藤本健のDigital Audio Laboratory

第797回

ソニーの本格PCMレコーダ「PCM-D10」で録れる音。XLR/TRS装備のプロ仕様

ソニーからリニアPCMレコーダーの新機種「PCM-D10」が1月に発売された。可動式のマイクを内蔵する一方、2系統のXLR/TRS入力も備えるレコーダーで、最高で192kHz/24bitのレコーディングが行なえるのが特徴。先日紹介したPCM-A10と比較すると、かなり大きなサイズで実売価格は5万円前後。実際に試してみたので、どんな音で録れるのかなどを紹介していこう。

PCM-D10

プロ向けの本格機能搭載。3ポジションの可動マイクも

ソニーはリニアPCMレコーダーの現行機種として、'18年10月に発売したスリムな「PCM-A10」や、2009年発売「PCM-M10」、そして最上位「PCM-D100」があるが、それに追加される形で今回のPCM-D10が発売された。型番や価格設定から見て、5年前に発売されたPCM-D100の下位モデルという位置づけだとわかるが、その製品コンセプトなどはちょっと異なるようだ。PCM-D100の最大の特徴ともいえるDSDには対応していない一方、外部マイクに接続できるコンボジャックを装備しており、業務用としても利用可能な機材であることを前面に打ち出した製品となっている。

XLR/TRS入力のコンボジャックを装備
ソニーのコンデンサーマイク「ECM-100U」2本をXLR端子で接続した例

TASCAMでいえばDR-100MKIIIやDR-44WL、RolandならR-26といったものが競合になる製品といえそうだ。R-26はすでに販売終了となってしまっているが、PCM-D10、DR-44WL、R-26を並べてみるとサイズに違いがある。

左からローランドR-26、ソニーPCM-D10、TASCAMのDR-44WL

いずれもリニアPCMレコーダーとしては大きなサイズになるが、iPhone XSと比較してみると、もう少し大きさの雰囲気を実感できるかもしれない。XLRの入力端子を2つ備えるという時点で、必然的に大きなサイズになってしまうわけだが、そのぶんアナログ回路構成スペースなどに余裕ができ、しっかりとしたオーディオ製品にできるのが魅力ともいえる。

iPhone XSと比較

単3電池4本で駆動し、192kHz/24bitであれば、約26時間レコーディングしつづけられるというスタミナがある。ただその分、重さとしてはバッテリー込みで約480gと結構あって、持つとずっしりとくる印象だ。

単3電池4本で駆動

特徴的なのは標準搭載のマイク部分が可動式となっているという点。2つのマイクを向かい合わせるX-Yポジションで利用するのが一番標準的な使い方だと思うが、平行に向けて正面位置をしっかりとらえるズームポジション、そして外側に向けるワイドステレオポジションと3種類の使い方ができ、シチュエーションによって使い分けることが可能になっている。

X-Yポジション
ズームポジション
ワイドステレオポジション

この内蔵マイクを使うか、外部入力を使うかはフロントのINPUT切り替えスイッチで変更でき、外部入力の場合、マイク入力かライン入力か、また+48Vのファンタム電源供給するかは左右独立して設定できるようになっている。

前面操作ボタン

操作は大きなモノクロ液晶ディスプレイを見ながら行なう形で、一番重要な入力レベル調整は、PCM-D100などと同様、液晶ディスプレイ右側に位置する左右チャンネル独立設定可能なアナログ録音レベルダイヤルを使って行なう。無段階のボリュームなので、録音時にレベルをいじっても、マイクにカタカタという音が入ったりしないのは嬉しいところだ。

側面のレベルダイヤル
左右個別の調整も可能

入力レベルのインジケーターは液晶ディスプレイに表示される一方で、その上に-20dB、-12dB、Overを緑、黄、赤で表示するLEDが左右独立して搭載されているのも、とても見やすいところだ。もちろん、こうした入力音は、ヘッドフォン端子からそのままモニターできるようになっている。

ディスプレイでレベルメーター表示
LEDのインジケーターも
入力音声はヘッドフォン端子からモニターできる

一方、録音フォーマットは前述の通り、最高でPCM 192kHz/24bitまで対応しているが、それ以外にも176.4kHz、96kHz、88.2kHz、48kHz、44.1kHzの16bitと24bitが選べるほか、MP3も320kbpsと128kbpsに対応しており、メニューで選べるようになっている。

PCMの録音品質選択
MP3にも対応

そのほか録音関連の設定としてはLow Cut、リミッターがあるほか、高S/Nモードというものが用意されているのもちょっとユニークな点だ。これはデジタルリミッターで使われているADコンバーターの仕組みを応用し、アナログ信号をデジタル信号に変換する際の機器内部のノイズを低減させるというもの。小さい音の録音時に、ノイズの中に埋もれてしまう部分の録音データを差し替えることで、記録されるノイズを低減し、微小な音もクリアに録音する、とのこと。

Low Cut
リミッター
高S/Nモードも用意

PCM-A10などとも同様に、iPhoneやAndroidのアプリ、REC RemoteとBluetooth接続して、リモート操作することもできるようになっている。

スマホからのリモート操作が可能

ところでPCM-D10には16GBのメモリーが搭載されているので、そのままレコーディングすることができるほか、SDカードも入れられるようになっており、録音容量を拡大することが可能。またその際、内蔵メモリーがいっぱいになったら、スムーズにつないでSDカードに録音できるようにするためのクロスメモリー録音という設定も用意されている。

原音をしっかり捉える性能。Sound Forgeもバンドル

さて、さっそくこのPCM-D10をチェックするため、まずは野鳥の鳴き声を録るために野外に出てみた。やはりマイクの感度が非常に高いためか、風の吹かれには弱いようで、微風であっても外で使うためには付属ウインドスクリーンを被せるのは必須。その状態で96kHz/24bit、マイクはX-Yポジションで録音してみたのがこちらだ。5mほどある木の下でPCM-D10を上に向けて録音したものだが、この木の中に10羽程度のスズメがさえずっているほか、この木とは別のところ、右側にいるヒヨが鳴いている雰囲気をリアルに捉えているのが分かるだろう。

ウインドスクリーン装着時

【録音サンプル】
野鳥の声(48kHz/24bit)
pcmd10_bird2496.wav(17.29MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

そのまま線路沿いに行って、同じモードで電車が通過するのを捉えたのがこちら。右の方向、約100mの位置にある踏切が鳴っている中、右から左へと電車が通過する様子を克明に捉えている。左右だけでなく、奥行きもしっかりと感じられる立体感が得られている。

【録音サンプル】
電車の通過する踏切の音(48kHz/24bit)
pcmd10_train2496.wav(16.89MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

そしてもう一つも、いつものようにCDを再生したものをPCM-D10でレコーディングしてみた。こちらもまずは96kHz/24bitでレコーディングした後に、ほかと比較しやすいように最大値が0dBになるようにノーマライズした上で44.1kHz/16bitに変換した。また、48kHz/24bitで波形分析した。

【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(44.1kHz/16bitにダウンサンプリング)
pcmd10_music1644.wav(6.96MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

波形分析結果

これまで数多くのリニアPCMレコーダーで同様の実験をしてきたが、やはりソニーとしての音作りというものがあるのだろう。音を聴いても、波形を見てもPCM-D100やPCM-A10と似た雰囲気ではある。ただ、細かく見ていくとPCM-D100に比べて8kHzあたりが膨らんでいるように見受けられるほか、18kHz以上の高域での下がり方がより自然な感じになっている。もちろん、この辺は好みの問題なので、どちらがいい、悪いというものではないと思うが、原音を非常にキレイに捉えているという点では間違いなさそうだ。

なお、このPCM-D10にはバンドルソフトとして、独MAGIXのSound Forge Audio Studio 12(ソースネクストで購入した場合の標準価格は5,980円)が付いてくる。PCM-D100発売の頃はSONY Creative Softwareによる波形編集ソフトであり、同じソニーグループの製品だった。しかし4年前にSound Forgeを含む各種PCソフトをMAGIXに売却してしまったため、現在はグループ内というわけではないが、今も引き続きライセンス契約は保っているようだ。

Sound Forge Audio Studio 12

Sound Forge Audio Studio 12は以前に紹介したSound Forge Pro 12の機能限定版ではあるが、PCM-D10が扱える192kHz/24bitはもちろん、384kHz/32bitまで扱える波形編集ソフトなので、PCM-D10のレコーディングデータの編集ソフトとしては十分すぎる機能を持ったもの。VSTプラグインにも対応しているので、拡張も自在であり、PCM-D10と組み合わせたさまざまな活用が考えられそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto