藤本健のDigital Audio Laboratory

第972回

“音が割れない”32bit floatレコーダの弟機「Portacapture X6」を試す

Portacapture X6

ティアックから、TASCAMブランドの6トラックポータブルレコーダー「Portacapture X6」(約54,780円)が登場した。32bit float対応のレコーダーで、44.1kHz~96kHzまでのサンプリングレートをサポートした。2021年11月発売「Portacapture X8」の下位モデルという位置づけで、X8よりコンパクトになったのも特徴。今回は、2月11日に発売したばかりのX6を紹介しよう。

32bit floatレコーダ「Portacapture X6」とは

“爆音”を入れても破綻することなくレコーディング可能ということで、注目が集まってる32bit float対応のレコーダー。

ZOOMとTASCAMの2社が張り合っている格好だが、今回TASCAMが出したPortacapture X6は、コンパクトながら最大6トラック=4トラック+2ミックスの録音を可能にしたもの。2つのコンデンサマイクを搭載するほか、2系統のXLR入力、ステレオミニジャック入力(マイク/ライン)も装備した。

左側面には、2系統のXLR入力、ステレオミニジャック入力(マイク/ライン)を備える

上位機種のPortacapture X8と並べてみると、デザイン的にはとてもよく似ている。X8と比較して液晶ディスプレイ部分が小さくなっているが、X6もタッチパネル型のディスプレイになっているため、直感的な操作ができるのも特徴。

また、左右にコンボジャック×2の計4つを装備していたX8に対し、X6はXLR入力が2つのみとなっているのも小型化を実現できているポイントだろう。両端子とも+48または+24Vのファンタム電源供給も可能。ちなみにコンボジャックではなくXLR入力なので、標準のフォンプラグは接続できない。

X6とX8(右)のサイズ比較

録音するメディアはmicroSD。カードは本体右サイドに挿入する形だ。ここに最高で32bit float/96kHzで6トラックの同時記録ができるようになっている。

右側面
カードは本体右サイドに挿入する

本体装備のマイクはエレクトレットコンデンサマイク。2つとも、回転させることで、A-B方式とTrue X-Y方式の切り替えが可能となっている。

マイクは回転可能
A-B方式とTrue X-Y方式の切り替えが可能

ただ、X8はマイクの取り外しが可能になっていたというか、2つのマイクが取付部品としてパッケージに収納されていたのに対し、X6のほうは取り外しはできず、回転するのみとなっている。

それぞれのマイクユニットを並べて比べてみると、形状も大きさも若干異なるのが分かるだろう。要は、X8のほうが若干大きく作られている。これが音にどのような違いをもたらすのか、後ほど実際に録音して検証してみたいと思う。

リアに単3電池×4本を入れる電源の仕様は、X8と同様。標準搭載のマイクのみで、24bit/44.1kHzで録音する場合は、アルカリ電池で約13時間30分、ニッケル水素電池で約11時間使うことが可能、XLR入力にコンデンサマイクを接続し、+48Vのファンタム電源供給した場合は、アルカリ電池でもニッケル水素電池でも約5時間のスタミナとのこと。

単3電池×4本で駆動

使い方自体は非常に簡単。電源を入れると、9つのアイコンを選択できるランチャーが表示される。具体的には、音楽録音用の「MUSIC」、ボイス録音用の「VOICE」、繊細な音をとらえる「ASMR」、野外録音用の「FIELD」、音声番組制作用の「PODCAST」、マニュアルレコーディング用の「MANUAL」、それにSDカードリーダー、ブラウズのそれぞれだ。

アイコンが並んだランチャー

野鳥の鳴き声などを録ってみたいので、通常であればFIELDを選ぶべきところだが、なるべく色付けされたりしないようにするため、そして全体を理解するためにも、今回はMANUALを選択した。

すると6トラックのフェーダーが登場する。デフォルトでは左2つが本体搭載のマイク、中央がXLR入力のLとR、そして右はそれら4chを2ミックスしたLとRだ。

MANUAL選択時のフェーダー

左サイドにあるヘッドフォン端子にヘッドフォンを接続してみると、この状態で入ってきた音がそのままモニタリングされている。ヘッドフォン端子の隣にあるVOLUMEを使って出力音量も調整可能。RECボタンを押せば、即録音できるのだが、もちろん、その前に準備していくべきことがいくつかある。まずはフォーマットの設定から。

ここでいったんMENUボタンを押すと、さきほどのランチャーとは別に8つのアイコンが表示される。

ここにある録音設定をタップすると、各種設定ができるようになっている。デフォルトの録音形式はWAVとなっているがMP3の選択も可能だ。サンプリング周波数は44.1kHz、48kHz、96kHzから選び、量子化ビット数は16bit、24bit、32bit floatから選ぶ形になる。

各種設定は“録音設定”から
サンプリング周波数は44.1kHz、48kHz、96kHzの2択
量子化ビット数は16bit、24bit、32bit floatの3択

そのほか、入力音量がある一定レベルを超えたら自動的に録音を開始する設定、録音ボタンを押す前から録音をしておくプリ録音機能ON/OFF、さらにデュアルフォーマットといったものもある。

このデュアルフォーマットは、2種類のフォーマットで同時に録音しておくもの。基本設定をWAVで録りながら、同時にMP3で録音するといったことが可能なので、何か事故ったときの保険として機能してくれるわけだ。

デュアルフォーマットの設定

外部マイク接続するような場合は、一般設定の入出力設定から、ファンタムの設定やステレオミニのマイク入力にプラグインパワーを使うかといった設定も行なえる。またここにはリバーブも内蔵されていて、本体搭載マイクに対してもリバーブをかけての録音も可能になっていた。

トラック1-2、トラック3-4に何を録音するのかの設定を変更することも可能。デフォルトではトラック1-2に、本体搭載のエレクトレットコンデンサマイクの音が録音され、トラック3-4に、XLR入力の2つが割り当てられている(変更可能)。

以上のように様々な設定が可能だが、通常は録音フォーマットさえ設定してしまえば、OK。

32bit floatであれば、とくに録音用のマイク入力ゲインの設定すらしなくていいのだが、入力タブをタップすると出てくる入力ゲイン設定の画面で調整しておけば、モニタもしやすくなる。タッチディスプレイでの調整も可能だが、赤い大きなホイールを使うことで、細かく調整していくこともできる。

入力ゲイン設定の画面
フロントの赤いホイールでもゲイン調整できる

音の傾向が異なるX8とX6。X6はシャキっとしたサウンドに

ほかのリニアPCMレコーダーとの音質比較の意味も込めて、96kHz/24bitに設定した上で、近所を散策しながら録音してみた。

【録音サンプル】
PortacaptureX6_birds_2496.wav(28.13MB) 29,491,228Byte
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

聴いてみると雰囲気が伝わると思うが、これは細い路地の道端で立ち止まって、生垣の外側からヒヨドリの鳴き声を捉えたものだ。近くにいる鳥と、少し離れたところにいる鳥が会話するかのように鳴いているが、実際には近くにいるほうでも15m程度は離れていて、目視はできていない。

左側から聴こえてくるのは少年野球リーグの練習の音。すぐそばのようにも聴こえるが、実際には150mほど離れたところにある小学校のグラウンドからの音を捉えたものだ。また録音中、後ろ側を人が右から左へと歩いていく雰囲気もよくわかるだろう。

自然の中で捉えた野鳥の鳴き声……というのとはちょっと違うけれど、日常のリアルな感じが、クッキリと切り出されているのが体験できるのではないだろうか。

なお、結構風のある日だったので、そのままの状態だと、マイクに風が当たってしまい、ノイズが酷くなってしまう。いくら“32bit floatで録って音割れしない”とはいえ、ノイズが入ってしまうのはいただけない。

そうしたことを避けるため、オプションでウィンドスクリーンが販売されているが、あいにくそちらは手元になかったので、手元にあったRoland「R-26」用のウィンドスクリーンを被せたらぴったりマッチした。

Roland「R-26」用のウィンドスクリーンを使った

次に、線路わきで電車が通過する音を録音してみた。目の前を電車が通るので、こちらは32bit floatに設定しているが、実際にはあとで編集しなくても問題ない音量で収まってくれていた。

【録音サンプル】
PortacaptureX6_train32f96.wav(23.18MB) 24,302,480Byte
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

そして、スピーカーからのCD再生音を96kHz/24bitで録音してみたのが、以下のデータ。これまでの連載記事の実験との比較のため、これは編集ソフトで48kHz/24bitに変換している。

【録音サンプル】
PortacaptureX6_music_2496.wav(22.67MB) 23,766,456Byte
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

かなり高解像度に音を捉えているのが分かると思うが、気になるのはPortacapture X8でとの違い。以下は以前録音したX8のもの。

【録音サンプル】
PortacaptureX8_music_2448.wav(11.29MB) 11,842,262Byte
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

聴き比べてみると、かなり違う。X8のほうが落ち着いた音で、X6のほうが高域が強い感じだ。ここでefu氏が以前配布していたフリーウェア、WaveSpectraを使って、それぞれの周波数分析をしてみた。

Portacapture X6の場合
Portacapture X8の場合

高域だけに着目すると、X8のほうが上がっている印象だが、8~12kHzあたりのカーブが結構違うのが音質の違いを現しているのかもしれない。試しにSound Forge Pro 16のスペクトル分析も行なった。

Portacapture X6の場合
Portacapture X8の場合

色の濃淡など若干の差はあるが、おそらくこれは、波形生成した際の音圧の微妙な違いであり、音質的な違いまではあまり見えてこない。どちらの音が好きかは人によって違いそうだが、個人的にはX6のシャキっとしたサウンドは気にいった。

もう一つ気になったのがX6をPCとUSB接続すると、オーディオインターフェイスになるという点。

Windowsに接続してみると、ドライバなしですぐに使うことができ、最大96kHz/24bit、6チャンネル録音まで対応していた。ただし、現時点では32bit floatには対応していない。これについては今年の春にTASCAMがドライバをリリースするとのことなので、期待したいところだ。

PCと組み合わせると、オーディオインターフェイスとして使用できる
最大96kHz/24bit、6チャンネル録音まで対応

以上、上位機種のX8と比較しつつ、最新モデルのX6について検証したが、いかがだっただろうか? 今回32bit floatのメリットなどについてはあまり触れなかったので、その辺は以前の記事を参考にしていただきたい。

外部マイク入力は2chあれば十分という人にとっては、よりコンパクトで扱いやすい機種といえそうだ。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto