藤本健のDigital Audio Laboratory

第796回

「パソコンの音が悪い」は当たり前? オーディオ出力性能を数値で比較

普段オーディオインターフェイスやUSB DACを利用している人であれば、「PC標準搭載のサウンド機能は陳腐だ」と思っている人が少なくないだろう。筆者自身もそう思い込んでいたが、「実は最近のPCなら音質が向上しているかも」。ふとそんなことを思い、今回は手元にあるパソコンの音質をチェックしてみた。

ヘッドフォンでちょっと音を聴く限りでは、大昔のようにブーンというハムノイズが乗るというようなことはなくなっている。しっかりした機材と聴き比べれば明らかに違うとはいえ、聴き比べずにPC単体でネットのストリーミングオーディオを聴いている分には、特に違和感はないようにも思う。そこで、どのくらいの違いがあるのか、いつもオーディオインターフェイスのチェックに利用しているRMAA PROを使って数値で比較。すると、試した機種で結構な差があったので、その結果をまとめた。

ベアボーンとノート、Intel NUCを比較

PCでまともな音を出すためには、オーディオインターフェイスやUSB DACは必須である、と思っているが、プロミュージシャンなどでも、普段オーディオインターフェイスを使わずにPCのヘッドフォン出力からPAに接続している人を見かけることがある。まあ、音にこだわりがなければいいのかなと思いつつも、「いいのかそれで? 」と疑問に感じてはいた。

ただ、今ならオンボードのサウンド機能でも、そこそもまともになっている可能性もある。しっかりチェックもせずにダメと決めつけるのもいいことではない。ということで、手持ちの比較的新しい3台のPCを使ってテストしてみようと思い立ったのだ。

1台は昨年末に購入し、正月明けに組み上げたベアボーンPCの「ShuttleSH370R6」というモデルだ。せっかくならIntelのCore i9を組み入れたかったのだが、第8世代Coreプロセッサまでしか対応していなかったため6コア、12スレッドのCore i7-8700を組み込み、32GBのメモリを搭載したマシンだ。

ベアボーンPC「ShuttleSH370R6」

その後、BIOSのアップデートで第9世代Coreプロセッサにも対応するようになったようで、もうちょっと経ってから購入すればよかったと、ちょっと後悔しているところだが、そんなマシンでテストしてみる。

6コア、12スレッドのCore i7-8700を使用

2台目は昨年秋に購入した小さなノートPCで、普段毎日カバンに入れて持ち歩いているNECの「LAVIE Note Mobile NW150」。11.6インチのディスプレイで13時間駆動するバッテリーを備えつつも904gという軽量マシン。CPUは1.5GHzで動作する2コアのPentium Dual-Core 4410Yなので、決して速いマシンではないが、Chromeでネットブラウズしたり、テキストエディタで原稿を書く分には不足はないというノートPCだ。

NEC「LAVIE Note Mobile NW150」

3台目は2年前に購入したIntelのNUCキットで「7i7BNH」という小さなマシン。第7世代CoreのCore i7-7567Uを搭載し、USB Type-C型のThunderbolt3端子を装備しているので購入したPCだ。

Intel NUC「7i7BNH」

普段、オーディオインターフェイスであれば、入力と出力をケーブルで直結してオーディオループさせた上で、オーディオテストソフトであるRMAA PROを用いて測定している。いつも44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでテストしているので、今回もその方法を使おう……と思ったのだが、よく見てみると、入出力端子の両方を備えているのは1台目のSH370R6のみ。LAVIE Note MobileもNUCも出力のヘッドフォン端子しか備えていないのだ。

いま見回していると、特にノートPCはLINE INやマイク入力を備えているもののほうが少なく、出力のみ備えているほうが一般的。また、ここでの実験の目的は入出力のトータル機能をチェックするというより、ヘッドフォン出力性能がどんなものなのかを見ることだ。通常のオーディオループだと、入力=録音機能に問題があると、そこがボトルネックとなってしまい、仮にヘッドフォン出力が高性能だとしても低成績となってしまう。そこで、入力はすべて同じオーディオインターフェイスを使った上でそれぞれのヘッドフォン出力性能を比較してみることにした。

今回そのオーディオインターフェイスとして使ったのは、RolandのRubix 24。USBバスパワーで動作する2IN/4OUTのオーディオインターフェイスで、最高で192kHz/24bitでの録音・再生ができる機材だ。まずは、このRubix 24自体の性能を見るためにオーディオループさせる形でRMAA PROで試してみた結果が下の通り。以前、2IN/2OUTのRubix 22をテストしたことがあったが、この結果を見る限りほぼ同等の性能となっているようだ。

Roland「Rubix 24」

【Rubix 24のRMAA PROテスト結果】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

3機種で意外なほど差がある結果に

まずは1台目のマシン、Shuttle SH370R6のフロントにあるヘッドフォン出力をRubix 24のLINE IN端子に接続。ラインレベルには足りないため、プリアンプを使ってRMAA PROで測定可能なところまで少し持ち上げた。RMAA PRO側の設定では、出力としてMMEのヘッドフォンを選択し、入力はASIOでRoland Rubixを指定している。

SH370R6のヘッドフォン出力をRubix 24のLINE IN端子に接続
入力はASIOでRoland Rubixを指定

なお、MMEで出力する場合、サンプリングレートや分解能(量子化ビット数)は、サウンドの再生にあるヘッドフォン-High Definition Audioデバイスを選び、このプロパティにある詳細で、設定しておく必要がある。44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzそれぞれで設定しながら測定した。

High Definition Audioデバイスを選択
サンプリングレートや量子化ビット数を選択

【SH370R6のRMAA PROテスト結果】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

これを見てどう思われるだろうか? 個人的には、想像していたよりかなりいいと感じた。ハイレゾ音源を聴くのにはふさわしくなさそうだが、44.1kHz/16bitのMP3やAAC、WAVを聴くレベルであれば、周波数特性的にはまったく問題なさそう。フロアノイズやTHDを見ると、やはりオーディオインターフェイスやUSB DACとはレベルが違うけれど、それなりのクオリティには達しているようだ。

続いて試したのがLAVIE Note Mobile。これも同じように接続して4つのサンプリングレートで行なった。

LAVIE Note Mobile

【LAVIE Note MobileのRMAA PROテスト結果】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

実は筆者もニコニコ生放送の本番中に、実際に放送映像が出ているか、音が出ているかのチェックをするのに、このPCのヘッドフォン端子を使っている。音が出ているかのチェックにおいては問題ないし、音が割れるということはない。ブーンというハムノイズが乗るわけでもない。けれど音質的には、ちょっとなぁ……と思っていたのが、これで実証された感じだ。この周波数特性を見ると、完全に破綻している感じだ。何か実験上のミスがあるのではと配線をし直してみたり、違うオーディオインターフェイスを試してみたり、音量を調整しなおしてみたけれど結果は同じ。まあ、この小さなモバイル機に音質を求めること自体、無理な話だったのかもしれないが、PC自体の音質が悪いということを表す典型例となった。

では3台目のNUCはどうだろうか? これも同じようにRubix 24を接続して実験してみたのだ。ここで1つ「おや? 」と感じたのが192kHzでの設定について。なぜか、MMEにおいて192kHzの場合、24bitに設定できず16bitしか選べないのだ。44.1kHz、48kHz、96kHzなら24bitが選べるのに……。仕方ないので192kHzの場合のみ、16bitで設定して行なった。

Intel NUC 7i7BNH
MMEで192kHzの場合、16bitしか設定できなかった

【NUC 7i7BNHのRMAA PROテスト結果】

44kHz
48kHz
96kHz
192kHz

これは、先ほどのShuttleのベアボーンよりもいい結果となった。ヘタなオーディオインターフェイスよりもいいかもしれないと思えるようなレベルだ。THD + Noiseが若干劣るけれど、これならば一般のオーディオ機器としても合格レベルといえるかもしれない。LAVIE Note Mobileとの差も明らかだ。ちなみに、192kHzでは16bitでの出力となっているものの、このRMAA PROの成績としては特段劣るということもなさそうだった。

以上、3台のPCの結果を見て言えるのは、ひとことでオンボードのサウンド機能といっても、機種によってかなりの違いがあるので、個別に見ないと分からないということ。絶対にダメとはいい切れないし、それなりの実力を持ったPCもある。一度、自分のPCでもこうしたテストをしてみると面白いと思うし、まずは自分の耳でしっかり聴いた上で、本当に使えるものなのかをチェックしてみてもいいかもしれない。

今回のテストで試してみたかったけれど、できていなかったのがMac。RMAA PROがWindows用のツールであるため使えなかったからなのだが、Boot Campなどを使ってWindowsをインストールして試してみるのも手ではありそうだ。機会があれば、また試してみようと思っている。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto