースなのかなどをアイコンとして選択することも可能になっている。中にはDTMといったものも用意されている。

録音が開始
パートを選ぶ
DTMという項目も

 1回レコーディングして気に入らなければ2回目、3回目とレコーディングしていくことも可能。その場合、Take 1、Take 2、Take 3と前のを残しつつレコーディングされていく。それぞれを再生しながら、一番納得のいくテイクを見つけたら「録音完了」ボタンをタップし、それをアップロードする。

前のテイクも残っている

JASRAC登録の既存楽曲ともコラボ可能

 アップロードするにあたっては、曲名やアーティスト名などを入力する必要がある。Jam Studioではカバー曲をアップロードすることが可能になっている。対応する曲はJASRACおよびNexToneの管理楽曲に限られるが、自分で耳コピしてアップロードしてもいいし、すでにアップされている曲に対して歌でコラボしたり、ほかの楽器でコラボしてもOK。

曲名やアーティスト名などを入力

 またアップロードする際に、公開・非公開も設定できるので、自信がなければ、まずは練習用として非公開としておくのもありだ。

 いまは、人のアップした曲に対してコラボする形だったが、もちろん自分でゼロからレコーディングしていくことも可能。この場合は画面下のレコーディングというアイコンをタップすると、先ほどのコンデンサマイクの画面が現れるので、ここでレコーディングするわけだ。ちなみに、先ほどはレコーディングして、そのままアップロードしたが、その前にエフェクトをかけたりミックス処理することも可能となっている。画面下の「ミックス」というボタンをタップすると、PanとVolというパラメータが表示されるので、ここでパンと音量を調整する。

パンと音量を調整

 さらに、右側のボタンで展開すると、リバーブのパラメータが選べる。特にボーカルなどはリバーブを加えることで、歌の雰囲気も大きく変わってくる。

リバーブのパラメータ選択

 このリバーブは無料のユーザーでも使えるのだが、月額580円のスタンダードプランに切り替えることで、コンプレッサおよびEQも使えるようになる。といっても、DTMのプラグインのような本格的なコンプやEQが登場するのではなく、リバーブと同様それぞれ10種類のパラメータの中から選ぶだけ。マニュアルを見ると、各エフェクトの詳細が記載されているが、気に入ったものを選べばOKだ。

スタンダードプランは月額580円
コンプレッサとEQも使えるようになる

トラックの追加など、こだわりの使い方も

 ここまではnanaやMelocyなどとも近いところだが、Jam Studioの場合、追加したトラックと元のトラックがそれぞれサーバー上に独立した形で残っており、さらにトラックを追加できる。トラックを追加して新たなレコーディングを終えた後に、ミックス画面に移ると、それぞれのトラックのパンとボリューム、またそこに加えるエフェクトも設定できるようになっている。つまり、Jam Studioを完全にMTRのように使うことが可能となっているわけだ。最初にクリックをアップし、これにトラックを追加し、クリックに合わせてドラムを入力、さらにベース、ギター、ボーカル……と音を重ねていける。

サーバー上に残っている元のトラックに重ねられる
各トラックのパンとボリューム、エフェクトを設定可能

 各トラックごとにサーバーへアップロードすることが必須であり、ローカルでとっておくことはできないのだが、ある程度トラックがたまって曲が完成するまでは非公開にしておき、最後にバランスをとったうえで公開するということも可能となっている。また最大トラック数は8トラックとなっている。

 いきなり、そうしたMTR、DAW的なレコーディングを自分でしなくても、人が作ったとマルチトラックデータも公開されているので、これを見てみるのも楽しいところ。といっても、現在公開されているのは、主にJam Studio Officalアカウントでアップロードされたものなのだが、これを選ぶと、現在のトラック構成が見える。このままでは、特にいじることはできないのだが、「コラボレーション」ボタンをタップすると、このトラックすべてが手元へとダウンロードされる。

トラック構成画面
「コラボレーション」ボタンをタップして、トラックをダウンロード

 ダウンロードにはある程度の時間がかかるが、ここで次のトラックを自分でレコーディングするのもいいが、そうしなくてもミキサーボタンをタップすると、全トラックのミックスが手元でできるので、ミックスだけを楽しむという遊び方もできる。ただし、人が作ったトラックに対してエフェクトをかけることはできないようだ。エフェクトをかけられるのはあくまでも自分のレコーディングしたトラックのみ、ということのようだ。

高音質で録音。有料版のメリットはこれから?

 ところで、ここでちょっと気になるのが、このトラックの音質。実際にアップロードされている作品を聴いてみると、なかなか高音質で録音されているようだが、それがどんなオーディオファイル形式なのかは公開されていない。ただFAQを見てみると、「5分間の楽曲1トラックあたり約5MBです。8トラック録音されているソングの場合は約40MBです」また「5分間の楽曲をストリーミング再生した場合、約5MBです」ともあるので、ダウンロードの場合でもストリーミングの場合でも1分で約1MB。これは、だいたい128kbpsがそれに相当するので、MP3やAACなどの圧縮フォーマットが使われていることが想像できる。これのアップロード、ダウンロードを行なうのだから、それなりの時間がかかるわけだ。

 なお、Jam Studioでの推奨はiPhone/iPad内蔵のマイク。「他社製インターフェース機器接続時の動作は保証しておりません」とはあるが、もちろん各種オーディオインターフェイスを利用することは可能で、そのほうがより高音質でレコーディングできるし、各種マイクやギターなども接続した使い方も可能になるわけだ。

 ところで、先ほど有料のスタンダードプランにすることでコンプレッサとEQが使えるようになることを紹介したが、スタンダードプランでは、ほかにもグループ機能というものが使えるようになる。仲間でグループを作り、複数メンバーでソングの作成、編集をするという機能。これはコラボレーション機能と異なり、ほかのメンバーが作成したトラックに対してもエフェクトをかけるなどの編集が可能になるとのこと。これを使ってネット上でのバンド活動といったこともできそうだ。

スタンダードプランで使えるグループ機能

 Jam Studioは、nanaやMelocyと比較すると、マルチトラックである分、かなり用途は広がりそうだ。またBandLabほど高機能、多機能ではないので、あまりDAWやMTR経験がない人でも使えそうというのが大きなメリットだろう。ただし、コンプとEQ、それにグループ機能だけのために月額580円を払う人がいるだろうかというと、なかなか難しそうな気もする。

フリープランとスタンダードプランの違い

 もっとも6カ月間は無料で使えるので、まずは試してみて、半年後にどうするか判断してもいいかもしれない。また、スタンダードプランには、今後いろいろな機能が追加されるという。その内容についてはまだ公開されておらず、追加時に発表するとのことだった。サービススタートから半年後の4月末ごろまでには、さらにいろいろな機能が追加される可能性は高そうだ。今後のJam Studioの進化についてもチェックしていきたい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto