藤本健のDigital Audio Laboratory

第826回

日本発ハイレゾ対応ストリーミング音楽配信「mora qualitas」。特徴と今後の計画を聞いた

ソニー・ミュージックエンタテインメントが、11月25日より正式サービスを開始するハイレゾ対応ストリーミング音楽配信「mora qualitas(モーラ クオリタス)」。スタートに先駆け、10月24日から11月24日までの1カ月間、無料先行体験が提供開始されている。

このmora qualitasとはどんなもので、従来のmoraとは何がどう違うのか。また、利用するにはどんな機材やソフトが必要で、他社のサブスクリプションサービスとどう差別化を図っていくのだろうか。mora qualitasを運営するソニー・ミュージックエンタテインメント mora qualitas事業グループ 企画マーケティング部 課長の黒澤拓氏に話をうかがった。

ソニー・ミュージックエンタテインメント mora qualitas事業グループ 企画マーケティング部 課長の黒澤拓氏

従来のmoraと楽曲ラインナップはどう違う?

――今回スタートしたmora qualitasとは、どんなサービスなのか、簡単にその概要を教えてください。

黒澤:moraがダウンロード型の音楽配信サービスであるのに対し、mora qualitasは高音質な音楽ストリーミングサービスです。ハイレゾ音源およびCD音源のサブスクリプション(定額制)サービスとなっており、月額利用料は1,980円(税抜)です。

正式なサービススタートは11月25日からですが、スタート前の1カ月間、つまり10月24日から11月24日までは無料の先行体験サービスとして使えるようになっています。さらに、どなたでも30日間は無料で使える形にしているので、10月24日から使い始めた方は、10月24日~11月24日の無料先行体験に加え11月25日~12月24日までの30日間が無料となるので、2カ月間無料でご利用いただける形になっています。

mora qualitasの画面

――ストリーミングされる楽曲自体はmoraと同じものなのですか?

黒澤:各レーベルとの契約やmoraとは別となっているので、同じではありません。ソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサル ミュージック、ビクターエンタテインメント、ワーナーミュージック、ポニーキャニオンほか、各大手レーベルに参加いただいているほか、独占先行コンテンツの獲得を含め、その他いろいろと交渉中です。10月24日の無料先行体験スタート時においては400~500万曲程度となっています。このうちハイレゾ楽曲は30万曲程度です。海外のインディーズを含め、トータル1,000万曲には早いうちにもっていきたいと思っています。

再生環境や、スマホでの対応予定は?

――再生できる環境や今後の予定についても教えてください。

黒澤:現時点での再生環境はパソコンのみで、Windows版、Mac版のアプリケーションをインストールしてご使用いただく形です。ビットパーフェクトでの再生を実現しており、ギャップレス再生ができるのはもちろんのこと、現在再生中の楽曲のサンプリング周波数やビット数表示などもできるようにしています。44.1kHz/16bitのCDクオリティーの楽曲と44.1kHz/24bit~96kHz/24bitのハイレゾ楽曲が共存する形になっているので、実際何を聴いているのかを確認可能なわけです。

再生中の楽曲のスペックが表示(画面下)

これらの楽曲再生中にも、コンテンツの中身をしっかり見れるようにしているのがmora qualitasの大きな特徴です。理解しながら心に残る音楽体験ができるように、バイオグラフィやレビューなどが表示できるようにしています。これについてはまだ完全に揃っているわけではないので、今後徐々に拡充させていく予定です。インターネット接続環境は、10Mbps以上を推奨しています。

――DACやオーディオインターフェイスのサポートなどはどのようになっていますか?

黒澤:ソニー製品だと、UDA-1というDACがありますが、それに限らず基本的にWindows、Macで使えるものであれば大丈夫です。フォステクス、CHORD、コルグ、パイオニア、DENON、marantz……と各社製品の確認を進めており、ほぼどれでも大丈夫でした。WindowsにおいてASIOドライバでごく一部エラーを起こした機種が確認されていますが、これらの不具合についても改善を進めています。WASAPIのほうが安定して動いています。

――スマートフォンへの対応予定はあるのでしょうか?

黒澤:AndroidおよびiOSで使うことができるよう、モバイル用アプリケーションを開発を進めており、12月中にはスタートを目指したいと考えています。機能的にはWindows/Mac版とほぼ一緒で、ビットパーフェクトで外部DACに出力できるようにします。また歌詞表示に関しても準備中です。これはスマートフォン版に限らず、PC版においても同様ですね。オフライン再生機能も追加実装することを予定しています。

――オフライン再生機能とはどういうことですか? ダウンロードとは異なるのですか?

黒澤:オフライン再生機能はモバイルでもPCでも同じように搭載する予定ですが、特にモバイルで大きな意味を持つと思います。ハイビットレートだと、どうしてもパケットを使うので、あらかじめWi-Fi環境などでデータを入手しておき、あとはオフラインで再生するというものです。ダウロードと違い、あくまでもバッファとして残っているだけで、ファイルとして手元に残るわけではありません。またオフラインもある一定期間にアクセスしないと使えなくなるし、もちろん会員でなくなれば再生できないような仕組みも設けています。

――PCやスマートフォンとは別に、ネットワーク接続対応のAV機器から直接再生することについてはいかがですか?

黒澤:9月にソニーが発表した新しいウォークマン(NW-A100シリーズ、NW-ZX500シリーズ)は、Androidベースになり、ストリーミングにも対応しています。ソニー製品ですし、mora qualitasとしてもうまく対応していきたいと思っています。

従来のmoraとは別の基盤、使うほど個人に最適化。今後の計画も

――ここまでお話をうかがっても、システム的にmoraとはかなり異なるシステムだと思いますが、これをゼロから開発してきたのですか?

黒澤:これはアメリカ・シアトルにあるNapsterのシステムをベースにしたものです。会社としてはRhapsody Internationalのシステムですね。

――Rhapsody、Napsterってちょっと懐かしい感じがしています。この連載でもRealNetworksがRhapsodyを引き継いだころに記事にしていましたが……。そのシステムを利用しているわけですね。

黒澤:仕様についてはわれわれが出して、Rhapsody側が実際の開発を行なう形で進めてきました。これまでRhapsodyはAACでストリーミングサービスを展開してきましたが、このmora qualitasはFLACを使ったストリーミング。FLACについては彼らも初めてなので、共同研究、共同開発をしながら、進めてきました。システム的にいうと、CDN、ストリーミング環境はすべて彼らに任せており、FLACをプログレッシブダウンロードする形になっています。つまり再生すると、YouTubeなどのように、先読みでバッファにたまっていくとグレーに変わっていく形です。バッファに先にたまっているから、多少通信環境が不安定でも、音が途切れる心配もないわけです。推奨する通信環境の10Mbps程度があれば、安定して再生することができます。では、実際に使ってみましょう。これが初回起動時の画面です。

取材時点(9月末)で見せてもらった開発中の画面

――ジャンルや好きなアーティストを選ぶ画面が出てきましたが、これを選ぶことでおすすめなどが変わったりする形なのですか?

最初に好きなジャンルやアーティストの質問に答える

黒澤:そうです。初回に1回だけ尋ねる形ですが、その後ユーザーの再生した曲や選んだアーティストなどを元に、どんどんパーソナライズしていき、使えば使うほど最適化されていくシステムになっています。先ほどもお話したとおり、単に曲を流すだけでなく、心に残る紹介をしていくのがmora qualitasの特徴としているので、アーティストだけでなくプレイリストを紹介したり、ランキング、ニュースリリースなども充実させていきます。当初はNapster側が用意した英語のプロフィールだったりするものもありますが、それも順次日本語化していく予定です。

また、「ラジオ」という機能も用意しています。ここには数多くのステーションを用意しており、例えばRockの年代別に紹介していくなど、これも好き嫌いを設定していくことで、どんどんパーソナライズされていきます。この辺もNapsterが持っている機能をベースにしています。

――将来的な展開についても教えてください。

黒澤:まずはコンテンツを充実させながら日本でしっかりと運営していきます。将来的には海外展開も視野に入れてきたいと考えています。だからこそ、Rhapsodyと組んでNapsterをベースにしているわけです。とくにRhapsodyと資本関係があるわけではありませんが、海外と日本とでは権利処理の仕方にも大きな違いがあるため、実績のあるRhapsodyと組むことで大きなメリットがあるだろうと期待しています。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto