藤本健のDigital Audio Laboratory

第770回

長年愛用のソフトが進化「Sound Forge Pro 12」。強力ノイズ除去、DSDやVST3対応

 波形編集ソフトとして知られるSound Forgeの新バージョン「Sound Forge Pro 12」がドイツのMAGIXからリリースされ、国内ではソースネクストから発売された。ダウンロード版の価格が42,693円と、ソースネクストとしては高額な製品という印象もあったが、実際どんな製品で、新バージョンはどのように強化されたのか試してみた。

Sound Forge Pro 12

64bitやDSD対応など進化

 この連載「Digital Audio Laboratory」では、オーディオ波形を扱って実験を行なうことが多い。その際に多用しているツールが、このSound Forgeだ。今回バージョン12となったが、筆者はWindows 3.1時代、Sound Forgeがバージョン3.0の頃から20年以上愛用しているツール。極論すると筆者の仕事はテキストエディタの秀丸と、画像ソフトのPaint Shop Pro、ブラウザであるChromeと、このSound Forgeさえあればなんとかなると思っているくらい、非常に重要で、かつ日常的に使っているソフトだ。

懐かしのSound Forge バージョン3.0

 このSound Forgeは20年以上の間に、事業譲渡が2回行なわれ、MAGIXは3社目。もともとは米Sonic Foundryが開発したソフトウェアだったが、2009年に米Sony Creative Softwareに譲渡され、さらに2016年に海を渡ってMAGIXとなったのだ。ご存知の方もいると思うがMAGIXはSamplitudeというDAWや、前回の記事であるビリー・ジョエルの「ニューヨーク 52番街」のマスタリングにも使われていたSequoiaの開発元。SamplitudeもWindows 3.1時代からあるソフトであり、もともとハードディスクレコーディングソフトとして誕生したものだったから、当時はまさにSound Forgeの競合であった。現在はそれぞれ違う方向のソフトへと進化していったが、それでもMAGIXに買収されたとき「これでSound Forgeも終わってしまうのでは……」と心配したが、今回新バージョンが出たことで安心した。

 そのSound Forge Pro 12、個人的に期待していたのが、ようやく64bitソフトになったこと。もちろん、現在のWindowsにおいて、32bitソフトも64bitソフトもほとんど違いなく動いてはいるけれど、プラグインも32bitが廃れていく中、やはり64bit対応になってくれるのが安心。Windows 10にインストールしてみたところ、まったく問題なく、スルッとインストールされ、起動できた。

64bit対応になった
Sound Forge Pro 12の画面

 実は筆者は前バージョンのSound Forge Pro 11がどうも好きになれず、その前のSound Forge Pro 10を使ってきたのだが、新しい12の画面は10とほとんど変わっておらず、その点ではホッとしたところ。Sound Forge Pro 11リリース前にMac版のSound Forge Pro Macというのが出ており、これとUIや機能を合わせた感じがしていて好きになれなかったのだ。今回は、それが少し元に戻った印象。

Sound Forge Pro 10の画面

 ただ、録音ボタンを押したときに登場する「録音ダイアログ」がないのは、Sound Forge Pro 11と同様で好きではないが、録音オプション・ダイアログと、録音アームを活用することで、ある程度代用できることが分かったので、これに慣れればいいのかなと思っている。

録音オプションなどを活用

 では、Sound Forge Pro 12になって、どんな機能強化が図られたのか? まず1つ目に挙げるのがDSDのインポート、エクスポート機能。正直なところ、DSDを海外メーカーがサポートしたのは想定外。あくまでもインポートとエクスポートであって、基本はあくまでもPCM。ネイティブ再生ができるわけではないので、過剰な期待は禁物だ。Cakewalk社時代のSONARがサポートしたのは日本のティアックからの強力な働きかけがあったからだが、他社がやるとは思わなかった。もっともドイツのRMEがADI-2 Pro、ADI-2 DACを出す時代なのだから、徐々に海外(ドイツ)でもDSDが広がってきているのかもしれない。ちなみにSound Forge Pro 12がサポートしているのはDSFファイルのみ。DSDIFFやWSDは読み込むことも書き出すこともできない。

DSDのインポート/エクスポートに対応

 2つ目はVST3への対応だ。これまでもVST2およびDirectXプラグインに対応してきたSound Forgeだが、今回の64bitソフトウェアになったのに伴い、VST3にも対応。これにより、さらに使いやすくなったのだ。VST2とVST3、規格上いくつかの違いがあるが、ユーザーにとって大きいのは、どのフォルダにインストールされているのかなどを考えることなく、簡単に使えるようになるという点。もちろん、VST2にも対応しているから、古いプラグインも利用することが可能だ。ただし64bit版のSound Forge Pro 12で32bit版のVST2プラグインを使うことはできないので、その点は注意が必要だ。

VST3をサポート

強力なノイズリダクション機能がバンドル

 3つ目は、ノイズリダクション系のエフェクトの刷新。Sound Forgeには以前から強力なノイズリダクションがあり、特に別売扱いだったその名も「Noise Reduction」は強力なツールとして以前にも紹介したことがあった。それが、今回はまったく異なる3つのプラグインに入れ替わっている。それが、ヒスノイズ除去のためのDeHiss、クラックルノイズ除去のためのDeClicker/DeCracler、そしてクリップした音を復元するためのDeClipperだ。

ヒスノイズ除去のDeHiss
クラックルノイズ除去のDeClicker/DeCracler
クリップした音を復元するDeClipper

 そこで、以前から使っているノイズ入り音源のサンプルを使い、どのくらい除去できるのか試してみた。いずれも極端なノイズレベルなので、簡単に取れるものではないが、ヒスノイズについてはかなりDeHissをキツめにかけることで、多少音質劣化はあるものの、けっこうよく取り除くことができた。

【音声サンプル】
オリジナル original.wav(5.03MB)
オリジナル+ヒスノイズ akashi+hiss.wav(5.06MB)
DeHiss適用後 akashi+hiss_sf12_dehiss.wav(5.06MB)

楽曲:Arearea/愛のあかし

 一方、ハムノイズは専用のものがないので、同じくDeHissで取り除いてみたところ、ある程度は……という感じだ。そしてクラックルノイズ、つまりレコードのプチプチノイズもかなりキレイに除去することができた。いずれも、思い切りかけているから原音の音質を損なっているのは仕方ないところだが、クラックルノイズは波形を見てもキレイに消えているのが分かるだろう。

【音声サンプル】
オリジナル+ハムノイズ akashi+hum.wav(5.06MB)
DeHiss適用後 akashi+hum_sf12_dehiss.wav(5.06MB)

オリジナル+クラックルノイズ akashi+cracle.wav(5.06MB)
DeClicker/DeCracler適用後 akashi+cracle_sf12_declick.wav(5.06MB)

楽曲:Arearea/愛のあかし

クラックルノイズがある状態の波形
ノイズ除去後の波形

 さらにマスタリング用のコンプレッサ/マキシマイザであるWave Hammerに加え、大きくバージョンアップしたWave Hammer 2.0が追加された。2段階マスタリングプロセスとなっており、前段でオーディオのピークを圧縮して平坦化し、音量レベルを平均化、後段でインパクトを与えるためにオーディオの音量を最大化する形になっている。プリセットもいろいろ用意されているので、まずはこれを使ってみるのがよさそうだ。

Wave Hammer 2.0

 このWave Hammer 2.0より大きいのが、Sound Forge Pro 12の付属ソフトとして、iZotopeのマスタリングソフト、Ozone 8 Elementsがバンドルされていることだ。ここではOzone 8 Elementsについての詳細は割愛するが、Ozoneは今あるさまざまなマスタリングソフトの中で非常に人気が高く、プロのマスタリングエンジニアも多く使っている。

Ozone 8 Elementsもバンドル

 Ozone 8 Elementsは、エントリー版であるが、Master AssistantというAIによる自動調整機能ですべて自動でいい感じに仕上げることができるのは大きな魅力。国内では15,000円(税込)程度で販売されているものが、そのまま付属しているのはうれしい。

AIを活用した自動調整機能のMaster Assistant

上位版には豊富なツールやプラグインが同梱

 Sound Forge Pro 12には、さらに上位版のSound Forge Pro 12 SUITEというものがある。こちらは63,997円というものなのだが、今回筆者が試してみたのはこちらのバージョン。Sound Forge Pro 12本体は同じなのだが、ほかにもいろいろなツールが付属している。

Sound Forge Pro 12 SUITE

 様々なツールの中の目玉は、SpectraLayers Pro 5(21、22)。SpectraLayersは、Sony Creative Software時代に同社が買収したスペクトルエディットができる波形編集ソフト。その名の通り、スペクトルをレイヤー管理することで、たとえば録音した音に外を走るパトカーのサイレンが入ってしまったのを除去する、といったことを可能にしてくれる。

 SpectraLayersは単体ソフトとして使うことも可能だが、Sound Forge Pro 12と相互連携が可能になっている。つまり、Sound Forgeで編集した結果をSpectraLayersに送り、SpectraLayersでの編集が終わったらSound Forgeに戻るといった使い方ができるのだ。なお、SpectraLayers Pro 5はWindows/Mac両対応のソフトなので、その双方のインストーラをダウンロードすることが可能だ。

SpectraLayersとSound Forge Pro 12は連携可能

 そのほか、SUITEとしてプラグイン類もいろいろ収録されている。essentialFX Suiteとしてコーラス、フランジャー、ディレイ、ディエッサーなどシンプルなエフェクトが11種類、Analogue Modelling Suiteとして、マスタリング用のエフェクトが4種類、Vintage Effects Suiteとしてビンテージ風エフェクトが3種類バンドルされている。

シンプルなエフェクト11種類のessentialFX Suite
マスタリング用のエフェクトが4種類のAnalogue Modelling Suite
ビンテージ風エフェクトが3種類のVintage Effects Suite

 さらに、VariVerb IIというリバーブ、Vandalというギター&ベースアンプシミュレータも付属していた。もしかして、これらを他のDAWでも使えるのでは? とも思ったが、残念ながらそれはNGで、Ozone以外はあくまでもSound Forgeで使えるのみのようだ。

VariVerb II
Vandal

 この一通りの機能を見て、個人的には、Sound Forge Pro 11を飛び越して、Sound Forge Pro 12を使ってみようかと思った次第だ。なお、MAGIX-ソースネクストからはSound Forge Pro 12と同時にループベースDAWのソフトとして知られるACID Pro 8(15,919円)もリリースされている。機会があれば、こちらもまた紹介してみたい。

ACID Pro 8

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto