藤本健のDigital Audio Laboratory
第753回
「NAMM Show」初参加。付け替えできるUSB-MIDI機器、注目アナログシンセやDAWを見た
2018年1月30日 08:00
世界最大の楽器の展示会「NAMM Show」。毎年行ってみたいなと思いながら、なんとなく機会がないまま30年近くが経過した。このまま行くことはないのかなと思ってもいたのだが、今年とある事情で急に行くことが決まり、初めて参加してきた。取材というよりも、初めてのNAMM見学という感じだったが、いろいろと楽しめたので、初めて行った感想を交えながら、レポートしたい。
ディズニーランド近くの展示会場に2,000以上の出展
毎年1月に、カリフォルニア州ロサンゼルスの隣の市、アナハイムのコンベンションセンターで開催されているNAMM Show。メインとなる冬のWinter NAMMと、アメリカ各地で行なわれる夏のSummer NAMMがあり、Winter NAMMは世界最大規模だ。今年の日程は1月25日~28日の4日間。今年は計2,193社(団体)が出展しており、来場者数は4日で10万人程度とすごい規模だ。
筆者は前日の昼に会場近くのホテルに到着。「コンベンションセンターはディズニーランドの近くで、ホテルもディズニーランドに近い」とは聞いていたが、実際到着するとそこはディズニーランド正門の正面。宿泊客の8割以上がディズニーランドに行く子供連れのファミリーというのもなかなか不思議な感じだった。
ホテルから見て右がディズニーランド、左がディズニー・アドベンチャー・パークと2つのテーマパークに分かれている。コンベンションセンターへはアドベンチャー・パーク沿いに南へ15分程度歩いていく。やや大回りする形で会場に到着すると、よく写真で見かけるNAMM Showの建物があったが、ここがコンベンションセンターの正面。実は、今年完成したノースホールという北側から入ったほうが近道ということで、そちらへ回ってみると、なんとディズニーとは道路を隔てて隣り合っていて、会場からはアトラクション施設が間近に見えてしまうというところだった。
前日の下見で、会場の端から端まで歩いてみたところ15分程度。日本の幕張メッセと比較すると、確かに大きい印象ではあったものの、倍はないだろうという規模。その程度なら4日あれば、余裕で全部を見て回れるだろう…なんて思ったのだった。
しかし、翌日、改めて会場に入ってみて絶句。奥行きもものすごくあるとともに、1階と2階の会場があり、ここにブースがギッチリと並んでいるのだ。午前中に、いろいろなブースを見て回ろうとチェックしていったのだが、会場の広さに圧倒されたこともあり、数件で終了。4日間では絶対に回り切れない規模であることをようやく認識したのだった。
実は渡米の数日前に目が腫れて、眼科に掛かったところ結膜炎であることが判明していた。目薬はもらったものの、完治には2週間程度かかると言われ、3種類の点眼薬を差しながらも、会場到着時にはどんどん悪化して左目が完全にアウト。右目もどんどん霞んで見えづらくなる状況で、混雑する会場を見て回るのは至難の業だった。さらに悪化していくことはほぼ確実だったため、今回は超スローペースで、まさに見学という感じだった。そのため筆者がたどり着いたいくつかのポイントにおける、気になったブースの内容を紹介したい。
USB-MIDIデバイスやオーディオインターフェイスの注目は?
個人的に面白かったのは、アメリカの「sensel」という製品とフランスの「JOUE」という製品。偶然なのかもしれないが、いずれもソックリなコンセプトのUSB-MIDIデバイスとなっている。A5程度の大きさののっぺらぼうの板があり、これがPCとUSB接続できるようになっている。
そして、この上にゴム板のようなものを載せて使うのだが、そのゴム板の種類によって、動作が異なるようになっている。たとえば鍵盤型のものを載せると、USB-MIDIキーボードとして使えるようになり、ドラムパッド型のものを載せると、ドラムになり、コントローラー型のものを載せるとUSB-MIDIコントローラになるといった具合なのだ。いずれも載せるだけで、瞬時に認識して機能が切り替わるというデバイスだった。
両者の機能的な違いとして、JOUEのほうはゴム板の中にメモリが入っているとのことで、ここに音色番号なども記録できるようになっている。また、ギター型やX-Yパッド型のゴム板など計8種類が用意されており、senselよりも高機能という印象を受けたが、こちらはクラウドファンディングを成功させたところで、まだ発売時期/価格などは確定していない。一方、senselのほうはすでに発売されており、本体が249ドル、各ゴム板が35ドルとのことだったので、JOUEのクラウドファンディング価格よりもだいぶ安い設定になっているようだった。
オーディオインターフェイスも各社、いろいろな新製品が出ていたので簡単に紹介していこう。今回のNAMMでの目玉ともいえるのはUniversal Audioの「Arrow」。NAMM直前に国内価格58,000円で発売されたArrowは、Thunderbolt 3接続の2in/4outのオーディオインターフェイス。最大のポイントは内部にDSPが入っており、UAD-2という同社のプラグイン群が使えるのと同時に、2つの入力においてUnisonテクノロジーというプラグイン的なものが独立して2つ使えるという点。これまで近いコンセプトの製品としてapollo twinというシリーズを出していたが、それらよりかなり安い価格設定でエントリーユーザーにも間口を広げた格好だ。
同じくDSPを内蔵したオーディオインターフェイスとして登場したのが、ブルガリアのAntelope Audioの「Discrete 4」と「Discrete 8」という製品。その名の通り、内部のアナログ回路をディスクリート回路で構成しているのが特徴で、高品位なオーディオ性能を実現している。DSP、より正確にはFPGAを用いたシステムを用いることで、ビンテージアナログモデリング系のEQやダイナミクス系のプラグインが利用できるほか、Overloudと共同開発によるギターアンプシミュレーターなどをリアルタイムでほぼレイテンシーゼロで利用できる。
Discrete 4が4in/4out、Discrete 8が8in/8outとなっており、いずれも日本での発売は2月20日を予定。価格は20種類のEQと50種類のエフェクトが使えるBASICモデルが110,000円と160,000円、また全チャンネルでFXが利用可能なPremium モデルが170,000円、240,000円となっている。
PreSonusが発表したのは、最大192kHzで最大18in/10outのUSB 2.0オーディオインターフェイス「Studio 18|10」と最大18in/24outの「Studio 18|24」。すでにStudioシリーズとしてStudio 2|6、Studio 6|8があったが、その上位モデルとなる。DSPは搭載されていないが、価格は399ドル、499ドルと入出力数の割りに手ごろであるため、多チャンネルを求めるユーザーにとっては嬉しい選択肢の一つになりそうだ。
FocusriteもClarette Pre USBシリーズを3製品発表していた。同社ではこれまでハイエンドのマイクプリを内蔵したオーディオインターフェイスとしてFireWire接続のClarette Preシリーズを出していたが、今回のものはUSB Type-Cでの接続というもの。
もっとも接続先はUSB 3.1やThunderboltではなく、USB 2.0。2マイクプリ内蔵で、10in/4outのClarette Pre2 USB、4マイクプリで18in/8outのClarette Pro4 USB、8マイクプリで18in/20outのClarette Pre8 USBの3機種。日本での発売時期や価格は不明だが、アメリカ価格はそれぞれ399ドル、599ドル、799ドルとのことだった。
RMEも新製品を発表。ADI-2 DACという製品だ。いま、PCオーディオファンの間で人気の高いADI-2 Proの低価格版なのだが、その名のとおり、ADI-2 ProのDAC機能のみに絞ったモデル。つまりADI-2 ProでのPCM 768kHz、DSD 11.2MHz対応での再生という機能、性能はそのまま残しつつ、ADC、つまり録音機能を省くことで安くしたという製品なのだ。こちらの日本での発売時期、価格については未定だが、アメリカでの価格は999ドルとなっているので、ADI-2 Proと比較するとかなり安くなりそうだ。
各社DAWの最新バージョンが登場
DAWのほうは、それほど大きな発表があったわけではないが、ひとつはAbleton Liveの新バージョン「Live 10」が発表された。録音していない状態で弾いたMIDI情報も裏で記録しており、キャプチャボタンを押すことで、テンポ情報も検出した上でループ素材化してくれるのが特徴。またWavetableという非常にユニークなシンセサイザやechoという質の高いディレイ系エフェクトなどが搭載されている。
FL STUDIOからは、現在の「FL STUDIO 12」を機能強化し、3~4月ごろをメドに新バージョンが登場する。今回は13という名前は見送られて一気に「FL STUDIO 20」となる模様だ。使い勝手などが大幅に強化されるようだが、最大のポイントはこれまでWindows専用だったFLがMacにも対応するということ。とくに海外ではEDM用のDAWとして圧倒的な人気を誇るFL、「ライフタイム・フリーアップグレード」というバージョンアップが将来ずっと無料というユニークなセールスを行なっているFLだが、Mac版の登場でどう広がっていくかは気になるところだ。
BITWIG STUDIOも2.3という新バージョンを発表し、2月にリリースする。今回はPhase-4という位相変調と位相歪みを利用した4オシレータシンセサイザの搭載、またタイムストレッチエンジンとしてzplaneの elastiqueアルゴリズムを取り入れたのが大きなポイント。これによって、音質劣化のない高品位なタイムストレッチができる一方、思い切り低品位なタイムストレッチができるのも面白いところ。これによって大昔のAKAIのMPCでのタイムストレッチ的なサウンドを作りだすことができるのだ。
なお、BITWIG STUDIO 2.3へのアップグレードはBITWIGのライセンス制度により12ヶ月以内に購入した人もしくは12ヶ月以内にライセンス更新した人は入手できるという仕組みになっている。すでにライセンスが切れている場合は、必要な時点でライセンスを更新することで入手可能になる。
またPro Toolsもこれまでの12から13を避けて「Pro Tools 2018」を発表した。今回のバージョンでは、さらにMIDI編集機能が強化されたり、MIDIさかのぼりレコードという機能によって、録音ボタンを押していない状況でも、再生したプロジェクトに合わせて弾いた演奏を覚えてくれるようになった。これはLive 10ともちょっと近い機能だ。また任意のエフェクト・チェーンやインストゥルメント・サウンドをプリセット化できるトラック・プリセットなどの機能が追加されている。
今年も熱いアナログシンセなど、様々な展示
シンセサイザにおいては今年もアナログシンセの勢いを感じた。数多くのモジュラーシンセのブースが出展して膨大な製品を展示していたのは、チェックし切れそうにないので諦めたが、かなり盛り上がっている様子だった。一方、大手メーカーとしては日本のKORGから「Prologue-8」、「Prologue-16」というポリフォニックのシンセサイザが発表された。
Prologue-8は49鍵・8音ポリで170,000円、Prologue-16は61鍵・16音ポリでアナログコンプ搭載で220,000円という価格設定。従来製品であるmonologue、minilogueをベースに、回路構成なども大きく見直すとともに、3つ目のオシレーターとしてデジタル的に合成可能なユーザー・オシレーターを搭載しているのも大きな特徴となっている。
フランスのArturiaは人気のアナログシンセ、MiniBruteの新モデル「MiniBrute2」および「MiniBrute2S」を発表している。MiniBrute2は従来のMiniBruteをベースに、パッチングで自由な構成での音作りができるようにしたシンセサイザだ。
計48個のパッチベイが搭載されており、自由度の高い音作りが可能だ。またMiniBrute2SはMiniBrute2の鍵盤をなくし、シーケンサーとパッドを搭載したというモデル。シーケンサーは3トラックで64ステップ。パッドは16段階のベロシティーに対応し、キーボード的に使うこともできる。なお、ArturiaではMiniBrute2およびMiniBrute2Sの発売に合わせて「RackBrute」という製品も発表した。これはユーロラックケースでMiniBrute2やMiniBrute2Sに固定接続できる製品となっている。
Native Instrumentsは、これまでKOMPLETE KONTROLというシステムを出しており、それに対応させるためのNKSというプロトコルを提供している。これにより、同社のUSB-MIDIキーボードであるKOMPLETE KONTROL-Sや、ドラムマシン的なコントローラであるMASCHINEで、さまざまなソフトウェア音源を操作できるようになっている。この際、PCの画面を見なくても、これらハードウェアのディスプレイだけでほぼすべての操作が可能というのが大きな特徴だが、このNKSがエフェクトにも対応することになった。
実際のリリースは4月以降になるとのことだが、これまでエフェクトを使うには、DAW上でKOMPLETE KONTROLを動かし、DAWにプラグインエフェクトを挿して使う必要があったが、これによって、DAWなしでも簡潔できるようになった。現在、サードパーティーでNKS対応を表明しているのが、Eventide、Softube、Sugarbytes、Wavesの4社。今後さらに増えていく可能性が高そうだ。
イタリアIK MultimediaはオーディオMIDIインターフェース機能付きのペダルボード・コントローラ「iRig Stomp I/O」を発表した。これは、主にギター用として使うフット・スイッチ、エクスプレッション・ペダルに、オーディオ・インターフェース機能を統合した製品。ここに直接iPad、iPhoneを装着することで、統合的なギターマルチエフェクト環境を構築するというもの。オーディオ・インターフェース部は96kHz/24bitに対応、XLRと1/4インチ標準のコンボ端子と48Vファンタム電源を装備し、ギター/ベースだけでなくコンデンサー・マイクを直接接続することも可能となっている。発売は3月の予定で実売価格が39,000円前後になる見込みだ。
「AmpliTube/T-RackS Leslie」というソフトウェアもIKから発表された。これはハモンドUSA、鈴木楽器製作所が協力して開発されたレスリースピーカー(ロータリースピーカー)のエミュレータ。これは同社のAmpliTubeおよびT-RackS上で動作する拡張機能とだが、ロータリー・スピーカーの回転、マイクの位置を自由に調整できるのが特徴。このエミュレーションをすべて物理モデリングだけで行なっていると、なかなか音質的な再現性が難しいことから、IRを用いた空間シミュレーションと組み合わせているのだとか。これにより鈴木楽器なども本物だ、と表現する出来に仕上がっているという。
最後に紹介するのは、日本のズームの小さなリニアPCMレコーダ「F1」。79.8×64×33.3mm(縦×横×厚さ)で120g(電池除く)という小さなデバイスで単4電池2本で駆動。microSDカードに最大96kHz/24bitのサウンドを記録できる。本体にマイクは搭載されていない代わりにラビリアマイク(ピンマイク)が付属するF1-LPとショットガンマイクが付属するF1-SPの2種類が発売される。
このショットガンマイクは同社のH5、H6などと互換性のあるコネクタとなっているので、MSマイクやXYマイクなどの取り付けも可能となっている。発売は2月の予定なので、入手したらぜひチェックしてみたいと思っている。
以上、NAMM Show 2018で見つけた製品をいくつかピックアップして並べてみた。出展者数が2,198もあることを考えると、全体の1%も取り上げられていない計算になるが、なんとなくNAMMの雰囲気を味わっていただければ幸いだ。なお、次回はちょっと違った角度からNAMM Show 2018を取り上げる予定だ。